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2005年3月・弥生の巻
写楽仕置帳 御膳役一条惣太郎探索控 by えとう乱星 |
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陰陽師 龍笛ノ巻 (おんみょうじ・りゅうてきのまき)
夢枕獏
カバー:村上豊 |
♪若き陰陽師安倍晴明と笛の名手源博雅のコンビが平安の闇にはびこる悪鬼、怨霊と立ち向かうシリーズ第六作。「むしめづる姫」というタイトルの話が収録されていて、食指が動く。今回の見どころは、安倍晴明の師である陰陽師賀茂忠行の息子・賀茂保憲が登場するところだろうか。安倍晴明と並ぶ平安期を代表する陰陽師である。荒俣宏さんの『帝都物語』に出てくる怪人加藤保憲は、賀茂保憲から名前を取ったのではないかと思われる。このシリーズの魅力の一つが、安倍晴明と源博雅の友情である。それ以上に、興味深いのが安倍晴明と市井の陰陽師蘆屋道満との絶妙な距離感である。道満が登場する話はどれも例外なしに面白い。賀茂保憲の登場によって、またまた新しい興味が湧いてきた。 物語●「怪蛇」源博雅は安倍晴明に、藤原鴨忠の屋敷に仕える小菊という女の太股にできたできものから蛇がでてきた話をした…。「首」安倍晴明の師である陰陽師賀茂忠行の息子・賀茂保憲が訪れ、晴明に厄介な一件を頼み込んだ。藤原為成が一条六角堂で妙な首に憑かれてしまい、命を助けてほしいというものだった…。「むしめづる姫」橘実之の娘・露子姫はいろいろなむしを飼って観察している風変わりな姫のために、むし姫とか呼ばれていた…。「呼ぶ声の」満開の桜の樹の下に座して、琵琶を弾いていた藤原伊成は、いずこから聞こえてきた名前を尋ねる声に思わず答えてしまった…。「飛仙」紫宸殿の屋根の上に妖がたびたび出て、宮中で話題になっていた。また、藤原友則の娘が疝気の病になっていたが、藤原兼家からもらった薬を飲んだところ、何かよからぬものが憑いたせいか、高い場所を好むようになってしまったという…。 目次■怪蛇|首|むしめづる姫|呼ぶ声の|飛仙|あとがき ここから始まる本のリンク▼『鬼』(高橋克彦著・ハルキ文庫) |
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とんち探偵一休さん 謎解き道中 (とんちたんていいっきゅうさん・なぞときどうちゅう)
鯨統一郎
カバーイラストレーション:片山若子 |
♪『とんち探偵一休さん 金閣寺に密室』に続くシリーズ第2弾。カバーの袖に書かれた「一休には、知られていないとんち話があと八つあります。」という著者のことばが気になる。前作で登場した茜の行方不明の両親を捜す旅に出た、一休一行。京から難波、大和を経由しての東下り。行く先々で、一休がいろいろなとんちに答え、密室や首なし死体、屋敷の消失など不可解な事件や謎に、持ち前の推理力を駆使して取り組むところが見どころ。 あまり時代小説っぽくなく、アニメの一休さんの雰囲気を持っているので、時代小説に慣れていない人でも楽しめる作品。 物語●京でも賢才の名高い建仁寺の小坊主一休。問注所検使官で、一休の類稀な智恵に惹かれ、弟子を名乗る蜷川新右衛門、建仁寺に止宿する娘・茜と共に、行方不明の茜の両親を捜す旅に出た。三人が最初にやってきたのは、阿倍野の梅光寺。そこに、一人の娘をめぐっての果し合いの末に死んだ息子を弔いたいという老人がやってきた。しかし、その死体には首がなく、梅光寺の住職は弔いはできないと言った…。 目次■第一話 難波・明の景色/第二話 大和・栗鼠の長屋/第三話 伊勢・魔除けの札/第四話 尾張・鬼の棲み家/第五話 駿河・広い庭/第六話 伊豆・鰻の寝床/第七話 相模・双子の函/第八話 武蔵・猫と草履 ここから始まる本のリンク▼『とんち探偵一休さん 金閣寺に密室』(鯨統一郎著・祥伝社文庫) |
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居眠り磐音 江戸双紙 探梅ノ家 (いねむりいわね・えどそうし・たんばいのいえ)
佐伯泰英
カバーイラストレーション:蓬田やすひろ |
♪深川六間堀の金兵衛長屋に住む浪人・坂崎磐音が活躍する『居眠り磐音 江戸双紙』シリーズの第12弾。梅の季節にピッタリのタイトルの作品。佐伯さんの時代小説には、幾つかのシリーズがあるが、この『居眠り磐音 江戸双紙』シリーズの特徴は、「春先の縁側で日向ぼっこをしている年寄り猫」と称される、一見威圧の構えもなく自然のままの伸びやかな剣。そして、剣と同様に春風駘蕩とした性格の主人公坂崎磐音。二人の親友と許嫁を相次いで失い、家老の嫡男から浪人へと身を落としながらも、悲しみや苦労が表に出てこない、絵空事のような爽やかさが魅力だ。また、最近は、磐音が江戸近郊を小旅行するのも楽しい趣向。 今巻では、磐音が通う直心影流佐々木玲圓道場に、軍鶏のような若い弟子(松平辰平と重富利次郎)が入門したり、白梅屋敷のお姫様が登場したり、新しいキャラクターが加わり、一段とにぎやかになった。 読みはじめたのが梅の季節で、ピッタリのタイトルになっていた。 物語●深川六間堀の金兵衛長屋に住む浪人・坂崎磐音は、横山町の湯屋加賀大湯で、背中に吉祥天の彫り物がある老人を見かけた。湯屋でさっぱりした後、両替商の今津屋の老分・由蔵のボディガードとして、市谷の鳥羽藩の江戸中屋敷まで出かけた。由蔵の用は、そればかりでなく、師走に鎌倉・建長寺参りのお供を頼まれた。その夜、米沢町の今津屋に泊まった磐音は、半鐘の音に起こされた。火元付近を確かめに行き、火事場に近付こうとした磐音は、江戸四宿で暗躍している黒頭巾の押し込み一味を警戒中の南町奉行所の年番方与力笹塚孫一に気づいた…。 目次■第一章 吉祥天の親方/第二章 水仙坂の姉妹/第三章 師走の騒ぎ/第四章 二羽の軍鶏/第五章 白梅屋敷のお姫様 |
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幕末「住友」参謀 広瀬宰平 (ばくまつすみともさんぼう・ひろせさいへい)
佐藤雅美
カバー装画・装丁:蓬田やすひろ |
♪「住友」の近代化の礎を築いた男を主人公とした幕末小説。捕物小説で活躍されているが、歴史経済小説の名手でもある、佐藤雅美さんの作品で期待感大。金や銀でなく、銅がこれほど、江戸から明治にかけて重要な資源であったと、この本を読むまで知らなかった。鎖国後もオランダとの貿易が継続できた理由、そして幕末に欧米列強の属国になることなく、明治期に近代化を実現できた要因の一つに、銅の存在があったというのは注目すべき視点だ。 本書は幕末から明治にかけて、大財閥「住友」を支えたワンマン経営者・広瀬宰平を描いた歴史経済小説。「別子銅山の産銅量と損益」「住友の御用銅買上価格」など、グラフや図を使用して、具体的な数字を挙げてわかりやすく解説している。巨額な借金、幕府や新政府との交渉など、度重なる危機に際して、敢然の立ち向かう宰平の姿に一流の経済人としての在り方が見られ、小説としても魅力的な作品。 物語●明治維新まであと二十三年という、弘化二年に、見なれない二人の武士が、道案内人を先に立て、別子銅山を目指した。別子銅山は、伊予(愛媛県)の別子山村にあり、二人の武士は峻険な山道を這うようによじ登り、標高千二百九十四メートルの、“銅山越え”を越えてやって来た幕府の隠密だった。別子銅山は天領(幕府の直轄地)で、山師(民間の鉱山業者)である住友が幕府から鉱業権を取得して銅を掘り出していた。幕末から明治にかけて住友を支えた広瀬宰平は、このとき十八歳で、手代として銅山付役人の鈴木武平宅に詰めていた…。 目次■隠密/条件闘争/密命/汐見橋の出会い/復権/抜擢/両全仕法/米騒動/幕府崩壊/土佐の陰謀/銅山売却/銅山再生/引退/文庫版へのあとがき ここから始まる本のリンク▼『大君の通貨―幕末「円ドル」戦争』(佐藤雅美著・文春文庫)、『田沼意次 主殿の税』(佐藤雅美著・学陽書房人物文庫) |
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開化怪盗団 (かいかかいとうだん)
多岐川恭
カバー装画:蓬田やすひろ |
♪手元に新刊の積読ものがなくなったので、1年ほど前に購入して未読のものにチャレンジ。明治を舞台にしたピカレスクロマン。多岐川さんの本は品切れになりそうなので迷わずゲット!『開化回り舞台』改題 西南戦争後の明治初期、薩長の藩閥政治の横暴や現体制の無為無策などから、自由民権運動が高まりを見せている時代。登場人物の一人、安岡保もそんな自由民権運動にあこがれや共感を持っていて、西郷に傾倒して過激な行動を起こそうとする若者・野村辰平を助けたりする。一方、宝石商の高牟礼は、初対面の安岡をして、「西郷軍の残党ですか。それとも政府の密偵。ひょっとすると義賊……」と言わしめる一筋縄でいかない雰囲気をもった男である。 ピカレスク時代小説の第一人者らしく、作者の描くちょっと悪に染まった主人公たちがそれぞれ魅力的だ。化け七こと泥棒の七兵衛、スリ名人の伝吉、イギリス人の小悪党ネルソンとフランク、そして英語が堪能で、出生に秘密がありそうな高牟礼。悪事を働きながらも、そのユートピア建設に向けて夢を語る。何ともその活躍振りが小気味いい。明治という時代のロマンを感じさせる作品である。 物語●富豪樫村広助の令嬢那美は、宝石商の高牟礼三太郎に馬車で家へ送ってもらう途中、四人の暴漢に襲われた。折りよく自由民権論者の若者・安岡保が通りかかり、暴漢らを追っ払った。安岡は豊前小倉の出身で私塾で学ぶ苦学生だった。那美は、一橋の女学校を出てから、ただぶらぶらしていた。この日は、父に連れられて、築地の原口万兵衛という実業家の邸宅で行われた晩餐会に出席し、万兵衛の娘で同窓の仲良し・琴子とおしゃべりに夢中になっているうちに、父は先に帰ってしまい、宝石の売り込みに来ていた高牟礼に送ってもらうことにしたのだった…。 目次■第一章 富豪令嬢の危機/第二章 貧乏書生/第三章 危ない男の逃走/第四章 賊たちの謀議/第五章 旧幕臣の歓待/第六章 密偵の追跡/第七章 異人の策略/第八章 巡査の勇み足/第九章 若者の失望/第十章 野人実業家の憤懣/第十一章 末弟の急襲/第十二章 悪党の夢/第十三章 決起青年の不覚/第十四章 宝石商の魂胆/第十五章 警察官の密談/第十六章 盗賊の真意/第十七章 快男児の憤激/第十八章 女たちの覚悟/第十九章 自由人の無想/解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『警視庁草紙』(山田風太郎著・ちくま文庫) |
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柳生一族 (やぎゅういちぞく)
松本清張
カバーデザイン:伊藤憲治 |
♪松本清張さんは、折を見て、その時代小説を読みたいと思っていた作家の一人だ。たまたま入った書店で古めの文庫本があり、入手した。松本さんというと、長編もののイメージが強いだけに新鮮な印象を受けた。松本清張さんの時代小説というと、『かげろう絵図』『天保図録』『鬼火の町』『乱灯・江戸影絵』など、長編もののイメージが強い。本書に収録されている作品は、いずれも1955年から1956にかけて発表された、松本さんにとって初期の短編ばかりだ。筆致など、多少、古い感じはするが、一編一編が個性的で、アイロニックなところがあり、面白い。 表題作は、柳生但馬守宗巌(石舟斎)→又右衛門宗頼(宗矩)→十兵衛三巌と続く、柳生家の男たちのエピソードを綴ることで、柳生家とは何かを描いた短編。「廃物」では、九代将軍家重の寵臣・大岡忠光の通訳ぶりを描いている。「廃物」は、死の寸前に大久保彦左衛門が、三河武士としてみずからの反省を回顧する物語。「栄落不測」は綱吉の性格が顕著に表れた人事に翻弄される男を描いている。「破談変異」は、目付豊島刑部による、老中井上正就刺傷事件を題材にし、「五十四万石の嘘」は、肥後熊本の加藤家改易をテーマにしている。いずれも共通しているのが、史実に題材を取りながら作者の皮肉が利いている。「破談変異」と「五十四万石の嘘」は、微妙に史実と作中の年代が違っているので注意。 そんな中で異色なのが、「蓆(むしろ)」。将軍に献上する宇治茶を運ぶお茶壷道中を描いていて興味深い。わらべ歌で、「ズイズイ ズッコロバシ胡麻味噌ズイ 茶壷に追われて トッピンシャン 抜けたらドンドコショ」というのがあるが、その意味が少しわかった。「疵」は、上意討ちの実体と、江戸初期の主従関係というが興味深く描かれている。この2編はフィクション性が高い。 物語●「柳生一族」大和国神戸の庄小柳生の城主柳生宗巌(やぎゅうむねよし)は三十七の歳に、諸国回歴中の神陰流の祖・上泉伊勢守(こうずみいせのかみ)から一手指南を受け、心服し弟子入りした。同じ時期に、伊勢守に入門した者に、柳生と同国の井戸野の城主で、戒重肥後守(かいえひごのかみ)の家来の松田織部之助がいた…。「通訳」八代将軍吉宗の嫡男・家重は、小さい時から言葉につかえ、長ずるに従って言語障害はますます進み、発音不明瞭で、周囲の者も近臣や老中も聞き取りに苦労した。そんな中でただ一人、家重の難解な言語を解するのが大岡出雲守忠光だった…。「廃物」大久保彦左衛門忠教は八十歳で、死の床に横たわっていた。彼の屋敷の病室には、見舞いの客たちが詰めていた。見舞い客たちは、臨終に立ち会って最期の別れにきた人たちであった…。「破談変異」家光の催した能楽に、在府の大名をはじめ、老中、若年寄、目付、役付の旗本など、その家族とともに陪観をゆるされた。目付豊島刑部は、そこで老中井上主計頭正就の娘に目を留め、相役の島田越前守の息子の嫁にと考えた…。「栄落不測」綱吉の小姓として側近に仕える喜多見若狭守重政は、三千二百石の旗本から一躍一万石の大名に取り立てられて、お側衆の上座を仰せつけられた…。「蓆」美濃国郡上郡八幡の領主、金森出雲守の家臣、富高与一郎は、一年の在府を終え、帰国の供に加わっていた。数日後には、久しぶりに対面する家族のことを考えながら、軽やかに足を運ぶ一行の中で、与一郎だけは、気分が石を詰め込んだようにふさぎ、できることならもう少し江戸に残りたいと思っていた…。「五十四万石の嘘」肥後国熊本城主加藤忠広の世子・豊後守光正は、江戸の屋敷に在ったが、毎日が退屈で仕方がなかった。わずかな愉しみは、茶道のお坊主で玄斎という、律儀で無類の臆病者をからかうことだった…。「疵」高月藤三郎は、藩主黒田長政の命で、一人で家中の木谷太兵衛を上意討ちすることになった。成功した暁には、家老の娘をもらう約束をしたが…。 目次■柳生一族|通訳|廃物|破談変異|栄落不測|蓆|五十四万石の嘘|疵|解説 武蔵野次郎 ここから始まる本のリンク▼『柳生非情剣』(隆慶一郎著・講談社文庫) |
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風雅剣 (ふうがけん)
上田秀人
カバーデザイン:東京図鑑 |
♪宝蔵院流一刀流の遣い手であり、将軍家見聞役・三田村元八郎が活躍する、『竜門の衛』『孤影剣』『無影剣』『波涛剣』に続く時代小説シリーズ第5弾。今回は謎の頓死を遂げた京都所司代の真相を追う。新刊時に購入漏れしていたので遅ればせながらGet!柳生や宮本武蔵の後継者を倒し、ちょっと強すぎる感があった三田村元八郎だが、今回はより強力な敵役が登場することで面白く読めた。元八郎が訳あって、修行をし直すところもあり、今後への期待感も高まった。前作で、元八郎の父・順斎が亡くなり、キャラクター面で1枚欠けて心配したが、隠珀(いんはく)という奈良の老僧が加わり、楽しみが増した。 最近、いろいろな角度から本能寺の変や織田信長像を解き明かそうとする動きがあり、時代小説の格好なテーマの一つになっているが、本作品もそこにモチーフをとっている。 物語●寛延三年八月に、落雷で二条城の天守閣が全焼し、その1カ月後に、京都所司代の松平豊後守が謎の頓死を遂げた。将軍家見聞役の三田村元八郎は、九代将軍・家重からその真相を探索するように命じられた。居宅に戻った元八郎は、「呪詛(すそ)の宮さま」の使いという「黄泉の醜女(よみのしこめ)」と名乗る美貌の女の来訪を受ける。また、同じころ、田村主殿頭意次から、広敷伊賀者の半田小平太に、京へ行き、元八郎の動きを見張るように命が下された…。 目次■序章/第一章 東西の闇/第二章 洛中の覇権/第三章 鬼門の闘/第四章 継承の血/第五章 隠された刃/第六章 妄執の果て/終章 ここから始まる本のリンク▼『幻影の天守閣』(上田秀人著・光文社文庫) |
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侍はこわい (さむらいはこわい)
司馬遼太郎
カバーイラスト:吉田カツ |
♪司馬さんの初期の作品というのに惹かれる。とくに、この短編集は、雑誌で発表されたままで初めて本になるものばかりだそうだ。吉田カツさんが時代小説の表紙イラストを担当されるのは珍しい。「権平五千石」<賤ヶ岳の七本槍>というと、福島市松正則、加藤虎之助清正、加藤孫六嘉明、片桐助作旦元、糟屋助右衛門直勝、脇坂安治、平野権平長泰である。この中で一番地味な権平にスポットを当てた短編。歴史のもつ皮肉な側面を描いている。 「豪傑と小壷」は人とものの真贋というテーマで、皮肉が利いている。人間の運不運を重視する戦国人の松井佐渡守の考え方が興味深い。 「狐斬り」では、名前だけは聞いたことがあった、<井蛙流>の流祖深尾角馬の横顔がわかって面白い。 「忍者四貫目の死」は『果心居士の幻術』を彷彿させる伝奇色のある短編で好きな作品である。 「みょうが斎の武術」、「庄兵衛稲荷」、「侍はこわい」の三篇はいずれも、幕末の大坂を舞台にした作品。殺伐とした時代のはずなのに、何ともいえないユーモアがあって面白い。司馬作品の一つの特色が見られる。 「ただいま十六歳」は、十六歳のときの近藤勇(勝太少年)を描いたもの。 収録作品は、『梟の城』で直木賞を受賞する前後の作品ばかりで、勢いを感じる。 物語●「権平五千石」柴田勝家との合戦で活躍し、<賤ヶ岳の七本槍>とよばれた平野権平は、秀吉からお墨付が下され、一躍三千石になった…。「豪傑と小壷」細川忠興の家老松井佐渡守康之の家臣で、家中一の豪傑・稲津忠兵衛は、佐渡守の命で、旗奉行川路将監の娘・佐阿と見合いをした…。「狐斬り」鳥取藩の家臣・深尾角馬は、二百石の馬廻り役であったが、<井蛙流(せいありゅう)>という剣術の開祖で、藩の剣術指南役も及ばない刀術の名人であった。久世長十郎という諸国遍歴の兵法修業者が鳥取にやってきた…。「忍者四貫目の死」織田信長は、召し抱えている伊賀忍者蚊羅刹(からさつ)に、武田信玄に仕える伝説的な忍者・知道軒道人を殺すように命じた…。「みょうが斎の武術」土の上に五年も臥せていれば剣術の達人になれるという不思議な方法を考えついた男が幕末の大坂鰻谷にいた。和州浪人・久富源五郎という名をもつこの男は、長屋の連中からは<みょうが斎はん>と呼ばれていた…。「庄兵衛稲荷」幕末の大坂の町に、気侭人(きままじん)という一種の仙人のような自由人がいた、猿霞堂庄兵衛である。町全体が身をすり減らして金を稼ぐことに熱中している土地柄で、稼ぎを放棄して遊んでいるくせに何となく金があり、遊芸一般の心得があり、人生の機微に通じ、しかも好色の道に長けているということで、周囲から敬意を払われていた…。「侍はこわい」大坂の商家の娘として育ったお婦以は、武家に嫁ぎたいと望んで西町奉行所の唐物同心・相楽庄之助に嫁いだが…。「ただいま十六歳」大百姓の子で十六歳になる勝太に転機が訪れた。村に時々やってくる近藤周助という剣術の先生から、勝太を養子にしたいという話があった…。 目次■権平五千石|豪傑と小壷|狐斬り|忍者四貫目の死|みょうが斎の武術|庄兵衛稲荷|侍はこわい|ただいま十六歳|解説 三好徹 ここから始まる本のリンク▼『果心居士の幻術』(司馬遼太郎著・新潮文庫) |
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写楽仕置帳 御膳役一条惣太郎探索控 (しゃらくしおきちょう・ごぜんやくいちじょうそうたろうたんさくひかえ)
えとう乱星
カバーイラスト:野中昇 |
♪前作で、「鬼平」こと長谷川平蔵が殺されたというショッキングな設定で登場した、流れ板・一条惣太郎が主人公のシリーズ第2弾。主人公は惣太こと、禁裏御膳役宗家・一条惣太郎。流れ板ということもあり、料理のシーンが多く出てきて、そこで作られる料理がどれもおいしそう。 今回は、蔦屋に潜入ということで、十返舎一九、滝沢馬琴、喜多川歌麿、山東京伝、大田南畝ら同時代のおなじみの文化人たちが登場し、面白い。そして最大のテーマは、写楽の謎。えとうさんらしく、伝奇色に満ち溢れていてファンにはたまらないところ。 前作では鬼平を取り上げ、今回は藤枝梅安を連想させるシーンがあり、池波正太郎さんへのオマージュを感じさせる。なお、今回から表紙のイラストが野中さんに変わった。 物語●流れ板の惣太が、麻布に包まれた太く長い棒状の荷物を背負った姿で、日本橋通油町で書肆を営む蔦屋耕書堂にやってきたのは、十一月のことだった。給金はいらない、間借りをしたいという惣太は、台所に入り、蔦屋重三郎と十返舎一九らに有り合わせの材料で料理を作った。その結果、食客として蔦屋に住むことが許され、蔦屋の者たちが食べる三度の飯は惣太が作ることになった。その蔦屋に火盗改めによる御用改めが行われた。写楽という一党が御上の御金蔵を狙っているという情報を得て、蔦屋を取り調べることになったという…。 目次■第一章 咎人書肆/第二章 隠密一九/第三章 異界吉原/第四章 勇士蔦屋組/第五章 両面宿儺/第六章 阿修羅対閻魔 ここから始まる本のリンク▼『だましゑ歌麿』(高橋克彦著・文春文庫) |