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2003年11月・霜月の巻
極意 密命・御庭番斬殺 by 佐伯泰英 |
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奈落 上州無宿半次郎逃亡記 (ならく・じょうしゅうむしゅくはんじろうとうぼうき)
小杉健治
カバー装画:百鬼丸 |
♪聞き覚えのある筋立てと思ったら、『冤罪』(2000年3月、講談社刊)を改題したものだった。江戸時代を舞台に冤罪事件に巻き込まれた男を主人公にした、サスペンスあふれる時代小説。無実の罪を着せられた者の心情、岡っ引に追われる恐怖、事件の謎解きと真相、社会派のミステリーの名手として活躍する、小杉さんらしい緊迫感あふれる時代小説である。 その一方、冤罪という極めて重いテーマを扱いながらも、主人公の半次郎とお里をはじめ、登場人物たちの「自己犠牲」と「無償の愛」が丹念に描かれていて、市井小説として読んでも、ちょっとせつなく、それでいて心洗われる作品となっている。 江戸時代の刑罰のひとつについて、臨場感あふれる描写があり、興味深かった。 物語●江戸・下谷車坂町の裏長屋に住み、炭や箒などを行商する半次郎は、榛名山の麓の故郷から江戸に戻ると、いわれのない押し込みと殺しの嫌疑をかけられ、岡っ引の伝六に追われた。濡れ衣を晴らすのは、事件当夜に同衾した、宿場女郎のお里だけだった。事件直後にお里は、幸兵衛という男に身請けされて、姿を消していた。追っ手を逃れ、お里を捜し、真の下手人を挙げなければ、半次郎に明日はない…。 目次■第一章 雪の夜/第二章 遠霞/第三章 忍び音/第四章 移り香/解説 細谷正充
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鬼火の町 (おにびのまち)
松本清張
カバー:原田維夫 |
♪松本清張さんの時代小説は、ずっと、よまなきゃと思いつつも機を逸してきた。天保の江戸を舞台にした時代推理ということで、傑作『天保図録』を想起させる。将軍家慶が将軍になって三年目とはいえ、実権は隠居した十一代将軍家斉が握り、その側近達が権力を振るった天保後期が舞台。小納戸役を隠退した中野碩翁(なかのせきおう)が養女お美代が、家斉の寵愛を受けることになったおかげで、絶大な権力を握るようになった時代である。作中でもその豪奢な生活と強力な権勢が描かれている。そんな中で、連続殺人事件が発生し、反骨の岡っ引の藤兵衛と、その協力者として小普請組の旗本・釜木進一郎が颯爽と登場する。事件解決を阻む厚い壁に立ち向かう者たちの正義感が熱く描かれている。権力者たちの腐敗ぶりと好対照となっている。 昔の著作ということで、やや軽視するきらいがあった、松本さんの時代小説の面白さをいまさらながら、再認識することになった。 物語●隅田川で無人の釣舟が浮んでいた。やがて、百本杭で、船頭と屋根師職人の水死体があがった。二人とも脇腹に青い痣ができていて、当身をくらって水に落とされたものと思われた。駒形を縄張りとする御用聞きの藤兵衛は、八丁堀の同心、川島正二郎に事件の解決を任された。しかし、川底から豪華な女物の煙管が発見されると、一転、川島から探索の中止を申し渡された…。 目次■幽霊船/煙管の追及/厚い壁/煙管の持ち主/屋形船/再び乗出す/挑戦/雲の中/夜と昼/五分の魂/結束/首なし水死人/釜木の着想/川路三左衛門という男/浦風参詣/二階の俳人/解説 寺田博
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陰流・闇仕置 松平蒼二郎始末帳 隠密狩り (かげりゅう・やみしおき・まつだいらそうじろうしまつちょう・おんみつがり)
牧秀彦
カバーイラスト:百鬼丸 |
♪剣の流派と名刀についてのガイドブック『剣豪 その流派と名刀』(光文社新書)の著者による時代小説。新陰流系の諸流派の源流となった陰流は、志摩五ヶ所の愛洲移香斎久忠(あいすいこうさいひさただ)が室町時代に創始した流派だそうだ。剣の流派については、著者の得意分野。 いきなり、二十四人斬りという凄腕を見せて、主人公の松平蒼二郎は登場する。居合道をやり、剣道の有段者で、刀と剣術に造詣の深い作者らしく、理路整然とした剣術論とリアリスティックなチャンバラシーンが圧巻。 物語は、蒼二郎に配下を全滅させられ、意趣返しを狙う隠密の頭目・福浦慎之丞との対決を描く第一幕、美貌の武家女・澄江との出会いを描く第二幕、薩摩藩の御家騒動を描く第三幕からなる。
物語●浪人・松平蒼二郎(まつだいらそうじろう)は、洲崎の砂浜で、将軍家斉お抱えの隠密・相良忍群二十四人を斬殺した。陰流(かげりゅう)の奥義「蜘蛛の太刀」を体得し、暗殺を生業とするこの男は何者なのか? 日ごろは花月庵蒼生として生花を宗匠を務め、白河藩主・松平定信とも何やら、繋がりがあるらしい謎の人物。 目次■第一幕 隠密狩り/第二幕 復讐の佳人/第三幕 闇の示現流
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半九郎残影剣 (はんくろうざんえいけん)
鈴木英治
装画:百鬼丸 |
♪ゲストブックに書き込みいただいた、さくらさんのおすすめの一冊。『義元謀殺』で注目される新進時代小説家、鈴木さんの剣豪ミステリー。作品中に、架空の地名が幾つか出てきたのが気になった。史実にとらわれずに、自由に登場人物たちを動き回らせたいからであろうか? 主要な舞台となる沼里は、駿河・沼津がモデルと思われる。江戸の町も実在しない町名が見うけられた。主人公は剣の遣い手(流派は明記されず)ながら、用心棒の仕事中に居眠りしたり、幼なじみで許嫁の奈津を押し倒そうとして引っぱたかれたりと、すぐ油断しやすく調子にのりやすい、うっかり気質のヒーロー。 誘拐事件に、御家騒動が絡み、周りに翻弄されたりと、ハードボイルドなミステリーを思わせるタッチで、最後まで大いに楽しめるエンターテインメント時代小説。第二弾の『半九郎疾風剣』も読んでみたい。 物語●用心棒の里村半九郎は、ごま油を扱う商家・秋葉屋の押しこみを撃退し、許嫁の奈津と穏やかな時間を過したのもつかの間、押しこみ犯の弟から命を付けねらわれ、再び警護についた秋葉屋主人ともども、頭巾姿の二人の侍に襲われたり、剣呑な日々を送っていた。そんなある日、奈津が何者かに、かどわかされてしまった。半九郎は、警護の仕事を放り出して、奈津の探索を始めるが…。 目次■なし
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誰そ彼れ心中 (たそがれしんじゅう)
諸田玲子
カバー装画:ゴトウヒロシ |
♪今、脂が乗り切った活躍を示す女性作家の一人、諸田さんの最新文庫。海外小説ではよくあるのに、時代小説では珍しい、ラブサスペンス。手に汗を握りつつ、ページを繰るのがもどかしく感じながら一気に読了した。一見、シンプルなストーリー構成ながら、ラストまで読者の興味を逸らさない作者の筆力に脱帽。 ヒロインの瑞枝をとりまく人物が面白い。六歳年長の夫・宗太郎、病に臥す舅・義興、姑・須磨、宗太郎の姉で出戻りの初子、用人・林源太郎ら、小禄の出の瑞枝を軽んずる向坂家の人々。四面楚歌の状態で追いこまれて行くヒロイン。人形のような奥様から、一人の女性へと自我が芽生えて行く。高まる緊張感のなかで、草花が潤い感と色彩感を物語に与える。 物語●禄高百俵の御家人の家から、四百石の旗本・向坂家に嫁いで四年目になる瑞枝は、ある朝、十八歳になる小者の小十郎に呼びとめられた。殿さまが最近、妙だという。瑞枝の夫・宗太郎は、家督相続し、書院番を務めるようになり、寡黙になり、二ヵ月ほど書見に励み、妻を抱くことがなかった。夫は別人に変わったのだろうか? と、疑念が湧くとともに、身分違いの小十郎に不思議なときめきを覚え始めた…。 目次■なし
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罪なくして斬らる―小栗上野介― (つみなくしてきらる・おぐりこうずけのすけ)
大島昌宏
カバー装幀・装画:倉橋三郎 |
♪単行本で入手したとき、『そろばん武士道』読了後、NHK正月時代劇「またも辞めたか亭主殿〜幕末の名奉行・小栗上野介〜」(2003年1月3日放映)を観た後と、何回もチャンスがありながら、読み逃していた作品。中山義秀文学賞受賞作(第三回)でもある。主人公の小栗上野介忠順(おぐりこうずけのすけただまさ)と聞くと、赤城山麓の幕府軍用金埋蔵金伝説や朝廷への反逆罪として斬首された幕臣という、官軍にとって敵役というイメージが強い。しかし、歴史がいつの時代も勝者を称える記録とすると、敗者にもスポットを当てることができるのが時代小説の真骨頂というべきところ。地元の人をはじめとした先人たちの勇気ある行動と、作者の丹念な資料渉猟と筆力により、小栗忠順の再評価がなされ、彼の事績が見直される昨今の状況は望ましいことだ。 小栗忠順が、横須賀造船所の開設に尽力し、海軍の町、横須賀の生みの親だと知り、「へぇー」という感じだ。その横須賀造船所(当時は製鉄所と呼んでいた)をめぐる、勝安房守(海舟)と徳川慶喜らとの関係を通して、幕末がビビットに描かれていて面白い。 小栗家は、譜代旗本のなかでも最古参、家康の父、松平広忠以来の安祥譜代(あんじょうふだい)の家柄であることが、忠順の生き方に大きな影響を与えたように思われる。意に沿わぬことがあると、上司にであれ遠慮なく自分の意見を主張し、容れられないと未練気もなく辞職したり免職になったりすることを繰り返してきた。その根底には、徳川家のためを思って、問題解決のための抜本的正論を述べるという直言癖によることが多い。その出処進退の鮮やかさと視野の広さからくる果断な行動力に大きな魅力を感じる。 物語●文久元年、対馬にロシア軍艦ポサドニク号が現れ、ビリレフ中佐に率いられたロシア兵たちが上陸し、長期滞在の構えをみせた。上陸した兵士たちは村を襲って農作物を奪い、牛を殺して艦へ運び込む。制止しようとした郷士を艦内に拉致し、関所の番人を射殺するなど、狼藉を働いた。幕府は長崎奉行所へロシア艦退去の交渉を命じる一方、外国奉行小栗忠順(おぐりただまさ)らを対馬に派遣した。忠順は、前年一月、日米修好通商条約批准のため、新見豊前守を正使とする遣米使節団に監察として同行し、九月に帰国したばかりで、十一月に外国奉行に任ぜられた、幕府きっての海外通の一人だった…。 目次■序章/第一章 露寇/第二章 又一どの/第三章 歩兵奉行/第四章 三度目の勘定奉行/第五章 建設の地は横須賀/第六章 ヴェルニー来たる/第七章 征長再び/第八章 建設すすむ/第九章 慶喜、将軍に/第十章 フランス人たち/第十一章 大政奉還/第十二章 閑適の日々/第十三章 烏川畔に散る/終章 海戦勝利/あとがき/文庫版あとがき/解説 清原康正
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利休啾々 (りきゅうしゅうしゅう)
澤田ふじ子
カバーイラスト:蓬田やすひろ |
♪利休の死を扱った作品など、6編の短編を収録。蓬田さんの描く、土気色した磔刑にかけられた千利休像、何やら不吉な結末を想像させる装幀である。利休は秀吉より死を賜られたはず。「利休啾々」は、大徳寺山門に置かれた利休の木像の作者が、利休が秀吉より死を賜った理由を解き明かしてくれた。「無明の宿」は、赤穂浪士の討ち入りにまつわる後日談。「暗闇心中」と「冬の虹」は、市井に暮らす人々のつかの間の幸福とやがてくる不幸を描く短篇小説。 「弥助の首」は、弥助と名付けられ、信長の従者となった黒人エステバニコが遭遇した本能寺の変を描く短篇。以前に大河ドラマで、信長の家来として黒人の大男が登場し、奇異に思ったが実在した人だったんだ。 妻との間に心の溝ができ、不和になった夫が、めぐらした奇計を描く「狐蕪村」は何ともいえない味の作品だ。 物語●「無明の宿」元禄十五年十二月二十二日、姫路藩の領内に暮らす間瀬定八のもとに、めでたい知らせが届いた。父の間瀬久太夫ら赤穂浪士が吉良上野介の首をとったという…。「暗闇心中」西陣の高機職人の岩太は、将来を誓ったおそでの継母で、家を出て小料理屋で働くお艶のもとへしばしば通い、家に戻るように説得を続けていたと…。「冬の虹」おけいが働く両国の料理茶屋に、貧しい服装をした中年の浪人者真壁源一郎がやってきて折詰めを頼んだ…。「弥助の首」昭和三年、京都のM大学人類学研究室・斎藤辰三郎教授のもとに、1個の頭蓋骨が持ちこまれた…。「狐蕪村」備後福山藩に祐筆として仕える草薙清兵衛は武士であることに、ずいぶん前から嫌気がさしていた。嫡男でなければ、芭蕉や蕪村を慕い俳諧の道に身を投じたいと思うことも一再ではなかった…。「利休啾々」七条仏所二十一代の康正のもとに、千利休の屋敷から、火急の使者・阿部鳴海がやってきた…。 目次■無明の宿|暗闇心中|冬の虹|弥助の首|狐蕪村|利休啾々|解説 大野由美子/澤田ふじ子 著書リスト
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極意 密命・御庭番斬殺 (ごくい・みつめい・おにわばんざんさつ)
佐伯泰英
カバーデザイン:中原達治 |
♪『密命』シリーズ第9弾。帯に「密命」シリーズ60万部と書かれていた。9作品でとはいえ、時代小説の文庫の書き下ろしで、この部数は、いかに多くの読者をとらえて離さないかを示している。豪剣・寒月霞斬りを遣う金杉惣三郎の活躍ぶりと、秘剣・霜夜炎返しを会得した息子の清之助の武者修行ぶりを両輪に物語は進む。惣三郎は、御庭番の失踪と斬殺を巡る謎を解明するために、信抜流居合(しんぬきりゅういあい)の恐るべき剣と対峙する。清之助の前には尾張七人衆の刺客が…。 九州から中国にかけての武者修行旅や、小金井や府中といった武蔵国への探索など変化をつけている。また吉宗配下の御庭番とのコラボレーションなど、新たな展開もあり、今回もエンターテインメント要素いっぱいである。
物語●「かつて父の金杉惣三郎が秘剣・寒月霞斬りを会得した、豊後相良の番匠川で修行する清之助の前に、尾張柳生七人衆の一人、赤星次郎平が戦いを挑む。一方金杉惣三郎は、将軍吉宗より、姿を消した御庭番明楽樫右衛門の探索を密かに命じられた…。 目次■序章/第一章 日田往還蜩勝負/第二章 尾張柳生七人衆/第三章 必殺脛斬り/第四章 決闘馬関船島/第五章 女密偵お吉の悲劇/第六章 暗闇背面突き/終章
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