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2004年7月・文月の巻
おおとりは空に by 津本陽 |
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寛永妖星浄瑠璃 (かんえいようせいじょうるり)
中里融司
カバーイラスト:正子公也 |
♪最近ずっと探していた、中里さんの初期の文庫作品。寛永年間を舞台に、大坂夏の陣に由来する徳川家の秘事、日光東照宮(最初は東照社と言っていたらしい)の建立を題材にした、スケールの大きな伝奇時代小説で、山田風太郎さんの忍法帖を彷彿させる。主人公は、陰七衆の一人、夷舁き(えびすかき)の傀儡舞い、桜花の醍醐(さくらのだいご)で、太閤秀吉が醍醐寺で行った花見の宴に由来する名前をもつ忍者である。敵役は、伊賀同心の八部衆の忍者たち、八尺近い巨人の摩ご(目へんに侯)羅迦、鳥を友として空を舞う赤目の迦楼羅(かるら)ら。その他の登場人物も豪華で、秀忠、家光、徳川義直(尾張家初代)、徳川頼宣(紀伊家初代)、柳生宗矩、天海僧正、土井大炊頭利勝、松平伊豆守信綱、酒井讃岐守忠勝ら幕藩体制のリーダーたちだ。 陰七衆(今回は四人しか登場しない)と八部衆(こちらは三人しか登場しない)の忍法合戦が、『甲賀忍法帖』(講談社文庫)などのオマージュのようで楽しい。忍法帖ばりにエロチックな忍法(性術をベースにした女系忍流なわけだが)が登場するのもファンにはたまらないところか。続編が期待できるような物語構成なので、桜花の醍醐の次なる活躍が読みたい。
物語●寛永九年一月、徳川秀忠は死の床にあり、十七年前の大坂夏の陣後に行われた福神招来の秘法を思いだし、嫡男の家光に遺言した。徳川家の安寧を望むなら、日光の東照社(後の東照宮)の改築をあと四年待つようにと。 目次■序章 夢の城塞/第一章 尾州奔騰/第二章 紅葉山の囚われ人/第三章 欠け落ちたる者ども/第四章 日ヶ窪弁天作法/第五章 忍風日光街道/第六章 決戦東照社 ここから始まる本のリンク▼『甲賀忍法帖』『柳生忍法帖』『くノ一忍法帖』(いずれも、山田風太郎著・講談社文庫) |
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螢の舟 平七郎御用控 (ほたるのふね・へいしちろうごようひかえ)
押川國秋
カバーイラストレーション:村上豊 |
♪1999年に『十手人』(講談社文庫)で、第10回時代小説大賞を受賞した書き下ろし最新文庫。旧字体を使用しているために、インターネット書店の検索に引っかかりにくい作品と著者である。 主人公の横川平七郎は、五十二歳で、剣は伊庭心形刀流で、少年の頃から御徒町の道場に通っていて「下谷の小天狗」と呼ばれるほどの腕前であった。なぜまだ若いのに臨時廻りになったかといえば、長男が無足の見習いにでることになったので、自分から定町廻りを退いたのである。二年前に妻をなくし、気楽なやもめ暮らしをしている。臨時廻りは、友軍としての機能を持ち、人員は定町廻りと同じながら仕事の融通が利いた。年齢も五十代、六十代で、定町廻りの控としての役割も果たすことがあれば、長引く事件や面倒な事件などにも関わっている。 清濁併せ呑む、人情味あふれる同心、横川平七郎と 岡っ引にしては表裏がなく性格も直線的な三十男の勘次のコンビが難事件に挑む連作捕物。大工殺しや連続放火、岡場所の付け馬殺しの事件解決から、心中や仇討の後始末まで、さまざまな事件に絡んでいく。その一方で、「ふん、五十面下げてだらしのねえ」と自嘲しながらも、武家の妻女志津に惹かれていく平七郎と、母親を亡くしたばかりで天涯孤独になった娘・お妙に惹かれていく勘次の二組の恋模様を描いていく。 この物語の背景に、川越藩、庄内藩、長岡藩の三方入れ替えの転封が絡んでいた。 物語●中ノ橋の袂で人だかりがし、橋の東岸から三十前の男の死体が引き上げられた。土左衛門の男は腹をひと突き抉られ、それが致命傷だった。男は川越から働きに来ていた大工で、博打が飯より好きというろくな男でなかった。南町奉行所臨時廻り同心・横川平七郎は、大工殺しの犯人を追って、花川戸河岸から川越行きの高瀬船に乗った。平七郎は、その船の乗客で川越藩藩士の妻女のように見える二十半ばの美しい女性に心を奪われた…。 目次■第一章 螢の女/第二章 裏切り/第三章 紅い手絡の娘/第四章 三ノ橋心中/第五章 おんな仇討 ここから始まる本のリンク▼『十手人』(押川國秋著・講談社文庫) |
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一の富 並木拍子郎種取帳 (いちのとみ・なみきひょうしろうたねとりちょう)
松井今朝子
装画:小泉英里砂 |
♪歌舞伎界に精通し、『仲蔵狂乱』で第8回時代小説大賞を受賞した松井さんの、初の連作捕物小説。舞台を歌舞伎界に置いているので、ディテールまで楽しめる。この捕物小説の主人公は、歌舞伎作者並木五瓶に弟子入りした、北町の定町廻り同心筧惣一郎の弟、並木拍子郎こと、筧俵四郎。れっきとした武士ながら、狂言作者になろうと、家を飛び出し、人形町の裏通りの大塚長屋で暮らす。五瓶にいわれて芝居の種となるような町のうわさやできごとを集めてきて「種取帳」に記し、五瓶に報告する。しかし、創作の勉強のはずの「種取帳」が持ち前の好奇心と正義感から「捕物帳」に変わってしまうのがミソ。 拍子郎と料理屋の娘・おあさの江戸っ子ぶりと、五瓶とその妻の小でんの浪花者の対比、掛合いが面白く、連作形式の一話ごとに、それぞれの人間関係も深まっていくのも楽しみ。とくに、表題作の「一の富」は、上質の一幕芝居のようで泣かせる。おあさの作る料理も季節感や江戸の風情が出ていて魅力の一つ。シリーズ第2弾『二枚目 並木拍子郎種取帳』(角川春樹事務所)も刊行されていて、拍子郎とおあさの恋の進展ぶりも気になるところ。 物語●「阿吽」芝居の狂言作者並木五瓶の弟子・拍子郎は、芝居の種になるような町のうわさを集め、師匠のうちに報告に来るのが日課だった。拍子郎は、霊岸島の神社の狛犬の阿とあけている口に、少年が白い紙を隠すのを見かけた…。「出合茶屋」拍子郎は、芳町の出合茶屋に幽霊が出現するといううわさを聞きこんで、和泉屋のバラガキ娘のおあさと、その出合茶屋に入った…。「烏金」拍子郎の長屋の近くに住む、金貸し老婆の屋敷の前の木に、首括りがあり、その後五日ほどして、その木に再び首括りの縄が何者かによって掛けられるという事件が起こった…。「急用札の男」芝居の幕が開いている間に、急用で呼び出すための急用札というシステムを使って、大店の主人がかどわかされるという事件が起こった。急用札を書く仕事を割り振られた拍子郎が事件の解決に乗り出す…。「一の富」市村座の木戸をあずかる栄吉は、顔見世興行のさなかに、富突きの講中を思いついた。ひとりあたり四百文の掛け金で、富札を買う資金を集め、当っても外れても倍以上の二朱を戻すというものだった…。 目次■阿吽|出合茶屋|烏金|急用札の男|一の富|解説 細谷正充 ここから始まる本のリンク▼『おすず 信太郎人情始末帖』(杉本章子著・文春文庫) |
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江戸三〇〇藩 最後の藩主 うちの殿さまは何をした? (えどさんびゃくはん・さいごのはんしゅ)
八幡和郎
装幀:アラン・チャン |
♪大河ドラマ「新選組」などの影響もあり、幕末への関心が高いところと、各県・地方それぞれのお国自慢志向が重なってのベストセラーかと思われるが、やはり気になりGet!一つの尺度で、江戸の300藩の最後の藩主を取り上げたということで、画期的な書といえる。本書を手にするまでは知らなかったような一万石の小さな無名の藩も取り上げていて、この藩は官軍・幕府軍どちらの側だったのだろうとか、最後の藩主を調べるのに便利な一冊である。時代小説を読んでいると、親藩や譜代の藩のはずなのに、官軍側についた藩が多くて、いつも戸惑ってしまうだけに。 地方出身者にとって、自分の故郷の歴史は多少なりとも関心があるところ。本書がベストセラーに成り得たのは、そういった地方出身者の心理を巧みについた企画力の勝利といえる。著者は1951年滋賀県生まれ。通産省OBで、北西アジア課長、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを経て、現在は評論家として活躍というキャリアを持ち、『遷都―夢から政策課題へ』(中公新書)、『江戸300藩 県別うんちく話』(講談社+α文庫)、『図解雑学 性格がわかる!県民性』(ナツメ社)などの著書多数。 著者は、「おわりに」で、「あえていうが、もし、正しく歴史を知りたければ歴史小説は読まないほうがよい。少なくとも、それに倍するまっとうな歴史書や伝記を読んでからにしてほしい。」と書いている。本書が書かれている作者のスタンスである。狭量すぎる見方であり、時代小説ファンとしては、少し残念な思いがする。また300藩への評価が、現代人の視点・スケールによるものである点で、故郷が佐幕的な藩だった人や新選組ファンには読んでいて少し辛いところ。 読み終わって、幕末に各藩が取った行動というのは、有能なリーダーによって導かれたり、藩の石高や格付けで決まったのではなく、その藩民性(県民性)と情報量によって決まった部分が大きいということがわかった。また、幕末の戦乱で多くの血が流れたが、戊辰戦争の敗者への処分は、関ヶ原合戦や江戸初期の藩取り潰しなどに比べて、軽かったことがわかり、少し気分が軽くなった。 読みどころ●尊皇攘夷の嵐が吹き荒れる幕末の動乱期に、各藩の藩主(殿さま)たちは、何を考え、どう行動したのか? 本書では、薩長土や会津といった有名どころばかりでなく、歴史の表舞台に現れない小藩の殿さままで、江戸三百藩すべての動向、最後の藩主名を網羅する。 目次■はじめに|第一章 殿さまはどのような人たちか(江戸生まれ江戸育ちの殿さまたち/殿さまの半分が愛知県出身のなぞ/みな親戚の大名家/会津の殿さまなのに「肥後」と呼ばれるのはなぜ?/幕府が朝廷に頭が上がらなくなった三つの理由/中央集権か、雄藩連合か?/庄内・長岡・川越の三角トレード大失敗で滅びた徳川幕府)|第二章 幕末維新の読む年表(日本のビスマルクになれなかった水野忠邦/その場凌ぎお天才だった阿部正弘/買収失敗でクビになった堀田正睦/肩書きだけの名誉会長に納まらなかった井伊直弼/死体を見舞う喜劇役者の安藤信正/島津久光のクーデターでひっくり返った幕府の権力地図/二三〇年ぶりの将軍上洛で、幕府と朝廷の格付けが決まった/長州の暴発に反発するやつ、同情するやつ/もてはやされた「一会桑」トリオ/薩長が手を結び、将軍と天皇がこの世を去る/江戸三〇〇年に終止符を打たせた土佐の妙案/新政府軍による全国統一行脚で終わる「幕末維新」)|第三章 日和見主義の多数派が流れを決めた(新政府を喜ばせた実に意外な彦根の決心(滋賀)/御旗とともに官軍になびいた稲葉と藤堂の「裏切り」(京都/三重)/徳川幕府の葬儀委員長を務めた御三家筆頭の尾張(愛知/岐阜)/御三家なのに紀州藩の影が薄かったわけ(和歌山)/「瀬田の唐橋」の守護神・膳所藩(滋賀)/自分勝手な殿さまを見捨てて、くじ引きで方針を決めた桑名藩(三重)/松平家のルーツも官軍に恭順(愛知)/徳川家のせいで二万五千人が民族大移動(静岡)/デマに踊らされ、危うく取り潰されるところだった小田原藩(神奈川)/徳川慶喜の狙いは一代限りの独裁者(東京)/「血筋より家の名誉」で突き進んだ福井藩(福井)/母が将軍の娘であるがゆえに悩む最後の加賀藩主(石川/富山)/中山道の渋滞を大慌てで帰藩する美濃の殿さまたち(岐阜)/怒りのあまり江戸城で切腹した須坂の殿さま(長野)/小栗忠順のフォローに四苦八苦の高崎藩(群馬)/抜群のアイデアで混乱を回避した岡部藩(埼玉))|第四章 情報不足が戊辰戦争の悲劇を生んだ(維新の最大功績者は水戸藩ではないだろうか?(茨城)/脱藩して矢面に立ったサムライ藩主(千葉)/世渡り上手な下野の小藩たち(栃木)/過大評価される河井継之助を擁した長岡藩の悲運(新潟)/「会津は忠義の士」に異論あり(福島)/悪気はなくても幕府滅亡の引き金を二度も引いてしまった譜代筆頭(山形)/タイミングを逃し、最後の登場となった大御所・仙台(宮城)/廃藩置県を待たずに廃藩となった南部藩(岩手/山形/福島/青森)/東北の官軍派は骨折り損のくたびれただけ(秋田/山形)/戊辰戦争決着の舞台・蝦夷地に構える松前藩(青森/福島/北海道))|第五章 西南雄藩の行動原理(やはり幕末維新の主役は薩摩島津家(鹿児島/宮崎)/積もり積もった三〇〇年来の恨み(山口)/なんだか馬鹿馬鹿しくなって逃げ出す浜田藩兵(山口/島根)/熊本藩主の弟たちが導いた勤王への道(熊本)/どうして「薩長土肥」に肥前が入るのか?(佐賀/長崎)/金に困ってニセ金づくりの福岡藩(福岡)/福沢諭吉を生み出した中津の藩民性(大分)/「廃藩置県」のあとに生まれたただひとつの藩(沖縄))|第六章 「錦の御旗」が宿す魔力の秘密(土佐だからこそ可能だった世界最先端のアイデア(高知)/名門気取りで痛い目に遭った松山藩(愛媛)/自由民権派のパトロンになった蜂須賀の殿さま(徳島/香川)/「薩長土肥」ならぬ「薩長芸」になるはずだった広島藩(広島)/殿さまと藩を救った家老中の家老・山田方谷(岡山)/世界遺産姫路城に打ち込まれた大砲(兵庫)/関東の覇者だった北条氏の血筋は河内に続く(大阪)/尊攘急進派集団・天誅組の決起に大慌て(奈良)/官軍とわざとすれ違い大目玉を喰らった松江藩(島根)/慶喜の実兄なのに長州寄りだった鳥取藩主(鳥取/兵庫)/藩を挙げて謹慎した宮津藩(京都))|第七章 殿さまたちの明治・大正・昭和・平成(戊辰戦争の拍子抜けするほど寛大な処分/藩のトップから外された殿さまたち/殿さま家族は喜んで東京にお引越/廃藩置県のルールブック/会津に県庁が置かれなかったホントの理由/どうして仙台県が宮城県に?/「公・侯・伯・子・男」のボーダーライン/なぜ井伊家は侯爵ではなく伯爵にしかなれなかったか/華族でなく官僚の牙城になってしまった貴族院/大名出身の有名人が少ないのに理由があった/地元と殿さまの意外にも希薄なつながり)|おわりに(主要参考文献/国別出身大名一覧/都道府県別藩名一覧|コラム 殿さま一家の住宅情報/ホンモノの京都とは?/命運を分けた4日間戦争/幕末中心人物の生没年グラフ/右往左往の幕末諸隊/幕末の京都御苑ガイド/戊辰戦争の白旗カレンダー/遠路はるばる参勤交代の道/京都の入り口、江戸の出口/幕末維新の査定とボーナス |
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下駄貫の死 鎌倉河岸捕物控 (げたかんのし・かまくらがしとりものひかえ)
佐伯泰英
装画:浅野隆広 |
♪「鎌倉河岸に住む若者たちの青春群像を描く『鎌倉河岸捕物控』シリーズ第7弾。おなじみのレギュラー登場人物の死を暗示させるショッキングなタイトル。大好評のこの捕物シリーズは、今回、新展開を見せる。松坂屋の隠居松六の古希の祝いのシーンから始まる。松六は、金座裏の親分九代目宗五郎に頼まれて、松坂屋の手代だった政次を後継者として譲った件について、その行く末がきになるところ。政次は金座裏の手先として、神谷道場の目録を授かるほど精進し、捕物でも手柄を立て、周りも認める存在になっていた。物語は、その政次の十代目襲名に向かって進んでいく。 盗賊の引き込み女の殺害をめぐる事件、政次や亮吉の幼なじみで船頭の彦四郎が勤める船宿・綱定の女将おふじの危難、古碇盗難事件、宿場町で頻発する少年グループの非行など、金座裏の宗五郎と手先たちは、次々起こる事件解決に向けて東奔西走する。その一方で松坂屋の隠居松六らのサブキャラクターたちによる伊香保湯治旅が描かれる。牧歌的な中で、事件解決の伏線があったりして、目が離せない。 幼なじみの仲良しグループ(政次、亮吉、彦四郎、しほ)が、今後、どのように友情を築いていくのか、次なる展開がとても気になってきた。 江戸の名代の毛抜き屋で、現在も刃物の老舗として、東都のれん会にも加盟している、人形町のうぶけやが「第三話 古碇盗難の謎」に登場している。作者の江戸の名物を現在に伝えようという志を支持したい。 物語●松坂屋の隠居松六は、女房のおえい、豊島屋の女房とせ、金座裏の宗五郎の女房おみつ、豊島屋で働くしほらと、上州・伊香保に湯治にでかけることになった。一行の見送りに戸田川の渡しに向かった金座裏の宗五郎と手先の政次、亮吉らは、そこで女が数人の男たちに襲われ刺殺されるという事件に遭遇する。お店の下女か飯炊き風の女が、虫の息の下で「く、くらまえ……」と言い残して亡くなった…。 目次■序章/第一話 引き込みおよう/第二話 綱定のおふじ/第三話 古碇盗難の謎/第四話 下駄貫の死/第五話 若親分初手柄/終章 ここから始まる本のリンク▼『銭形平次捕物控』(野村胡堂著・光文社文庫) |
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鬼平殺し 御膳役一条惣太郎探索控 (おにへいごろし・ごぜんやくいちじょうそうたろうたんさくひかえ)
えとう乱星
カバーイラスト:岩田専太朗 |
♪「鬼平」こと長谷川平蔵が殺されたというショッキングな設定の時代小説。しかも書き手がえとうさんということで、どんな風に料理するのか気になるところ。伝奇小説で活躍するえとうさんの初の捕物小説。あとがきで書かれているように、伝奇小説はできるだけ大きく拡散していく物語であるのに対して、捕物小説は論理の組み立てで収束していく逆のスタイルである。いきなり、「鬼平」を殺すという発端からどのように結末に向かって話を進めていくのか興味深かった。 新ヒーローの惣太こと、禁裏御膳役宗家・一条惣太郎を中心に据えつつ、「鬼平」の世界の住人っぽい、元・火盗改め同心松村忠三(TVでオリジナルキャストとして、沼田爆さんの扮する“猫どの”こと村松忠之進を連想させる)を脇に据える構成で、鬼平のファンの方も楽しめる物語。また、鬼平のライバル松平佐金吾が登場するのもうれしい。 主人公の一条惣太郎が禁裏御膳役宗家で流れ板ということもあり、料理のシーンが多く出てきて、そこで作られる料理がどれもおいしそうで、読んでいておなかがすいてきて困った。ともかく、シリーズ化の予感があり、次なる活躍も期待できそうで楽しみ。
物語●「鬼平」こと長谷川平蔵は長く火盗改めの長官職に就いていたが、寛政七年に入って病を患い、十分に役目を果たせずに苦しんでいた。釣りを好む平蔵は、病を押して大川に出かけた。その翌日、永代橋にほど近い佐賀町の大川縁に、一体の亡骸が捨てられた。それを発見した火盗改めの同心はすぐにその遺体を役宅へと運び、爪が食い込んで血が滴るほど拳を握りしめて涙を流した。その亡骸こそ、火付盗賊改方長官・長谷川平蔵の変わり果てた姿だった。 目次■序章 長官/第一章 流れ板/第二章 夜鷹殺し/第三章 若衆飼い/第四章 徳なし徳助/第五章 もう一人の長官/第六章 深川十五番組/第七章 閻魔裁き/あとがき ここから始まる本のリンク▼『投げ節お小夜捕物控 意休ごろし』(高橋義夫著・中公文庫)、『「鬼平」の江戸』(今川徳三著・中公文庫) |
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剣客春秋 女剣士ふたり (けんかくしゅんじゅう・おんなけんしふたり)
鳥羽亮
カバーイラスト:西のぼる |
♪『里美の恋』に続く、千坂藤兵衛・里美父娘が活躍するキュートなチャンバラ時代小説「剣客春秋」シリーズ第2弾。活劇スタイルで、千坂藤兵衛の剣術の冴えと、女剣士千坂里美の成長を描く、異色剣豪小説シリーズに、もう一人の女剣士が登場を予感させるタイトルに、がぜん食指が動く。その千坂親子の前に、敵討ち志願の少女とその弟が現れる。里美は二人の同情し、恋心をもつ若い浪人・吉野彦四郎と一緒に、何とか敵討ちを成功させたいと望むが、その一方で、彦四郎とその少女との親密なそぶりを嫉妬したりもする。武張ったところばかりでなく、少女らしい微妙な女心が描かれていて面白い。 島田姉弟の敵討ちには浜島藩の権力抗争も絡んで物語はもつれる。今回の敵役となる稲葉十三郎の秘剣・山颪(やまおろし)という秘剣も工夫されていて凄味があり、どのように千坂父娘が対決するのか興味が尽きない。ちなみに浜島藩は、三河の国にあり、東海道の赤坂宿から三里ほどの位置にあるという設定の架空の藩。 今回、新キャラクターとして、甘酒売りの弥八が登場し、重要な役割を果たす。北町奉行所臨時廻同心・坂口主水の手先の岡っ引である。
物語●神田豊島町で剣術道場を開く、一刀流中西派の千坂藤兵衛は、元町の町屋の空地で、武士の死骸の奇妙な傷を見た。それは異様な刀法による刀傷のように思われた。 目次■第一章 姉弟/第二章 浜島藩騒動/第三章 山颪/第四章 危機/第五章 敵討ち/解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『からたちの記―女剣士道場日誌』(佐江衆一著・講談社文庫) |
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おおとりは空に (おおとりはそらに)
津本陽
カバー装画:横田美晴 |
♪井伊直弼というと、桜田門外の変で攘夷派の老人たちの凶刃に倒れた幕末の大老というイメージしかなかったが、実は茶人でもあったと知り、興味を持った。「大老・井伊直弼の茶人としての顔!」という帯のキャッチフレーズで、てっきり主人公は、井伊直弼だと思っていた。読み始めてみると、井伊はなかなか登場せず、裏千家十一代家元玄々斎宗室が、茶道興隆に尽力した姿を描く半生記であることがわかった。 裏千家は、利休の死後、女婿少庵からその子宗旦に受け継がれ、宗旦の四男・仙叟宗室を祖としている。千家は、開祖利休以来、宗家が茶湯の秘伝を口伝してきたが、玄々斎は、流儀を体系化し、門人に伝授しすい教本「法護普須磨(反古襖)」をつくることによって、茶道を世に普及させた。幕末維新の激動の中、大名家や豪商などに庇護されてきた小間の侘び茶から行儀作法の基本としての広間の茶へ改革させた茶道界の革新者である。別の意味で凄い人だったのだ。 茶道関係の出版社で、裏千家の機関紙「淡交」を刊行する淡交社の50周年記念出版という性格もつ本書は、茶道をやっている人向けに描かれている部分もあり、門外漢の私には、その情景を思い浮かばずに、残念な思いをした箇所もあった。もう少し、茶道についても基礎的な知識ぐらい身につけておきたいと自戒した。 井伊直弼については、十四男に生まれ、三十代まで部屋住みとして不遇の生活を送り、その中で石州流の茶道にも打ち込んだ茶人としての面をさらりと描いている。武断=波瀾に富んだイメージの強い直弼に対して、文=静のイメージを新たに与えているのが新鮮。 物語●文政元年、尾張藩老職渡辺半蔵規綱は、九歳になる実弟の栄五郎と、江戸をはなれ帰国の途についた。規綱は、三河額田郡奥殿一万六千石の七代領主・大給乗友の次男で、渡辺家に養子に入った。栄五郎は、猪谷一刀流免許皆伝の規綱に剣術を習うようになって間もなく、渡辺家に養われることになった。規綱が加判の職を罷免され謹慎させられたのにともない、江戸を離れて名古屋に暮らすことになった。しかし、栄五郎が名古屋にいたのは、数ヵ月の短い月日であった。文政二年のうちに、裏千家十代認得斎宗室の養子に迎えられ、京都へのぼった。後の十一代玄々斎千宗室である。 目次■童子/相伝/庵主/国学/武家茶道/五常の茶/あとがき |