新・極楽の読書録
2003年12月・師走の巻

居眠り磐音 江戸双紙 狐火ノ杜 by 佐伯泰英
五稜郭の兄弟 by 高橋義夫
柳生魔斬刀 by 近衛龍春
劇盗二代目日本左衛門 八州廻り桑山十兵衛 by 佐藤雅美
たそがれ清兵衛 by 藤沢周平



おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

たそがれ清兵衛
(たそがれせいべえ)

藤沢周平
(ふじさわしゅうへい)
[武家]
★★★★☆ [再読]

カバー:村上豊
デザイン:新潮社装幀室
解説:縄田一男
時代:明示されず
場所:架空の場所。いずれも海坂藩ではない。
(新潮文庫・514円・91/09/25第1刷・03/11/20第52刷・327P)
購入日:03/12/14
読破日:03/12/29

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たそがれ清兵衛 遅れ馳せながら、ようやくという感じで、『たそがれ清兵衛』(山田洋次監督)のビデオを見た。十数年前に読んだ原作の記憶が曖昧で、読み返してみたくなった。
読み始めてみて、以前に読んだころの記憶がかなり薄れていて、初読のときのように楽しめた。映画は、「たそがれ清兵衛」のほかに、「祝い人助八」のエピソードも取り入れていることがわかった。この作品のしみじみとした味わいは歳を重ねるほど、出てくるのだろう。
「ひとは他人の美を見たがらず、むしろ好んでその醜を見たがるものだからでもあろう。…」(「うらなり与右衛門」P49より) それぞれの物語(一話読みきりの連作形式)の主人公たちは、うらなり、だんまり、ごますり、ど忘れ、不潔、泣き言ぐせ…と、弱点をもっている中年の下級藩士である。蔑称めいた渾名を持ちながらも、人間的には真っ当で、しかも剣の名手であり、肝心なときに真価を発揮するという設定が、会社で疲れた現代のサラリーマンには、共感のもてるヒーロー像となっている。

物語●「たそがれ清兵衛」勘定組の井口清兵衛は、無形流の名手ながら、長患いの妻を抱え、家事に力を注ぐために、たそがれ清兵衛と渾名されていた…。「うらなり与右衛門」右筆勤めの三栗与右衛門は、無外流の遣い手で美人の妻をもちながら、色青白く細長い顔でアゴがしゃくれているために、うらなりと嘲られていた…。「ごますり甚内」雲弘流の秘伝を授けられた川波甚内は、だれかれ構わず、人前で堂々と上役のへつらい機嫌取りをしているために、ごますり甚内と渾名されていた…。「ど忘れ万六」かつて林崎夢想流の折り紙付きの居合の名手だったが、ど忘れが原因で普請組勤めから隠居した樋口万六は、嫁から相談事を打ち明けられた…。「だんまり弥助」馬廻組に属する杉内弥助は、今枝流の剣士として高名だったが、非常に無口なために、藩中で、変わり者と見られていた…。「かが泣き半平」普請組の鏑木半平は、心極流の極意を得ていたが、こらえ性がなく泣き言をよく言うので、かが泣きと呼ばれていた。その半平があるとき、大柄な若い武士に苛められている親子を助けた…。「日和見与次郎」郡奉行下役を勤める藤江与次郎は、直心影流の遣い手ながら、藩の派閥抗争に巻き込まれた父を見て、徒党を組むことを嫌い、日和見と言われるようになっていた…。「祝い人助八」御蔵役の伊部助八は、藩主の御蔵視察の際に、身なりの汚さ・悪臭を注意され、祝い人(ほいと=物乞い)助八と渾名されるようになった。彼は香取流の名手でもあったが…。

目次■たそがれ清兵衛|うらなり与右衛門|ごますり甚内|ど忘れ万六|だんまり弥助|かが泣き半平|日和見与次郎|祝い人助八|解説 縄田一男

ここから始まる本のリンク▼『秘剣龍牙』(戸部新十郎著・徳間文庫)

劇盗二代目日本左衛門 八州廻り桑山十兵衛
(げきとうにだいめにほんざえもん・はっしゅうまわりくわやまじゅうべい)

佐藤雅美
(さとうまさよし)
[捕物]
★★★★☆

装画:風間完
カバーデザイン:大久保明子
解説:島内景二
時代:文政九年(1826)
場所:虎之御門外、栃木宿、小石川同心町、藤沢遊行寺、下総関宿、佐原、大戸川村、結城、深谷、御堂坂、猿ヶ京,新潟、吉川村、下総小金、上州大田ほか
(文春文庫・514円・03/12/10第1刷・349P)
購入日:03/12/10
読破日:03/12/20

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劇盗二代目日本左衛門 八州廻り桑山十兵衛 八州廻り・桑山十兵衛の活躍を描く、『八州廻り桑山十兵衛』『殺された道案内』に続く、シリーズ第3弾。
タイトルにある、劇盗とは、天下を盗まんとする大盗賊のこと。日本左衛門は、『白浪五人男』(河竹黙阿弥の『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ』)の日本駄右衛門(にっぽんだえもん)のモデルになった大盗賊。遠州日坂の出身で、本名、浜嶋庄兵衛といい、父は日坂宿常駐の七里役という飛脚を務める、尾張藩の下級藩士。美濃、尾張、三河、遠州、駿河、伊豆、近江、伊勢をまたにかけて、大勢で押し込み、金銀を強盗し、延享四年正月に自訴し捕らえられて、獄門に処せられている。
シリーズ3作目ということで、主人公の桑山十兵衛が物語になじんできて、面白い。やもめ暮らしのために、家族との交流は少ないが、小者の五兵衛や粂蔵、善八らとのやりとりも楽しい。単なる捕物巧者ぶりばかりでなく、地方行政的な面でも腕を振るうところが新鮮。
日本左衛門ばかりでなく、老中水野出羽守忠成や、儒学者・杉崎斂堂(モデルは松崎慊堂らしい)らを登場させ、巧みに物語の時代を浮き彫りにしている。表紙にも描かれているが、虚無僧について、詳しく説明されていて役だった。

物語●関東取締出役(しゅつやく)、通称八州廻りの桑山十兵衛は、公事方勘定奉行石川主水正の命を受けた組頭真田九右衛門より、関八州の悪党者の江戸護送費用の負担軽減のために、組合村の組織化を推進するように命じられた。その一方で、小伝馬町の牢破りをした野州都賀郡合戦場村の百姓甚九郎の行方を追っている八州廻り・藤縄弥五郎の行状を探るように指示を受けた。
馬市で有名な栃木宿にやってきた十兵衛は、馬を買うという名目で滞在していたが、そこで連銭葦毛の駿馬と出会った…。

目次■大山鳴動馬一匹|劇盗日本左衛門の嘲笑い|浪人隆四郎の笑み|彫物大名の置き土産|女手形の女|虚無僧の後ろ姿|蔑みの視線|斂堂の陰謀|解説 島内景二

ここから始まる本のリンク▼『武蔵野水滸伝』(山田風太郎著・小学館文庫)、『白浪五人男』(鈴木輝一郎著・双葉社)

柳生魔斬刀
(やぎゅうまざんとう)

近衛龍春
(このえたつはる)
[伝奇]
★★★☆☆☆

カバーイラスト:西口司郎
カバーデザイン:多田和博
編集協力:長谷川和人
時代:慶長十二年九月(関ヶ原合戦から七年後)
場所:堺、奈良、宝蔵院、京・豊光寺、上京、梅小路村、甲賀、江戸城、下京、柳生城、駿府ほか
(小学館文庫・638円・03/11/01第1刷・349P)
購入日:03/11/05
読破日:03/12/19

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柳生魔斬刀 平成の『魔界転生』ついに誕生!というキャッチに惹かれ、Get! 柳生宗矩が主人公の伝奇時代小説。
柳生宗矩という、怜悧な野心家で、体制的なイメージで描かれることが多いせいか、なかなか共感をもちにくいキャラクターだ。この作品は、若き日の柳生宗矩を主人公としていることもあり、家族や家臣への愛情や、剣法にかける思いが垣間見えて面白い。
天下無双の鑓の遣い手、宝蔵院胤栄や居合いの林崎甚助重信などの剣法者も登場し、チャンバラ好きにもたまらないところ。柳生新陰流の印可を父・石舟斎から授けられなかった(武芸面でやや劣ると見られている)宗矩が、天下最強の魔敵に挑むために、柳生家秘伝の“魔斬刀”を武器に立ち向かうシーンがいい。
出雲の阿国、絵師狩野光信、名医秦宗巴、曲直世正紹(二代目道三)ら同時代の人物が次々と宗矩と関わってくるのが、山田風太郎さんの伝奇小説を彷彿させて楽しい。

物語●徳川家の兵法指南役・柳生又右衛門宗矩は、堺の徳川屋敷で、従者の九蔵とともに、赤い彗星(箒星)を見た。箒星が現れると、世が乱れるといわれる。折りしも、徳川家は豊臣家と秀吉恩顧の大名との切り離しを行い、あるいは取り潰しなど、徳川政権を確立させるための画策をあらゆる方面から実施している最中であった。
彗星が通過した翌日、宗矩は、親友である沢庵宗彭禅師と会った。「箒星は貴殿ら侍の欲を写す鏡とともに、欲を満たそうとさせる病を振り撒いているかもしれぬ。とりわけ侍はかかりやすい病だ。気をつけるがよかろう」と忠告される。やがて、宗矩は、謎の連続惨殺事件に巻き込まれるようになる…。

目次■第一章 蒼魔落下/第二章 魔物探索/第三章 蒼魔一閃/第四章 妖舞誘惑/第五章 蒼魔残像/第六章 甲賀魔散/第七章 電撃剛刀/第八章 魔鬼繚乱

五稜郭の兄弟
(ごりょうかくのきょうだい)

高橋義夫
(たかはしよしお)
[幕末]
★★★☆☆

カバーイラストレーション:野中昇
カバーデザイン:桜井勝志
時代:嘉永四年(1851)
場所:久留米藩領内古飯村、大坂・今橋筋尼ヶ崎、過書町、江戸・愛宕下、浅草元鳥越、木挽町一丁目、横浜・吉田町、入舟町、野毛坂ほか
(廣済堂文庫・629円・03/11/01第1刷・268P)
購入日:03/11/15
読破日:03/12/11

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五稜郭の兄弟 農民の子から、御家人の養子となって、「英国歩兵操典」を翻訳し、兵学を学び幕府の兵制を支えた古屋佐久左衛門と、緒方洪庵やヘボンに師事し、一橋家の表医師・高松凌雲の兄弟が主人公。高松凌雲の名は知っていたが、古屋佐久左衛門にはほとんど記憶がなかった。幕末小説はいくつか読んだが、まだまだスポットをあてていい人物はいるものだなあ。
長岡藩が舞台となる、戊辰戦争が紙幅を割いて描かれていて興味深かった。
滅び行くものへのセンチメンタリズムからか、心情的には佐幕派であるが、慶喜、海舟、榎本武揚の三人にはなかなか共感できないのはなぜかなあ。古屋佐久左衛門と高松凌雲の兄弟は農民出身だが、同じように根っからの武士でない新選組の近藤勇や土方歳三らが、より武士らしく生きて死のうとする姿と対照的である。出処進退というよりも散り際の潔さが、時代を経過しても、感動を与えるのかもしれない。

物語●久留米藩領内古飯村の庄屋の高松与吉の三男で十六歳の権平は、次兄・勝次が医者になるために村を出奔して長崎に向かうところを見送った。権平は、別れる悲しみよりも、羨望の気持ちが強いことに気づいた。
やがて、兄・勝次は、医者の夢やぶれて、江戸で御家人の養子となり、古屋佐久左衛門と名前を変える。弟の権平も、兄と同じように、医者になるべく出奔し、大坂に出たが、医師・春日寛平のもとには入門できず、佐久左衛門のいる江戸で、高松凌雲と名乗り、医学修業をすることに…。

目次■第一章 籾櫃/第二章 奥詰医師/第三章 三兵伝習/第四章 万国博覧会/第五章 衝鋒隊/第六章 敗走/第七章 五稜郭/後記

ここから始まる本のリンク▼『峠』(司馬遼太郎著・新潮文庫)

居眠り磐音 江戸双紙 狐火ノ杜
(いねむりいわね・えどそうし・きつねびのもり)

佐伯泰英
(さえきやすひで)
[痛快ヒーロー]
★★★☆☆

カバー装画:蓬田やすひろ
カバーデザイン:泉沢光雄
時代:安永三年(1774)立冬すぎ
場所:深川南六間堀町、米沢町、海晏寺、本所北割下水、厩新道、越中島沖、昌平橋、行徳、馬喰町、深川櫓下、王子稲荷ほか
(双葉文庫・648円・03/11/20第1刷・355P)
購入日:03/11/15
読破日:03/12/01

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居眠り磐音 江戸双紙 狐火ノ杜 『陽炎ノ辻』『寒雷ノ坂』『花芒ノ海』『雪華ノ里』『龍天ノ門』『雨降ノ山』に続く、浪人坂崎磐音が活躍するシリーズ第7弾。双葉文庫の活字って前からこんなに大きかったかな。 今回は、風情ある江戸の紅葉狩りから始まる。文庫の発売時期がちょうど紅葉前線が話題になる頃で、時宜を得た、刊行といえる。それはともかく、このシリーズでは江戸の四季や風物が巧みに作品に取り入れられている。
前作『雨降ノ山』で、今津屋吉右衛門の内儀のお艶の大山詣でで気遣い通しだった、おこんの慰労から催された紅葉狩りから物語は始まり、師走の王子稲荷詣でで、おこんが誘拐される事件で締めている。三ヵ月余りの間で、5つの大きな事件が起こる。春風駘蕩な坂崎磐音の直心影流の剣が冴える肩の凝らない痛快ヒーローもの。

物語●深川南六間堀町の長屋に暮らす浪人・坂崎磐音は、今津屋のおこん、若狭小浜藩の蘭医・中川淳庵、北割下水の御家人・品川柳次郎、鰻捕りの少年・幸吉、幸吉と同じ長屋のおそめという、六人連れで、紅葉の名所、品川外れの海晏寺に紅葉狩りに出かけた。その帰りに立ち寄った料理茶屋で不埒、悪業を働く直参旗本衆に出くわす…。

目次■第一章 紅葉狩海晏寺/第二章 越中島賭博船/第三章 行徳浜雨千鳥/第四章 櫓下裾継見世/第五章 極月王子稲荷