新・極楽の読書録
2004年10月・神無月の巻

居眠り磐音 江戸双紙 朝虹ノ島 by 佐伯泰英
江戸城御金蔵破り by 黒崎裕一郎
時代小説が書きたい! by 鈴木輝一郎
幽恋舟 by 諸田玲子
残夢 密命・熊野秘法剣 by 佐伯泰英


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

残夢 密命・熊野秘法剣
(ざんむ・みつめい・くまのひほうけん)

佐伯泰英
(さえきやすひで)
[剣豪]
★★★☆☆

カバーデザイン:中原達治
解説:細谷正充
時代:享保八年(1723)四月
場所:八丁堀、大川端、車坂、富岡八幡宮、芝七軒町、入舟町、鹿島、北新網町、南町奉行所、飛鳥山、王子稲荷、柳原土手、回向院、芝片門前町ほか
(祥伝社文庫・590円・04/10/20第1刷・336P)
購入日:04/10/29
読破日:04/10/31

Amazon.co.jpで購入

残夢 密命・熊野秘法剣 お気に入りの「密命」シリーズの第11作目。江戸市中を騒がす火付け強盗の横行に、大岡忠相から金杉惣三郎に密命が下る! 今回も惣三郎の前に強敵が出現する予感が…。
サイドストーリーとして、車坂の石見道場の客分格の棟方新左衛門と、下野国茂木藩一万六千三百石細川家の江戸屋敷元締格久村護一郎の一人娘おりくの婚姻を描く。御前試合ベスト8の実力を発揮する新左衛門と惣三郎の友情がほほえましい。シリーズ物の魅力は、1冊ごとに脇役陣もクローズアップされるところだ。
金杉惣三郎は、五十歳すぎの初老の武芸者ながら、作品を重ねるごとにその剣術はますます精妙にして無敵になっていくところが凄い。何となく、A・J・クィネルの『燃える男』などの主人公クリーシィを思い起こさせる。勝手掛老中水野忠之のもとに剣術の稽古指導に出かけたり、大岡忠相の密命を帯びて八面六臂の活躍をしながらも、相変わらず火事場始末御用の荒神屋で帳付けのバイトを続けるという設定がいい。そのせいか、シリーズ中で火付盗賊が出てくる物語が多い。
ファンとしては、そろそろ武者修行中の惣三郎の長男・清之助が帰ってくるところが待ち遠しいところ。

物語●江戸に火付け強盗が横行する中、吉宗公の紀伊藩下屋敷が襲われた。お女中見習の十数人の少女が凌辱された上、焼き殺された。唯一の目撃者である鶴女は廃人同様に。金杉惣三郎が彼女を癒すべく、菊屋敷に預かるや、何者かに次々に襲われることに…。

目次■序章/第一章 火賊横行/第二章 鹿島出稽古/第三章 隠棲菊屋敷/第四章 力丸の魔力/第五章 熊野の滝勝負/終章/解説 細谷正充

ここから始まる本のリンク▼『剣客商売』(池波正太郎著・新潮文庫)

幽恋舟
(ゆうれんぶね)

諸田玲子
(もろたれいこ)
[サスペンス]
★★★★☆☆

カバー装画:ゴトウヒロシ
解説:安部龍太郎
時代:嘉永五年(1852)八月
場所:中川舟番所、竹蔵、八丁堀、一石橋、山王社、石町新道、道三橋、百本杭、芝新堀端、一の橋、十番、出雲町、向島、向井将監屋敷、麹町、亀有ほか
(新潮文庫・590円・04/10/01第1刷・407P)
購入日:04/10/05
読破日:04/10/15

Amazon.co.jpで購入

幽恋舟 題材を変えながら、次々書かれる作品がいずれも面白くハズレがない、諸田さんの最新文庫。主人公は、中川舟番所の御番衆を務める旗本ということで、興味をもった。というのも、この夏、江東区にある、中川船番所資料館を訪れたばかりであるからだ。
冒頭で不可思議な事件を描写し、読者をサスペンスに満ちた諸田ワールドへ引きずり込む。主人公・杉崎兵五郎の三十年来の親友に、町奉行所の定廻り同心・大島哲之進(おおしまひろのしん)が登場し、重要な役回りを演じる。『誰そ彼れ心中』を読んだ人には、リンクしているがわかりにやりとする。もちろん、前作を読まなくても単独の作品として完成されているので大丈夫。
兵五郎が強く心惹かれる、平田舟の娘・たけ。先が見えたような人生に朽ちかけた男と、狂気の血筋におびえる若い女の恋を描いた、新感覚のサスペンス時代小説。黒船来航直前、武家の意識も変わりつつある時代を背景に描かれた美しい物語である。しかも飯田藩堀家をめぐるミステリアスな事件も盛り込まれていて興趣のつきない傑作で、ますます諸田ファンになった。

物語●禄高千七百石の寄合旗本杉崎兵五郎は、中川舟番所に勤務している。房総へ往来する船舶を監視する役目だが、太平の世が続き、舟改めの手間は省かれ退屈極まりない任務になっていた。四十七歳になる兵五郎は、無類の海好き、船好きでかつては希望をもって職務に取り組んでいたが、最近は勤務中に居眠りをすることが多くなった。妻には七年前に先立たれ、二人の娘を嫁に出しは十九になる嫡男の舳之助と、家臣らと暮らしていた。その兵五郎は、ある日の早暁、航行の解禁時間の明六ツまではまだ間がある時刻に、血の気の失せた横顔が息を呑むほど美しい若い娘と侍女を乗せた古ぼけた平田舟が、忽然と幽霊舟のように現れ、中川から曲りこみ小名木川を西に向かって漕ぎ進んでくるのを見た。物の怪か――。待ったをかけ、素性を問いたださねばと思ったものの、膝頭がふるえ、声が出ない。もたもたしているうちに、舟は遠ざかっていった…

目次■なし

ここから始まる本のリンク▼『誰そ彼れ心中』(諸田玲子著・新潮文庫)

時代小説が書きたい!
(じだいしょうせつがかきたい)

鈴木輝一郎
(すずききいちろう)
[入門書]

装幀:大谷知帆
(河出書房新社・1,400円・04/05/30第1刷・209P)
購入日:04/09/30
読破日:04/10/12

Amazon.co.jpで購入

時代小説が書きたい! 『何がなんでも作家になりたい!』(河出書房新社)に続く、著者の作家入門書。著者の得意分野の時代小説の書き方にテーマを絞っているのがうれしい。
今まで時代小説を読んできて、こういう作品だったら書けそうだと思うことと、逆立ちしても書けないと思うこととがある。時代小説の書き方がわかり、あわよくば自分も書けたらいいなと、手にした一冊。時代小説の作家著者が自身の経験をもとに、小説作成の舞台裏を公開し、平易に説明してくれていて、とても興味深い。
著者は「歴史小説」と「時代小説」について、「最近は両者の区別も厳格なものではなくなってきた」と断りながらも、歴史小説は「過去に実在した事件・人物を素材にして小説の形として書くもの」とし、時代小説は「過去に実在したかもしれない場所を素材にして、架空の話を書くもの」と区別している。また、「いつからを時代・歴史小説と呼ぶか」についても、最近では明治以前を指すと書かれていて、私自身の理解とズレがなくてホッとした。
時代小説家という仕事について、「投資と資料と勉強と年齢と」という切り口で、時代小説を書く上での注意事項を解説されていて、面白い。「ライバルは司馬遼太郎・藤沢周平・池波正太郎」の項は、うなずけるところが多く、時代小説のマーケットを看破している。
われわれがなかなか感覚として掴みにくい「暦法」と「不定時法」について、詳細に説明してくれていることに好感がもてた。自分自身を顧みると、時代小説作家としてデビューを目指すよりも、時代小説の読者側に身を置いた方が気楽でいいなと思った。

読みどころ●第一線で活躍中の時代小説作家による、時代小説の書き方解説書。時代背景年表や登場人物の履歴作成から、図書館利用法、資料の選び方、間違いやすい「暦法」「不定時法」の解説まで、時代小説執筆の舞台裏がわかります。これから歴史小説・時代小説を書こうという人ばかりでなく、日ごろ歴史小説・時代小説を読んでいる人も、作家の楽屋を覗くことができ、楽しめる一冊。

目次■まえがき|第一章 歴史・時代小説 腕を組んでから本になるまで(1 何はともあれまず打ちあわせ/2 書き出す前の準備/3 歴史小説はマギー司郎だ/4 時代小説は娯楽小説の王だ/5 時代小説とパソコン/6 パソコンだけでは追いつかない)|第二章 時代小説家 投資と資料と勉強と年齢と(1 ライバルは司馬遼太郎・藤沢周平・池波正太郎/2 定年過ぎても遅くない/3 古文・漢文はこわくない/4 こんな史料を使ってます/5 図書館をつかいまくれ)|第三章 ここでコケない勘どころ 時代考証の初歩の初歩(1 目立つところでしくじらない/2 江戸時代 二百六十年あるのを忘れない/3 戦国時代 激しい技術革新があったのを忘れない/4 名前とセリフ 本人たちもわかるめぇ/5 衣服 普段着には和服をどうぞ/6 暦法 いざとなったら花札/7 不定時法 太陽にほえろ!/8 戦国と仏教と武士道と)|第四章 書いた原稿をどうするか いざ、勝負!

江戸城御金蔵破り
(えどじょうごきんぞうやぶり)

黒崎裕一郎
(くろさきゆういちろう)
[ピカレスク]
★★★★

カバーイラスト:宇野信哉
カバーデザイン:百足屋ユウコ
時代:嘉永六年(1853)十一月
場所:南伝馬町三丁目、九段坂、日本橋駿河町、宇都宮、倉賀野、高崎、藤岡、江戸麹町三丁目、吉原、狩野新道、日本橋元大工町、品川本宿、日陰町、板橋ほか
(徳間文庫・629円・04/09/15第1刷・408P)
購入日:04/09/15
読破日:04/09/15

Amazon.co.jpで購入

江戸城御金蔵破り 『はぐれ柳生』シリーズや、中村勝行名義で著作した、『蘭と狗』で時代小説大賞を受賞した、黒崎裕一郎さんの最新文庫作品。幕末の江戸城の御金蔵破りというのがスケールが大きくて、ワクワクしながら読めそう。
いきなり、市中引廻しの刑の場面から物語は始まる。厳重な警備の江戸城に忍び込み、御金蔵を破って、四千両を盗み出した、前代未聞の大泥棒、野州犬塚村無宿富蔵と藤岡藤十郎の処刑である。引廻しの馬上の藤十郎は、腹の中で昂然とつぶやく「おれが盗んだのは四千両の金子ではない。徳川の城を盗んだのだ」。
意外な展開でちょっと驚くが、二人がいかにして、江戸城の御金蔵を破ったのか気になり、一気に読み進める。算学者を目指しながら、放蕩の末に、道を誤ってしまう主人公の藤十郎には、なかなか共感を覚えにくいところがある。一種のピカレスク小説だから、あまり思い入れが深くなっても困るわけだが…。
ひねりが利いているのは、田安家の家臣(といっても、二十五両で株を買った御小人であるが)ながら、尊皇派の武市半平太や坂本龍馬、桂小五郎と交遊を結ぶという設定。御小人とは、主君の外出時の警備や、諸役人の供をする役目をいい、俸禄は十五俵一人扶持である。

物語●ペリー提督ひきいる四隻のアメリカ東インド艦隊が開国を求める国書をたずさえて、突如、浦賀沖に来航してから五カ月。江戸城(徳川幕府)の威光に翳りが見えはじめた頃。田安家の御小人(おこびと)藤岡藤十郎は、役目を終えた後、おでんの振り売りという夜のアルバイトをしていた。黒船騒ぎが起きてから、おでんの担ぎ屋台の売上も減り、今後の身の振り方を考え始めた。下野都賀郡の郷士の三男に生まれた藤十郎は、算勘に明るい母の影響を受けて、算学家(数学者)を目指して、二十六歳の時に家を出た。しかし、親元を離れて宇都宮で修業を始めるが、酒と女で身を持ち崩し、放蕩三昧の日々を送るようになった。やがて算学の教授をしながら江戸に出た藤十郎は、同郷の出身で口入れ屋で働く富蔵と知り合い、田安家の御小人株を買って、侍になることになった…。

目次■序章/第一章 流浪/第二章 品川狂躁/第三章 黒船再来/第四章 爆発連鎖/第五章 本丸惣絵図/第六章 拮橋門/第七章 革舟/第八章 忍び込み/終章|黒崎裕一郎 著作リスト

ここから始まる本のリンク▼『江戸三尺の空』(多岐川恭著・新潮文庫)

居眠り磐音 江戸双紙 朝虹ノ島
(いねむりいわね・えどそうし・あさにじのしま)

佐伯泰英
(さえきやすひで)
[痛快ヒーロー]
★★★☆☆

カバーイラストレーション:蓬田やすひろ
カバーデザイン:泉沢光雄
時代:安永四年(1775)年五月下旬
場所:深川六間堀、泉養寺、両国東小路、米沢町、法恩寺橋、本所北割下水、新鳥越町、吉岡町、八代洲河岸、地引河岸、神田三崎町、伊豆山神社、熱海、初島ほか
(双葉文庫・648円・04/09/20第1刷・349P)
購入日:04/09/30
読破日:04/10/02

Amazon.co.jpで購入

居眠り磐音 江戸双紙 朝虹ノ島 春風駘蕩とした浪人坂崎磐音が活躍する「居眠り磐音 江戸双紙」シリーズの第10弾。今度はどんな活躍ぶりを見せるか興味津々。 今回の見せ場は、伊豆・熱海に今津屋吉右衛門のお供で、磐音、品川柳次郎、竹村武左衛門が用心棒として同行し、危難に遭うところ。3人の個性がよく出ていて、磐音の活躍ぶりが際立ち、痛快ヒーローものとして大いに楽しめる。最近の「居眠り磐音 江戸双紙」シリーズは、磐音らが江戸近郊に出かけて、そこでいろいろな事件に巻き込まれるという形がパターン化してきた。名勝地・観光スポットを楽しみながら、物語にバリエーションをつける手法は飽きずに読めてうまい。
天神鬚の研ぎ師、鵜飼百助や鳥取藩の重役の娘・織田桜子など新キャラクターが登場し、次回作が今から期待される。

◆居眠り磐音 江戸双紙シリーズ
1 『陽炎ノ辻』
2 『寒雷ノ坂』
3 『花芒ノ海』
4 『雪華ノ里』
5 『龍天ノ門』
6 『雨降ノ山』
7 『狐火ノ杜』
8 『朔風ノ岸』
9 『遠霞ノ峠』

物語●江戸の町に炎暑が続く中で、深川六間堀の金兵衛長屋に住む浪人・坂崎磐音は、両替商今津屋の吉右衛門から、伊豆国熱海の石切場へ出向く際に同道することを依頼された。江戸城の石垣の一部が壊れ、修理を美作国津山藩松平家が請け負うことになり、松平家と付き合いのある今津屋が修築資金を融通することになったという。また、同じ日に、磐音は、両国東広小路の楊弓場「金的銀的」の朝次の口利きで、失踪した娘芸人の行方を探す仕事を頼まれた…。

目次■第一章 泉養寺夏木立/第二章 夜風地引河岸/第三章 朝靄根府川路/第四章 湯煙豆州熱海/第五章 初島酒樽勝負