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時代小説 2005年8月・葉月の巻
御家の狗 by 岳宏一郎 |
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おもしろ大江戸生活百科 (おもしろおおえどせいかつひゃっか)
北村鮭彦
カバー装画:柴田ゆう |
♪『おもしろ江戸雑学』改題。江戸の常識を調べたくて、資料として入手。著者は落語などの演芸に長く携わり、江戸庶民の生活や文化に精通。 古川柳を交えて、庶民の立場から江戸の事物を紹介した、江戸入門書。吉原の遊女の定年が二十八歳だったというのは新発見だ。 読みどころ●。「米と土地ではどっちがお得?」とか「混浴も平気な江戸の娘」「芝居の開演は朝七時」など、軽い語り口で、“江戸の常識”(トリビア)を紹介してくれる。 目次■第一章 花のお江戸のまんなかは……?――江戸城内の仕事ぶり、暮らしぶり(将軍さまを何と呼ぶ?/表は男だらけ、奥は女だらけ/なかなか多忙な将軍の一日/おじぎをさせてエスケープ/尻までふかせる御台さま/セックスパートナーは五人/見物を従えてセックス/将軍家慶を殺した幽霊/大奥の秘密を流す情報元/汚物を積んだら大いばり)|第二章 大名暮らしも楽じゃない――大名の気苦労さまざま(要職につけない大大名/忠臣蔵は処世下手の結末/伝奏役をいじめる御公卿さん/殿さまは弁当持参で登城する/出入旗本は大名の安全パイ/殿さまより泥棒の方がリッチ!?/恐妻家の大名は妾宅から出勤/女好きがお家安泰の秘訣/側室は給料をもらう奉公人/お手がついたらお城入り/大名行列をさせて反乱を防ぐ/横断歩道つきの大名行列/見物人ゼロなら手抜き行列/風呂桶まで持参して経費節減|第三章 花は桜木、人は武士と言うけれど……――お侍にもピンからキリまで(幕臣にもピンからキリ/米と土地ではどっちがお得?/武士の上前をはねる札差/友人も作れない目付衆/疑わしきは斬り捨てる!/悪代官はいなかった/サンピンも武士のうち/忍者は飛び跳ねない/スパイが仕事の御庭番/患者は金持ちに限る/お城の坊主はまるもうけ/門構えで格式が決まる/窓から買い物、武士長屋/借家住まいに奥さまはいない/女中を妾にするが得/妾の武器は寝小便/後家さんは仇討よりも後妻の口/友人の仇討は出しゃばり/仇討はめったに成功しない/天王橋の仇討の悲劇/女房の敵討で男を下げる)|第四章 広いお江戸の取り締まり――町奉行所、火盗改などの実体(花のお江戸は九百三十三町/町奉行は南と北のひと月交代/粋な髪が自慢の八丁堀/役得たっぷりの与力、同心/岡ッ引は副業で暮らす/家賃収入もある八丁堀の旦那/泣くも黙る火付盗賊改/盗賊がふるえる鉄の十手/八州廻りは金と女でお目こぼし/同心は道場でお縄の修業/捕り物姿は大がかりな重装備/すばやい捕り物が同心の腕/拷問は勝手に行えない/拷問せず自白させるのが力量/拷問ア・ラ・カルト)|第五章 旦那衆と江戸ッ子が入り乱れ――江戸の町人の生活模様(働かざる者住むべからず/地主と家主では大違い/町を支配した大富豪/百七十か所の屋敷持ち/紀文と奈良茂の豪遊伝説/家を滅ぼす女房のぜいたく/今も残る江戸の豪商/勘当にもランクあり/公道になると横町の名がつく/長屋暮らしは飲み水を買う/江戸の長屋から始まった礼金/風呂屋と言うは田舎者/混浴も平気な江戸の娘/混浴風景をのぞいてみると/ヘアーの手入れは男の身だしなみ/“江戸ッ子”は自慢にならない/あだな深川、いなせは神田……/江戸の珍商売いろいろ/粋な下町、野暮な山の手/浅草ッ子は田舎者?/不倫の値段は七両二分/火消の威勢も金には勝てぬ/命知らずの火消人足/担当外の火事は知らん顔/火消は得意な浅野内匠頭/ふんどしに銭を包んで厄落とし)|第六章 粋にいなせにお祭りさわぎ――町人の娯楽、ア・ラ・カルト(芝居の開演は朝七時/昼は商売人、夜は芸人/サーカスと動物園に負けた見世物小屋/象とラクダに大さわぎ/三ツ目のお化けになぐられる/女性に見せない江戸の相撲/将軍も楽しんだ天下祭り/旦那衆は祭りに渋い顔/江戸ッ子の花見はドンチャンさわぎ/お月見は芋名月と豆名月/一生に一度はお伊勢参り/抜参りに手形はいらない/伊勢参りで浮気すると抜けない!?/庶民の夢をのせた富くじ/観客が出費して楽しんだ花火/花火の粋な楽しみ方/屋形船の船頭は人にあらず/障子を閉めたらお楽しみ)|第七章 通は見栄張る、張れなきゃ野暮天――江戸の遊廓、花街ご案内(チェックの厳しい吉原の大門/駕籠で繰り込む吉原もうで/粋な遊びはガマンが大事/布団まで運ぶ太夫の道中/金がかかるのは覚悟の上/吉原の女には定年がある/おいらんの手練手管/箸が用意されれば馴染客/ひやかしは遅からず早からず/掛布団は無用の切見世/お上でも潰しきれない岡場所/旅籠では飯盛女が出迎える/川筋の花街は五業地/安あがりな夜鷹買い/女形のアルバイトは陰間/笑顔が売りもの、水茶屋娘/矢場女のスキンシップ)|第八章 罪があるから罰もある――犯罪と刑罰見本帖(死刑囚の最期の望みはオッパイ/放火は重罪、火焙りの刑に/十両盗めば首がとぶ/人妻を口説くと殺される!?/心中は獣同然の行為/スリの現行犯は四度目に死罪/追放にも抜け道がある/好色な坊主は日本橋に並ぶ/島流しはまずは生還不可能/牢に入るのは未決囚/法令を変えた囚獄の英断/鬼平が作った人足寄場/死刑の方法さまざま/首斬りの代役、山田朝右衛門/斬罪は目かくしなしで首を斬る/江戸の刑場は小塚原と鈴が森)|コラム(古川柳 大奥模様/黙って渡せば気持ちは通じる/でき心で御役を失う/渡り仲間はバクチと喧嘩が大好物/狂歌で思わぬ昇進がかなう/落語「石返し」/人相書きが廻れば大犯罪者/八丁堀の七不思議/古川柳 湯屋風景/古川柳 ふんどし考/芭蕉の風流を笑う江戸ッ子/富くじ廃止は女房への面当て!?/古川柳 切見世風景)|おもしろ「大江戸生活百科」考 神津友好 ここから始まる本のリンク▼『江戸へようこそ』(杉浦日向子著・ちくま文庫) |
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破斬 勘定吟味役異聞 (はざん・かんじょうぎんみやくいぶん)
上田秀人
カバーイラスト:西のぼる |
♪抜群に面白いストーリーテラーの上田秀人さんの最新作。主人公の水城聡四郎は、六代将軍家宣の懐刀の新井白石によって、勘定吟味役に抜擢された。剣は富田越後守の高弟であった富田一放が創始した一放流で鍛えた遣い手。戸部新十郎さんの作品でぐらいしか登場しないマイナーな流派に着目したのが面白い。ポスト綱吉の時代ということで、柳沢吉保や勘定奉行荻原重秀などの守旧派と、白石の改革派の争いが見もの。とくに、小判改鋳をめぐる疑惑にスポットを当てているので、江戸経済の一端も垣間見ることができて興味深い。 サブタイトルの勘定吟味役とは、天和二年(1682)、幕府の緊迫した財政に頭を痛めた五代将軍綱吉が創設したもので、勘定奉行所における目付のようなもの。出納を監査し、恣意あるいは無駄な支出を見張る。老中支配で定員は決めらておらず、五百石高の旗本が命じられ、役料三百俵が支給された。 面白い時代小説は、物語が面白い、時代背景の解説が適切、主人公から脇役まで人物造形が見事など、の要素が挙げられる。この作品はチャンバラと政争だけでなく江戸の経済についてまで描かれていて、現代に通じるところもあって興味深い。 勘定奉行荻原重秀のほかに、豪商紀伊国屋文左衛門(紀文)が聡四郎の前に大きな壁として立ちはだかる。敵役が強ければ強いほど、主人公が光り輝く。この本が読了感がいいのは、そのせいかもしれない。紀文というと、みかん船の話など伝説が多い割りに、史実が少ない印象があったので伝奇小説向きのキャラクターかもしれない。
物語●水城聡四郎(みずきそうしろう)は四男坊で部屋住みで、学問や算勘よりも剣術(一放流)の稽古に明け暮れで青春時代を過ごしてきたが、長兄の病死、次男・三男が養子に出たこともあり、勘定方の筋である水城家の家督を継いだ。六代将軍家宣の懐刀である新井白石によって、勘定吟味役に抜擢される。 目次■第一章 負の遺産/第二章 幕政の闇/第三章 黄白の戦い/第四章 閨の鎖/第五章 命の軽重/解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『つむじ風お駒事件帖 疾風独楽』(柏田道夫著・徳間書店) |
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涙堂 琴女癸酉日記 (なみだどう・ことじょきゆうにっき)
宇江佐真理
カバー装画:百鬼丸 |
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タイトルに書かれた「癸酉(きゆう)」は十干と十二支を組み合わせて表記する干支で、「みずのと・とり」のこと60番中10番目を指す。古代の中国の思想で世の中はすべて、「木」「火」「土」「金」「水」の五つからなるという五行説と、すべては「陰」と「陽」に分けられるという陰陽道の思想が結びつき、陰陽五行説が生まれた。十干は、この陰陽五行説に由来する。 「陽」を「兄(え)」、「陰」を「弟(と)」で表し、「木の兄(きのえ)」=「甲(きのえ)」、「木の弟」=「乙(きのと)」と読むようにした。以下、「丙(ひのえ」「丁(ひのと)」「戊(つちのえ)」「己(つちのと)」「庚(かのえ)「辛(かのと)」「壬(みずのえ)」「癸(みずのと)」となる。 十干と十二支(子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥)を組み合わせたものが六十干支で、60年周期で一回りする。ちなみに一回りすることを還暦と呼ぶ。「癸酉」は十番目を指し、物語の中では「文化癸酉」と記されているので、文化十年(1913)が舞台になっている。 作者を連想させる、主婦から作家に転身した主人公琴の目に映った江戸の町。幼なじみや夫のかつての配下だった岡っ引、二人の息子や娘とその夫たちなど、多彩な人間関係がユーモアを交えて描かれている。とくに、琴がかつて恋心を寄せた幼なじみの江場清順の娘・若とその夫・松尾豊成の夫婦喧嘩がアクセントになっている。琴の目を通して日々のできごとを綴りながら、夫の死の真相に迫る捕物タッチの市井小説。 物語●北町奉行所臨時廻り同心だった夫を、何者のかに斬殺された琴は、八丁堀の家を出て通油町で絵師として生活を始めた次男の賀太郎(歌川国賀)と一緒に暮らすことになった。四十五歳の琴は堅苦しい武家の生活から離れて、幼なじみで医師の清順や絵草紙問屋三省堂藤倉屋伝兵衛らと親しみ、江戸の町で目にし耳にする事物を新鮮に感じ、それを日記に書き留めはじめた…。 目次■第一話 白蛇騒動/第二話 近星/第三話 魑魅魍魎/第四話 笑い般若/第五話 土中の鯉/第六話 涙堂/解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『甘露梅 お針子おとせ吉原春秋』(宇江佐真理著・光文社文庫) |
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歴史・時代小説ファン必携 江戸の旗本事典 (れきし・じだいしょうせつふぁんひっけい・えどのはたもとじてん)
小川恭一
カバーデザイン:竹元良太 |
♪江戸学の巨星、三田村鳶魚さんの最後の弟子というキャッチフレーズがついた、小川恭一さんの『江戸の旗本事典―歴史・時代小説ファン必携』を読了。いろいろな時代小説を読むと、旗本という存在がどんどんわかりづらくなっていく。いろいろな職能や石高、生活ぶりなどが、混同されていたり、作品中での説明が現代人には不十分なものだったりして、漠としかわからなかった。『江戸の旗本事典―歴史・時代小説ファン必携』は、文庫ながら事典というタイトルに偽りはなく、「旗本八万騎(実際には寛政十一年末で五千百八十六家だったらしい)」の本当の姿が明らかになった。御家人との違い、交代寄合衆、幕府の人事と組織、御目見から死亡届まで、興味深い読み物になっている。 とくに「旗本の経済学」の章は、ためになった。旗本の序列を、(1)知行取り(石表示で生産地を支配する。石表示の約35%が収納率) (2)蔵米取り(俵表示。百俵で三十五石。年三回家禄を支給され、百俵につき金一分で札差より蔵米を受け取る) (3)現米取り(現米石表示。正味で現物を受け取る) (4)扶持取り(人扶持表示。一人扶持は一日に玄米五合が支給され、年一石七斗五升が支給される)と、明示している。 幕臣家禄については一石=一俵、現米三十五石=百俵、一人扶持=五俵で換算できる。なお、支給される米は玄米で、白米(精米の際に20%搗き減りする)や籾付米(倍の石数になる)ではない。家禄表示には必ず「高五百石」「高二十人扶持」のように高を入れるのが正しいとのこと。 さあ、時代小説を読むのが楽しくなってきた。 読みどころ●時代劇や時代小説はもとより、解説書にみ、旗本身分についての誤記が多いという。それくらい複雑な幕府の制度・身分について、わかりやすく解説する。徳川家直参という言葉の意味するものは何か。家督相続のしかた、昇進・給与、家計、江戸城中の作法、隠居……。間違いだらけの旗本の本当の姿に迫る好著。時代小説を読む際に、手元に置いておきたい一冊。 目次■はじめに|第一章「旗本八万騎」の実像(『武鑑』とは何か?/書いてあること、載ってないこと/『武鑑』は大名行列見物客のガイドブックだった!?/出自さまざま/御家人とどう違うのか?/寛政十一年末で五千百八十六家!/「御目見以下」の人びと/大久保彦左衛門の「立場」/吉良上野介の「仲間たち」/悲願二百八十余年!)|第二章 幕府の人事と組織(『大概順』とは何か/誇り高き大番/両番/新番と小十人/各家の番筋/御番入は物入り/寄合で待命中/家禄のある浪人?)|第三章 旗本のライフサイクル(旗本の「戸籍」/通過儀礼さまざま/初御目見/家督相続/隠居するにも一苦労/矍鑠たる幕臣たち/死亡届のからくり/終の住み処は)|第四章 「イエ」制度のなかで(本家と分家の微妙な関係/敵対の家、友好の家/義絶つかまつり候/同族養子から持参金養子へ/厄介という存在/部屋住・養子で幕府高官/「戸籍」の偽造――「旗本株」はあったか?/頼み親と直家督/川路聖謨・井上清直兄弟のばあい/三十両から町奉行)|第五章 旗本はつらいよ(婿養子に入るまで/「小糠三合」どころではない/小田原大久保家のばあい/嫁入り費用の捻出法/熟縁の様子ござなく候/行跡よろしからず/北条家の減禄/葵の紋服で吉原通い)|第六章 旗本の生活は退屈か?(登城は馬? それとも駕籠?/煩雑な衣服のルール/年中行事と登城日/日勤、泊まり勤務/書院番士のいじめ/病欠/外泊は不可/遠馬と遠足/墓参りと入鉄炮)|第七章 旗本の経済学(知行取り/米によるサラリーマン/役料から足高制へ/経済に明るくないと/腰にはいつも名刀正宗/長崎奉行二千両/贈り先のある人/旗本の年収は今なら何万円?/三十俵三人扶持の生活)|第八章 経営者としての旗本(拝領屋敷/地代収入を得られるのは拝領町屋敷だけ!/大きい屋敷、小さい屋敷/親族との同居/家来を何人雇えるか?/柴田勝家の子孫の家計事情/家法集とは何か/倹約十年の結果は……/ドケチ旗本)|むすびに/あとがき/文献索引/主要事項索引/主要人名索引 ここから始まる本のリンク▼『小石川御家人物語』(氏家幹人著・学陽書房人物文庫) |
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変化 交代寄合伊那衆異聞 (へんげ・こうたいよりあいいなしゅういぶん)
佐伯泰英
カバーデザイン:多田和博「新吉原地震并出火之図」東京消防庁消防博物館蔵 |
♪佐伯泰英さんの最新文庫書き下ろしシリーズ。遂にビッグスリー(講談社文庫、新潮文庫、文春文庫)の一角で文庫刊行! 「交代寄合伊那衆異聞」とサブタイトルが付く文庫書下ろしのシリーズ。交代寄合衆といういう耳慣れない旗本にスポットを当てたことで、興味津々。「交代寄合」とは時代小説であまり描かれたことがなく、耳慣れない言葉かもしれない。江戸時代に参勤交代を幕府より課せられたのは大名である。しかし、参勤交代を強いられた旗本が三十数家あった。その家柄を交代寄合衆と呼んだ。 交代寄合衆の発祥をみると、家格も身分も禄高もばらばらであった。松平家一門譜代系、旧織田・豊臣系、旧守護大名系などの名門と、大名の分家・一族系をまとめた「交代寄合表御礼(おもてごれい)衆」と、那須衆、美濃衆、伊那衆、三河衆の豪族系など、単に「交代寄合衆」と呼ばれる家に大きく分けられる。 主人公の本宮藤之助は、座光寺家流儀剣術の信濃一傳流の免許を許された不世出の剣者。佐伯さんの他のシリーズの主人公同様に、剣の素性は無名ながら、べらぼうに強い剣の名人という設定である。本書は、その第一弾で、主人公のお披露目といった要素がある。今後の展開が気になる時代小説シリーズの誕生である。 物語●交代寄合衆、座光寺家の家臣本宮藤之助は、信濃国伊那谷にある座光寺山吹領から、江戸に向けて休みもなくひたすら走り続けた。安政の大地震に江戸が見舞われたという情報が伊那谷にもたらされ、陣屋家老片桐朝和神無斎の命で江戸屋敷へ急行することになったのである。伊那から休みなしでほぼ二昼夜で駆けつけた江戸で、藤之助が見たものは…。 目次■第一章 初雪早走り/第二章 左京追跡/第三章 再建の槌音/第四章 北辰の剣/第五章 主殺し/解説 細谷正充 ここから始まる本のリンク▼『酔いどれ小籐次留書 御鑓拝借』(佐伯泰英著・幻冬舎文庫) |
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お鳥見女房 (おとりみにょうぼう)
諸田玲子
カバー装画:深井国 |
♪諸田さんの人気シリーズの第一弾が待望の文庫化。爽やかで心温まる人情譚。
格子縞の小袖に柿色の昼夜帯をしめ、髪を地味な島田髷に結っている。小柄で華奢なのにふくよかな印象があるのは、丸みを帯びた体つきのせいだ。丸顔に明るい目許、ふっくらした唇、珠世はよく笑う。笑うと両頬にくっきりとえくぼが刻まれる。そのせいで歳より若く見えるが二十三を頭に四人の子持ちである。(p.10)主人公、お鳥見役の女房、珠世が圧倒的な存在感ですぐに物語の世界に引き込まれた。珠世(たまよ)は、二十三を頭に四人の子どもをもつ主婦だが、その存在感は圧巻。夫と三人の子ども(長女は嫁に行っている)、隠居している実父の六人暮らしの家政を取り仕切っている。裕福ではない御家人の矢島家に、いきなり七人の居候が加わることから起こる悲喜劇と人情話。 しかも居候のうち、一組は敵同士! スラップスティックになりがちな設定に、御鳥見役の隠された裏任務がかかわり、さらに幽霊話もあったりして、大いに楽しめる傑作エンターテインメント小説だ。鷹狩りについても、研究者に取材したり、資料を調べた上で描写されていて、物語が隅々まで堪能できる。
物語●江戸城の西北、雑司ケ谷にある御鷹部屋御用屋敷に、御鳥見役矢島家が住んでいた。「御鳥見役」とは、鷹の餌になる鳥の棲息状況を調べる役職で、葛西、岩淵、戸田、中野、目黒、品川の六カ所にある将軍家の御鷹場の巡検お、鷹狩のための下準備が主な任務だった。 目次■第一話 千客万来/第二話 石榴の絵馬/第三話 恋猫奔る/第四話 雨小僧/第五話 幽霊坂の女/第六話 忍びよる影/第七話 大鷹狩/珠世さん、親友になりたいんです。向田和子 ここから始まる本のリンク▼『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著・講談社文庫) |
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御家の狗 (おいえのいぬ)
岳宏一郎
カバーデザイン:安彦勝博 |
♪戦国武将の生き様を描いた長編歴史もので活躍する岳宏一郎さん。戦国時代末期から江戸初期を駆け抜けた徳川の漢(おとこ)たちの存在感あふれる骨太の生き様を描いた中短篇集で、一話一話が読みごたえがあった。ここで描かれている大久保長安、大久保忠隣、本多正信、本多正純は、単なる家康の側近というばかりでなく、各々が激動の時代を生き抜いた者だけがもつ輝きを持っていて魅力的だ。若き日の大久保長安の外見を紹介するシーンが面白い。これだけで、一気に作品に引き込まれた。 藤十郎は異様な風体の大男だった。その男の体には、凹凸というものがなかった。家康には上半身より下半身の方が太く見えた。海獣に似ている、と家康は思った。北の海に棲むというあのとどとかいう海獣に。 とくに「花ざかりの杏の木」に描かれた本多正純が印象的だ。福島正則の改易の仕掛け人として悪評をもつ正純が、実際は正則の弁護に躍起となっていたという解釈が面白い。随所で見せる正純の素顔が、秀忠を取り巻く官僚たちと違い人間味あふれている。 こんな個性的な彼らを中心に、家康の半生を描くような長編小説を読んでみたくなった。ぜひ、岳宏一郎さんに書いてほしいと願っている。 物語●「とど」徳川家康が土屋藤十郎(後の大久保長安)と名乗る武田旧臣に引き合わされたのは、本能寺の変から四ヵ月後だった。古府中の故一条信竜邸で、遠江二俣城将大久保忠泰(忠隣)が、甲州入りの手引きをした、信玄の蔵前衆として藤十郎を紹介した…。「鷹狩り」江戸城西の丸の玄関を出た大御所家康は、不意に足を停め空を見上げた。鴉が五、六羽飛んでいくのが見えた。家康が隠棲の地駿府へ帰ると聞いて、諸大名や有力幕臣が見送りに駆けつけた。前夜、江戸年寄筆頭大久保忠隣は、領地小田原までのお供を申し出たが断られていた…。「花ざかりの杏の木」寛永十四年二月、幽閉先の出羽国横手の配所で、本多正純が亡くなった。正純は、二代将軍秀忠の強い不興を買って、配流に処された人物だった…。 目次■胡〓(けものへんに賓。ルビ=とど)|鷹狩り|花ざかりの杏の木|解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『汚名』(杉本苑子著・中公文庫) |