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時代小説 2005年11月・霜月の巻 |
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蜻蛉剣 (かげろうけん)
上田秀人
デザイン:東京図鑑 |
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歴史上の人物で好きな人は?と聞かれると、田沼意次と答えることが多い。毀誉褒貶が著しいことと、栄光と挫折が人生の中に見られること、当時としては画期的なマクロ的なものの見方などから、評価している。それだけに、時代小説において、ヒーローとして描いても感情移入がしやすいし、ヒール(悪役)やトリックスターとして描いても面白い。上田秀人さんの最新作『蜻蛉剣』に登場する田沼意次も何ともいえない存在感があっていい。 『竜門の衛』で南町奉行所定町廻り同心として登場した三田村元八郎は、その活躍ぶりが将軍吉宗に認められ、将軍家見聞役を任じられ、九代将軍家重=大岡忠光に仕えることに。『孤狼剣』『無影剣』『波濤剣』『風雅剣』と、元八郎は、得意の宝蔵院一刀流を揮い、敵を倒していく。その間、お庭番の娘村垣香織を妻に迎え、娘冴香を産み、忍びとして育てる。 シリーズ第6弾の『蜻蛉剣』は、加賀藩の抜け荷をめぐる疑惑に着目した田沼意次が、徒目付に探索を命じたことから物語は始まる。背後に、隣国福井藩領に漂着した朝鮮の船、京での尊皇論者竹内式部と彼を支持する公家衆への処罰(宝暦事件)などが描かれている。 今回も波乱万丈のストーリーで結末まで一気に読ませる。加賀藩が抱える秘事とは? 元八郎の前に立ちはだかる、能登忍(のとしのび)、徒目付、お庭番(明楽家)、土佐の一領具足。朝廷や土佐藩、朝鮮をも巻き込んだスケールの大きな作品。第1作に匹敵する、シリーズ中の最高傑作だと思う。今回で完結になることが残念。 物語●側用人田沼主殿頭意次は、徒目付に加賀藩江戸屋敷の探索を命じたが、徒目付たちは、加賀前田家に仕える能登忍と呼ばれるくの一だけで構成された忍者にことごとく倒された。前田家が抜け荷と倹約で蓄えた金を欲して、田沼主殿頭は、お庭番明楽妙之進を使い、さらに将軍家見聞役の三田村元八郎も幕府と前田家の暗闘に巻き込もうとした。一方、京では、伏見宮貞健親王と太閤、前の関白一条道香が、尊皇主義者の竹内式部ら一行の処分をめぐって争っていた……。 目次■序章/第一章 雲上の争い/第二章 権の推移/第三章 暗闘の譜/第四章 北国の風景/第五章 海の連鎖/終章/解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『氷葬』(諸田玲子著・文春文庫) |
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ふたり道三 上・中・下 (ふたりどうさん・じょう・ちゅう・げ)
宮本昌孝
カバー装画:西のぼる |
♪時代小説ファンで良かったとしみじみと思った。ジェットコースターのようなストーリー展開で、ヤマ場の連続。作者の旺盛なサービス精神に感謝。司馬遼太郎さんの『国盗り物語』で人物像が出来上がった観のある、斎藤道三を主人公に据えながら、伝奇小説やチャンバラ小説、青春小説の要素をふんだんに盛り込み、宮本昌孝ワールドを作り上げている。物語は、後鳥羽上皇ゆかりの刀鍛冶・櫂扇派九代目隠岐允を鳥葬している嫡男おどろ丸が、無量斎率いる裏青江衆に襲撃されるシーンから始まる。裏青江衆は、備中の刀鍛冶青江派が自派を守るために抱える暗殺集団である。道三の美濃盗りとは、まったく関係のなさそうなところから、物語は展開していく。 上巻は、おどろ丸が刀匠として、赤松政則の命で魔刀・櫂扇を完成させるが、やがて作る側から使う側に立つことを夢見て繰り広げる壮絶な戦いを描いている。おどろ丸を支える盟友として美濃の守護代・斎藤妙椿が作った隠密集団「椿衆」の松波庄五郎や女忍者・猫、関鍛冶の棟梁兼定や錦弥らが登場する。 中巻に入ると、好男子松波庄九郎が颯爽と登場し、面白さがヒートアップ。女が惚れるばかりでなく男も惚れる、読んでいて何とも魅力的なキャラクターだ。斎藤道三というと、織田信長の舅で、美濃の蝮と恐れられた梟雄。若いころ、一介の油商人から戦国武将に駆け上がった、というぐらいしか知らない。そのため、話の展開が予想もつかず、大いに楽しめる。 隻眼で容貌魁偉なおどろ丸に対して、美しい殿御として、都の女たちをうっとりさせた庄九郎の好対照が面白い。物語のトーンも、庄九郎の登場するシーンでは、爽快感がある。そんな「ふたり」が出会い共鳴するのが、中巻のヤマ場である。 タイトルにあるように、この作品は、「六角承禎条書写」という史料に書かれた、斎藤道三の所業といわれていたことが実は親子二代でなされていたということをヒントに描かれている。しかし、「ふたり」というのが必ずしも親子ばかりでないように思われる。いろいろな組み合わせの「ふたり」が道三の美濃国盗りに力を尽くしていて、その人間模様も面白い。個性的で何とも魅力的な敵役たちも含めて。 物語●隠岐島へ配流された後鳥羽上皇から鍾愛され、刀工としてめざましい才能を示して、隠岐允(かいおうぎおきのじょう)という官名と「櫂扇(かいおうぎ)」という派名を賜り、以来数奇な運命をたどる一族。そのの九代目で父である隠岐允を鳥葬で弔った嫡子おどろ丸は、備中鍛冶を代表する青江派の武装・暗殺集団裏青江衆の無量斎に襲われる。そこに、播磨・備前・美作三カ国の守護赤松政則に仕える松波庄五郎が助けに入る……。 目次■第一章 赤松囃子/第二章 飛花暗殺剣/第三章 美濃へ吹く風/第四章 関鍛冶/第五章 舟田合戦/第六章 幼子たち/第七章 城田寺の露/第八章 梟雄還俗/第九章 愛憎往来/第十章 奈良屋判官(以上上巻)|第十一章 東国下り/第十二章 三浦攻め/第十三章 美濃へ吹く風、再/第十四章 長井新左衛門尉/第十五章 恩讐の一撃/第十六章 父子、盟約/第十七章 幽鬼/第十八章 紅の墓/第十九章 闇の住人/第二十章 三つ巴/第二十一章 甲山の虎/第二十二章 戦雲たなびく(以上中巻)|第二十三章 大永の動乱/第二十四章 関白の子/第二十五章 十郎の恋/第二十六章 椿衆惑乱/第二十七章 父子、決裂/第二十八章 折れた太刀/終章 草かんばし(以上下巻) ここから始まる本のリンク▼『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝著・徳間文庫) |
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追善 密命・死の舞 (ついぜん・みつめい・しのまい)
佐伯泰英
カバーデザイン:中原達治 |
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お気に入りの「密命」シリーズの第13作目。金杉惣三郎の息子で武者修行中の清之助の師・米津寛兵衛の一周忌がテーマ。清之助が柳生の庄を訪れるのも期待感大。柳生石舟斎、宗矩、十兵衛と続く、剣の聖地、柳生の庄で、新たな修行を始める清之助。いよいよ、剣の強さが際立ってきたように思える。どんな敵が現れてもバッサバッサと斬り捨てていくので、安心して読み進められる。 その一人勝ちぶりは、小泉自民党のようでもあり、三冠馬ディープインパクトを思わせるところがあり、横綱朝青龍の相撲のようでもある。今のわれわれに受け入れやすいヒーロー像かもしれない。もっとも、日本には「判官びいき」という言葉もあり、今年は九郎判官・源義経が大河ドラマの主人公になっているが……。 現実社会では、なかなか思い通りにいかないことばかり。ストレスが溜まることが多いが、そんなとき、佐伯泰英さんの「密命」シリーズでスカッとするのも悪くはない。 大身の旗本家当主と嫡男が謎の死を遂げ、その跡には血縁のない別の大身の旗本家から養子が入るという、事件が頻発した。不審に思った南町奉行大岡越前守は、金杉惣三郎に密命を下す。探索を始めた惣三郎の前には、穴沢流の遣い手が警告に現れる。一方、回国修行中の清之助は、奈良の宝蔵院流の槍術道場や柳生道場を訪れる。宮本武蔵の世界になっていくのが面白い。 金杉惣三郎は、御前試合の審判を務めたりして、偉くなってもおかしくないのに、相変わらず火事場始末御用の荒神屋で帳付けとして働いている。その業種の関係もあり、このシリーズでは火事の描写が多い。今回も牛込赤城明神下西天神町から出火し、三番町界隈まで延焼している。 江戸の火事というと、明暦三年(1657)の「振袖火事」 、明和九年(1772)の「行人坂の火事」、文化三年(1806)の「芝車町の火事」が三大大火として有名。つい最近まで「文化の大火」の火元を芝車坂と思っていたが、いろいろ調べてみたら、「芝(高輪)車町」から出火というのが正しいようだ。惣三郎の住まいがあるのが「芝七軒町」で、稽古に通う道場が「車坂」石見道場だったこともあり、思い込んでしまっていた。 火事のシーンを印象的に使う作家に、飯嶋和一さんがいる。『雷電本紀』では「行人坂の火事」が、『黄金旅風』では長崎の火事が、それぞれドラマティックに描かれている。 物語●旗本屋敷に火付けが続発し、炎上した二千五百石能勢家では当主と嫡男、行儀見習いの娘・お佳世が刺殺体で発見された。その家督を相続したのは、能勢家と縁もゆかりもない元長崎奉行の子息だった。火事で当主が亡くなり、縁もない旗本の次男や三男が養子に入り、跡を継ぐ出来事が何件も続いているという。事件を不審に思った南町奉行大岡忠相は、金杉惣三郎に探索の密命を下した……。 目次■序章/第一章 師走の刺客/第二章 老師の剣/第三章 飼坂峠の女/第四章 柳生籠り/第五章 相続請負人/解説・縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『雷電本紀』(飯嶋和一著・小学館文庫) |