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2001年9月・長月の巻 |
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女陰陽師 湖底の鬼 (おんなおんみょうじ・こていのおに)
加野厚志
カバーデザイン:芹澤泰偉 |
♪女陰陽師・八瀬が幕末に活躍する『女陰陽師』第2弾。寺田屋事件がテーマになっていて、加野ファンには楽しみなところ。 パワーアップして八瀬がもどって来た。しかも、幕末ファンにはおなじみの寺田屋(女将お登勢で知られる)の女中として登場する、おまけつき。伝奇色がますます色濃くなり、山田風太郎さんが亡くなったばかりなので、少し心強く思えた。高杉晋作、岩倉具視をはじめ、幕末の三大人斬りの以蔵や河上彦斎、田中新兵衛や、安政の大獄の脇役、島田左近、目明し文吉、村山たか女らが登場し、興趣を盛り上げてくれる。 物語●伏見の寺田屋で女中奉公をしていた、女陰陽師・八瀬(やせ)は、師であり、袂を分かった邪悪の陰陽師・長野主膳の復活を知る。師の主膳は国学者とは名ばかりで、彦根藩主・井伊直弼を操り、安政の大獄を引き起こした張本人であり、皇女和宮降嫁においても暗躍しながら、歴史の舞台から消えていた。邪心に綾どられた主膳の復活にともない、京の町には死臭が満ち、災厄が…。やがて、八瀬は〈寺田屋騒動〉として知られる事件に巻き込まれることになる…。 目次■序章 女陰陽師の復活/第一章 地獄の業火からの脱出/第二章 闇に笑う刺客/第三章 歳刑神の怒り/第四章 逆賊は洛中に死す/第五章 天駆ける長州の奔馬/第六章 岩窟王の狂心/第七章 風雲彦根城の迷宮/終章 魔霧に沈む黄金卿/解説 小梛治宣 ここから始まる本のリンク▼『鮫』(加野厚志著・集英社) |
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菜の花の沖 新装版(一)〜(六) (なのはなのおき)
司馬遼太郎
イラスト:小野利明 |
♪2000年12月からのNHKドラマ放送が決まった司馬さんの名作。大きな活字の新装版で新登場。6巻まであって先延ばしにしていたが、小野利明さんの力強い画に勢いを得てGet!全6巻という長篇ということもあり、巻数ごとに、テーマが違っており、いろいろな色をもつ小説になっている。1巻目では、嘉兵衛の青春と人間形成の過程を瑞々しく描いている。 若衆宿という、独身の若者が、大人社会に出て行くための準備の訓練をする組織が、物語の中で重要な役割(嘉兵衛という人間形成)を果たす形で描かれていて興味深い。 2巻目と3巻目では、冒険商人として、また船乗りとして、飛躍する嘉兵衛がロマンあふれる筆致で描かれている。 四巻目では、蝦夷地に本拠を移し、公人(幕府の立場)としての意識が芽生え、蝦夷人へ接し始めた嘉兵衛が登場する。 4巻目の半ば頃から、作者の歴史雑感が随所に見られるようになり、5巻目ではほとんどの箇所が、歴史的事象の記述と著者の歴史論について触れたものとなっていて、歴史小説としては、異例の形式をとるようになる。 高田屋嘉兵衛がロシア船に拿捕され、カムチャッカへ抑留され、日本に戻って来るまでが描かれている。作者の歴史雑感部分は、第5巻目に比べ減っているが、この巻を読むと、1〜5巻目までのテーマや描写の必然性がよく理解できる。 長く続きすぎた平和の中で、官僚化し、卑小になっていた幕臣たち比して、嘉兵衛の傑出した国際感覚と、出処進退の見事さが対照的で、ヒーロー性を高め、物語の面白さを増している。嘉兵衛の特異な性格を、大好きな浄瑠璃語りに由来するものと看破した作者の視点が面白い。幕臣が泰平の世の中で失った武士の心を、庶民が浄瑠璃で描かれる物語の中の武士の像を大切にして、頭に刻み込んできたというところに、歴史の皮肉さを感じる。 物語●(一)江戸後期、貧家に生まれた嘉兵衛は、十一歳のとき、遠縁で漁師相手の商売をしている和田屋喜十郎という都志浦の新在家で、賃金なしの住み込み奉公をすることになった…。(ニ)淡路島を出た嘉兵衛は、兵庫の廻船問屋堺屋喜兵衛のもとで船乗りとして、実績を積んでゆく。兵庫を代表する廻船問屋北風壮右衛門貞幹や、帆布などの発明で知られる廻船問屋工楽松右衛門とも知り合うことになる…。(三)秋田・土崎で日本一の大船・辰悦丸を建造した、嘉兵衛は、高田屋を名乗り、蝦夷の海をめざすことになる…。(四)幕府は北辺の警備の強化のために、東蝦夷地(箱館から知床半島)を松前藩より借り上げた。高田屋嘉兵衛は、幕臣の三橋藤右衛門と高橋三平と協力して、場所制の悪弊を廃し、漁場の公儀による直捌き(直営)を進めた…。(五)嘉兵衛は、蝦夷地御用掛首座の松平信濃守忠明の巡察航海の船頭を務めた。属僚をひきつれ、東蝦夷地をまわってエトロフ島までゆき、さらに足をのばしてウルップ島に上陸し、ロシアの南下事情を現地で確かめたいという。その座乗船・柔遠丸には、間宮林蔵も乗っていた…。(六)ロシア海軍のリコルド少佐は、前艦長ゴローニン少佐以下、日本に捕らえられた乗組員たちの救出を目指して、軍艦ディアナ号で、クナシリ島の近くまでやってきた…。 目次■都志の浦/潮騒/瓦船/網屋のおふさ/妻問い/村抜け/兵庫/海へ/樽廻船/春の海/出船/潮路/あとがき(以上第1巻)|北風の湯/松右衛門/オランダ船/熊野鰹/北風荘右衛門/大灘/薬師丸/松前の夢/北前/和田岬/あとがき(以上第2巻)|嘉兵衛の海/春疾風/辰悦丸/松前/箱館/野菊の浜/寛政十年/蝦夷地の月/春信/あとがき(以上第3巻)|波涛/重蔵/三筋の潮/火山島/択捉島雑記/帰帆/東の大灘/転変/択捉十五万石/あとがき(以上第4巻)|林蔵/高田屋雑記/ロシア事情/続・ロシア事情/レザノフ記/カラフト記/暴走記/ゴローニン/嘉兵衛船/あとがき(以上第5巻)|遭遇/北へ/カムチャツカ/冬営/無明/流氷の海へ/泊村の海/日本陣屋/展開/箱館好日/晩霞/あとがき/解説 谷沢永一(以上第6巻) ここから始まる本のリンク▼『始祖鳥記』(飯嶋和一著・小学館) |
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重蔵始末 (じゅうぞうしまつ)
逢坂剛
装画・挿絵:中一弥 |
♪『カディスの赤い星』などで知られる直木賞作家・逢坂さんの時代小説。間宮林蔵、最上徳内と並ぶ蝦夷地探検家、近藤重蔵に着目したところが面白い。 火盗改の本役・鬼平こと長谷川平蔵宣以(のぶため)が、石川島人足寄場取扱を兼任して忙しくなったことから、御先手鉄砲組の組頭松平左金吾定寅(さだとら)が、加役として火付盗賊改方任ぜられた。その与力職に、近藤重蔵がつく。松平左金吾というと、鬼平の引き立て役として見られることが多いだけに、この物語での描かれ方は興味深い。主人公の近藤重蔵は次のように描写されている。「二十一歳という若さながら、引き締まった巨体と、いつも青あおとした月代や髭の剃りあとから、年長に見え、切れ長の目と鋭い眼光、固く引き結ばれた遺志の強そうな口元にも、大人の風格を感じさせた。幼時から神童と呼ばれ、儒学の鬼才山本北山の学舎に学んだ重蔵は、十七歳で自ら〈白山義学〉を興すなど、並なみならぬ学識の持ち主だった。その上、重蔵には、年長者どころか上級の役職者に対しても物怖じしない、天性をの豪胆さが備わっている。」(p.15) 身の丈六尺近くの巨体で、脇差も十手も持たず、ニ尺三寸ほどの赤い鞭を差して悪党に立ち向かうところが颯爽としている。 主人公を実在の人物に置いているせいか、架空の人物である、若党・根岸団平と同心・橋場余一郎を手下として配することで、物語に自在性とダイナミズムを生んでいる。 物語●「赤い鞭」本所回向院で、雷電と鬼ヶ嶽の取組を見ていた〈水窪の黒猿〉と呼ばれる小男を、火付盗賊改方与力近藤重蔵の若党・根岸団平が見張っていた…。「北方の鬼」火付盗賊改方同心橋場余一郎と根岸団平は、小日向村の竹林で、頭蓋の骨が折られた殺されている男の死体をみた…。「七化け八右衛門」神田上水の白堀沿いで、根岸団平は、手に菜っ切り包丁を握った侍ともみ合っている若い女を助けた…。「茄子と瓜」根岸団平は、青松寺門前町の料理茶屋で、腹ごしらえをしている時、御家人風の若侍と、若衆作りの女という、ちぐはぐな組み合わせの二人が酒を飲んでいるいるのを見かけた…。「猫首」〈葵小僧〉という、大胆不敵な怪盗の一味が跋扈する中、奇妙な盗難事件が三件あった…。 目次■第一話 赤い鞭|第二話 北方の鬼|第三話 七化け八右衛門|第四話 茄子と瓜|第五話 猫首 ここから始まる本のリンク▼『「鬼平」の江戸』(今川徳三著・中公文庫) |