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時代小説 2006年2月・如月の巻
五郎治殿御始末 by 浅田次郎 |
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剣客春秋 かどわかし (けんかくしゅんじゅう・かどわかし)
鳥羽亮
カバーイラスト:西のぼる |
♪『里美の恋』『女剣士ふたり』に続く、千坂藤兵衛・里美父娘が活躍するキュートなチャンバラ時代小説「剣客春秋」シリーズ第3弾。一刀流中西派の道場主千坂藤兵衛と一人娘の里美を中心に、物語が進むが、ユニークなところは里美が女剣士として設定されていること。女武芸者というと、「剣客商売」の佐々木三冬を想起するが、もう少し若い娘である。 池波正太郎さんの「剣客商売」と同様に、剣豪小説に江戸の町人の生活ぶりや人情を織り込んだ市井小説の要素を取り入れている。鳥羽さんの「剣客春秋」は、さらに作者の得意のミステリーの趣向を盛り込んだところが面白さだ。 鳥羽作品では、チャンバラシーンが魅力の一つである。今回は、一刀流の「乗突き(のりづき)」という技が登場する。突いてきた敵の刀身の上に己の刀身を乗せ、押さえながら突くというもの。この技は敵のみぞおちを狙い、刀身を水平にして一気に深く突くので、切っ先が相手の背から抜けるほどの激しい刺撃を生む。凄味のある技である。 物語●北町奉行所吟味方与力の幼い息子が何者かに連れ去られるという事件が起こった矢先に、本所相生町の油問屋に夜盗が押し入った。番頭を殺害し、現場には「子供の命が惜しくば、手出し無用」の紙片が置いてあった。ほどなく臨時廻同心坂口主水の子息で、千坂道場に入門したばかりの綾之助も姿を消す。藤兵衛と里美は新しい門弟の行方を追って探索を始める……。 目次■第一章 入門者/第二章 乗突き/第三章 怨念/第四章 里美あやうし/第五章 大川端死闘/解説 菊池仁 ここから始まる本のリンク▼『剣客商売』(池波正太郎著・新潮文庫) |
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東海道をゆく 十時半睡事件帖 (とうかいどうをゆく・とときはんすいじけんちょう)
白石一郎
カバー装画・デザイン:西のぼる |
♪「十時半睡事件帖」シリーズ第7弾。著者死去による絶筆のため、未完の作品。「生きる者は生き、死ぬ者は死ぬ」という死生観から、藩船の船出を私用で早めて海路で急ぐより、悠々と旅路を楽しんで帰国するほうが自然でよいと、あえて日数のかかる東海道五十三次を選ぶ半睡。 海洋時代小説の第一人者である白石さんとしては、異色ともいうべき陸路を描いた物語、いわゆる道中物の始まりである。東海道五十三次の旅を描いた時代小説は多いが、この作品ほど道中の風俗や様子を自然に物語の中に織り込んだものは少ない。箱根の関所や大井川川越などのシーンも、いままで漠然と理解していた部分がわかりやすく描かれていて興味深かった。 道中物の魅力といえば、旅の道連れである。十時半睡は若党の中村勘平と江戸藩邸の目付役二宮三太夫をお供に、喜兵衛と佐吉という二人の日雇請負人と呼ばれる道中人足を連れていく。三太夫は、寛永以来江戸定府の家柄の藩士で、福岡といえば遠い他国の別天地で、江戸から一歩も外に出たこともないという。珍道中が期待されるところに加えて、いわくのありそうな若党と小者だけを従えて旅をする武家の妻のぶが絡む。 福岡藩の名物老人十時半睡とともに江戸時代の東海道を旅できて楽しかった。とはいえ、読み進めて紙数が少なくなるにつれて、淋しく何とも言えない喪失感にとらわれた。そして、十時半睡の東海道の旅は、ほぼ中間の新居の関で終わった。作者が死の床で書かれたと思うと、よくぞここまでわれわれを連れてきてくれたと感謝の気持ちもいっぱいだ。 思い返すと、今から十数年前、池波正太郎さんによって時代小説の洗礼を受け、藤沢周平さんの作品にハマった後、次に読むべき作家が見つからず物足りない日々を送っていたときに、出会ったのが白石さんの作品である。 幕末に鯨捕りを目指す若者を描いた『サムライの海』で海洋時代小説の面白さに目覚め、長崎や福岡、豊後、島原、対馬など西国を舞台にした物語の数々で、江戸以外の場所からの視点で描かれた時代小説に魅力を覚え、そのロマンあふれる物語性に胸を熱くした。時代小説のもつ懐の深さを教えてくれた作家でもある。 2004年9月の死から、1年半がたった今、あらためて偉大な時代小説作家を失ったことに思いがいたった。もう、新作は読めないが、そろそろ、白石さんの名作を読み返してみてもいいころかもしれない。
ブログ◆ 物語●十時半睡は福岡藩江戸藩邸の風俗の退廃のため老臣たちが江戸の目付制度の改革を思い立ち、改革の担当者として江戸藩邸への出仕を命じられて、三年前の秋より江戸屋敷総目付を務めている。国許で御蔵奉行を務める息子弥七郎が重病という知らせを受けて、見舞うため国許への旅に出る……。 目次■旅立ち/泉岳寺/東海道/小田原/箱根越え/薩た(土へんに垂)峠/大井川越え/海の関所/解説 縄田一男/年譜 ここから始まる本のリンク▼『はやぶさ新八御用旅 東海道五十三次』(平岩弓枝著・講談社文庫) |
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酔いどれ小籐次留書 孫六兼元 (よいどれことうじとめがき・まごろくかねもと)
佐伯泰英
カバーフォト:広瀬唯二 |
♪来島水軍流剣法の達人で、元豊後森藩藩士・赤目小籐次(あかめこうとうじ)が活躍する、シリーズ第5弾。名刀孫六兼元を手に入れ、さらなる小籐次の剣が冴える。佐伯泰英さんの「酔いどれ小籐次留書」シリーズの第5弾『孫六兼元(まごろくかねもと)』を読み終えた。旧主久留島通嘉の恥辱を晴らすために、四藩を相手に「御鑓拝借」をなして、江都の話題をさらった元豊後森藩士の赤目小籐次の活躍を描く人気シリーズ。 今回は、小籐次が芝神明社の大宮司の危難を解決し、その謝礼として美濃鍛冶の関の孫六初代の鍛えた太刀・兼元を譲られるところがポイントで、題名にもなっている。物語の中でこの名刀について、次のように描写されている。 この孫六兼元は見事な板目肌であった。鍛え上げられた刀身には土取りをして焼入れが行なわれた。この焼入れによって多彩な文様が生み出されるが、これは刃文という。扶持を離れた小籐次が生計(たつき)のためにやっているのが、町を回っての刃物研ぎ。来島水軍流の剣の技ばかりでなく、研ぎの技術もすばらしい。剣士としても、研ぎ師としても一流の小籐次が名刀を手に入れ、今まで以上に刀を研ぐ様子が詳細に描かれていて面白かった。 小籐次の愛刀は、備中の刀鍛冶次直が鍛えた二尺一寸三分の太刀であるが、それに加えて名刀を入手し、今後のさらなる活躍ぶりを期待したい。 刀匠の関の孫六が登場する時代小説としては、宮本昌孝さんの傑作『ふたり道三』が思い出される。 物語●赤目小籐次は、紙問屋久慈屋の大番頭の観右衛門に紹介されて、芝神明社の大宮司西東正継に降りかかった危難を救うことになった。芝神明の社殿の前で、派手な友禅に白塗りに紅を差した若い男が喉元を細身の剣で刺されて死んでいた。男は境内にある陰間茶屋の小供と呼ばれる男娼で、凶器の剣は神明社の宝剣・雨斬丸だったが、何者かによって持ち去られていた……。 目次■第一章 宝剣雨斬丸/第二章 裏長屋の国光/第三章 麹町の小太刀娘/第四章 奇芸荒波崩し/第五章 琵琶滝の研ぎ場 ここから始まる本のリンク▼『居眠り磐音 江戸双紙 遠霞ノ峠』(佐伯泰英著・双葉文庫) |
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武家用心集 (ぶけようじんしゅう)
乙川優三郎
カバー地模様:江戸小紋「家内安全」 |
♪第10回中山義秀文学賞受賞作。表紙は江戸小紋というらしいが、「家内安全」という文字が入っている。武士の(家の)生活や生き方をテーマに描いた武家ものとか、士道小説という。藤沢周平さんの『蝉しぐれ』や『たそがれ清兵衛』などがまず思い浮かぶ。 『武家用心集』は、藩内の政争や肉親のしがらみ、世間のうわさや嫉妬、身にかかる諸々の中、生きる上で一番大切なのは何かを問いかける、8編の短篇を収録している。 乙川さんが第7回時代小説大賞を受賞されたころ、「第二の藤沢周平」とか評されることが多かった。そのときは藤沢さんとは違う別の資質を強く感じたが、今回は『田蔵田半右衛門』や『九月の瓜』『邯鄲』など、不思議と、読み進めていくうちに、藤沢さんの世界とオーバーラップするものを感じている。 かと思うと、「しずれの音」や「うつしみ」、「磯波」のように女性を主人公にした作品では、藤沢さんとはまったく違う個性や作風を感じる。 藤沢さんが下級藩士の視点から物語を描くことが多いのに対して、乙川さんは女性の視点から描いた作品も少なくない。そうした作品では、男中心で、家というものが拘束力をもった江戸時代という特異な環境下で、悩み葛藤し、ときにはもがき苦しみながらも、自身の生き方を真剣に考える凛とした女性が登場する。 けっして明朗快活でヒーローが活躍するような物語ではないが、主人公たちのもつ、冬の薄日のようなそこはかとないポジティブさ、雪を載せた枝のようなしなやかさに、読後に何ともいえない快い余韻を残す珠玉の作品集である。
ブログ◆
物語● 目次■田蔵田半右衛門|しずれの音|九月の瓜|邯鄲|うつしみ|向椿山|磯波|梅雨のなごり|解説 島内景二 ここから始まる本のリンク▼『椿山』(乙川優三郎著・文春文庫) |
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闇を斬る 四神跳梁 (ごろうじどのおしまつ)
荒海一海
カバーイラスト・カバーデザイン:蓬田やすひろ |
♪直心影流の剣豪・鷹森真九郎が活躍する『直心影流龍尾の舞い』『刺客変幻』に続く「闇を斬る」シリーズ第3弾。江戸の平穏を揺るがす謎の徒党、闇の跋扈がますますエスカレートしていく。荒崎一海さんの『闇を斬る 四神跳梁』を読了。主人公の鷹森真九郎は、今治藩を脱藩して、妻の雪江とともに江戸に暮らしている。直心影流十二代目の団野源之進道場で師範代を務め、師の代稽古として柳河藩江戸屋敷に通うことで、生計を立てていた。 霊岸島一の大店、和泉屋の主、宗右衛門の命を助けたことから、謎の徒党、「闇」から命を狙われ、次々と刺客を送られることになる。今治藩で目付をしていた真九郎は、持ち前の剣の腕と推理力を生かして、北町奉行所定町廻り同心桜井琢馬や岡っ引きの藤二郎らと協力して、江戸の町を震撼させる「闇」に敢然と立ち向かう。 このシリーズの魅力は、何といっても真九郎の剣さばきである。天性の疾さを備えた剣に加えて、故郷の師竹田作之丞ゆずりの秘剣・弧乱の剣と、本作品では「霧月(むげつ)」という新技を見せてくれる。 真九郎に向かっていく刺客は、金目当てで用心棒崩れや盗賊など悪行にどっぷり染まった者ばかりでなく、浮世の義理や剣客の意地からやむなく剣をとる者も少なくない。真九郎が一作当たりに斬る者の数はハンパではないが、自身も立ち合いの都度、小さな傷を負うと同時に、心に大きな鬱屈を抱えていく。強いだけのスーパーヒーローとは違い魅力を感じる、今後のシリーズの展開がますます気になるところだ。
ブログ◆ 物語●十二月朔日、鷹森真九郎は、北町奉行所同心桜井琢馬から深川南六間堀町へ呼び出される。高利貸しの座頭が同衾の女など五人が惨殺され、隠していた大金が盗まれた。犯行現場の襖には、墨痕あざやかに“青竜”と大書された半紙が貼ってあった。真九郎と琢馬らが追っていた「闇」絡みの事件と思われた。同日同時刻に、麹町八丁目に住む検校宅が押し込み強盗に襲われ白虎の張り紙があった。浜松町二丁目の別当宅には朱雀、本郷六丁目の検校宅には玄武。四箇所で二十三人が命を奪われた。闇は何のために江戸の町を震撼させるのか、謎は深まっていく……。 目次■第一章 挑戦/第二章 襲いくる者/第三章 裏の裏/第四章 闇の意図/第五章 死闘 ここから始まる本のリンク▼『酔いどれ小籐次留書 意地に候』(佐伯泰英著・幻冬舎文庫) |
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五郎治殿御始末 (ごろうじどのおしまつ)
浅田次郎
カバー写真:リーブラ(株) |
♪幕末維新の激動期を自らの誇りをかけて、始末をつけた侍たちの物語。浅田次郎版「ラストサムライ」。「西を向く侍」と「遠い砲音」は、明治五年から明治六年にかけて行われた旧暦(太陰太陽暦)から西洋暦(グレゴリオ暦)への改暦と、西洋定時法採用をテーマにした作品である。 「柘榴坂の仇討」は、桜田門外の変によって、人生が大きく変わった二人の武士の明治維新後を描いた作品である。ちなみに柘榴坂(ざくろざか))は、高輪にあった久留米藩下屋敷と薩摩藩下屋敷の間の坂道のこと。 「五郎治殿御始末」は、舞台となる時代が明記されていないが、桑名県が三重県に変わりという記述があり、明治九年四月がそれにあたるが、桑名県は明治四年十一月に、亀山県・長島県・神戸県・菰野県・津県が合体して安濃津県になっている。こちら年代のほうがしっくりくるような気がする。 この本には、特別付録として「御一新前後 江戸東京鳥瞰絵図」という、今尾恵介さんの力作の絵地図が付いていた。維新前後二十年の江戸から東京への変遷がよくわかる貴重なものだ。
ブログ◆ 物語●「椿寺まで」八王子産の反物と横浜の羅紗地を扱う日本橋西河岸町の江戸屋小兵衛は丁稚の新太を供に甲州道中を西に向かっていた。高井戸宿を過ぎて、布田五宿の手前で、浪人者の追いはぎに遭う……。「箱館証文」工部少輔の大河内厚は、官員ながら新しい時代に馴染めなかった。その大河内の官舎を警視局の警部渡辺一郎が訪ねてきた……。「西を向く侍」和算術と暦法を修めた元御徒士の成瀬勘十郎は、いずれ暦法の専門家として新政府へ出仕することになっていたが……。「遠い砲音」旧長門清浦藩士で近衛将校の土江彦蔵は、西洋定時の感覚をなかなか体得できずに、遅刻ばかりしていた……。「柘榴坂の仇討」心形刀流伊庭道場の目録を授けられた志村金吾は、剣の遣い手として、彦根藩主井伊直弼の御駕籠回り近習役を務め、将来を嘱望されていた。水戸尊攘浪士たちの襲撃を受け、金吾は脇差で押し寄せる刺客たちと斬り結んでいたが、騒擾の中で「井伊掃部頭直弼、討ち取ったり」の声を聞いたとき、戦意を喪失し、魂は天を飛んでいってしまった……。「五郎治殿御始末」半之助の祖父岩井五郎治は、桑名藩で百五十石取りの家の隠居だった。鳥羽伏見の戦い後、半之助の父で当主は桑名藩松平越中守に従って戦い続けたが、五郎治は恭順して桑名に残っていた……。 目次■椿寺まで|箱館証文|西を向く侍|遠い砲音|柘榴坂の仇討|五郎治殿御始末|解説 磯田道史 ここから始まる本のリンク▼『禁じられた敵討』(中村彰彦著・文春文庫) |