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2005年2月・如月の巻
芭蕉隠密伝 執心浅からず by 浅黄斑 |
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さんだらぼっち 髪結い伊三次捕物余話 (さんだらぼっち・かみゆいいさじとりものよわ)
宇江佐真理
装画:安里英晴 |
♪『幻の声』『紫紺のつばめ』『さらば深川』に続く、「髪結い伊三次捕物余話」シリーズ第4弾。装画が東啓三郎さんから安里英晴さんに変わった。何かあったのか、ちょっと気になる。前作で深川の家が焼かれて、伊三次と晴れて夫婦になったお文。『御宿かわせみ』のように、いよいよ安定した生活に入ると思いきや、まだまだ一波瀾二波瀾ありそうな雲行き。思春期を迎えた不破の息子・龍之介、お文の元の女中おみつの妊娠、伊三次の昔なじみの女・お喜和の登場…。 物語●「鬼の通る道」北町奉行所定町廻り同心不破友之進の十二歳になる息子・龍之介は、剣術の腕は母のいなみの血筋を引いたのか、他の少年たちより抜きん出ていたが、学問になるとそうはいかなかった。最近、近所の手習いの師匠の所から小泉翠湖という儒者の開いた私塾に移ったばかりだった…。「爪紅」大川端に女の土左衛門が浮いたと知らせを受けて、伊三次は現場に足を運んだ。死体は貧しげな身なりの若い娘だったが、指先に爪紅をさしていた。爪紅は昨年流行したが、近頃はあまり目にしなくなったという…。「さんだらぼっち」廻り髪結いの女房になったお文の夏の楽しみは裏店の指物師が丹精している朝顔を眺めることと、井戸の水を盥に入れ、浴衣や下着をざぶざぶと洗うことだった。そして洗濯用の糊を買いに、茅場町の木戸番の店に行き、そこの女房と埒もない世間話を交わすのも楽しみになっていた…。「ほがらほがらと照る陽射し」伊三次は、古くからの贔屓の客で、今は深川の入船町で小間物屋を営むお喜和の店にひと足先に入って行った男の後ろ姿に見覚えがあった。浅草界隈を根城にしている掏摸の直次郎だった…。「時雨てよ」裏店から佐内町の一軒家に引っ越した伊三次夫婦は、同じ町内の箸屋「翁屋」の一族と知り合いになり、さらに新場の魚屋「魚佐」に奉公している岩次とその息子の九兵衛と知り合いになった…。 目次■鬼の通る道|爪紅|さんだらぼっち|ほがらほがらと照る陽射し|時雨てよ|文庫のためのあとがき|解説 梓澤要 ここから始まる本のリンク▼『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著・講談社文庫) |
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異形の者 甲賀忍・佐助異聞 (いぎょうのもの・こうがしのび・さすけいぶん)
柳蒼二郎
カバーイラスト・デザイン:妹尾浩也 |
♪歴史群像大賞受賞作。圧倒的筆力!という気になるキャッチに惹かれた。こぶという名の細川家子飼いの天才忍者を描く、スケールが大きい忍者小説で、期待感が高まる。凄絶な生い立ちの中で類稀な生存本能で生き抜く、主人公こぶの成長物語。血腥い戦国の乱世を忍びとして、異形の者として肉体的なハンディを抱えながらも、純真に爽やかに生きるこぶの姿に感動した。 こぶに限らず登場人物たちのキャラクターがしっかり立っていて、長編ながら安心して最後まで一気に楽しめた。とくに、主人公のこぶを戦場で拾い、飼育する丹波の存在感が圧倒的。この作品を面白くしている。細川忠興や玉子、幽斎など、細川家の人たちも個性的に描かれている。 柳さんの他の作品も読んでみたくなった。できれば、こぶが活躍するものがいいな。 物語●天正二年五月、長篠の合戦場で産み落とされた赤子が、細川家子飼いの乱波(らっぱ)の丹波に拾われた。その赤子は、右のこめかみに大きなこぶのある異形の者で、丹波から「こぶ」と呼ばれるようになった。こぶに忍びとしての天稟を見出した丹波は、過酷な試練を与え、己の奴僕として飼育した…。 目次■第一章 血を吸う赤子/第二章 天井を這う者/第三章 風魔の結界/第四章 伽羅奢の涙/第五章 異形の果て ここから始まる本のリンク▼『真田太平記』(池波正太郎著・新潮文庫) |
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酔いどれ小籐次留書 寄残花恋 (よいどれことうじとめがき・のこりはなよするこい)
佐伯泰英
カバーデザイン:多田和博 |
♪来島水軍流剣法の達人で、元豊後森藩藩士・赤目小籐次(あかめこうとうじ)が活躍する、シリーズ第3弾。前作のラストで戦いの末に傷つき、玉川上水の流れに身を投げた、小籐次がどんな姿で現れて、活躍振りを見せるか興味津々。主人公の赤目小籐次は、まもなく五十に手が届く、中年で、五尺一寸(153センチ)の矮躯、お世辞にも格好いいとはいえない。その小籐次は見掛けによらず、来島水軍流剣法の遣い手。前作で、御鑓拝借騒動で威信を傷つけられた小城藩の能見一族を死力を尽くして倒し、一難去ったかと思われたところ、その怨みは佐賀本藩に伝播した。佐賀藩は「葉隠」の精神が息づく土地柄、小籐次に新たな試練がというのが今回のシチュエーション。 作者はそれ以外にも、いくつかの戦いを小籐次に与え、その活躍振りはますますエスカレートして行く。佐伯さんの他のシリーズの主人公同様に、快刀乱麻バッタバッタと敵を薙ぎ倒し、正義を貫くので痛快感が高く文句なしに面白い。 物語●赤目小籐次は、御鑓拝借騒動で威信を傷つけられた肥前小城藩の能見一族十三人の刺客と武蔵国小金井村で死闘を演じてすべてを倒した。傷を癒した小籐次は、大事な生計の道具を隠した地蔵堂に戻り、そこで、肥前佐賀本藩からの刺客に命を狙われた。肥前鍋島四家を敵に回すことになった小籐次は、怪我を直すことに専念するために、少しでも戦いの場から離れるべく甲斐国へ向った。その道中で、幕府の女密偵おしんと知り合いになり、甲府勤番支配の四千三百石の旗本・長倉若狭守実高が不正を働いているという話を聞き探索に同行するが…。 目次■第一章 柳沢峠越え/第二章 千ヶ淵花舞台/第三章 夕間暮れ芝口町/第四章 追腹暗殺組/第五章 雪降り蛤町 ここから始まる本のリンク▼『居眠り磐音 江戸双紙 遠霞ノ峠』(佐伯泰英著・双葉文庫) |
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蒼き海狼 (あおきかいろう)
火坂雅志
装画:長谷川等伯「波涛図」(総本山永観堂禅林寺所蔵) |
♪小学館文庫のカバーの装幀が変わった。文庫には珍しいマットPP加工(通常はツルツルとしたPP加工)で、今までと質感が違う。鎌倉時代の元寇をテーマにしたスケールの大きな冒険時代小説。本はページ数も多く厚くて通勤読書向きではないが、じっくり味わって読めそうな予感。主人公の朝比奈蒼二郎は、三浦一族の朝比奈三郎義秀の孫。祖父は、北条との争いに敗れ、落武者となり、高麗国耽羅島(済州島)で、一族が伝える操船術を駆使し、海商となった父と宋人の海商の娘である母の間に生まれ、耽羅島で育った。高麗を突如襲った元軍との戦乱の渦で、両親を失い天涯孤独の身になって、祖父の国・日本にやって来て、印象的な波乗りのシーンで物語は始まる。その波乗りはサーフィンと言うよりはボディボートに近いが、時代小説でかつてなかったかっこいいオープニングシーンである。 その蒼二郎が、執権北条時宗の懐刀の御内人(みうちびと)平頼綱(たいらのよりつな)の命で、蒙古軍の動向を掴むために諜者として、元の国に潜り込むことになる。ここから全アジアを舞台にした、スケールの大きな物語に発展して行く。 恋あり、友情あり、戦いありの傑作エンターテインメント冒険時代小説である。 読んでいていろいろ感心もさせられたが、中でも格闘技にも精通している火坂さんらしいと思ったのは、主人公の蒼二郎に、諸賞流(しょしょうりゅう)という素手の体術を学ばせて、得意技にしたことである。歴史小説はいろいろ縛りが多すぎてちょっとという人にぜひおすすめしたい作品だ。 物語●朝比奈蒼二郎は、鎌倉にほど近い江ノ島の海で、縦三尺横一尺四寸の杉板にしがみついて長く高い三角形に屹立した絶好の波をとらえた。三角形の峰の上から、白く崩れかかる波の壁が蒼二郎の体を心地よく滑らせた。冷たいしぶきを浴びながら、波の崩れる方向に向かって、板を抱いたまま横に一回転する。爽快感が脳天まで突き抜ける。――朝比奈氏に代々伝わる波乗りの法である。朝比奈氏は、相模の三浦半島を本貫の地とし、水軍を擁した海の武士団、三浦氏の一党である。心身鍛練法も、陸の武士とは違っていた。父からは、波乗りの法は、遊びではなく、海の神に近づく崇高なる儀式と教えられた。その父の故郷の海で波乗りをし、鎌倉海老を焼いて食べていた蒼二郎は、北条の氏神の江ノ島の神域を侵したとして北条の武者たちに捕えられ、鎌倉を擾乱させた罪で斬首に処せられることになった…。 目次■第一章 朝比奈の裔/第二章 秘命/第三章 諸賞流/第四章 扁舟/第五章 草原の民/第六章 月湖社/第七章 江篭潭/第八章 汗の都/第九章 ナーダム/第十章 脱出行/第十一章 安南/第十二章 海の道/第十三章 囮/第十四章 紅い河/第十五章 蒙古来たる/第十六章 海からの使者/第十七章 北の戦い、南の戦い/第十八章 白藤江/あとがき/解説 井家上隆幸 ここから始まる本のリンク▼『花月秘拳行』(火坂雅志著・廣済堂文庫) |
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王事の悪徒 禁裏御付武士事件簿 (おうじのあくと・きんりおつきぶしじけんぼ)
澤田ふじ子
カバーイラスト:宇野信哉 |
♪元禄の京を舞台に、禁裏の警護にあたる幕府の役人が活躍するシリーズ第3弾。『神無月の女』『朝霧の賊』のあと、しばらく間が空いてのリリースで、装画が中環さんから宇野信哉さんに代わり、表紙の雰囲気がだいぶ変わった。澤田さん得意の京を舞台にした傑作時代小説。禁裏御付武士とは、所司代配下で、禁裏や仙洞御所を警固する役目で、寛永二十年に設置された。月番で、与力、同心は各門に詰め、朝廷の動きをうかがい、事件の探索に当たる。多くは伊賀・根来衆から選ばれたという。 主人公の久隅平八は若年にして幕府の直轄領甲賀の多羅尾(たらお)にやられ、隠士の大森捜雲から武芸百般と隠密の技をみっちり修行させられた。六尺棒をにぎり、脛巾姿で禁裏(御所)の寺町御門に立って門番するのが主の任務であるが、そのかたわら、非番の日に変装して〔市歩〕をし、京の町の治安維持にあたっている。 「印地の大将」「王事の悪徒」「呪いの石」あたりが、禁裏御付武士の職掌にあった活躍振りを示していて、興味深い。ほかの物語は京の市井により直結したものとなっている。 物語の随所に、京の歴史や公家の生活、文化を散りばめていて、知的好奇心をくすぐるシリーズ。平八の母のつがのことばが印象に残った。 「わたくしが尊いと思うているのは、江戸の将軍さまでも、ご禁裏さまでもございませぬ。妻子のためにひたいに汗して働く棒手振りのお人や、雨の日も、朝早くからせっせとお豆腐作りに励んでいるようなお人たちです。そんなお人たちこそ神や仏。不遜かもしれませぬが、わたくしは本当のところ、そう思うております」
物語●京都御所の警固にあたる御付同心久隅平八(くずみへいはち)は、非番の日には、生薬の行商人に身をやつし〔市歩(いちあるき)〕として市中の諜報活動をしていた。 目次■第一話 蜘蛛の糸/第二話 印地の大将/第三話 王事の悪徒/第四話 やまとたける/第五話 左の腕/第六話 呪いの石/解説 大野由美子/澤田ふじ子 著書リスト ここから始まる本のリンク▼『神無月の女』)『朝霧の賊』(ともに澤田ふじ子著・徳間文庫) |
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千両帯 新三郎武狂帖 (せんりょうおび・しんざぶろうぶきょうちょう)
曽田博久
装画:宇野亜喜良 |
♪ゲストブックで「りこ」さんに推薦いただいた一冊。TVの「暴れん坊将軍」やゲームの「鬼武者」のシナリオを手がけた作者の時代小説デビュー作。新三郎の常軌を逸した武芸ぐらいぶりが何よりも面白い。幼なじみの小町娘から付け文をもらっても、若者らしく激しく動揺しながらも修行の妨げになると、無視しようとしたり、生活感が欠如し、善悪の基準が少しずれていたり、読んでいて知らずにハラハラしてしまう。江戸の中期の奇人・平山行蔵の晩年の弟子という設定でうなずける。行蔵の弟子つながりで、勝小吉(勝海舟の父)が登場するところも見逃せない。三味線の師匠・冨美豊や下男与平、担ぎの小間物売りの佐吉らが、新三郎を支える。 タイトルと表紙の装画のイメージから全然違うストーリー展開を予想したが、見事に裏切られた。前半は武芸に打ち込む青春小説。後半は一転、米相場の不正にまつわる事件を描き、政治経済小説の要素も帯びてきて、興味がますますわいてくる。本作品が時代小説デビュー作ということだが、最初から水準が高く、今後も期待できる。 物語●柘植新三郎(つげしんざぶろう)は、毎朝七つ(午前四時)になると、剣術の稽古を始める、武芸狂いの二十歳の若者だった。十歳の年に、平山行蔵に弟子入りし、講武実用流の剣術をはじめ、居合術、柔術、手裏剣術、弓術、馬術、槍術、水泳術、十手術、薙刀術、砲術、捕り手術、棒術、鎖鎌術、杖術、短刀術、含針術の合わせて十八の武芸の目録を得た、常軌を逸した武芸狂いで、「十八新三(とっぱちしんざ)」と呼ばれていた。その新三郎がある朝、隣家の伊賀者明屋敷番同心の娘で幼なじみの雪乃から付け文をもらった…。 目次■第一章 七つ時計/第二章 深川七場所/第三章 十七家筆頭/第四章 千両帯/第五章 旗振り権現山 ここから始まる本のリンク▼『損料屋喜八郎始末控え』(山本一力著・文春文庫)、『豪の剣 剣豪 平山行蔵』(永井義男著・ハルキ文庫) |
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かぶき奉行 織部多聞殺生方控 (かぶきぶぎょう・おりべたもんせっしょうがたひかえ)
えとう乱星
カバーイラスト:中村亮 |
♪1993年に実業之日本社から単行本が出て以来、文庫化が待望された、えとう乱星さんの代表作がようやくリリースされた。殺生方シリーズは3作出されていてぜひ読みたいと思っていた作品の一つだ。ベスト時代文庫というと、KKベストセラーズ社の文庫シリーズだ。まず、主人公の多聞がかっこいい。柳生新陰流の遣い手であるほか、武芸全般に秀でている。出世や権力に反発し、弱きを助ける侠気がある、傾き者(かぶきもの)を貫く生き方がいい。また二人のヒロイン、湯女のあけ乃と殺生奉行織部忠兵衛の娘・智佐が対照的で魅力的に描かれている。敵役として、由比正雪の息子で、女性と見まごう美貌の男、由比右京之介が絡む。さらに諏訪の御隠居や頼殿と呼ばれる貴種が登場し、面白い物語の要素は揃ったという感じだ。 時代設定といい、題材といい、諏訪の御隠居らの存在といい、同じ作者の最近作の『独眼流柔肌剣』(学研M文庫)とリンクするものがある。 殺生方控のように各章の終わりに、日誌のように短く記されているのが印象的。シリーズの『ほうけ奉行』『あばれ奉行』と続けて刊行されることを期待したい。 江戸初期を舞台にしているせいか、地名があまりはっきりと表記されていないが、読んでいる分には、伝奇ぽいのであまり気にならない。 物語●殺生方(せっしょうがた)とは、将軍家の狩猟全般を取り仕切る役職。奉行三名で配下の者数名とさらに狩猟の際に必要な茶坊主・鉄砲方・鵜匠・鷹匠・網奉行などを統括する。ときの将軍・家光は四十五歳の男盛りながら、最近、健康にすぐれず、鷹狩りは中止になりがちだった。五十歳の織部忠兵衛は、殺生奉行という難しい役に疲れを感じ、お役御免の決意を固めていたが、二人の息子を天草・島原の乱で失い、残されたのは娘一人で、おいそれと養子は見つからないと思っていた。そんなある日、奇抜な衣装で江戸の街を闊歩して、因縁をつけて、金をせびって恐れられる旗本白柄組と小普請組旗本の次男・五家宝多聞(ごかほうたもん)とが湯屋で喧嘩をしているのに出くわした…。 目次■湯屋勝負/相撲取草/ゆずり葉/梅雨寒む/千子村雨/剣士名簿/慶安事変/殺生勝手 ここから始まる本のリンク▼『独眼流柔肌剣』(えとう乱星著・学研M文庫) |
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芭蕉隠密伝 執心浅からず (ばしょうおんみつでん・しゅうしんあさからず)
浅黄斑
装画:笹森識 |
♪ミステリー作家として活躍中の浅黄さんの時代小説。たびたび取り上げられることが多い芭蕉の隠密説を扱っているので興味深い。俳聖・松尾芭蕉が江戸に出るまでを描く、とにかく面白い青春小説。昨秋深川・万年橋の芭蕉記念館を訪れたことを思い出した。その当時は、試験に出てくるような偉い人で近寄りがたいイメージがあったが、この本を読んでから一気に親近感が持てた。そのせいか作中で紹介される芭蕉の初期の句もすんなりと頭に入ってきた。 芭蕉の隠密説の信憑性がどうなのかはわからないが、芭蕉の青春時代の足跡を追うことで、その可能性にチャレンジしている。恋に悩んだり、出世への野心を抱いたり、挫折して無頼に生きたり、等身大の若者としての芭蕉が描かれていて共感が持てた。また、知らず知らずのうちに政争に巻き込まれたり、若者ならでは冒険もありで、楽しい一編。次回作も期待できそう。 物語●芭蕉は、寛永二十一年(1644)、松尾与左衛門のことして、伊賀忍者の里、伊賀上野に生まれた。その松尾家も母方の百地家も俗説によれば忍者の家系といわれる。物語は、芭蕉(幼名・金作→半七→藤七→宗房)、十二歳のときから始まる。金作はまさに神童で十歳の頃には、田畑の小作のかたわら寺子屋を開く与左衛門が教えるものがない状態で、伊賀上野で造り酒屋を営む大和屋窪田彦左衛門のもとで、連歌と伊勢帳合(商家の帳面付けの方法)をマスターしていた。その金作に、藩主の一族の藤堂新七郎家の嫡子良忠の近習として仕えてはどうかという話があった…。 目次■序にかえて/春や来し年や行きけん小晦日/うかれける人や初瀬の山桜/荻の声こや秋風の口うつし/桂男すまずなりけり雨の月/結びにかえて ここから始まる本のリンク▼『黄金旅風』(飯嶋和一著・小学館) |