|
2001年8月・葉月の巻
忍者と忍術 by 戸部新十郎 |
|
調所笑左衛門 薩摩藩経済官僚 (ずしょしょうざえもん・さつまはんけいざいかんりょう)
佐藤雅美
カバー装画・装丁:蓬田やすひろ |
♪『薩摩藩経済官僚』(1989年、講談社文庫)を加筆・修正のうえ、改題したもの。破綻寸前の薩摩藩を建て直し、維新への道を拓いた、調所笑左衛門にスポットを当てた作品。維新の大業をなした西郷隆盛や大久保利通やその薫陶を受けた者たちが中心の歴史観のために、彼らの敬愛する島津斉彬の反対勢力である調所笑左衛門の評価は驚くほど低い。果たして本当に、守旧派として君側の奸だったのだろうか? そんな疑問にスパッとこたえる歴史小説が本書だ。莫大な借金を抱えて窮地に陥った薩摩藩が、維新の大事業を成功させるための経済的な基盤を作った人物が調所笑左衛門である。現代人の見方かたすれば、その価値は計り知れないところだ。
物語●文化文政期から天保期にかけて、薩摩藩は五百万両にのぼる借金をかかえ、参勤交代もままならない貧窮にあえいでいた。文政末年に、一人の男が薩摩藩の再建に乗り出した。そして男は見込みのなかった再建に成功する。五百万両の借金を整理し、三百万両をひねりだし、うち二百万両を長年ほったらかしにしていた公共事業等につぎこみ、百万両を備蓄する。このような準備があったから薩摩藩は、維新の大事業にのりだすことができた。天はまるで、薩摩藩の回天の大事業を成功させるがために、一足はやく男を、薩摩に配したがごとくである。しかし、男は当時も、いまも“偉業”を称えられることがない。 目次■貧窮/完敗/欠配/十万両/大往生/二百五十年賦/黒船襲来/陰謀/終章/解説 清原康正 ここから始まる本のリンク▼『二本の銀杏』(海音寺潮五郎著・文春文庫) |
|
悪魔の使者 非道人別帳 [四] (あくまのししゃ・ひどうにんべつちょう4)
森村誠一
イラスト:鴇田幹 |
♪はみだし同心・祖式弦一郎と、半兵衛、茂平次が、江戸の悪に立ち向かうシリーズ第4弾。毎話、社会性のある(権力者の腐敗や加害者の非道なふるまいなど)事件を取り上げていて、現代の相通じるところがあり、読後感がよい作品。森村さんらしい、切れ味の鋭い捕物帳。
物語●「石の罰」では、結婚詐欺、「悪魔の使者」では催眠犯罪、「逆縁の因果」富くじをめぐる事件、「火魔」では密室でのトリック、「禁じられた宴」では、猪熊事件を彷彿させる公家の風紀紊乱ぶりを描いている。 目次■石の罰|悪魔の使者|逆縁の因果|火魔|禁じられた宴|夜鷹新造 |
|
剣客同心 鬼隼人 (けんかくどうしん・おにはやと)
鳥羽亮
装画:村山潤一 |
♪八丁堀の鬼と恐れられる隠密廻り同心・長月隼人が活躍する新シリーズ。直心影流の剣が冴える時代活劇。 『三鬼の剣』や『首売り』、『深川群狼伝』などで、剣豪ミステリーというジャンルを確立した、鳥羽さんの新シリーズは、定番の捕物帳だ。とはいえ、さまざまな謎が錯綜し、主人公の剣でスパッと解き明かされる構成はまさに鳥羽ワールド。事件の解決とともにチャンバラシーンの圧巻ぶりは目を見張らされる。主人公を助ける掏摸の娘・お駒が印象的、次回作での活躍が楽しみ。また、夜盗の正体を探るために、神道無念流の斉藤弥九郎(江戸三大道場の一つ練兵館の主)に、直心影流の隼人が会いに行くシーンが興味深い。
物語●南町奉行所隠密廻り同心・長月隼人は、奉行の筒井紀伊守政憲から直接指示を受けて、隠密裡に、日本橋小網町の米問屋を襲った夜盗の探索にあたっていた。そんなある日、ともに探索に当たっていた内与力が斬殺され、隼人自身も黒覆面の武士に襲われるという事件が起こった。 目次■第一章 南御番所/第二章 兇賊/第三章 光輪の剣/第四章 地獄屋敷/第五章 黒埼道場/第六章 八丁堀の鬼/解説 細谷正充 ここから始まる本のリンク▼『三鬼の剣』(鳥羽亮著・講談社文庫) |
|
傷 慶次郎縁側日記 (きず・けいじろうえんがわにっき)
北原亞以子
カバー装画:蓬田やすひろ |
♪単行本新刊時に、読んで書評を書いて以来、このシリーズを読んでいないのだから、あまりいい読者とは言えない。その後、単行本は、『再会』『おひで』『峠』と3作も出ているのだから。「その夜の雪」については3回目になるが、何度読んでも切なくなってしまう。この切なさを乗り越えたあとだけに、以降の話の懐の深さが堪能できる気がする。人間通になれる一冊。各話それぞれが芝居の一幕物のような上質の空間を感じさせる名作。 主人公というか、進行役というか、物語の観察者というかを務める元南町奉行所同心で、根岸の寮番の森口慶次郎が、様々な人生経験を持ちながらも、ダメな部分も持ち合わせた、練れたキャラクターであり、安心して読めるシリーズに鳴っている。溜めていたシリーズの第2作目以降も読まなきゃ。というかいよいよ読みたくなってきた。 物語●「その夜の雪」婿取りが決まっていた慶次郎の娘・三十代が何者かに暴行されて、帰ってきた…。「律義者」同心を辞め、寮番を勤める慶次郎の隣家で何やら揉め事が…。「似たものどうし」吉次は空樽拾いの少年と知り合った…。「傷」慶次郎の知り合いの番頭と、町内の鼻つまみものの二人が弓町の角でぶつかって怪我をしたという…。「春の出来事」慶次郎は、通りで突き飛ばして足首を捻らせてしまった女を見舞った…。「腹痛の妙薬」腰を痛めた慶次郎が医者に出かける途中で出くわしたものは…。「片付け上手」知り合いの煙管を盗んだ娘は、みんなから半人前と言われていた…。「座右の銘」“貧乏人に迷惑をかけぬこと”“身内に迷惑をかけぬこと”を座右の銘にしていた空巣狙いがいた…。「早春の歌」小さな事件をきっかけに、慶次郎は、剣術道場通いの若者たちと親しくなった…。「似ている女」慶次郎のもとに持ち込まれた相談事とは…。「饅頭の皮」慶次郎は通りで、顔色の悪さが尋常でない女を見かけた…。 目次■その夜の雪|律義者|似たものどうし|傷|春の出来事|腹痛の妙薬|片付け上手|座右の銘|早春の歌|似ている女|饅頭の皮|解説 北上次郎 ここから始まる本のリンク▼『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著・新潮文庫) |
|
忍者と忍術 (にんじゃとにんじゅつ)
戸部新十郎
カバー画:蓬田やすひろ |
♪剣豪ものと並んで、大作『服部半蔵』で知られる著者。忍者・忍術の知識を整理するのに役立つ一冊。どちらかというと、忍者の非人間性やニヒリスト、リアリストぶりが好きでなく、忍者ものを敬遠してきた。山田風太郎さんが亡くなられた。そんなタイミングでこの本を読んだせいか、はたまた、戸部さんの忍者への愛情を感じてしまったせいか、忍者小説がたまらなく読みたくなった。 忍術のルーツを、仙術や修験道、陰陽道ばかりでなく、秦の始皇帝やシルクロードにまで結びつけたところが面白かった。司馬遼太郎さんの『兜率天の巡礼』を彷彿させてよかった。 読みどころ●「歴史の深淵にかかわったかもしれない忍者とは、そもそもなにか、どのように成立し、どう働いたかを考えてみた。しょせん、忍術は一個の芸能であり、発生は遥かシルクロードのかなたにあると思う」と、あとがきで筆者が著しているように、ロマンあふれる忍者・忍術論である。 目次■兵法と忍術/伊賀の深淵/服部半蔵/桃地丹波と伊賀の乱/藤林長門と秘伝書/甲賀衆/伊賀組同心/武将と忍者集団/スッパとラッパ/公儀隠密/諜報と探索/城と大名廃絶/お庭番/最後の忍者/蝦夷三蔵/散楽/仙術/山伏/陰陽道/鬼/秘するが花/あとがき/文庫版あとがき ここから始まる本のリンク▼『ペルシャの幻術師』(司馬遼太郎著・文春文庫) |