新・極楽の読書録
2003年7月・文月の巻

宵しぐれ 隅田川御用帳 by 藤原緋沙子
霧の罠 真贋控帳 by 澤田ふじ子
上野介の忠臣蔵 by 清水義範
荒舞 花の小十郎始末 by 花家圭太郎
風の宿 川ばた同心御用扣 by 西村望



風の宿 川ばた同心御用扣
(かぜのやど・かわばたどうしんごようひかえ)

西村望
(にしむらぼう)
[捕物]
★★★☆☆☆

カバー:深井国
解説:小梛治宣
時代:享和三年(1803)春
場所:芳町河岸、馬方町、抹香橋、新堀川、通町四丁目、炭団坂、横網町、埋堀、浅利河岸、伊勢崎町、深川六人屋敷ほか
(光文社文庫・590円・03/04/20第1刷、03/04/30第2刷・363P)
購入日:03/07/16
読破日:03/07/31

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風の宿 川ばた同心御用扣 てへんに口と書いて、ひかえと読むことを初めて知った。江戸の四季に、風俗、風物を感じる人情捕物帳。
『半七捕物帳』のような初期の捕物帳を彷彿させる雑駁で卑俗的な文体で、昔に書かれた作品かと思ったら、意外なことに『小説宝石』(平成13年6月〜平成14年12月号)に連載されたものという。最初は、読みづらい感じがしたが、頻出する江戸言葉や江戸っ子のテンポに慣れると、逆に江戸時代を身近に感じることができた。
紺看板、蜻蛉髪、内羅、チチロ虫、十二文屋など、初めて聞くような言葉が随所に織り交ぜられていて面白い。
主人公は、南町奉行所同心、秋山五六郎で、二十七歳と若い。若さと経験不足からときには失敗もする。その五六郎をフォローするのが、「めかりの半次」と「釘笊お富」で、そのほかにも五六郎の妻、おふう(楓)とその両親の榊与左衛門とお彩、五六郎の実父で隠居して妾と同居する三四郎といった面々がシリーズにそこはかとないおかしさと奥行きを与えている。
江戸風俗を味わえる正統派の捕物帳として、味わいたい一冊。

物語●「おまんが紅」質屋の主人から妾とその情夫に傷をつけられたうえで、三両恐喝されたと訴えられて、逃げた二人の足どりを五六郎らは追った二人は、神隠しの話を聞いた…。「鍋を被る女」五六郎は、捕物を失敗し、憂さ晴らしに奉行根岸肥前守の内与力の青江千之助と酒を痛飲し、二日酔いだった…。「さすらへの月」五六郎は、亡父の具足金を盗まれた船宿の女主人と知り合い、恋焦がれるようになった…。「帰る雁」五六郎は、木綿店から木綿の反が消えたこと、北日影町河岸から釣り船が盗まれたことと盗犯が続き、日影町の自身番屋に詰め切りだった…。「風の宿」比丘尼のおときは、亭主殺しと盗みの疑いで南茅場町の大番屋につれ込まれ、五六郎の取調べを受けていた…。

目次■おまんが紅|鍋を被る女|さすらへの月|帰る雁|風の宿|解説 小梛治宣

荒舞 花の小十郎始末
(あらまい・はなのこじろうしまつ)

花家圭太郎
(はなやけいたろう)
[痛快ヒーロー]
★★★★

カバー:百鬼丸
AD:岡邦彦
解説:細谷正充
時代:寛永二年(1625)
場所:新小田原町、鎌倉河岸、尾張町、道三河岸、材木町九丁目、楓川、駿河台、一口橋ほか
(集英社文庫・705円・03/07/25第1刷・395P)
購入日:03/07/22
読破日:03/07/28

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荒舞 花の小十郎始末 『暴れ影法師』に続き、大酒呑みの女好き、大法螺吹きの秋田佐竹藩士・戸沢小十郎が活躍するシリーズ第二弾。秋田・角館の新潮文学記念館を訪れたところ、花家さんの直筆原稿と、百鬼丸さんのイラストが展示されていて興味深かった。おまけに帰りに、百鬼丸さんのイラストをモチーフとしたカレンダーを購入した。
『暴れ影法師 花の小十郎見参』では、佐竹藩の窮地を救うために、大ボラで最上家を沈めた元傾き者の小十郎が、また、江戸にやってきた…。
今回の暴れぶりに期待感が高まる。対するのは、将軍家光と柳生宗矩と十兵衛親子で、相手にとって不足はないところ。小十郎を助けるのは、元スリの元締めで、古着屋の主、鳶沢甚内とその妻未尾、そして西の丸老中土井大炊頭利勝。
江戸の町では外様大名の改易で浪人があふれ、斬り取り強盗や盗みが多発し、未だ不穏な情勢にあった。そしてその影には大きな陰謀が…。
徳川の血と織田の血という、独自の着眼点が興味深い。

物語●佐竹藩士戸沢小十郎は、秋田(久保田)から出府したばかりで、辻斬りの現場に遭遇した。現場にいた、頭巾をした四人の侍と対峙し、そのうちの大男の若い武士と剣を交え、喧嘩剣法で打ち負かししてしまう。証拠の品として斬り取った袖口の紋は、なんと中輪に三葉葵、徳川宗家の定紋だった。将軍家光と柳生一族を敵に回した小十郎の活躍やいかに…。

目次■第一章 江戸の妖/第二章 西丸の狐/第三章 月を踏む/第四章 遠雷/第五章 山彦/第六 鬼手仏心/第七章 悲愁の河/解説 細谷正充

上野介の忠臣蔵
(こうずけのすけのちゅうしんぐら)

清水義範
(しみずよしのり)
[忠臣蔵]
★★★★

カバー:南伸坊
解説:縄田一男
時代:元禄五年(1692年)
場所:三河国吉良の庄岡山村、江戸・鍛冶橋、桜田上杉屋敷、江戸城松の大廊下、本所ほか
(文春文庫・448円・02/10/10第1刷・257P)
購入日:03/07/10
読破日:03/07/20

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上野介の忠臣蔵 忠臣蔵というと、最近、吉良側に肩入れすることが多い。判官びいきと、吉良側の視点から描かれた忠臣蔵を読む機会が多いせいかもしれない。いわゆるステレオタイプな忠臣蔵像は、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」をベースに、戦前からの道徳教育と儒教思想により増幅されて形成されたのものだと思う。
ところが、現代人の視点から見ると、赤穂浪士たちの活躍ぶりが、大石内蔵助というリーダーの駆使するマーケティング的な手法による成功のように思えて仕方ない。世論操作、情報収集と攪乱、伝播、広報、プレゼンテーション、資金調達、人材掌握、登用、そのままビジネスに援用できるヒントがいっぱい見つかる。こんな大石の敵役に引っ張り出された吉良は悲劇である。本書を読んでいると、8対2ぐらいで浅野側が悪いんじゃないかと思えてならない。
ともかく、300年に及ぶ吉良悪人説を一掃するようなスカッとした忠臣蔵ものを読んでみたいものだ。

物語●宮迫村の百姓の子、十六歳の藤作(後の清水一学)は、剣術の技量を買われて、お国入りした吉良上野介義央の前に呼ばれて、侍に取り立てられた…。

目次■第一章 一学/第二章 上杉家/第三章 高家/第四章 饗庭塩/第五章 呉服橋屋敷/第六章 元禄十四年/第七章 刃傷/第八章 隠居/第九章 元禄十五年/第十章 襲撃/第十一章 その後/参考文献/解説 縄田一男

ここから始まる本のリンク▼『四十七人の刺客』(池宮彰一郎著・新潮文庫)

霧の罠 真贋控帳
(きりのわな・しんがんひかえちょう)

澤田ふじ子
(さわだふじこ)
[武家]
★★★★

カバーイラスト:深井国
カバーデザイン:秋山法子
解説:大野由美子
時代:天明八年(1788)
場所:瀬田の唐橋、青山御手大工町、山科、聖護院、烏丸六角下ル、高山寺、高倉村、三条御幸町ほか
(徳間文庫・552円・03/07/15第1刷・313P)
購入日:03/07/05
読破日:03/07/15

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霧の罠 真贋控帳 『これからの松』に続く「真贋控帳」シリーズの第2弾。前作との連続性は薄いが、古書画を鑑定する古筆見の平蔵(宗鴎)や古筆了意は傍役で、上役の罠に嵌まり盗人の汚名を着せられた篠山藩士・土井修蔵が主人公になる。
主人公の土井修蔵の父、土井市郎兵衛が家中随一の道具目利で、寺社奉行支配の古筆家とも懇意であったという設定。また、修蔵は与謝蕪村に傾倒し、俳諧に魅せられているということで、随所に俳句や茶湯道具、画幅が登場し、文学的な要素が散りばめれていて興味深い。
篠山藩士が上役の嫉妬を買って、悲劇に見舞われる作品というと同じ作者の『大蛇の橋』を思い出す。男の嫉妬、仕事上の妬みは怖い。

物語●天明八年一月三十日、京で大火(天明の大火)があり、禁裏や仙洞御所、二条城など、市中の主立つ社寺を焼いて鎮火した。仮御所となる聖護院の警護のために、丹波篠山藩・青山下野守忠裕が、江戸詰めの家臣二百三十人を率いて、京に入った。その中にはお納戸役小頭の土井修蔵がいた。修蔵はニ十五歳で、唯心一刀流の遣い手で、道具目利きにも優れていた。京では、その修蔵を悲劇が待ちうけていた…。

目次■第一章 天明大火/第二章 闇の井戸/第三章 蝮の罠/第四章 野辺の菊/第五章 御所造営/第六章 閑吟の賊|初刊本あとがき|解説 大野由美子|澤田ふじ子 著書リスト

ここから始まる本のリンク▼『大蛇の橋』(澤田ふじ子著・幻冬舎)

宵しぐれ 隅田川御用帳
(よいしぐれ・すみだがわごようちょう)

藤原緋沙子
(ふじわらひさこ)
[市井]
★★★★

カバーイラストレーション:蓬田やすひろ
カバーデザイン:桜井勝志
時代:天保八年(1837)
場所:回向院、亀井町、百本杭、大川端、北森下町、平右ヱ門町、元柳橋、南六間堀町、南伝馬町、浅草御米蔵、諏訪町、神田平永町ほか
(廣済堂文庫・600円・03/07/01第1刷・319P)
購入日:03/07/05
読破日:03/07/12

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宵しぐれ 隅田川御用帳 『御宿かわせみ』と縁切寺東慶寺ものを合体させたようなたのしみがあり面白かった、『雁の宿』『花の闇』『螢籠』に続く「隅田川御用帳」シリーズ第4作目! 最近、刊行のペースが速くなってうれしいところ。
女流作家らしい、キメ細やかな視線で、切ない男女の愛憎劇を見事に描く『隅田川御用帳』シリーズも早いもので、もう4作目。作者の筆もますます好調である。

とくなさぬ仲の義理の母と娘の愛憎を描く「ちぎれ雲」が素晴らしい。

塙十四郎と橘屋のお登勢の仲はなかなか進展しないが、十四郎の幼なじみで親友の、慶光寺に常駐する寺役人近藤金吾の嫁が決まり、うれしい一編。

物語●「闇燃ゆる」橘屋の小僧万吉は、塙十四郎を案内して、回向院の境内にやってきた。そこで、万吉が見たかったのは、柴犬のごん太の芸だった…。「釣忍」十四郎は、楽翁の頼みで、財布を届けてくれた居酒屋の酌婦お蓮の事情を探ることになった…。「ちぎれ雲」紅や白粉を商っている紅屋の後妻お新が、先妻の亡霊に毎夜悩まされていて離縁したいと、橘屋に駆け込んできた…。「夏の霧」近藤金吾は、飲み屋で狼藉を働き騒いでいた旗本の子弟たちの集団に和泉橋で襲われたときに、若衆姿の秋月千草に助けられた…。

目次■第一話 闇燃ゆる|第二話 釣忍|第三話 ちぎれ雲|第四話 夏の霧

ここから始まる本のリンク▼『御宿かわせみ』(平岩弓枝著・文春文庫)