新・極楽の読書録
2005年6月・水無月の巻

黒頭巾旋風録 by 佐々木譲
遭敵海域 by C・W・ニコル
鬼勘犯科帳 初代火盗改・中山勘解由 by 池端洋介
河岸の夕映え 神田堀八つ下がり by 宇江佐真理
「密命」読本 by 佐伯泰英著、祥伝社文庫編
御書物同心日記〈虫姫〉 by 出久根達郎
居眠り磐音 江戸双紙 残花ノ庭 by 佐伯泰英
観光都市 江戸の誕生 by 安藤優一郎
はぐれ牡丹 by 山本一力
血路 南稜七ツ家秘録 by 長谷川卓


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

血路 南稜七ツ家秘録
(けつろ・なんりょうななつやひろく)

長谷川卓
(はせがわたく)
[伝奇]
★★★★☆☆

カバーイラスト:原田維夫
カバーデザイン:芹澤泰偉
解説:細谷正充
時代:天文十一年(1542)
場所:龍神岳城、上原城、桑原城、蓼科山、府中・躑躅ヶ崎館、身延道、追分、安倍峠、小河内川、駿河今川館、長窪城、兎岳南稜、辛夷館、不入の森ほか
(ハルキ文庫・780円・05/04/18第1刷・378P)
購入日:05/05/20
読破日:05/06/30

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血路 南稜七ツ家秘録 第二回角川春樹小説賞受賞作。同じく山の民<南稜七ツ家>を描いた『死地』が抜群に面白かったので、期待感をもって読み進める。

山の南側に七軒の家を建てて暮らすことから、南稜七ツ家と呼ばれる山の民。戦国乱世の中で、人質や捕らわれ人を敵城から落とす仕事を請け負うようになり、「落としの七ツ」の異名をもつようになる。この特殊な集団の存在がたまらなく面白くて、この作品の魅力の一つだ。

主人公喜久丸は、甲斐と信濃の国境近くにある龍神岳城城主・芦田虎満の嫡男で十四歳の少年。信濃を狙う武田晴信(後の信玄)に唆された叔父の裏切りで、両親と姉を殺され、自身も窮地に陥ったところを、南稜七ツ家に助けられる。

山の民として成長する喜久丸の物語と、南稜七ツ家と武田の忍者集団「かまきり」の異能者同士の闘いの物語が、平行しながら進行する。両者は、物語の後半で巧みにシンクロして、ノンストップ時代アクションとして展開していく。作者の想像力の極みともいうべき、その壮絶なる死闘は、山田風太郎さんの『甲賀忍法帖―山田風太郎忍法帖〈1〉』に匹敵する。期待に違わぬ傑作伝奇時代小説の誕生だ。

北条の初代・早雲の四男で、風魔の忍びを手足のように使う北条幻庵や、信玄の軍師となる山本勘助も登場するので、伝奇時代小説ファンは要チェック。

物語●武田晴信(のちの信玄)は、実父信虎を駿河に追放し、自らが甲斐の国主について一年。信虎に与していた龍神岳城主芦田虎満を攻め落とし、諏訪へ陣を進めるための橋頭堡としようと考えていた。龍神岳城は虎満の実弟満輝の裏切りがもとで落ちる。落城に際して、虎満の嫡男で十四歳の喜久丸は、「南稜七ツ家」の市蔵に助けられる…。

目次■第一章 謀叛/第二章 依頼/第三章 侵入/第四章 追跡/第五章 激突/第六章 喜久丸と楓/第七章 熊/第八章 塩硝/第九章 二ツ誕生/第十章 隠れ里襲撃/第十一章 決闘 不入の森

ここから始まる本のリンク▼『甲賀忍法帖』(山田風太郎著・講談社文庫)

はぐれ牡丹
(はぐれぼたん)

山本一力
(やまもといちりき)
[市井]
★★★★☆

装画:原田維夫
装幀:原田維夫
解説:清原康正
時代:文政四年(1821)四月
場所:深川冬木町、日本橋平松町、砂村新田、島崎町、大島村、扇橋、永代橋、両国横山町ほか
(ハルキ文庫・571円・05/06/18第1刷・267P)
購入日:05/06/24
読破日:05/06/28

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はぐれ牡丹 山本一力さんの名前と「深川冬木町の裏店、人のやさしさが身にしみる!」の帯のコピーだけで、購入決定!

読み終え、少しいい気分になった。山本一力さんのお得意の深川を舞台にした、人情味と情感あふれる時代小説だ。

ヒロインは、日本橋の両替商の娘ながら好きな男と駆け落ちして、夫と四歳になる息子と貧しいながらも幸せに暮らす一乃。深川冬木町の裏店に住み、慣れない棒手振りで野菜を売り、家計を助ける一乃が、ある日、竹やぶで一分金を拾ったことから、物語は始まる。

徳川十一代将軍の家斉治世下の文政四年。貨幣の改鋳がたびたび繰り返されるという時代背景のもとで、深川の裏店に住む人々を事件が襲う。作中で、当時の貨幣流通のメカニズムをわかりやすく解説している。とくに大判の表面に偽造防止のために墨書がされていて、薄くなると判料一分二朱を取って大判座にて書き直したということは興味深かった。

生来の明るさと特有の直感力で何かと突っ走りがちの一乃と、沈着冷静な夫・鉄幹、やんちゃながらも母思いの息子・幹太郎、産婆のお加寿、手伝いのおあきとその兄・分吉、農家のおせきら、登場人物たちのキャラが立っていて読んでいて楽しい。

ちなみに大判は十両に兌換され、一分は一両の1/4で、一朱は一分の1/4(つまり一両の1/16)になる。現在と貨幣価値が異なるので、何を物価の基準にするかで大きく違ってくるが、一両は4万円〜30万円ぐらいの間に収まることが多いので、12〜15両ぐらいで考えておけば、いいのではないだろうか。

物語●一乃は、夫・鉄幹と四歳になる幹太郎と三人で、深川冬木町の裏店に暮らしていた。日本橋平松町の両替商本多屋の娘であった一乃は、駆け落ちして鉄幹と一緒になった。野菜の棒手振をしながら貧しくとも幸福な日々を送っていた。野菜の仕入先の農家・おせきのところで、たけのこ掘りを手伝っているときに、一分金を見つけた。一方、同じ裏店に住む産婆の手伝いをしていたおあきが人さらいに遭ってしまう…。

目次■なし

ここから始まる本のリンク▼『損料屋喜八郎始末控え』(山本一力著・講談社文庫)

観光都市 江戸の誕生
(かんこうとし・えどのたんじょう)

安藤優一郎
(あんどうゆういちろう)
[江戸学]

デザイン:新潮社装幀室
場所:両国、目黒、泉岳寺、吉原、向島、王子、寛永寺、飛鳥山、隅田川堤、品川御殿山、中野桃園、両国橋、回向院、浅草、浅草寺、深川不動ほか
(新潮新書・680円・05/06/20第1刷・199P)
購入日:05/06/24
読破日:05/06/25

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観光都市 江戸の誕生 最近、江戸切絵図など、江戸の町に関する興味が湧いてきた。そんな折に、この本の新刊広告を見て読みたくなり、入手。

約100万人の人口を抱え、参勤交代などで絶えず住人が入れ替わった江戸を、一大観光都市としてとらえ、その観光事情をあきらかにした江戸入門書。都市・江戸=観光地というとらえ方は、地方出身者から見た東京とイメージが重なり、スムーズに受け取れる。

著者は、将軍吉宗の観光振興策やその意図、観光の中心となった寺社の集客力などをわかりやすく解説してくれている。とくに寺社が頻繁に行った開帳のメカニズムが面白い。開帳とは、通常は秘仏として参拝を許可しない仏像を、当の寺社が一定期間のみ、公開して信者に結縁の機会を与える、現在でも広く行われている宗教的行事のこと。開帳には、その神仏を所持する寺社で行う居開帳と、地代を払って他の寺社の境内を借りて催す出開帳の二種類がある。ヒットすると、短期間に多額の臨時収入ができ、寺社にとって魅力的な行事だったらしい。

もう一つ興味深かったのは、成田山新勝寺の江戸出開帳戦略。元禄の頃までは一地方寺院に過ぎなかった成田山は、江戸時代に繰り返して実施された出開帳を通して、全国区の寺院となり、現在でも初詣でにぎわうトップブランドになっている。出開帳成功に向けての周到な準備や、メディアミックス戦略など、今のディズニーリゾートなどのテーマパーク運営に通じるところがある。今まで成田山新勝寺に行ったことがなかったので、ぜひ参詣してみたい。 読みどころ●従来、観光地としてイメージされることが少なかった江戸。参勤交代で江戸にやってきた勤番侍などの日記をもとにその観光の様子を紹介。八代将軍吉宗の観光振興とその裏の事情や、寺社のご開帳の集客力など、大江戸観光事情を明らかにする一冊。

目次■プロローグ|第一章 日記が語る遊山の楽しみ 1 憧れの江戸単身赴任(将軍の帰城に出くわす/今日は両国、明日は目黒/定番の赤穂浪士墓所/生まれて初めてのおいらん道中/舶来動物は大人気/梅若伝説・隅田川に触れる/高級料亭を満喫する/王子で異国人に出会う/寺巡りより味巡り) 2 江戸っ子も大忙し(隠居大名、悠々自適/町名主、年賀に江戸城へ/酒呑童子、天下祭に現れる)|第二章 よりどりみどりの八百八町 1 吉宗の観光振興(誇りの証「江戸名所図会」/都市化が求めた気晴らし/寛永寺から飛鳥山へ/隅田川堤から桜餅/桜と紅葉の品川御殿山/犬小屋が桃園に/秘められた意図/緑あふれる庭園都市/下町に広がる水の都/振袖火事と両国橋) 2 御利益より娯楽の神社仏閣(参詣客も増やしたい/門前は一等地/半径二キロの周遊観光/ガイドブックと専属案内人/参勤交代が生む潜在需要)|第三章 ご開帳の集客力 1 なぜ開帳が頻繁にあったのか(寺社の多角経営/出開帳四天王/神社のデパート浅草寺/何かと理由をつけて……) 2 秘仏の力と信心だけには頼れない(六〇日で一六〇〇万人/お金でランクが決まる開帳空間./アイドルお仙登場/関羽像で賽銭が倍に/隠居大名、見世物をはしご/ディズニーランドも真っ青) 3 差別化がカギを握る経済効果(半年分の賽銭が二ヶ月で/新旧商人対決は冥加金勝負/開帳大失敗で霊宝売却/不振続く江戸後期の開帳/客寄せは赤穂浪士の遺品/目立つ奉納物で宣伝目論む商人/薄れていく宗教性)|第四章 成田ブランドを確立した戦略 1 佐倉藩主・稲葉正通の政治的意図(鉄道敷設の起源/宿寺・深川永代寺の利点/江戸城に入った成田不動/領民対策と老中の立場) 2 知名度アップに貢献した市川團十郎(講中に支えられた不動信仰/開帳にあわせた舞台が大ヒット/街道も門前町も活性化) 3 群を抜くマーケティング戦略(開帳までの長い道のり/立て札で町中に告知/華麗な江戸入り道中でさらに宣伝/メディア・ミックス/総額二〇〇〇両の大事業/一五〇年間の努力でトップブランドに)|第五章 武士たちの新規参入 1 武家屋敷の神仏――非日常的空間の魅力(流行神、太郎稲荷/若殿平癒で参詣殺到/便乗商法でトラブル発生) 2 大名家の貴重な副収入(国元の神仏を江戸に勧請/過熱を懸念する幕府/バカにはできない賽銭額/インチキで客寄せする大名/お国自慢と実益と)|エピローグ/あとがき/参考文献/索引

ここから始まる本のリンク▼『江戸の都市計画』(童門冬二著・文春新書)

居眠り磐音 江戸双紙 残花ノ庭
(いねむりいわね・えどそうし・ざんかのにわ)

佐伯泰英
(さえきやすひで)
[痛快ヒーロー]
★★★☆☆

カバー装画・デザイン:蓬田やすひろ
カバー装画・デザイン:泉沢光雄
時代:安永五年二月の終わり
場所:隅田川、谷中日暮里、米沢町、谷中本村、神保小路、深川六間堀裏、柳橋、両国東広小路、待乳山聖天下社、吉原、駒形町、五十間道、浜町河岸、法恩寺橋際、六郷の渡し、駒井小路、本石町、本所北割下水ほか
(双葉文庫・648円・05/06/20第1刷・355P)
購入日:05/06/24
読破日:05/06/24

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居眠り磐音 江戸双紙 残花ノ庭 深川六間堀の金兵衛長屋に住む浪人・坂崎磐音が活躍する『居眠り磐音 江戸双紙』シリーズの第13弾。

半年ほど前に、システムエンジニアをしていて、とても忙しくしているのに、膨大な読書量の方に話を聞いたことがあった。秘密は、ハーレクイーンロマンスで冊数を稼いでいると言っておられた。古本屋でまとめて買ってきて、休日に5、6冊一気に読んでしまうそうだ。私の場合、読みやすい時代小説という佐伯泰英さんの作品が『居眠り磐音』シリーズがそれにあたる。

山手樹一郎作品に通じる明朗型のヒーロー、坂崎磐音が活躍するチャンバラもの。新作の『残花ノ庭』で、第13作を数える。タイトルはいずれも「○○ノ○」というように形容詞+「ノ」+場所を表す名詞というパターンを踏襲している。

最新作では、磐音に思いを寄せる三人の女性、元許婚の奈緒、両替屋の奥女中おこん、因幡鳥取藩の重臣の娘桜子の、微妙な関係に変化が生じる。今まで誰に対してもいい人を演じていた磐音がぶつかる悩み、そして、師の佐々木玲圓のかける言葉、今回の一番のポイントだろうか。今後の展開がますます気になる。

物語●坂崎磐音は、深川六間堀北之橋詰の鰻屋宮戸川の小僧・幸吉のおともで、谷中日暮里の木綿問屋高嶋屋の隠宅まで、蒲焼の出前を届けにでかけた。隠宅では、隠居の百蔵と若い妾おくめが、五、六人の男たちから高嶋屋の当代の醜聞をネタに金子をゆすり取られようとしてた…。

目次■第一章 花びら勝負/第二章 おそめの危難/第三章 夜半の待ち伏せ/第四章 正睦の上府/第五章 カピタン拝謁

ここから始まる本のリンク▼『密命 見参! 寒月霞斬り』(佐伯泰英著・祥伝社文庫)

御書物同心日記 〈虫姫〉
(おしょもつどうしんにっき・むしひめ)

出久根達郎
(でくねたつろう)
[ユーモア]
★★★★☆☆

カバー装画・デザイン:南伸坊
時代:天保四年(1833)ごろか
場所:江戸城紅葉山御文庫、日本橋本町三丁目、京橋、門前仲町、富島町二丁目、平河御門脇の不浄門、砂村新田、亀戸天神、洲崎ほか
(講談社文庫・533円・05/06/15第1刷・312P)
購入日:05/06/21
読破日:05/06/22

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御書物同心日記〈虫姫〉 紅葉山御文庫に勤める御書物同心東雲丈太郎が活躍するシリーズ第3弾。主人公の古本マニアぶりがたのしい。

全編にゆとりのあるユーモアが漂い、何ともいえない読み味のよさをもっている。紅葉山御文庫に勤める御書物同心・東雲丈太郎の本や本を取り巻く人たちに寄せる愛情が温かくて、いい気持ちにさせてくれる。
一話完結で、江戸の本の事情や古書界の習慣を紹介してくれていて興味深い。本好きにはたまらないシリーズである。

古本屋というか古書店の商売のやり方について、いまひとつピンと来なかった。『御書物同心日記 (虫姫)』を読んでいたら、江戸の古書の世界が詳しく描かれていて断然興味がわいてきた。ガーデニングの実用本に美本が少ないとか、探本と糴取師(せどりし。他の古本屋を回って安い本を抜き買いし、それを同業に納め、口銭で食っている古本屋の便利屋で仕入れ役でもある)のメカニズムとか、面白い。

今回は、丈太郎の恋についても描かれているので、注目だ。 物語●紅葉山御文庫に勤める御書物同心東雲丈太郎は、無類の古本好き。宿直を終え、朝四つ半(午前十一時)に下城すると、あわただしく着替えと早い昼をすませ、懇意にしている日本橋の古本屋、小泉喜助の店に向かった。丈太郎は、表具師の修復作業を監視するため、御書物会所で八日間ほど、本の顔を見ておらず、禁断症状からであった。ちょうど店では主人の喜助が、長男で十七歳の音平と番頭の忠造をしかっていた。二人とも吉原からの朝帰りだった…。

目次■第一話 一髪|第二話 探書|第三話 曲竹|第四話 不浄|第五話 虫姫|第六話 鷽替|第七話 洲崎|退屈至極の日日 文庫版あとがき

ここから始まる本のリンク▼『猫の似づら絵師』(出久根達郎著・文藝春秋)

「密命」読本
(みつめいどくほん)

佐伯泰英著、祥伝社文庫編
(さえきやすひで・しょうでんしゃぶんこ)
[解説本]

カバーデザイン:芹澤泰偉
(祥伝社文庫・714円・05/04/20第1刷・441P)
購入日:05/06/02
読破日:05/06/18

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「密命」読本 大好きな時代小説「密命」シリーズのファンのための解説書が発行された。十代の頃の金杉惣三郎を描いた短編「虚けの龍」も収録され、ファンとしてはうれしい限りだ。

「密命」シリーズの舞台となった江戸の町を散策する(というには強行軍だが)企画がとくに面白い。主人公の金杉惣三郎一家が住んでいた芝七軒町(芝の大門あたり)から、愛宕神社を回って茅場町の山王御旅所薬師堂までコースと、しのが丹精する菊屋敷界隈をめぐる飛鳥山散策コースを編集スタッフが踏破するというもの。随所に今に残る江戸の面影を確認できる。

「闘牛」を題材にしたノンフィクション『闘牛士エル・コルドベスの叛乱』で第1回PLAYBOYドキュメント・ファイル大賞を受賞した人が、20年の時を経て、時代小説家としてデビューするにいたった経緯を語ったインタビューが面白かった。昔、PLAYBOY誌で、同作品を読んですごいと思っていただけに、感慨はひとしおだ。

読みどころ●佐伯泰英さんの時代小説における代表作「密命」シリーズのファンのためのガイドブック。一巻から十二巻までの全作品から、その魅力を余すところなく解剖。「密命」の舞台を現代地図・古地図をあわせて案内する読み物や、登場人物と時代小説用語を紹介するなどうれしい企画が多い。
「虚けの龍」時は元禄三年。十六歳になったばかりの深井惣三郎(後の金杉惣三郎)は、剣の師、綾川辰信に、本性を殺すことを覚え、受けの剣を身につけよと命じられた…。

目次■関連御江戸全図と現代の東京 口絵|関連御江戸地図|『密命』番外・惣三郎青春篇 虚けの龍 佐伯泰英|闘牛から時代小説へ ◎佐伯泰英インタビュー 聞き手/細谷正充(文芸評論家)|登場人物紹介|●コラム @長屋暮らし A江戸町人お仕事拝見 B江戸の豪商 C江戸火消 D町奉行と町方たち E江戸の船 F剣術の聖地・鹿島 G江戸の物見遊山 H豊後佐伯藩 I吉宗と女性 J尾張・宗春の実像 K江戸っ子グルメ道|歩いてみた『密命』の江戸東京(強行軍の御江戸・芝〜大川端/のんびり飛鳥山散策編)|密命論 細谷正充|『密命』の時代 楠木誠一郎|惣三郎十一番勝負!|金杉父子の剣と修行|金杉清之助・父を超えて ◎付録・清之助回国修行マップ|佐伯泰英 作品総覧 細谷正充|『密命』年表|佐伯泰英 写真ギャラリー『闘牛』 ◎佐伯泰英エッセイ「闘牛と私

ここから始まる本のリンク▼『密命 見参! 寒月霞斬り』(佐伯泰英著・祥伝社文庫)

河岸の夕映え 神田堀八つ下がり
(かしのゆうばえ・かんだぼりやつさがり)

宇江佐真理
(うえざまり)
[市井]
★★★★☆☆

カバー画:小村雪岱「河岸」より(埼玉県立近代美術館蔵)、歌川広重「名所江戸百景」より(個人蔵)、千代紙(いせ辰)
カバーデザイン:井上正篤
解説:縄田一男
時代:「浮かれ節 竈河岸」天保九年。「神田堀八つ下がり 浜町河岸」享保八年(1723)九月
場所:「どやの嬶 御厩河岸」浅草三好町、御厩河岸。「浮かれ節 竈河岸」住吉町、高砂町、柳橋、牛込藁店。「身は姫じゃ 佐久間河岸」神田相生町、柳原土手、富沢町。「百舌 本所・一ツ目河岸」本所相生町一丁目、津軽藩上屋敷。「愛想づかし 行徳河岸」小網町二丁目、北鞘町。「神田堀八つ下がり 浜町河岸」米沢町、若松町、浜町河岸ほか
(徳間文庫・629円・05/06/5第1刷・359P)
購入日:05/06/10
読破日:05/06/14

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河岸の夕映え 神田堀八つ下がり 宇江佐真理さんの最新文庫『神田堀八つ下がり―河岸の夕映え』を入手する。宇江佐さんの作品は読み味がよくて、お気に入り。今回は、御厩河岸、竈河岸、浜町河岸など、6つの河岸を舞台にした6つの人情話を収録。

『神田堀八つ下がり―河岸の夕映え』の表紙は江戸情緒にあふれた構成になっている。中心には小村雪岱(こむら・せったい)の「河岸」が描かれ、その周りには歌川広重の「名所江戸百景」の「芝うらの風景御厩河岸」を使用し、さらにいせ辰の千代紙をコラージュしている。

前作『おちゃっぴい―江戸前浮世気質』に続く、江戸の市井をテーマにしたコンセプチュアルな短篇集。一話一話の登場人物たちは関係しないが、江戸の町のどこかで、同じ空気を吸っているという感じが伝わってくる。
火事で焼け出され、父を亡くして御厩河岸に越してきた水菓子屋の娘ちえ。大店暮らしとは打って変わった日々の折々に、大川の流れを見つめる。江戸の娘の恋と人情を描いた巻頭の一作「どやの嬶 御厩河岸」から読み手を捉えて離さない。端唄好きの小普請組の武士の都々逸をめぐる一篇「浮かれ節 竈河岸」、下っ引きが河岸で拾った少女の正体を探る捕物仕立ての「身は姫じゃ 佐久間河岸」、津軽藩出身の兄弟の江戸での暮らしを描く「百舌 本所・一ツ目河岸」、勘当された若旦那と居酒屋の酌婦の恋を描く「愛想づかし 行徳河岸」、自分に厳しさを科した板前と旗本の部屋住みの意気地を取り上げた「神田堀八つ下がり 浜町河岸」、バラエティに富んだ筋立てで、ほんわかした人情が味わえる小粋な作品集だ。

物語●「どやの嬶 御厩河岸」おちえは十七歳。半年前に火事で焼け出されて、神田須田町から浅草三好町に越してきた。父を失い、叔父に店の銭箱を持ち逃げされ、大店暮らしから一転、横丁の八百屋と変わらない小さな水菓子屋で店番までさせられるようになった…。「浮かれ節 竈河岸」三十六歳の三土路保胤は幕府の小普請組に所属していた。妻と三人の娘を持ち、非役で役禄がつかず家禄だけで生計を維持しなければならいないので暮らしは苦しかった。暇があり、もともと喉はよくさして稽古しなくても節回しを覚えるのが得意で、町人たちが好む端唄にはまっていた…。「身は姫じゃ 佐久間河岸」岡っ引きの伊勢蔵の子分で義理の息子の龍吉は、和泉橋のそばで小汚い娘が地面に絵を描いて遊んでいるのを見かけた。話しかけると、娘は垢だらけの顔で、身は姫じゃと応えた…。「百舌 本所・一ツ目河岸」本所相生町一丁目にある横川柳平のわび住まいに津軽から姉ひさの荷物を預かって生家の使用人の息子がやってきた。柳平はもとは津軽弘前藩の藩校の教官だったが、藩の政争に敗れて職を辞していた…。「愛想づかし 行徳河岸」魚河岸で荷を運ぶ人足として働く旬助と居酒屋で酌婦として働くお幾は半年前から一緒に暮らしていた。旬助はお幾より五歳年下の二十八で、勘当されていたが日本橋の廻船問屋の総領息子だった…。「神田堀八つ下がり 浜町河岸」米沢町の薬種屋「丁子屋」の主・菊次郎は、町医者の佐竹桂順と世間話をしていた。にわか雨が振り出してきて、旗本の次男坊・青沼伝四郎が四人の供のものとやってきて雨宿りをした…。

目次■どやの嬶 御厩河岸|浮かれ節 竈河岸|身は姫じゃ 佐久間河岸|百舌 本所・一ツ目河岸|愛想づかし 行徳河岸|神田堀八つ下がり 浜町河岸|文庫のためのあとがき|解説 縄田一男

ここから始まる本のリンク▼『おちゃっぴい―江戸前浮世気質』(宇江佐真理著・徳間文庫)

鬼勘犯科帳 初代火盗改・中山勘解由
(おにかんはんかちょう・しょだいかとうあらため・なかやまかげゆ)

池端洋介
(いけはたようすけ)
[捕物]
★★★☆☆☆

カバー装幀:SHOW
時代:寛文十二年(1672)一月
場所:浅草寺裏、御徒町、西両国広小路、市ヶ谷牛込、金杉中通り五丁目、両国、四谷大木戸、大川、日本橋小網町、神田小川町ほか
(コスミック時代文庫・533円・05/03/25第1刷・270P)
購入日:05/06/06
読破日:05/06/11

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鬼勘犯科帳 初代火盗改・中山勘解由 慶長年間に創業し、その白酒は江戸時代から庶民に親しまれ、「山なれば富士、白酒なれば豊島屋」と詠われて、江戸時代からの伝統を守ってきた老舗の豊島屋本店。日ごろより大変お世話になっている豊島屋本店の吉村俊之さんから、面白い時代小説を紹介していただいた。

池波正太郎さんが亡くなられてから16年。もう、『鬼平犯科帳』の新作が読めないんだなと思うと、時折なんとも切なくなる。いくつかの作品で、長谷川平蔵が登場することがあった。それは、池波さんの鬼平とはまったく別のキャラクターとして描かれてきた。オリジナリティということを考えれば、当然のことではあるが…。
池端洋介さんの『鬼勘犯科帳―初代火盗改・中山勘解由』を読了した。初代の火盗改の中山勘解由直守を主人公に据えているが、多くの点で、『鬼平犯科帳』を想起させてくれる。

作品鬼平犯科帳鬼勘犯科帳
作者池波正太郎池端洋介
火盗改就任天明七年(1787)寛文十二年(1672)
上司若年寄・京極備前守高久大目付・大岡佐渡守忠勝
若い頃の呼び名本所の銕助六郎の兄ぃ
家紋左三藤枡形の内に月
お惚けキャラ木村忠吾青木弥之助
昔なじみの助っ人相模の彦十唐犬の権兵衛
密偵大滝の五郎蔵旋風の文左
たまり場軍鶏鍋五鉄軍鶏鍋鴛鴦屋

三田村鳶魚さんの著書によると、中山勘解由は容赦のない仕事ぶりだったようである。「この勘解由は元来なかなかの仏者でありました。それが六方男立てのあばれ者どもを鎮撫する命を受けた時分に、すぐに仏壇をぶちこわして、今日からはもう慈悲では治らない、というので、少しでも風体の変な者は、取っつかまえて詮議もせずに斬ってしまった。それですから例の旗本奴・町奴の検挙を二度ほどやりまして、首尾よく鎮静させることが出来たといわれております」(『三田村鳶魚全集 第13巻』)

物語●「亡者狩り」旗本奴の平手弥三郎は、仲間と浅草寺裏で、幼い姉弟も含めた四人連れの家族を斬殺し、「この俺に、斬れぬものなどないのだ」とうそぶいた。御先手鉄炮組頭中山勘解由は、旧知の御家人野々宮五兵衛を見舞った。五兵衛の嫡男七郎左衛門は、同僚三人に斬り殺されたのだった…。「鶉の権兵衛」御先手鉄炮組の中山勘解由配下の同心青木弥三郎は、浜松町の近くで火事に遭い、そこで九人組の火付け盗賊を見かけた…。「おしどり義賊」中山勘解由は、密偵の雁金の喜久次とキス釣りに出かけて、仲むつまじく釣りに興じる夫婦ものを見かけた。夫の方は喜久次が賭場で「何か魂胆がある」と目をつけて、追っていた男・文左だった…。

目次■亡者狩り|鶉の権兵衛|おしどり義賊

ここから始まる本のリンク▼『鬼平犯科帳』(池波正太郎著・文春文庫) -->

遭敵海域
(そうてきかいいき)

C・W・ニコル
(にこる)
[大正]
★★★★

訳:村上博基
装画:野中昇
デザイン:坂田政則
時代:大正三年年(1914)
場所:海軍省、カナダ・ヴァンクーヴァー、インディアン・アーム、シンガポール、赤坂、帝国ホテル、横須賀、横浜、直江津、イギリス・カーディフ、ロンドン、ハリッジほか
(文春文庫・781円・05/05/10第1刷・425P)
購入日:05/05/16
読破日:05/06/10

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遭敵海域 原題:When Two Strong Men

『勇魚』『盟約』と続くサーガノベル。江戸末期から明治にかけて、狭い日本を飛び出してグローバルに活躍した、ある一家の大河ドラマ。今回は時代小説というよりは第一次世界大戦を描いた戦記ものといった趣きがある。

第一次世界大戦直前から勃発までを描いた戦争小説である。紀州太地の鯨捕りの若者甚助の活躍を描いた海洋時代小説の傑作『勇魚〈上〉』からの流れで、読み続けているが、時代は大正に入り、時代小説の範疇に入れるのは難しくなった。
今まで知る機会がなくて、日本が第一次世界大戦にどのように関与したかについてわからなかったので、この物語を読んで、少し時代感覚がつかめた気がする。しかも、日本だけでなく、カナダ、イギリス、シンガポールとワールドワイドに、主人公の海軍士官銛一三郎(甚助の三男)が活躍し、スケールがより大きなものになっている。
翻訳者の村上博基さんは、映画化するとしたら、主役の三郎には織田裕二さんがいいということを書かれていたが、伊藤英明さんか坂口憲二さんの方が原作のイメージによりピッタリだと思う。
この作品の文庫化と同時に、続編の『特務艦隊』が刊行された。日本艦隊が地中海でドイツのUボートと対決するシーンが描かれているようで、興味深い。文庫化まで待って(ちょっとせこいが)ぜひ読みたいと思う。

物語●強力新鋭巡洋戦艦金剛の建造をめぐって、海軍上層部と、受注者のドイツのシーメンス社およびイギリスのヴィッカース社の間に、破廉恥きわまる癒着が発覚した。このシーメンス事件と呼ばれるスキャンダルの影響で、海軍少佐銛一三郎(もりいちさぶろう)の上司で海軍情報部の藤井大佐は事件に無関係ながら姿を忽然と消した。三郎は、すべての疑惑から解かれて青天白日の身となり、任務に復帰していたが、突然、海軍軍令部へ召喚された…。

目次■なし

ここから始まる本のリンク▼『勇魚』(C・W・ニコル著・文春文庫)

黒頭巾旋風録
(くろずきんせんぷうろく)

佐々木譲
(ささきじょう)
[蝦夷]
★★★★☆

カバー装画:百鬼丸
時代:天保八年(1837)五月
場所:モロラン、シャマニ、アッケシ、シベツ、地獄山、トウロ、クスリ、トカプチ、ノツケ半島ほか
(新潮文庫・552円・05/06/01第1刷・386P)
購入日:05/06/02
読破日:05/06/05

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黒頭巾旋風録 『ベルリン飛行指令』『エトロフ発緊急電』など、第二次世界大戦下を舞台にしたスパイ冒険小説で活躍されている、佐々木さんの最近文庫化された時代小説。「北海道ウエスタン」ともいうべき、アクションシーンがふんだんに盛り込まれ、楽しめそうな一冊。

「黒頭巾、破邪の鞭が悪を討つ。痛快時代小説!」という帯のキャッチどおりに、スカッとする読み味の作品。天保期の蝦夷地で不正と非道の限りを尽くす和人(松前藩の武士や悪徳商人ら)の前に立ちはだかり、虐げられたアイヌを助ける、正義の味方、黒頭巾の活躍を描いている。
読者はすぐに黒頭巾の正体に気づくが、他の登場人物たちは黒頭巾に扮する人物になかなか気づかないところがミソ。しかも、殺生に直結した剣ではなく、鞭を振るうところもヒーロー度とサスペンス性を高めている。この辺りがストーリーテリングのポイントか。
巻末に収録された、作者の佐々木譲さんと逢坂剛さんの対談であきらかなように、北方謙三さんが『林蔵の貌』、船戸与一さんが『蝦夷地別件〈上〉』を書かれたように、冒険小説を代表する人たちがこぞって、幕末の蝦夷地に注目し、面白い時代小説を書かれている。佐々木さんは、その訳を日本の中でも特に他とは違った歴史を持つ地域であることをあげている。
また、「時代小説を書く楽しさとは、現代に設定したら絶対あり得ないような、メリハリのきいた大きなドラマがつくれることですね。もう一つの面白さは、因果応報が非常にくっきりすること」と述べられていて、なんとも興味深い。

物語●臨済宗の青年僧・惠然(けいねん)は、東蝦夷地のモロランの入り江に船でやってきた。そこで、アイヌの青年が三人の和人に足蹴にされているのを見かけて割って入って乱暴を止めさせた。騒ぎを聞きつけて松前藩の侍がやってきたが、和人の乱暴を黙認していた。惠然は、もともと武家の出で、撃剣と乗馬は小さい頃から習っていたという。十七歳のときに、江戸で役人になるよりも禅の道を選び仏門に入り、この度、幕府が建立した官寺、臨済宗のアッケシ国泰寺に向かうところだった。…。

目次■はじめに/第一章 悲しみの蝦夷地/第二章 黒頭巾現る/第三章 広まる噂/第四章 地獄山の風景/第五章 疑念のほこさき/第六章 鞭と短銃/第七章 仕掛け罠/第八章 三度目の正直/第九章 嵐のきざし/第十章 旋風沸き立つ/エピローグ/特別対談 逢坂剛+佐々木譲

ここから始まる本のリンク▼『北の海明け』(佐江衆一著・新潮文庫)