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2004年4月・卯月の巻
獅子の座 足利義満伝 by 平岩弓枝 |
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豪の剣 剣豪 平山行蔵 (ごうのけん・けんごう・ひらやまこうぞう)
永井義男
装画:西のぼる |
♪幕臣・平山行蔵は、泰平の世が続く、十一代将軍家斉の時代に、武士の心を忘れぬ壮烈な鍛錬を続けたことで知られる、剣豪でもある。奇矯な人物として描かれることも多い、平山行蔵を主人公にした時代小説。平山行蔵の奇人ぶりが物語仕立てで描かれていて面白い。とくにその戦いぶりが幕臣という身分や世間体を超越していてすごい。作品中でも、林道場との抗争や清水道場との遺恨などが描かれていて痛快さを感じる。元相撲取り満天山と平山の素手での戦いは、PRIDEなどに通じる異種格闘技といった趣きがあって、わくわくしながら読んだ。弟子には、勝海舟の従兄弟にあたる剣客男谷精一郎や弘前藩主津軽寧親(つがるやすちか)の暗殺未遂事件で知られる相馬大作こと、下斗米秀之進(しもどまいひでのしん)など、個性的な人物がいる。 この硬派平山行蔵に共感するのが松平楽翁(定信)であり、対比して描いているのが、賄賂政治の中心にいる中野播磨守清茂(のちに隠居し碩翁を名乗る)であり、駿河沼津藩主水野忠成(みずのただあきら)の家老土方縫殿助(ひじかたぬいのすけ)である。硬軟両者の対立が作品のテーマになっている。
物語●平山行蔵(ひらやまこうぞう)は、屋敷内に道場「兵原草蘆(へいげんそうろ)」を開き、剣術と兵学を教えていた。文化十年、平山はすでに五十五歳であり、この時代ではもう老人だった。太平の世にありながら、戦場を忘れず、自分ばかりか弟子たちにも粗食と厳しい稽古を続けていた。その「兵原草蘆」に、十五歳の美少年中村浦之助が入門してきた。平山は弟子の男谷精一郎(おだにせいいちろう)を、浦之助の相手に指名した。 目次■第一章 治にして乱を忘れず/第二章 死を必すれば則ち生く/第三章 兵に常勢無し ここから始まる本のリンク▼『玄白歌麿捕物帳』(笹沢左保著・光文社文庫) |
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姫巫女烏丸龍子 京都魔性剣 (ひめみこからすまりゅうこ・きょうとましょうけん)
加野厚志
カバーデザイン:野中昇 |
♪烏丸龍子というと、加野さんの『沖田総司』シリーズで、圧倒的な存在感を見せるヒロイン。今回は、沖田ではなく、彼女の方に視点が移っているのが興味深い。作品の時代的には、『沖田総司・暗殺剣』(祥伝社文庫刊)と重なるが、表裏をなすような関係になっていて面白い。ただ、この本の作者のプロフィール紹介でそのことに一言も触れていないのが残念。 二尺二寸の諸刃の御神刀《夕斬丸》を手に、言霊を発しながら、その文字通りに刀を振るう龍子の姿が凛としていてかっこいい。烏丸家に伝わる鞍馬流の太刀筋だという。『沖田総司』シリーズでは、剣を振るうのはもっぱら、沖田総司の役だっただけに、龍子が剣の遣い手だったというのは、新発見だ。 有栖川家の姫の失踪事件をめぐる事件に、龍子が挑むのだが、岩倉具視の怪人ぶりと、それに対抗するような龍子の伯父寛英食えないぶりが何とも言えず、いい味を出している。もちろん、沖田総司も烏丸神社の氏子の一人として登場するのが、『沖田総司』シリーズのファンにはうれしいところだ。 物語●祇園祭の宵山を明日にひかえた夕刻、烏丸神社の社務所へ投げ文があった。烏丸神社の姫巫女・龍子(りゅうこ)宛の付け文は、「今宵暮れ六つ。東三条の森にてお待ち申し候」とだけ書かれ、裏には奇怪な鵺の絵が描かれていた。指定の場所は、古くから鵺の棲息地として知られていたが、龍子を待ちうけていたのは、三人の刺客と岩倉具視卿だった…。 目次■第一章 烏丸の森に鵺が鳴く/第二章 壬生郷に剣鬼が棲む/第三章 西陣に血飛沫が舞う/第四章 祇園小路に凶女が吠える/第五章 鞍馬山に影法師が躍る/第六章 如意ヶ嶽に送り火が灯る/第七章 堺町御門に七卿が落つ/第八章 岩倉郷に妖怪が笑う/第九章 千年の都に姫巫女が翔ぶ ここから始まる本のリンク▼『沖田総司・暗殺剣』(加野厚志著・廣済堂文庫) |
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蓬莱橋にて (ほうらいばしにて)
諸田玲子
カバー画:北斎「諸職絵本新鄙形」より |
♪義父の生家が静岡県島田市にあり、昨夏、大井川にかかる蓬莱橋を渡る機会があった。世界一の木造歩道橋ということで、小心なわたしにはスリルが十分だった。その蓬莱橋をタイトルに入れた作品集ということで、諸田さんのこの短篇集は文庫化の折にはぜひ読みたいと思っていた。時代小説のアンソロジーに収録された2篇「雲助の恋」は『浮き世草紙 女流時代小説傑作選』(ハルキ文庫)で、「瞽女の顔」は『捨て子稲荷』(祥伝社文庫)で読んでいたが、こうして諸田さんの短篇集の中で通して読むと、いろいろと発見がある。 それぞれの短篇が東海道の静岡県内の宿場を舞台にしている。それは、作者の生まれが静岡で、清水の次郎長の家系というだけではなく、東海道五十三次を辿って行くと静岡県の宿場が最も多いということからにもよるのだろう。 「反逆児」は由比宿が生んだトリックスター由比正雪をめぐる話。「深情け」は同じく東海道を我が物顔でのし歩いたお七里(親藩がお抱えの飛脚者)出身の浜島庄兵衛こと、日本左衛門がらみの話。「旅役者」と「瞽女の顔」の2篇は旅が日常になっている者たちの話。旅が当たり前といえば、渡世人にも共通しているかもしれない。「はぐれ者指南」と「白粉彫り」は、そうした渡世人が出てくる。裏街道のイメージがある上州や甲州ほどではないが、東海道も清水の次郎長をはじめ、渡世人が闊歩した道である。 東海道の難関の一つといえば、越すに越されぬと言われた大井川だが、「白粉彫り」「雲助の恋」「蓬莱橋にて」の3篇は、大井川を挟む島田宿と金谷宿が舞台になっている。昨夏に、島田市の郷土博物館で、川越(かわごし)に関する展示を見たことを思い出した。 いずれも趣きがある作品ばかりだが、とくに「蓬莱橋にて」と「瞽女の顔」が読み味がよかった。 物語●「反逆児」東海道由比宿の本陣前の紺屋に、虚無僧姿の男がやってきた。紺屋の女房・おゆきは、総髪で虚無僧姿の男が昔馴染みで、三十年近く前に出ていった男・弥兵衛であることに気付いた…。「深情け」遠州豊田郡向笠村の豪農の娘・おそよは、豊田郡大池村の豪農の息子 甚七との婚礼の夜、尾張十右衛門こと、浜島庄兵衞率いる盗賊団に押し込みに入られて、体も心を奪われた…。「雲助の恋」菊川から小夜の中山にかけて稼ぎ場とする、雲助・常吉は、金谷宿の招女(おじゃれ)のお栄を一度も買ったことがなかったが、心を惹かれていた…。「旅役者」三島宿の世古本陣の杢兵衛は、紀州家の行列を迎えて喧騒の中、旅役者がタダ飯を食っているのを見つけたが…。「瞽女の顔」瞽女のお菊は、茶屋でいかにも人がよさそうで身なりもこざっぱりした商家の若旦那風の男・吉兵衛と出会った…。「はぐれ者指南」国領屋亀吉を名乗る大親分の仕切る賭場で、兇状持ちの旅をして、国領屋一家に草鞋を脱いだ峯六こと、女のお峯は、寺銭を盗もうとした大男と浪人ものを助けた…。「白粉彫り」かつて博徒の大親分として藤枝を縄張りにして、長楽寺の清兵衛という呼び名で知られた清兵衛が、廓の女郎小町を相手に、背中の白粉彫りについて話をはじめた…。「蓬莱橋にて」今井いわは、夫の信郎と二人、牧之原台地にある初倉村に入植していた。ある日、家の周りに不審な女の姿を見かけた…。 目次■反逆児|深情け|雲助の恋|旅役者|瞽女の顔|はぐれ者指南|白粉彫り|蓬莱橋にて|解説・結城信孝 ここから始まる本のリンク▼『眩惑』(諸田玲子著・徳間文庫) |
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遺恨 密命・影ノ剣 (いこん・みつめい・かげのけん)
佐伯泰英
カバーデザイン:中原達治 |
♪早いもので、「密命」シリーズも、今回で第10作目。金杉惣三郎の息子・清之助の剣術の師・米津寛兵衛が惨殺されるというショッキングなところから始まる。金杉親子の活躍はいかに…。シリーズが進むにともなって、惣三郎と清之助の強さが際立ってきて、荒唐無稽になりはしないかと、懸念していたが、今回、強力な敵役が二人の前に現れて、正直ホッとした。なにしろ、剣術界の長老を葬るほどの遣い手であるわけであるから。惣三郎らとのチャンバラシーンにコーフンした。 このシリーズの面白さの一つは、やはり、おなじみのメンバーたちの生活の変化である。とくに、清之助の恋人で薬種問屋伊吹屋の娘葉月にふりかかる災難、石見道場の客分・棟方新左衛門の見合いの行方、南町奉行所定廻り同心西村桐十郎の妻・野衣の妊娠など、読者には気になるところ。 剣術の回国修行中の金杉清之助は、伊予宇和島から四国の遍路路を行く。クライマックスは石鎚山での戦い。 物語●金杉惣三郎は、石見銕太郎の師で、息子清之助の大師匠の鹿島一刀流の達人・米津寛兵衛の訃報に触れ、暗澹たる思いになった。しかも天命尽きての死ではなく、影ノ流鷲村次郎太兵衛と名乗る旅の武芸者と立ち会って、試合に敗れての死であったという。次郎太兵衛は、寛兵衛の混乱に乗じて、姿を消したという…。 目次■序章/第一章 葉月の災難/第二章 追立屋手妻の侘助/第三章 万五郎参禅/第四章 石鎚山の戦い/第五章 新左衛門の見合い/第六章 大岡家の法事/終章/解説 細谷正充 ここから始まる本のリンク▼『剣客商売』(池波正太郎著・新潮文庫) |
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かずら野 (かずらの)
乙川優三郎
カバー装画:川合玉堂『荒海』(山種美術館蔵) |
♪出版される作品が次々ヒットする乙川さんの待望の文庫化。「運命に流されまいと必死に生きる女の、ひたむきさと切なさにあふれた感動の時代小説。」という裏表紙のコピーが読む気をくすぐる。海のない信州松代から始まる話なのになぜ海の絵が装画にあるのか? かずら野=葛の野とが意味するものとは? 気になりつつ読み始める。宮尾登美子さんの作品や昔のNHK朝のテレビ小説を思わせる、女の一生をテーマにした物語だ。宿命に翻弄されながらも強く生きるヒロインの姿に感動を覚える。 解説の川本三郎さんが指摘しているように、労働小説と呼べるほど、仕事の現場が生き生きと描かれている。ヒロインの菊子はどんな境遇に置かれても、真摯に仕事に打ち込むことで生きる糧にしている。蚕の糸繰り、藍染め、旅籠での女中の働き、漁場での漁と魚の加工…。彼女ばかりでなく、矜持を持って仕事に取り組む人たちの姿を丹念に描くことで、この作品に何ともいえない清冽な雰囲気を醸し出している。 物語●信濃国松代藩の足軽九原石之助の次女・菊子は、父の命令で十四歳にして、糸師の大店・山城屋彦市に妾奉公に出された。幼なじみの菅井静次郎に見送られて一生の奉公にでる菊子。絶望に沈む彼女の前で若旦那の富治が彦市を殺害する。嫌疑を逃れるために山城屋を出奔し、富治とかりそめの夫婦となった…。 目次■なし ここから始まる本のリンク▼『五年の梅』(乙川優三郎著・新潮文庫) |
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槍持ち佐五平の首 (やりもちさごへいのくび)
佐藤雅美
カバー:蓬田やすひろ |
♪表題作のテーマになった相馬藩の槍持ちの話は、どこかで読んだ気がする。だれの作品だったのだろうか?武家も義理やら忠義やらと大変だと思っていたが、それ以外にもたいへんなことがあるのがわかった。「小南市郎兵衛の不覚」と「槍持ち佐五平の首」は、つまらぬ意地の張り合いから、起こる愚かな悲劇。「重怨思の祐定」は陰湿ないじめが日常茶飯事だった、江戸幕府役人の世界。 町奉行矢部定謙の探偵気質を描いた「身からでた錆」。「ヨフトホヘル」では、冒険家として知られる近藤重蔵の奇矯な一面を描いた。このぐらい個性派でないと、後世に名を残すことはできないのかも。 前半が愚か旗本列伝だとしたら、後半はバカ殿列伝といったところか。「見栄は一日 恥は百日」は出世欲・名誉欲に取りつかれた津軽寧親を、「色でしくじりゃ井上様よ」では浜松六万石の井上正甫を、それぞれシニカルに描いている。同じ大名でも、青年大名の理想と夢をテーマにした、「何故一言諫メクレザルヤ」の水野忠辰は感情移入ができる存在だ。 いずれの作品も悲劇的な要素や皮肉をふくみながらも、作者の主人公たちへの眼差しが冬の日のように温かいために、読み味の良さにつながっている。偉いと思われる旗本や大名にも愚かさが見られるのが、人間らしくて魅力的ともいえるのかもしれない。 物語●「小南市郎兵衛の不覚」七百石の旗本・羽太求馬正祐の屋敷で酒宴があり、長男半蔵の槍の師である八十石取りの旗本・小南市郎兵衛も招待されていた。その市郎兵衛と求馬の長女ふさが、酒宴の後、座敷で不義密通をしているところを求馬の姪に見られた…。「槍持ち佐五平の首」奥州街道の大田原の本陣に、相馬長門守益胤が泊まれるように、家来の絹川弥三右衛門が手筈を整えていたところに、会津松平家の宿割役人が無体を言って、宿の明渡しを申し入れてきた…。「ヨフトホヘル」旗本・近藤重蔵は蝦夷御用を務め、択捉島に大日本恵土呂府の標木を建てたことで知られるが、太田南畝にヨフトホヘル(酔うと泣えるのもじり)と評されるように、きわめて評判の悪い人物だった…。「重怨思の祐定」三百俵取りの旗本・松平外記は、父が将軍世子家慶の御小納戸ということから、部屋住みの身で、御番入りを果たしたが、古参連中の横暴やいじめにあうことになった…。「身からでた錆」幕末の三秀とか三傑と呼ばれる矢部駿河守定謙は、三百俵取りの旗本ながら、勘定奉行、江戸町奉行という最高位のポストを歴任した。しかし、町奉行を罷免されると、伊勢桑名藩御預けの身になり、憤然と絶食の上、命を断つという壮絶な最期を遂げた。歴史学者の三田村鳶魚は、矢部のことを「すこぶる陰の暗い人で、大いに探偵根性が突っ張っている」と評したが…。「見栄は一日 恥は百日」津軽越中守信順は、将軍家斉の太政大臣への昇進の儀式、御大礼で、四品(しほん、従四位下の無官)には許されていなかった、轅(板輿)に乗って御大礼に登城した…。「色でしくじりゃ井上様よ」浜松藩主で奏者番の井上河内守正甫は、同僚の内藤大和守頼以の下屋敷で、小鳥狩の際に、下屋敷に住む百姓の女房に押して不義におよび、目撃した亭主と争って腕を斬り落とすという前代未聞の不祥事を起こした…。「何故一言諫メクレザルヤ」水野越前守忠邦は、家中の老臣関泰継、侍講塩谷宕陰、藩儒小田切敏に命じて、各御先代の遺事功業を網羅した録を編纂するように命じた。三人は、八代目の忠辰(ただとき)について、家譜には「十四歳で家督し、二十九歳のとき病を得て卒す」とのみしか記されていないのを見つけて不審に思った…。 目次■小南市郎兵衛の不覚|槍持ち佐五平の首|ヨフトホヘル|重怨思の祐定(かさなるうらみおもいのすけさだ)|身からでた錆|見栄は一日 恥は百日|色でしくじりゃ井上様よ|何故一言諫メクレザルヤ|解説 島内景二 ここから始まる本のリンク▼ 『劇盗二代目日本左衛門』(佐藤雅美著・文春文庫)、『重蔵始末』(逢坂剛著・講談社) |
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しゃばけ (しゃばけ)
畠中恵
装画・挿画:柴田ゆう |
♪第13回ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。ユーモアがいっぱいの江戸妖怪人情推理話。娑婆気(しゃばけ):俗世間における、名誉・利得などのさまざまな欲望にとらわれる心。(国語大辞典「言泉」より) いきなり、殺人鬼が現れたり、付喪神など妖が登場したりと、不穏な発端から、連続猟奇事件へ発展しながらも、ドロドロ感やホラー色がなく、どこかほのぼのとしていてユーモアすら感じさせるところがなんとも魅力。主人公一太郎が、妖怪と一緒に事件を解決していくところなど、「ゲゲゲの鬼太郎」のようだ。長崎屋の手代佐助、実は犬神と同じく手代仁吉こと白沢をはじめ、屏風のぞき、鳴家、蛇骨婆、野寺坊、獺など、妖怪が多数登場。一太郎の幼なじみで、菓子屋の三春屋の後継ぎ栄吉の存在もいい味を出している。<.BR>一太郎は、おそらく、変格とはいえ、捕物小説史上もっとも体が弱い探偵役ではないだろうか。いずれにしても次回作が楽しみなところだ。 物語●江戸有数の廻船問屋や薬種問屋を兼ねる、長崎屋の一人息子・一太郎は、めっぽう体が弱く外出もままならない。ところが親や手代の佐助と仁吉の目を盗んで出かけた夜に、人殺しを目撃し、その人殺しに追われる羽目になった。危難は、鈴彦姫とふらり火という妖(あやかし)に助けられ、ことなきを得た。体が弱く、将来が不安な一太郎の周りには妖がいて彼を守っていた。また、一太郎もそういう妖を目で見て話をすることができた…。 目次■なし ここから始まる本のリンク▼『巷説百物語』(京極夏彦著・角川文庫) |
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夜の腕 祇園社神灯事件簿 二 (よるのうで・ぎおんしゃしんとうじけんぼ)
澤田ふじ子
カバー画:蓬田やすひろ |
♪『奇妙な刺客』に続く、「祇園社神灯事件簿」シリーズ第二弾。主人公は、平堂上(公家)・植松雅久の庶子で、馬庭念流の達人で祇園社の神灯目付役・植松頼助(うえまつよりすけ)。神灯目付役とは、祇園社の境内各社の灯籠などに点された火の管理と、社の警固役がその職務で、神さまのお使いと見なされていて、京の人たちからは敬せられていた。その服装は、ねずみ色の筒袖に伊賀袴、腰に大小を帯び、足許は草鞋ばきで、黒い塗り笠に面垂れのいでたちだった。塗り笠には、「祇園社神灯目付役」の文字が、赤漆でくっきりと書かれていた。 植松頼助は、公家の庶子として生まれながら、訳あって今は、祇園社山門の東側に構えられる寄人長屋に盲目の浪人・村国惣十郎と暮らしていた。物語には、祇園社南楼門の茶屋・中村屋(楼)の娘・うず女(め)が彩りを添える。 「祇園の賽客」と「牢屋絵師」は、澤田作品で描かれることが多い、男のもつ嫉妬心がテーマになっている。「夜の腕」は、社会のはみ出し者となってしまった男の最期を描きながら、どことなく華やかな余韻が残る作品。幼い子を事故で亡くした親の悲しみを描く「暗い桜」は、現代にも通じるテーマ。 大野由美子さんの解説が本当に解説っぽくて読書ガイドになり、大いに参考にしたい。 物語●「祇園の賽客」祇園社の警固役を兼ねる神灯目付役(お火役)の植松頼助は、夜明け前に、賽銭箱に銭を投げ入れるらしい音を聞いた。堅い大きな音で、なまなかな銭ではないように思われた。ここ数ヵ月の間、誰かがときどき祇園社に参拝にきて、賽銭箱に数両の小判をこっそりと投げ込んでいくのである…。「夜の腕」頼助は、見回りに出て、酔っ払っていた初老の男を拾った。男は両替屋という東芝居小屋の正蔵という者で、ぐでんぐでんになりながらも、口の中でチャカチャカチャンと拍子をとっていた…。「暗い桜」祇園社南鳥居内で茶屋・中村屋(楼)を営む重郎兵衛は、早朝の参拝で、何者かが祇園社の西楼門に矢を射かけるのを目撃した…。「牢屋絵師」四条堺町の質屋の前で、両手足を海老のように縛られた小僧・佐吉が、闇の路上で反転しながら頭をもたげ、猿轡の中から必死に助けを呼んだ。痩せた一匹の野良犬がかれのそばに現れた…。 目次■祇園の賽客|夜の腕|暗い桜|牢屋絵師|あとがき/解説 大野由美子/著作リスト ここから始まる本のリンク▼『足引き寺閻魔帳』(澤田ふじ子著・徳間文庫) |
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獅子の座 足利義満伝 (ししのざ・あしかがよしみつでん)
平岩弓枝
カバー:原田維夫 |
♪通勤用の本を忘れて活字中毒の禁断症状が出て、昼休みに、勤務先の町で本屋さんを探したが駅から少し離れた書店は廃業していた。都内では信じられないことだが、E駅には、文庫本を置いている書店が一軒もない。帰路の乗換駅で途中下車して、駅前の小さなブックストアでGetしたのがこの本。平岩さんはお気に入りの作家の一人だが、室町時代の偉い人の評伝ということで、買う機会を逸していた作品である。足利三代将軍義満というと、金閣寺をつくり、世阿弥を贔屓にしたという派手な面と、明との貿易を行い、室町幕府を盤石なものにしたという教科書に載っているような偉い人というイメージ、天皇家に代わろうとしたという疑惑が思い浮かぶ。ただ、全体として人間らしさが感じられずに、ちょっととっつきにくい印象があった。アニメの『一休さん』は例外として。 平岩さんは、日本史の中で巨人ともいうべきこの人物を血の通った一個の人間としてドラマティックに描いている。華やかな栄光の陰にある孤独を浮き掘りにした傑作。物語の前半は、乳人・細川玉子に丹精こめて慈しみ育てられる若き日の足利義満を描く青春編といったところか。後半は、壮大な誰もなしえなかった夢に向かう将軍義満の姿がスケール大きく描かれていて面白い。関白二条良基の甥で、足利義満の猷子となり、仏教界の第一人者となる三宝院満済(まんさい)に関心をもった。 読後、義満の姿と織田信長がオーバーラップしてきた。中世から近世における天皇の存在というものはどういうものだったのか思い至ることが少しできた。なぜ、幕末に足利三代将軍の木像梟首事件が起こったのかもわかった。 物語●延文三年八月、二代将軍足利義詮の側室紀良子が男児を産んだ。義詮の嫡男、後の三代将軍・足利義満である。春王と名付けられた若君に、初代将軍足利尊氏の正室赤橋登子の発案で、乳人(めのと)が付けられた。阿波・伊予守護で、足利家の重臣細川頼之の妻で、侍従持明院藤原保世の娘・玉子であった。玉子は十九歳の新妻で、十日ばかり前に男児を死産したばかりで、その衝撃は大きかった。玉子が乳人に召された翌日、新妻を若君に奪われる結果になった夫の細川頼之は中国路に出陣した。春王(足利義満)は、乳人の細川玉子の丹精によって順調に育ったが両親との縁は甚だ薄かった…。 目次■青龍の章(その一/その二/その三/その四/その五/その六)|朱雀の章(その一/その二/その三/その四/その五/その六/その七)|白虎の章(その一/その二/その三/その四/その五)|玄武の章(その一/その二/その三/その四/その五/その六)|解説・伊東昌輝 ここから始まる本のリンク▼『バサラ将軍』(安部龍太郎著・文春文庫)、『とんち探偵一休さん 金閣寺に密室』(鯨統一郎著・祥伝社文庫) |