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2004年12月・師走の巻
あくじゃれ 瓢六捕物帖 by 諸田玲子 |
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魚の棲む城 (うおのすむしろ)
平岩弓枝
カバー装画:西のぼる |
♪昔から、田沼意次びいきだったので、本書は楽しみ。『妖怪』の鳥居耀蔵など、世間の評価とは違う人物像を描いている平岩さんだけに、魅力的な意次に出会えるかも。龍介と龍助、二人の「りゅうすけ」がかっこいい。陽の当る道を歩む田沼意次に対して影で支える札差板倉屋龍介の長年にわたる友情が快い。ぎすぎすした現実を逃避してこんな男でありたいと思ってしまう。友達と喧嘩した後におすすめの一冊。 島内景二氏の解説に書かれた「おさななじみ」というキーワードを読んでハタと気が付いた。平岩作品が読み味がよくて、登場人物たちが凛とした魅力に溢れているのは、「おさななじみ」の効能を十分生かしているからだったのだ。人が誰でも憧れる、永遠の愛や無償の友情を描くのに、「おさななじみ」だからという言葉で集約している。『御宿かわせみ』の神林東吾とるいの愛、畝源三郎の友情、『はやぶさ新八御用帳』の隼新八郎とお鯉の関係などが思い当たる。 本書で、ますます田沼意次好きになった。当時としては先進性の高い重商主義を採用した経済センス、自身が正しいと思ったことをどんどん遂行する行動力など、政治家としても評価できる人物である。『田沼意次―主殿の税』(佐藤雅美著・学陽人物文庫)を読んでみたくなった。 物語●札差板倉屋に養子に入った龍介と、菱垣廻船問屋湊屋に嫁いだお北と、家督を相続し、叙爵され主殿頭となった田沼意次(龍助)は、三人とも生家は旗本で、本郷御弓町で育った幼なじみだった。別々の道を歩んだ三人は、同じ幼なじみでかつて一年ほど、田沼家へ奉公に上がっていた梅本志尾の婚礼の日に再会した…。 目次■本郷御弓町/その夏/女心/陽の当る道/魚屋十兵衛/男ざかり/船出の時/御用人/田沼時代/次期将軍の死/相良城/凶刃/終章/解説 島内景二 ここから始まる本のリンク▼『妖怪』(平岩弓枝著・文春文庫) |
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最後の忠臣蔵 (さいごのちゅうしんぐら)
池宮彰一郎
装画:「雨中桜花楓葉図」(部分、一部改変)鈴木其一 静嘉堂文庫美術館蔵 |
♪『四十七人目の浪士』(1997年・新潮文庫刊)を改題したもので、刊行当時面白く読んだ記憶がある。NHK金曜時代劇「最後の忠臣蔵」(上川隆也主演)の原作だが、ドラマを見て、例によってディテールをずいぶん忘れてることに気付いた。池宮さんの赤穂浪士吉良邸討ち入り事件三部作『四十七人の刺客』、『最後の忠臣蔵』、『その日の吉良上野介』)を読むと、今までの忠臣蔵ものが浅薄で体制的で古臭く感じられる。討ち入りに加盟し切腹していった者への無責任な称賛、脱盟した者への心無い中傷など、いい加減な世論というものを痛感させられる。大石内蔵助がそのことまで思い巡らせていたとしたら、恐るべき人間通といえる。 本書は、討ち入り後に消息不明になった浪士・寺坂吉右衛門にスポットをあてることで、討ち入り事件が現在の形で伝えられるようになった要因を描いている。そしてそれは後に残された赤穂浪士たちの苛烈な生き様があった。とくに「命なりけり」で描かれるエピソードは、ある意味で討ち入り事件以上のスケール感がある。 TVドラマを見ていて、和久井映見が演じた篠という女性が印象に残ったが、原作では「飛蛾の火」の篠と「命なりけり」の槇という、二人の女性として描かれていた。また、大石内蔵助の愛妾・可留の娘・可音(かね)の嫁入りがドラマのクライマックスになっていたが、「最後の忠臣蔵」にそのエピソードが描かれていて、やはり心を打つ感動的なシーンだった。 物語●「仕舞始」寺坂吉右衛門は、大石内蔵助から大役を命じられた。討入の一統から離れ、その首尾を浅野内匠頭御後室瑶泉院さまと御舎弟大学様に報告するとともに、討入の生き証人として生き抜くことであった…。「飛蛾の火」吉右衛門は、赤穂で帰農したかつての同僚を訪れ、かつて嫁にと考えていた別の同僚の妹・篠が大垣藩士に嫁いだ後、兄が討入に加盟しなかったということで離縁されたことを知った…。「命なりけり」箱根の塔之沢の温泉に投宿していた吉右衛門は、伊豆大島へ配流となっていた赤穂浪士・間瀬久太夫の子息・佐太八が亡くなったことを知った…。「最後の忠臣蔵」但馬出石で、吉右衛門は、大石家の用人で親友だった瀬尾孫左衛門を見かけた。孫左衛門は、討入の前夜に脱盟して以来消息不明だった…。 目次■仕舞始|飛蛾の火|命なりけり|最後の忠臣蔵|解説 長坂健二郎 ここから始まる本のリンク▼『四十七人の刺客』(池宮彰一郎著・角川文庫)、『その日の吉良上野介』(池宮彰一郎著・角川文庫) |
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姫巫女烏丸龍子 池田屋の血闘 (ひめみこからすまりゅうこ・いけだやのけっとう)
加野厚志
カバーイラストレーション:西のぼる |
♪烏丸神社の姫巫女烏丸龍子をヒロインに、氏子の沖田総司が彼女を支えるシリーズ第2弾。今回は池田屋騒動を題材にしているのかな、興味深い。タイトルにあるように、池田屋騒動から禁門の変までを物語では描いている。新選組の沖田総司のほかに、桂小五郎の恋人幾松、池田屋の主・惣兵衛が烏丸神社の氏子という設定で、龍子に絡む。 また、安倍晴明の末裔で、朝廷陰陽師の土御門佳昌が登場する。佳昌の陰陽道と龍子の鬼道の対決。その一方で、失踪中の龍子の父、烏丸光紀の行方捜し…、物語は混沌として行く。 物語●京洛の辻では多くの志士が凶刃に倒され、刃をふるった暗殺者も敵に斬り裂かれる。勤王対佐幕の抗争は沸騰点達しようとしていた。御所の安寧を祈る烏丸神社の女主の龍子は、古都の美を守りぬくことが姫巫女の使命と心に決め、宝刀夕斬丸を手に、一子相伝の《鞍馬流秘太刀》で、帝に仇なす賊徒を成敗することになった。そんな龍子のもとに、陰陽師土御門佳昌卿から書状が届き、一条戻橋の《式神退治》の依頼を受けた…。 目次■第一章 死魔到来/第二章 月下氷人/第三章 不惜身命/第四章 公卿狂恋/第五章 怪人怪行/第六章 禁裏乱入/第七章 剣鬼襲来/第八章 古都炎上 ここから始まる本のリンク▼『沖田総司・獣王剣』(加野厚志著・廣済堂文庫) |
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隠し剣孤影抄 (かくしけんこえいしょう)
藤沢周平
カバー:蓬田やすひろ |
♪山田洋次監督の「隠し剣 鬼の爪」(永瀬正敏主演)が公開され、久々に読み返してみたくなった。海坂藩を舞台にした連作形式の剣豪小説であるが、主君(藩主右京太夫と後継者和泉守)や藩の重臣たちが共通して登場するが、一話ごとに主人公は異なっている。読んでいると、藩の指導者を中心とした相関関係を図にして、物語の前後関係を作りたくなった。 それぞれの話で、秘剣が登場する。無外流(『剣客商売』の秋山小兵衛の遣う流派)を除くといずれもマイナーな剣というところが藤沢さんらしい。 「邪剣竜尾返し」―雲弘流 秘剣は、外に語らずというだけに、生死の狭間で遣われることが多い。そのために、秘剣を描くシーンは、物語のクライマックスにあたり、その後には予想外の結末が…。剣豪(剣客)小説が面白いわけだ。 作品のキーワードを見ていこう。「邪剣竜尾返し」は剣にかける男の非情さと女の想い。「臆病剣松風」と「女人剣さざ波」は妻から見た夫と夫から見た妻の実像ということで表裏一対となっている。「暗殺剣虎ノ眼」と「必死剣鳥刺し」は恐るべし。「隠し剣鬼ノ爪」はしみじみとした青春像で、藤沢さんらしい佳品。「悲運剣芦刈り」は情念を感じさせる。「宿命剣鬼走り」は男の生き様と死に様をコンパクトに描く凄みある物語。 物語●「邪剣竜尾返し」馬廻り役で雲弘流の剣術指南もする檜山絃之助は、赤倉不動の夜籠りで武家の人妻と知り合った…。「臆病剣松風」瓜生新兵衛は剣の達人で鑑極流の秘伝を伝えられていると言われていたが、普請組勤めで外に出ることが多いせいか全身まだらで見ばえがしない人物だった。妻の満江はそんな夫が不満だった…。「暗殺剣虎ノ眼」組頭の娘志野は、許婚の清宮太四郎と嫁入り前に逢瀬を重ねていた。そんなある夜、父の牧与市エ門が何者かに暗殺された…。「必死剣鳥刺し」天心独名流の達人、近習頭取兼見三左エ門は、中老の津田民部から、ある人物が主君を襲うかもしれないので防ぐように命じられた…。「隠し剣鬼ノ爪」御旗組で三十五石取りの片桐宗蔵は、去年暮に母を亡くして以来、女中のきえと二人暮しだった。その宗蔵が、ある夜、大目付から火急の用件で呼び出された…。「女人剣さざ波」勘定組の浅見俊之助は、姉が評判の美人いうだけで本人を見ずに娶った妻・満江を嫌い、茶屋遊びにうつつを抜かしていた。そんな俊之助に家老から密命が下った…。「悲運剣芦刈り」1年前に兄が亡くなり、家を継いだ曾根げん(火へんに玄の字)次郎は、許嫁がいるにもかかわらず、同居する寡婦の卯女に思いを寄せ、遂に一線を越えてしまった…。「宿命剣鬼走り」かつて大目付を務め、今は隠居の身の小関十太夫は、長男を果し合いで亡くした。その相手というのは、十太夫の幼なじみで政敵でもあった、藩の重役の息子だった…。 目次■邪剣竜尾返し|臆病剣松風|暗殺剣虎ノ眼|必死剣鳥刺し|隠し剣鬼ノ爪|女人剣さざ波|悲運剣芦刈り|宿命剣鬼走り|解説 阿部達二 ここから始まる本のリンク▼『たそがれ清兵衛』(藤沢周平著・新潮文庫)、『秘剣 花車』(戸部新十郎著・新潮文庫) |
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伽羅千尋 南町同心早瀬惣十郎捕物控 (きゃらちひろ・みなみまちどうしんはやせそうじゅうろうとりものひかえ)
千野隆司
装画:卯月みゆき |
♪前作『夕暮れの女』がサスペンスフルで面白かったので、第2弾の今回も期待大。千野さんの作品の場合、いつも「地味ながら」と前置きをつけて評価するが、今回も派手さはないが、良い仕事をしている。捕物小説という形をとりながら、市井に生きる男と女の愛と憎しみをしっかりと描いている。 前作ではたそがれ時の不確かな視覚や記憶が事件のカギを握っていたが、今回は嗅覚が事件の行方を左右している。「伽羅千尋」という香(こう)が現場に残された唯一の手掛かり、そこから丹念な探索で真犯人を追い詰めていくところがスリリングだ。 サイドストーリーとして、祝言をあげてから九年が経過し、次第に溝ができてしまった妻を気にしながら、事件に取り組む惣十郎の姿に共感を覚える。前作からの二人の関係に新たな展開が見られ、次回作が今から楽しみだ。 物語●閑静な町並みの、とある隠居所で紙問屋「美濃屋」の主人富右衛門が全裸死体で発見された。報せを聞いて現場にやってきた南町奉行所定町廻り同心の早瀬惣十郎は、首の後ろに匕首が刺さったままの遺骸を見た。現場には少し甘いような上品なにおいがしていた。そしてそれが「伽羅千尋」という高価な香だということを突き止めるが…。 目次■前章 残り香/第一章 薬種屋/第二章 意気地なし/第三章 姉と弟/第四章 新たな男/第五章 香の果て ここから始まる本のリンク▼『夕暮れの女 南町同心早瀬惣十郎捕物控』(千野隆司著・ハルキ文庫) |
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居眠り磐音 江戸双紙 無月ノ橋 (いねむりいわね・えどそうし・むげつのはし)
佐伯泰英
カバーイラストレーション:蓬田やすひろ |
♪春風駘蕩とした浪人坂崎磐音が活躍する「居眠り磐音 江戸双紙」シリーズも第11弾。今度はどんな活躍ぶりを見せるか興味津々。今回は前作『朝虹ノ島』で登場した、天神鬚の研ぎ師鵜飼百助や鳥取藩の重役の娘・織田桜子など新キャラクターを中心にしてストーリーが展開する。徳川家に不吉をもたらすという勢州村正を使った辻斬りが、磐音の仲間を襲う。なにやら先行きが気になるところ。また、恋心をぶつける桜子に振り回される磐音の困惑ぶりなども見どころか。 前作『朝虹ノ島』の伊豆での活躍ぶりが、御側御用取次速水左近を通じて、将軍家治の耳に入っているという。また、一段とスケールアップした感じだ。
物語●愛刀・備前包平(びぜんかねひら)を研ぎに出していた浪人坂崎磐音は、吉岡町の研ぎ師鵜飼百助(うかいももすけ)の屋敷を訪れた。そこで御小普請支配の旗本の用人が、正宗と改鑿した勢州村正を持ち込み、権力にものを言わせて、鵜飼に研ぎを強要するが断わられる。用人は憤慨し、鵜飼に危害を加えようとしたところを磐音が助けに入る…。 目次■第一章 法会の白萩/第二章 秋雨八丁堀/第三章 金貸し旗本/第四章 おこん恋々/第五章 鐘ヶ淵の打掛け
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あくじゃれ 瓢六捕物帖 (あくじゃれ・ひょうろくとりものちょう)
諸田玲子
装画:深井国 |
♪諸田さんの痛快捕物帳の登場。主役のキャラクターが魅力的な感じがする。時代小説の面白さを考える時に、1.ストーリーの面白さ 2.キャラクターの魅力 3.オリジナリティー 4.読み味 5.時代性、があげられる。諸田さんのこの作品は、すべての点で高いスコアを与えられる傑作捕物小説だと思う。 とくに登場人物のキャラクター設定がいい。主人公は風采が上がらない男やもめの北町奉行所定町廻り同心・篠崎弥左衛門と、対照的に色白細面で役者のような男前の悪党・瓢六である。堅物な弥左衛門が知恵と機転あふれる瓢六に翻弄されながらも、協力して事件にあたり、友情を深めていくところが読み味の良さにつながっている。 …瓢六と話し合わねばならないことが山ほどある。だが――。『陰陽師』の安倍晴明と源博雅の二人のようなシーンである。脇を固める岡っ引の源次、瓢六の情婦で芸者のお袖、弥左衛門の上司で与力の菅野一之助、弥左衛門の姉・政江など、いずれもキャラが立っていて、作品を豊かにしている。 物語●「地獄の目利き」定町廻り同心の篠崎弥左衛門がかつて十手を預けていた元岡っ引の娘が殺された。賭場に入り浸り数々の悪事の余罪を疑われ小伝馬牢の大牢に押し込められていた瓢六は、博打仲間に娘殺しの嫌疑がかけられ、事件解決に乗り出すことに…。「ギヤマンの花」阿蘭陀商館の館長のお気に入りのギヤマンが盗まれ、容疑者が二人現れたが、肝心のギヤマンは見つからなかった。そこで、かつて長崎で地役人をしていた瓢六が解き放たれることになった…。「鬼の目」大牢内で囚人が毒殺された。一方、両国回向院では潅仏会の賑わいの中で千歳茶に毒が混入されるという事件が起きた…。「虫の声」瓢六が娑婆から戻ってくると、牢名主の雷蔵が溜(ため)に送られ、牢内の雰囲気が一変していた…。「紅絹の蹴出し」解き放たれた瓢六は、なじみの湯屋で紅木綿の蹴出しばかりを盗む老婆を見かけた…。「さらば地獄」鼠小僧と噂される男・伍助がお縄になり入牢した。囚人たちにちやほやされる伍助を見て、瓢六は…。 目次■地獄の目利き|ギヤマンの花|鬼の目|虫の声|紅絹の蹴出し|さらば地獄|解説 鴨下信一 ここから始まる本のリンク▼『陰陽師』(夢枕獏著・文春文庫) |