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後家長屋 町之介慕情 (ごけながや・まちのすけぼじょう)
阿部牧郎
カバー装画:菊地ひと美 |
♪エロチックな時代小説ということで、敬遠していたが、今年はいろいろなものに挑戦したくなり、入手。間口を広げたいと思う。読み進めると、単なる艶笑話ではなく、連作形式で、町之介が大坂の町に馴染み、本屋として地歩を固め成長していく姿が描かれていてぐんぐん読めた。住民百人のうち、武士は二人ぐらいといわれる町人の町、大坂。その町人の町で陸奥の小藩の下級武士だった町之介が経験するカルチャーショック。文化や価値観の違いに順応していく息子や孫に比べて、奥州訛りが抜けず、武士の人生観を押し付ける母・徳江の描き方が面白い。 町之介と、奔放に性を楽しむ浪花女たちとの交わり合いを通して、大坂の経済合理主義や建て前なしの健全な本音主義が読み取れる。バイタリティを感じて元気になる一冊だ。時代小説で、取り上げられることの少ない大坂の町の風物や風俗がビビットに描かれている点も注目したいところ。とはいえ、土地鑑がないので、うまくイメージできないところもあるが…。 物語●大坂島之内鰻谷にで貸本屋兼本屋「泰平堂」を営む町之介は、27歳の若さで、もとは陸奥三戸藩で五十石取りの下級武士であった。父親が酒席で無礼を働いた豪商の手代を斬り、これがもとで切腹、家は取り潰しにあった。事件のおり、藩の大坂蔵屋敷に勤めていて、そのまま浪人。三十両を借りて、母と子を大坂に呼びよせ、貸本屋となった。「いつかは弘前の豪商を上まわる富を貯えて、そいつを弘前から追っ払うの」を夢に、商人の町・大坂で、武士を捨てて町人になり、商いの世界に飛びこんだ町之介には、戸惑うことばかりだった。本屋でだまって客を待っていても成り立たないと、母に店番を任せて、本を担いで朝から晩まで外回りをする町之介は、大きな塗物屋の内儀と娘に、本の注文を受けた…。 目次■艶本/縁結び/後家長屋/抓られた女/間男/筆おろし/なんでもあり/解説 東郷隆 |
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本能寺六夜物語 (ほんのうじろくやものがたり)
岡田秀文
カバーデザイン:泉沢光雄 |
♪1998年『見知らぬ侍』で第21回小説推理新人賞、2002年『太閤暗殺』で第5回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞の気鋭の新人ということで期待。 山寺に集まった六人が、一夜ずつ、自分の人生を変えた「本能寺の変」を語るという趣向。六人の語りを通して、本能寺の変の知られざる真相が明かになるという設定が面白い。難しいスタイルに挑戦しているところに好感が持てる。同朋衆の一人が語る、その夜の信長の姿。穴山信君の家臣が語る、家康の伊賀越え。酒屋の主が語る、信長の家臣の颯爽たる振舞い。京都奉行の用人が語る、変の後に出没した黒衣の鬼の正体。上臈付きの女中が語る、森蘭丸の美少年ぶり。そして、明智光秀の家臣が語る、恐るべき本能寺の変の真相。それぞれの話が興味深くて一気に読み進めた。 第二夜と第六夜のエピソード、第五夜の恐ろしさがとくに印象に残る。 物語●元和元年夏、「本能寺の変」より三十余年、ある山寺に六人の人々が集められた。六人は、身分や職業を異にし、武士もあれば僧侶も商人もいて、尼も一人混じっている。一様に中年を越え、中にはかなり高齢の者もいた。六人は六つの蝋燭の灯りがともる部屋に入ると、円形に等間隔で置かれた燭台の脇に順々に座っていく。そして、全員が腰を下ろすと一人の僧侶をのぞき、いっせいに自分の脇に置かれた蝋燭の灯を吹き消した。僧侶は三十余年前の事変について話しはじめた。集まった者立ちはみな、「本能寺の変」により、自分の人生を大きく狂わされた者たちであった…。 目次■序/第一夜 最後の姿/第二夜 ふたつの道/第三夜 酒屋/第四夜 黒衣の鬼/第五夜 近くで見ていた女/第六夜 本能寺の夜 |
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斬剣 冥府の旅 同行屋稼業 (ざんけん・めいふのたび・どうこうやかぎょう)
中里融司
カバーイラスト:藤田香 |
♪旅の危険を防ぐという同行屋という稼業の設定が面白い。中央集権ではなく、多くの国に分かれて統治されていた江戸を考えると必要性を感じる職業に思われる。吉宗の秘密をめぐる、田沼意次の密命という感じで、伝奇小説を期待させる設定で物語は始まる。第二話、第三話も、田沼がらみのストーリーかなと思ったら、あっさり裏切られた。第二話は、四代続いた江戸の菓子屋の娘・お佐知が露木雫を同行者に、軽井沢へ菓子職人を捜しに行く話。第三話は、蝋燭問屋の番頭が仕事を退き、故郷の米沢の先の塩野へ帰るのに、同行する話。いずれの旅も一筋縄ではいかない展開。だから、同行屋が必要とされる訳である。 新当流の桜見歓十郎が脱藩した経緯とそのライバル・新陰流の谷口甚内との対決。旅を続けるうちに、江戸城内で黒子として自らの存在を消して空気のように同化しようと努めていた泉阿弥が徐々に人間性を取り戻していくのが見どころ。 物語●江戸・日本橋の口入れ屋・橘屋幸助は、新当流の遣い手桜見歓十郎(さくらみかんじゅうろう)や男装の麗人・露木雫(つゆきしずく)を使って、旅人の危険を防ぐ同行屋稼業を生業にしていた。老中・田沼意次の密命を受けた同朋衆の吉良泉阿弥(きらせんあみ)は、同行屋の桜見歓十郎を伴に、紀州へ向かう。下手をすると、多くの血が流れかねないという危険な仕事。紀州の寺から秘仏の大黒天を持ち帰ることを依頼された…。 目次■序章 旅ゆく剣/第一話 八代様の大黒天/第二話 芸人お嬢/第三話 斬剣 冥府の旅/あとがき |
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禁じられた敵討 (きんじられたあだうち)
中村彰彦
装幀:神長文夫 |
♪幕末から明治維新にかけてを題材にした、短篇集。自分自身への戒めもこめて、中村さんの作品はもっと読まれてしかるべきと思う。心情的にどちらかといえば、佐幕派のため、幕末の奥羽・東北ものは敗者の立場のために可哀相すぎて、なかなか読めなかったが、この作品集を読んでみて、悲惨なだけじゃない、一本筋が通った男たちの話も悪くないなあ、と思った。 とくに二本松少年隊を描いた「木村銃太郎門下」と、小栗上野介の遺臣たちを描いた「小又一の力戦」には、目頭が熱くなった。 奥羽のサムライたちに対する作者の眼差しに比べて、「密偵きたる」や「上役は世良修蔵」、「禁じられた敵討」で描かれる官軍への作者の筆は冷厳だ。同じ長州藩士の品川弥二郎に、「世良とはひどいのが行くな」と言わしめた世良修蔵をはじめ、明治の主権を握った長州にしても、有為な人材が次々と維新の犠牲となり、あとには粗野な人物も少なくなかったいのだなあ。 長篇で読んでみたい題材を扱った短篇ばかりだ。今まで敬遠してしまったテーマだが、今年は少しハマってみたい。 物語●「密偵きたる」幕末の京、三条大橋に足利幕府三代の将軍の木像と位牌が梟首台にさらされた。会津藩士・大庭恭平らの仕業であるが、岡山藩士も関与していることがわかり、新選組の松山幾之介が岡山藩内に潜入することになった…。「近藤勇を撃った男」墨染の街道で、新選組の近藤勇が狙撃された。撃ったのは、元薩摩藩士で新選組にも所属していたことがある、富山弥兵衛であった…。「上役は世良修蔵」仙台藩領松島に、官軍の奥羽鎮撫総督軍が上陸し、藩主伊達陸奥守慶邦に会津征討を命じた。その中には世良修蔵が下参謀として加わっていた…。「木村銃太郎門下」西洋砲術を修めるべく伊豆の韮山代官所へ留学していた、二本松藩砲術師範の嫡男・銃太郎が帰ってきた…。「小又一の力戦」上州の烏川で罪なくして斬首された小栗上野介忠順の家来・佐藤銀十郎、塚越富五郎、中沢兼五郎が三国峠を越えた魚沼郡浅貝宿を守る会津藩の町野源之助のもとに現れた…。「禁じられた敵討」北多摩郡の久米川の元戸長で地元の名族・川上助左衛門が、祭りの夜の帰り道に何者かに襲われて、斬殺された…。 目次■密偵きたる|近藤勇を撃った男|上役は世良修蔵|木村銃太郎門下|小又一の力戦|禁じられた敵討|あとがき|解説 山内昌之 |
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華町源九郎 江戸暦 はぐれ長屋の用心棒 (はなまちげんくろう・えどごよみ・はぐれながやのようじんぼう)
鳥羽亮
カバーイラストレーション:蓬田やすひろ |
♪鏡新明智流の遣い手というヒーローということで食指が動き、読み始めたが、五十五歳のやもめで、五十石の貧乏御家人の家督を息子に譲り、ひとり長屋に住む貧乏牢人と知って、ちょっと不安な感じをもった。しかし、読み始めると、御家騒動をモチーフにし、推理あり、チャンバラあり、鳥羽ワールド炸裂といった感じで、惹き込まれた。華町源九郎の相棒が、田宮流居合の達者で、西両国広小路で居合抜きの芸を見せることを生業としている、四十八歳、生まれながらの牢人・菅井紋太夫。ともにシニアというのが、面白い。二十六歳の研師・茂次と元岡っ引で中風を患い足が少し不自由な孫六の二人を始め、本所相生町一丁目のはぐれ長屋の住人たちが集団で、源九郎と源九郎が長屋に連れてきた男の子・吉松を助けるところが物語の真骨頂。 物語●竪川で簀巻きの男の死体が上がった。隠居した御家人ではぐれ長屋に住む華町源九郎は、死骸を見に行った帰りに、野次馬から少し離れた場所に、子持ちのように見える女を見かけた。その翌朝、源九郎は、死体が見つかった、竪川の川岸で、五、六歳くらいの男の子と出会った。身なりは町人のもので死骸の身内らしいが、武家の子のような物言いで、家がないというので、男の子を長屋に連れて戻ることになった…。 目次■第一章 はぐれ長屋/第二章 出自/第三章 海辺の屋敷/第四章 千鶴/第五章 相対死/第六章 再会 ここから始まる本のリンク▼『居眠り磐音 江戸双紙 陽炎ノ辻』(佐伯泰英著・双葉文庫)、『天保剣鬼伝 首売り』(鳥羽亮著・幻冬舎文庫) |
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にたり地蔵 公事宿事件書留帳 七 (にたりじぞう・くじやどじけんかきとめちょう7)
澤田ふじ子
カバー装画:蓬田やすひろ |
♪江戸時代の弁護士事務所である公事宿の居候・田村菊太郎が活躍するシリーズ第七作。新年1月より、NHK金曜時代劇で、『はんなり菊太郎2』(第1シリーズは2002年11月に放映)が始まり、また「公事宿事件書留帳」シリーズを読んで見たくなり、手にする。 「半七捕物帳」以降、江戸の町の風情や市井の様子を今に伝える作品は多数あるが、澤田さんの「公事宿事件書留帳」のように、江戸の昔の京の風物、市井、ことばを再現する作品は、貴重で興味深い。 主人公の田村菊太郎は、京都東町奉行所同心組頭の家に、長男として生まれたが、訳あって現在は公事宿に居候する身。兄に代わり組頭を務める弟・銕蔵、公事宿の主・源十郎との連携プレーで、人情味あふれる形で、事件を決着させて行くところが、捕物帳としての見どころ。江戸時代の京を舞台にしながら、若者の暴力や金銭欲、嫉妬など現代に通じるテーマを扱っているのが澤田さんらしい一本筋の通った作品である。 「ふるやのもり」の正体(古屋の漏り)があきらかになる、話がほのぼのとして出色の出来。「もどれぬ橋」の被害者の職業は、京らしく杼職人。杼(ひ)とは、機織りのとき横糸を巻いた管を入れ、縦糸の中をくぐらせる小さな舟形の道具のこと。樫の木を削って作られていた。また、一条戻橋は、平安時代、文章博士・三善清行死去の知らせを受けた子の浄蔵が、急いで紀州・熊野から帰る途中、この橋の上で父の葬列に出会った。嘆き悲しんでいるところ、死んだはずの清行が、一時、蘇生したとの伝説に由来するという。堀川にかかるこの橋は、蘇りの場所であり、江戸時代は罪人を晒す場所であり、縁談のある者は決してわたらなかったという。こんなエピソードが随所に散りばめられているのも澤田作品の魅力の一つだ。
『公事宿事件書留帳一 闇の掟』 物語●「旦那の凶状」奉公人たちが主となり、不振店から繁盛するようになった居酒屋枡伝を、前の主が欲を出して公事にかけて、店を自分の手に取り戻せないかと、公事宿鯉屋に相談に来た…。「にたり地蔵」瀬戸物問屋尾張屋の隠居お栄は、地蔵堂へのお参りを十数年、毎朝晩、欠かさなかったが、ある朝、その地蔵さまの前で倒れた…。「おばばの茶碗」長屋の大家の小間物問屋夷屋の姑お佐世が亡くなり、嫁のお梅は、姑の使っていたものを形見の品として、長屋のものに分け与えたが…。「ふるやのもり」お信の長屋で田村菊太郎は、長屋の住人で、お人よしで面倒見のいい、川人足の助五郎が誰かを長屋に連れこむ音を聞いた…。「もどれぬ橋」一条戻橋の近くの人通りの多い場所で、杼職人の若者が喧嘩の末に殺されたが、目撃者はなかなか現れなかった…。「最後の銭」丹波屋町通りの角の空き地で、古銭が大量に入った大壷が見つかり、大騒動が…。 目次■旦那の凶状|にたり地蔵|おばばの茶碗|ふるやのもり|もどれぬ橋|最後の銭|解説 安宅夏夫 |
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完四郎広目手控 天狗殺し (かんしろうひろめてびかえ・てんぐごろし)
高橋克彦
装画:安藤広重「東海道五十三次」より(ボンカラーフォトエージェンシー) |
♪江戸の広告代理店(PR会社兼出版社に近いかも)・広目屋「藤由」に居候する剣の達人・香冶完四郎が活躍する、変格捕物帖シリーズ第2弾。前作『完四郎広目手控』が、歌川広重の「名所江戸百景」をモチーフにして物語を組み立てているが、今回は、同じ広重の「東海道五十三次」「京都名所」「「木曾街道六十九次」などを題材に選んでいる。ホームズ役の完四郎とワトソンというよりはうっかり八兵衛的な役廻りの魯文に加えて、龍馬と紅一点・お杳が彩りを添える豪華な珍道中ものとなっている。宿場ごとの情景や風俗や旅情が盛りこまれて面白い。 鬼や怨霊、超常現象を描くことが少なくない作者が、主人公完四郎に、「幽霊はともかく、化け物はな。このご時世に狐や狸でもないだろう。人の方がもっと悪さをする」と言わせ、科学的な推理と現代的な論理で、快刀乱麻に怪事件を解くところが見どころのひとつだ。 物語●広目屋の藤由(藤岡屋由蔵)の居候・香冶完四郎(こうやかんしろう)は、尊皇攘夷で激動する京の情勢を瓦版で知らせるという企画のために、戯作者・仮名垣魯文(かながきろぶん)と、京に向けて旅立つことになった。二人と同行するのは、土佐へ帰るという坂本龍馬と、京都の蘭学者広瀬元恭の時習堂に入門することになっている江ノ島の女医師・お杳。四人を待ち構える怪事件とは…。 目次■第一話 日本大曲り/第二話 鬼の面/第三話 はぐれ独楽/第四話 お岩怪談/第五話 斬魔剣/第六話 広芥屋異助/第七話 白魔王/第八話 竜の穴/第九話 首化粧/第十話 冥土案内/第十一話 天狗殺し/第十二話 白雪火事/解説 細谷正充 ここから始まる本のリンク▼『はやぶさ新八御用旅 東海道五十三次』(平岩弓枝著・講談社) |
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本能寺の首 人間の剣 戦国編(一) (ほんのうじのくび・にんげんのけん・せんごくへん1)
森村誠一
カバー写真:AM |
♪一振りの古刀・無銘剣が、動乱の時代の闇を斬る“森村通史”「人間の剣」シリーズの文庫での刊行が始まった。帯に日本ミステリー文学大賞受賞と銘打ってあった。一振りの剣をめぐる物語というと、気鋭の作家たちによるリレー形式の『運命の剣 のきばしら』を思い出すが、本作品の剣は以下のように描写されている。 長さ二尺四寸(72.72cm)、元幅一寸(3.03cm)、反り七分(2.12cm)、柄頭は鉄、縁も鉄、柄は鮫皮で包み、組糸は菱に巻いている。目貫なし、青黒い板目肌、沸出来で刃紋は涛瀾に乱れ交り、鍔は丸形鉄板、鍔の鍍金も鞘の漆も剥げている。青黒い地肌に叢雲のような刃紋が簇がり立ち、深海のように名状し難い色合いを帯びていた。 戦国編は単行本では1冊だったものが、文庫版では『本能寺の首』と『関ヶ原の雨』の2分冊になっている。そのため、この巻では、織田信長の中心に無銘剣がいろいろな人から人の手に渡されている構成になっていて、無銘剣を通して戦国史が俯瞰できて面白い。 「人間の剣」シリーズは、今後毎月1冊ずつ刊行されて行くそうで、楽しみである。 物語●「桶狭間の露」松平竹千代(のちの徳川家康)の付人・植村新六郎は、無住寺で盗賊より無銘剣を譲られた…。「川中島の霧」百姓の丑松は妻と子を、村に押し込んで来た武田、あるいは上杉軍の兵士によって連れ去られ、両軍に対して無銘剣をもって復讐戦を挑もうとした…。「売買された布教」宣教師ルイス・フロイスは、丑松より無銘剣を譲られた…。「姉川の血飛沫」小谷城では、浅井家の重臣たちが集まり、主君浅井長政を囲んで、越前に侵攻した織田信長への対応策を検討していた…。「人間の敵」浅井家の重臣・遠藤喜右衛門の郎党・富田才八は、主人より信長を討つことを託され、無銘剣を授けられた…。「長篠の十字架」鳥居強右衛門は、周囲から「うど」と呼ばれて蔑まれていたが、主君の奥平信昌より温かい言葉をかけられ感激し、一命を投げ打つ覚悟をした…。「三日月の誓い」三河国設楽原の古戦場に、尼子浪人・山中鹿介がやってきた…。「悲運の英器」安土に家康の使者として派遣した家老・酒井忠次が浜松に帰ってきて、悪い報せをもたらした…。「本能寺の首」明智光秀は、家康と穴山梅雪をもてなすための接待役を命じられたが、料理のことで信長より叱責され、饗応役を解任された…。「小栗栖の闇」光秀は本能寺で信長を討った後、その勢いに乗って秀吉討伐に向かうことをせずに、畿内の平定を優先させたが…。 目次■桶狭間の露|川中島の霧|売買された布教|姉川の血飛沫|人間の敵|長篠の十字架|三日月の誓い|悲運の英器|本能寺の首|小栗栖の闇 ここから始まる本のリンク▼『運命の剣 のきばしら』(宮部みゆきほか著・PHP文庫) |
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月を吐く (つきをはく)
諸田玲子
カバー:森田曠平「曲水の宴」山種美術館蔵 |
♪徳川家康の偉人らしくない、せこさというのが生まれた三河という風土から来るものなのかと思っていたが、長い人質生活から来ているとみた方がいいようだ。それはともかく、家康の正妻・築山殿というと、悪妻の典型のように描かれてきたが、果たして…。期待に違わず、女性作家らしいきめ細やかさと情感を込めて瀬名(築山殿)を魅力的に描き、瀬名を通して、新しい家康像が浮かび上がってきた。 瀬名を中心に姑・於大(家康の生母)と信康の嫁・五徳(信長の娘)の嫁姑関係が、戦国時代の今川、織田家と徳川家の関係を投影していて面白く、その描かれ方も橋田寿賀子ドラマ風で読ませる。とくに於大が泉ピン子風のキャラになっていていい。 歴史をなぞりながらも、波瀾万丈のロマンに仕上げた筆力は見事で、読後感も快い。
物語●天文十二年(1543)秋、今川家の重臣・関口刑部少輔親永(せきぐちぎょうぶしょうゆちかなが)は、丸子泉ヶ谷の吐月峰柴屋寺の住職・宗物より八歳の男の子・高橋又五郎(広親)とその姉・きくねを託された。親永には、吐月峰で譲り受けた姉弟を、昨年生まれたばかりの愛娘の瀬名姫(おふく)の従者にと考えて連れ帰った。 目次■序/第一章 満月/第二章 無月/解説 寺田博 |
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魔剣士 黒鬼反魂篇 (まけんし・こつきはんごんへん)
菊地秀行
カバー装画:藤原ヨウコウ |
♪菊地秀行さんの時代小説はぜひ、読みたいと思いたいと願っていたところ、文庫で新登場した。ただし、帯の「抱かれたい剣士 NO.1!」というキャッチは気恥ずかしい。戦国時代を舞台に、西行法師の反魂(はんごん)の法(野晒しをもとに人を造る方法)をモチーフにした、山田風太郎作品を彷彿させる、荒唐無稽・奇想天外な伝奇小説。大いに楽しめた。 主人公の奥月桔梗が生身の人間ばなれしていて、何とも魅力的だ。光秀、秀吉、そして謎の木乃伊武将・朱物(しゅもつ)が登場し、作品をスケールアップさせている。 あとがきにあった、最近の小説傾向を評して、「みな時代小説へ逃げる」というある編集者の言葉がとても気になった。作者がその言葉に対して反論を述べ、時代小説と真剣に向き合ったおられる姿勢が好ましく。次巻の『魔剣士 妖太閤篇』にも大きな期待を寄せたい。 物語●織田信長が本能寺で滅んだとき、ひとりの捕虜が明智光秀の前に引き出された。皮膚そのものが真っ黒な男―信長が宣教師ヴァリニャーノから貰い受けた黒坊頭・ヤスケである。丁度、同じころ、木曾の山中の黒々とそびえる円蓋状の岩屋で二十年の歳月を眠り続けた一人の男が奥月の長老・源斎の手により、目覚めた―奥月桔梗(おくづきききょう)の誕生である。桔梗は、源斎一族の救い主として期待されたが…。 目次■第一章 誕生朱記/第二章 眠り人/第三章 闇人縁起/第四章 西行法師の遺産/第五章 京の魔人たち/第六章 死生を弄ぶもの/第七章 妖しの譜/第八章 忍者二種/第九章 天下人との遭遇/第十章 生誕の地へ/第十一章 不死を呼ぶ不死/第十二章 茫乎として/あとがき |