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2001年4月・卯月の巻
佐助の牡丹 御宿かわせみ by 平岩弓枝 |
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鮫 (さめ)
加野厚志
装幀・装画:塩澤文男 |
♪『龍馬慕情』が面白くて入手したが、読まずに3年間もツン読状態にしてしまった。ゲストブックに記帳いただいた辰巳典子さんのおすすめで、そろそろ読みごろと思っていたところに、加野さんから『沖田総司・魔道剣』の解説のお話をいただいた。『ジョーズ』を彷彿させるスリリングな鮫狩りシーンから物語は始まる。ホホジロ鮫は、その呼び名どおりに両頬と腹色が白く、背面は深みがかった灰色をしている。一平と直人の頬にも不穏な白っぽい痣がぴったりと張りついていて、血に飢えた海の支配者・ホホジロ鮫に似ていた。 『龍馬慕情』で衝撃的な登場を果たした、幕末最強のテロリスト・神代直人(こうじろなおと)を主人公にした幕末小説が本編『鮫』である。神代直人は、大村益次郎(司馬遼太郎さんの『花神』の主人公)の暗殺犯として知られている。 重く暗いものを想像していたが、読み始めてすぐに物語に引きこまれた。良い意味で予想を裏切り、恋あり冒険ありの爽快な青春小説に仕上がっている。 蛇足だが、加野さんの高校時代の恩師・伊賀洋昭先生(『沖田総司・非情剣』の解説で加野ファンにはおなじみ)が、主人公の直人の剣術の師として登場するところが微笑ましい。 物語●十三歳の直人は、父・一平とともに周防灘で、ホホジロ鮫狩りにでかけた…。三年前、直人は海女の母と反小舟であわびのもぐり漁にでかけて、巨大なホホジロ鮫に襲われ、海に投げ出された。海女のさちよは直人の身代わりとなって鮫に食い殺された。妻を亡くした一平は、右腕に妻の名を彫り込んで、妄執にとりつかれ、生き残った直人をいたわらず、恨みがましい視線で日夜責め続けた。人柄は無惨なほど一変し、酔うと直人に鉄拳をふるった。父子二人きりの生活は殺伐とし、直人はじっと耐えた。身代わりとなって死んだ母・さちよがひたすら恋しかった。離反した父子の心を唯一結ぶものは、ホホジロを殺すことだった…。 目次■一章 鮫狩り/二章 武蔵の剣/三章 海賊城/四章 都落ち/五章 高杉挙兵/六章 海峡/七章 龍馬暗殺/八章 斬奸状/終章 引潮/あとがき ここから始まる本のリンク▼『龍馬慕情』(加野厚志著・集英社文庫) |
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新選組遺聞 (しんせんぐみいぶん)
子母澤寛
カバー画:蓬田やすひろ |
♪『新選組始末記』に続く三部作の第二作。新選組ゆかりの古老たちの生々しい見聞や日記手記が興味深い。解説の尾崎秀樹さんが新選組の人気について、うまいことを言っている。「新選組の人気は史実そのものよりも、虚構化され、巨大化されたところにあり、それはあたかも“忠臣蔵”の魅力と類似している」「滅びゆく者にたいする大衆の判官びいきが働く点でも似ているが、もうひとつ義士銘々伝と同様、剣客あり、悲恋あり、忠誠譚あり、さまざまな人間模様がそれにからんでいることも共通している」「元禄赤穂事件が人口に膾炙しているのは、事件そのものに対する歴史的関心というより、そこに登場する諸人物の心理や動きが庶民的共感をそそるからであり、しかもそれが幾重にも交錯するところに、おもしろさがある。」「おまけにそれらが小説化、劇化、映像化されることで増幅され、いっそう人々の興味をかきたてるようになると、虚構と実像との区別はあいまいとなり、象徴化されてゆく。その点でも新選組は“忠臣蔵”と同じ軌跡をたどってきたといえるのではないか」。まさに的を射た至言である。 本書は、書かれた時期や「聞書き」形式という文体で、臨場感あふれる生き生きした記録となっていて、後の新選組文学に大きな影響を与えている。浅田次郎さんの『壬生義士伝』などは、聞書きスタイルを小説に援用した快著と言える。 とくに近藤勇の養子・勇五郎による、「勇の屍を掘る」の章が印象深い。 読みどころ●永倉新八や妻のまさ子が語る原田左之助像や、壬生の郷士八木源之丞の息子・為三郎が語る芹沢鴨暗殺事件の真相、養子近藤勇五郎が語る勇の屍奪回の情景など、事実に裏づけされた新選組秘話がいっぱい。 目次■象山の忰|原田左之助(刑部省口書/申渡/原田左之助未亡人まさ女談/永倉新八翁遺談)|芹沢鴨|篠崎慎八郎の死|沖田総司房良(天然理心流)|木曾路の春|壬生屋敷(新選組成る/檜の標札/雨戸の楽書/前川荘司宅/離れ座敷/壮士の風采/芹沢鴨/近藤勇/山南敬助/土方歳三/沖田総司/原田左之助/隊士の勤務/隊旗と提灯/試斬り/佐伯亦三郎殺さる/帳場に座った芹沢/芹沢鴨暗殺/美人お梅/八木源之丞邸/かた目の平山/母から聞いた話/真っ裸の芹沢/首の落ちていた平山/馳せつけた勇/三つの死骸/近藤の弔辞/八木邸の刀痕/野口健司切腹)|池田屋斬込前後(単衣の下に竹胴/血刀下げて/谷三十郎/近藤の気合/会津侯お医者/事件の後/山南敬助の腹切/楠小十郎殺さる/永倉新八翁遺談/山野八十八のこと/道場を新築/近藤の手紙/壬生引揚げ/伊東の噂)|伊東兄弟(小野圭次郎氏談/三樹三郎日誌/三樹三郎遺談/秦林親日記/油川信近氏史談/篠原秦之進手記/渡辺清翁史談)|近藤の最後(佐藤俊宣翁談)|勇の屍を掘る(太刀取/勇の家族/恋の沖田/驚嘆の宮川家/板橋へ行く三名/夜の刑場/首のない勇/故郷へ)|解説 尾崎秀樹 ここから始まる本のリンク▼『埋もれ火』(北原亞以子著・文藝春秋) |
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秘剣 鬼の骨 (ひけん・おにのほね)
鳥羽亮
カバーイラスト:村上豊 |
♪渋沢念流の遣い手、蓮見宗二郎が活躍する「深川群狼伝」シリーズ第三弾。ルビの箇所が増えているのに気が付いた。深川の治安を守る始末人、蓮見宗二郎らの前に、一太刀で頭骨を砕く戦慄の豪剣が立ちはだかる…。ますます凄味を増した“鳥羽チャンバラ小説”の最新刊。 この「深川群狼伝」シリーズの楽しみは、法で裁けない悪をTV時代劇の必殺もののように集団で懲らしめ解決する爽快感にある。 さらに、鳥羽作品の特徴である、ミステリー色と豪快なチャンバラシーンが堪能できるところも魅力。
物語●深川の廻船問屋の主人が牢人者に斬殺された。斬る寸前に「キコツ」という声を発し、牢人は一刀のもとで主人の額を二つに割った…。死体を改めた南町奉行定町廻り同心佐伯英深は、開いた傷口から白い頭骨が覗いている凄まじい死顔を見て、「正面から一太刀、かなりの遣い手だな」とつぶやいた。 目次■第一章 始末人/第二章 島七/第三章 廻船問屋/第四章 刺客/第五章 女狐/第六章 鬼の骨|解説 菊池仁 ここから始まる本のリンク▼『闇の狩人』上・下(池波正太郎著・角川文庫、新潮文庫) |
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江戸仇討模様 永代橋、陽炎立つ (えどあだうちもよう・えいたいばし、かげろうたつ)
千野隆司
カバーイラストレーション:倉橋三郎 |
♪倉橋さんの「江戸名所図会」風の装画と、「永代橋」という語感が江戸ファンの心をくすぐる。作者は、1990年『夜の道行』で、捕物小説としては初めて、第12回小説推理新人賞を受賞した、実力派の新鋭作家。 討つものと討たれるものの心理描写が細やかな仇討短篇集。仇として狙われる側から描かれた「刀傷」「手繰り寄せる朝」「永代橋、陽炎立つ」の3篇と、敵を探す側から描かれた「望郷の風」「らんまん桜の茶屋」「辻斬りの影」の3篇のバランスがよく、いろいろな仇討模様を見ることができる。とくに「永代橋、陽炎立つ」と「らんまん桜の茶屋」が読み味もよく何とも言えない味わいがある。 物語●「刀傷」同僚を惨殺し、越後村松藩を四年前に出奔した原甚四郎は、高利貸しの用心棒を務めていた。仲間と一緒に上野山下の昼下がりの雑踏を歩いていた…。「手繰り寄せる朝」上総弦牧藩老職の息子を斬った浜尾郁之助は、江戸に出て一年半、今は本所林町の裏店で、子ども十人ばかり集めた寺子屋と、竹籠細工造りの内職で生計を立てていた…。「永代橋、陽炎立つ」元常陸府中藩士の藤枝久三郎は、五年前に上司を斬って出奔し、今は豆腐屋として働いていた…。「望郷の風」信濃高島藩士だった父を殺され、仇討の旅に出た原口藤兵衛は、五年におよぶ屈託と苛立ちの中で疲れていた…。「らんまん桜の茶屋」花見客で賑わう小石川護国寺の門前の茶店の前で、仇討騒ぎが起きた…。「辻斬りの影」町人として、看板書きの仕事についている、大貫五郎太は、浜町河岸で、かつえの剣術仲間と十年以上ぶりに再会した…。 目次■刀傷|手繰り寄せる朝|永代橋、陽炎立つ|望郷の風|らんまん桜の茶屋|辻斬りの影|解説 長谷部史親 ここから始まる本のリンク▼『仇討群像』(池波正太郎著・文春文庫) |
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竜門の衛 (りゅうもんのえい)
上田秀人
カバーデザイン:東京図鑑 |
♪新人作家だが、帯に縄田さんの絶賛のコピーがついていたので、即Get!将軍吉宗時代の政治抗争もののようだ。 思わぬ収穫。隆慶一郎さんの『花と火の帝』を彷彿させる、将軍、天皇、大名、公家が絡むスケール大きな伝奇小説。南町奉行所同心がヒーローというのも面白い。 時は将軍吉宗時代の晩年、元文元年。次期将軍候補の筆頭家重には、言語障害のハンディキャップがあった。主人公の三田村元八郎は、南町奉行・大岡越前守忠相配下の同心で、宝蔵院一刀流の免許皆伝。宝蔵院一刀流は、槍の宝蔵院胤栄が上泉伊勢守のもとで神影流の剣を学んで生まれた秘剣という設定。 この元八郎が江戸で京で、そして東海道で大活躍する大活劇。 元江戸相撲の関取という岡っ引の貞五郎、両替商出雲屋嘉兵衛、示現流の遣い手・菊池主馬之助、伏見宮貞建親王など脇役のキャラクター造型もいい。 物語●南町奉行所定町廻り同心三田村元八郎は、柳橋の芸者・伽羅に、父・順斎の危急を告げられる。見知らぬ女の言葉に不審を抱きつつ、小石川にある父の隠居所へやってきた元八郎は、父の切迫した気合いを聞き、父を囲む八人の曲者の姿をそこに見た…。 目次■序章/第一章 江戸の闇/第二章 夏の霞/第三章 京洛の深更/第四章 東海道の風雲/終章/解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『花と火の帝』(隆慶一郎著・講談社文庫) |
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銭形平次捕物控 (ぜにがたへいじとりものひかえ)
野村胡堂
カバーイラスト:倉橋三郎 |
♪以前に、若き日の銭形平次を描いた作品集(『銭形平次・青春篇』(講談社大衆文学館=絶版)を読んだことがある。こちらはベスト版といったところか。テレビ(といってもほとんど見ていないが)とは異なる、軽妙な口説の平次に意外な感じをもった。ガラッ八、こと八五郎との会話は、ボケとツッコミの漫才めいている。この点が『半七捕物帳』との最大の違いかもしれない。文体もかなり俗っぽくなっているのも特徴か。 平次像も推察力はあるが、早飲込みすぎるところが見られ、事件がミスリードされるところがある。その一方で、事件の犯人を情を優先させてあえて見逃す場合も多い。 トレードマークの投げ銭については、『濡れた千両箱』の一編に見られるだけである。恋女房のお静やライバルの三輪の万七親分の活躍も見たい。本書は傑作選だが、もっと他の話も読みたいものだ。 物語●「小便組貞女」材木屋が迎えた妾は、周りの評判は良かったが、小便組と呼ばれる詐欺の一味らしい…。「八五郎の恋人」平次が与力筆頭笹野新三郎のおともで京都に行っている間に、事件が起こり、八五郎が活躍するが…。「濡れた千両箱」深川の材木屋が谷中の檀那寺に三千両を送ることになったが…。「刑場の花嫁」平次が先代に世話になった富島町の島吉親分が厄介な事件に直面し、面食らっていた…。「仏喜三郎」評判のよくない美人の踊りの師匠が絞め殺された…。「雪の夜」前に八五郎の下っ引をしていた田圃の勝太郎という若い男が、遊女屋の主人殺しの下手人として挙げられた…。「花見の仇討」飛鳥山の花見帰り、平次と八五郎は、敵討騒動に巻き込まれた…。「弱い浪人」元浪人で金貸しの後家に惚れられて主人になった男が、月見の晩に事件にあった…。「遺書の罪」平次のもとに美女が謎の遺書を持ちこんだ…。「尼が紅」三河町の大地主の総領息子が亡くなり、半年たって、水茶屋勤めで息子と恋仲だった女が尼となって菩提を弔うために地主の家に乗り込んだ…。 目次■小便組貞女|八五郎の恋人|濡れた千両箱|刑場の花嫁|仏喜三郎|雪の夜|花見の仇討|弱い浪人|遺書の罪|尼が紅|解説 真鍋元之 ここから始まる本のリンク▼『半七捕物帳』(岡本綺堂著・光文社文庫ほか) |
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南洲残影 (なんしゅうざんえい)
江藤淳
装丁:坂田政則 |
♪難しそうで、なんとなく敬遠していた江藤さんのベストセラー(単行本時に)にチャレンジ。かつての軍国少年であり、右よりの言動が見られる、江藤さんらしい、激烈な愛国の譜。西郷隆盛への鎮魂歌の形態をとりながらも、それは太平洋戦争のそれであり、現代の日本の憂国の歌でもある。 それでいながら、西郷隆盛の姿はほとんど描かれず、その声はほんとど聞こえない。まさに「残影」を追うといったところだ。 勝海舟作の薩摩琵琶歌「城山」から始まり、落合直文の「孝女白菊の歌」、蓮田善明の「ふるさとの驛」、軍歌「抜刀隊」など、西南戦争ゆかりの歌を織り交ぜながら、硬質でありながら叙情的に西郷の遺したものを明らかにしてゆく。 読みどころ●西南戦争における西郷隆盛(南洲)の「残影」を追い求めた史論。明治政府へ直諌したいという、西郷をはじめとした私学校党勢たちの、思いが爆発した、西南戦争。薩軍の戦法・用兵は拙劣一途に傾き、ついに城山での自決につながる。そこへ至る西郷の心境を詩歌や周辺の人たちの言動を通じて浮き彫りにしていく、一種の評伝。 目次■一 全的滅亡の曲譜/ニ 剽悍無謀/三 白菊の歌/四 ふるさとの驛/五 背面軍進撃/六 「抜刀隊」/七 山中彷徨/八 精神気魄/九 西郷星/十 幻の進軍/エピローグ/あとがき/解説 上村希美雄 ここから始まる本のリンク▼『西郷盗撮』(風野真知雄著・新人物往来社) |
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孤剣 (こけん)
大藪春彦
カバーイラスト:西のぼる |
♪ハードボイルド作家・大藪春彦さんの唯一の時代小説。うち一編は、市川雷蔵主演『赤い手裏剣』の原作になっている。誤解を恐れずに言えば、主人公の伊吹勘之助が気持ちよいほど人を殺すところが、何とも胸をすく。荒唐無稽などお構いなしの大藪ワールドで、鬱屈した気分が一気に晴れる物語だ。バイオレンスシーンが多数でてきながら、陰惨さや暗さ、じめじめ感が感じられないのは作者の資質か。 「掟破り」で伊吹が輪胴式のコルト・パタスン五連発を解体したり、弾丸を作ったりするシーンにニヤリとさせられた。 解説によると、大藪さんは亡くなる前に時代小説をまた書きたいとおっしゃられていたそうである。とても残念な思いがする。 物語●「町荒らし」房総随一の港町・稲毛に伊吹勘之助がやってきた。その町は唐犬組と銭安組の二つのヤクザが抗争していた…。「掟破り」ホトケの忠太郎、米屋権兵衛、角屋松次郎の三人の親分が牛耳っていた古河の町に、伊吹が足を踏み入れた…。「隠田騒動」本庄の町の一杯飲み屋の女から伊吹は、新田の検地で農民を苦しめる高崎藩の勘定役春日の悪評を聞く…。「山狼」信州松代藩の城下町にやってきた伊吹は、広場で倒れている武士の脈をとっていると、抜刀した十人近くの武士に囲まれた…。 目次■第一話 町荒らし|第二話 掟破り|第三話 隠田騒動|第四話 山狼|解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『虚空伝説 餓鬼草子の章』(高橋直樹著・祥伝社ノンノベル) |
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鬼九郎五結鬼灯 (おにくろうごけちほおずき)
高橋克彦
カバー装画:不二本蒼生 |
♪舫鬼九郎シリーズ第3部。いかにも伝奇ものらしい、不二本さんの装画がそそる。鬼九郎の出生の秘密に迫るほか、幡随院長兵衛や天竺徳兵衛、柳生十兵衛、高尾太夫ら錚々たる脇役陣の見せ場も用意されているみたいだ。 読むまでタイトルの意味がわからなかったが、各章のタイトルに盛りこまれている主要な登場人物(幡随院長兵衛、天竺徳兵衛、遊女高尾、柳生十兵衛、舫九郎)の5人にスポットを当てた巻であるという意味であるらしい。この5人の活躍を順繰りに紹介しながら、面白いハーモニーを見せている。九郎の出生の秘密や、いかにして秘剣“緋炎の剣”を修得したかが明かされる。シリーズ最大のクライマックスを迎えた印象を受けた。果たして“鬼灯”たちの今後の活躍は見られるのだろうか。 物語●先月の会津の旅(『鬼九郎鬼草子』の巻参照)から無事に戻った幡随院長兵衛と唐犬権兵衛は、両国の喧騒のなかにあった。両国は二人のライバル夢の市郎兵衛の縄張りで、寛永寺の後ろ盾をもらっているだけに喧嘩を避けたい身だが、評判の女形・村山左近太夫を見るために芝居小屋へやってきた。そこで、早速、騒動に巻き込まれることになる…。 目次■長兵衛獄門首/女難徳兵衛/怪談高尾/重ね十兵衛/九郎非情剣/解説 笹川吉晴 ここから始まる本のリンク▼『かくれさと苦界行』(隆慶一郎著・新潮文庫) |
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秘画 御書物同心日記 (ひが・おしょもつどうしんにっき)
出久根達郎
装画:宮川長亀 |
♪紅葉山御文庫に勤める御書物同心東雲丈太郎が活躍するシリーズ第2弾。主人公の古本マニアぶりがたのしい。全編にゆとりのあるユーモアが漂い、何ともいえない読み味のよさをもっている。紅葉山御文庫に勤める御書物同心・東雲丈太郎の本や本を取り巻く人たちに寄せる愛情が温かくて、いい気持ちにさせてくれる。 一話完結で、江戸の本の事情や古書界の習慣を紹介してくれていて興味深い。本好きにはたまらないシリーズである。 物語●「目録」紅葉山御文庫の御風干(本の虫干し)も順調に進み、新入りの東雲丈太郎は、世話役の時田敬之助に、御文庫の蔵書目録を見せてもらうことになった…。「秘画」丈太郎は、古本屋の小泉喜助に極彩色の春画の鑑定を依頼されたが…。「袖珍」御文庫の御風干で、丈太郎は、惇信院様(家重)ご遺愛の袖珍本(豆本)を見た…。「素麺」丈太郎は、古本屋有志が古書の宣伝のために始めた眼福満腹会に参加した…。「松茸」丈太郎は、同僚の平塚清二郎から古本屋で遭った災難について聞いた…。「土蔵」旗本から紅葉山御文庫に蔵書の寄贈願いが出されて、丈太郎と白瀬角一郎が保存状態のチェックに旗本家に出かけた…。「蓮実」丈太郎は、叔父の千之丞と深川蛤町に堀釣りに出かけた…。 目次■第一話 目録|第二話 秘画|第三話 袖珍|第四話 素麺|第五話 松茸|第六話 土蔵|第七話 蓮実 ここから始まる本のリンク▼『猫の似づら絵師』(出久根達郎著・文藝春秋) |
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やみとり屋 (やみとりや)
多田容子
装画:葛飾北斎「群鶏」(東京国立博物館・蔵) |
♪生類憐れみ令下で、やみとり屋(やきとり屋)を営む男たちとそこに集う無頼の徒たちの活躍を描く、時代小説。やみとり屋に巣食う男たちが個性的だ。とくに、童顔で小柄ながら喧嘩っ早くて女にもてる吉本万七郎と言部流舌法の達人・潮春之介という上方出身のコンビが面白い。TVで活躍中のあの漫才コンビ(最近は漫才をしないが)を想起させられる。 時代小説の体を取りながら、どんどん乖離してゆく、不思議な青春伝奇小説。固有名詞が記号化していて、実体がないバーチャルな世界が広がっている。まるで、主役の春之介の言部流の舌法にかかっているような感じだ。 物語●向島の外れ、奉行所の目が届くか届かないかの境の森に囲まれた地に、その隠れ宿があった。――刀を抜かずに息抜こう 心の闇が取れる店――板看板には能筆の文字が書いてあった。「やみとり屋」は、浪人者や無頼の徒が好んで通う憩いの場であり、まだ江戸にはない学問の話まで聞けるという飲み屋だが、誰でも足を向けられるような、気安い店ではない。客達は、己の首を賭けて美食を食すのである。そのための登竜門が夜の浄寒寺で行われる儀式だった…。 目次■第一章 隠れ宿/第二章 言部流/第三章 傾き/第四章 世直し/第五章 語らい/第六章 人相描き/第七章 変/第八章 便り |
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佐助の牡丹 御宿かわせみ (さすけのぼたん・おんやどかわせみ)
平岩弓枝
装丁:蓬田やすひろ |
♪「御宿かわせみ」の最新刊! 『「御宿かわせみ」読本』も文庫最新刊の「春の高瀬舟」、「はやぶさ新八御用旅 東海道五十三次」と同時に刊行され、「かわせみ」ファンとしては、この上なく幸福な気分が味わえる。今回も相変わらず(もちろん、いい意味である)江戸の四季が満喫でき、おなじみの「かわせみ」の面々と再会でき、時にはほろりとさせられる。ファンには堪らないひとときである。『水売り文三』では、不覚にも涙してしまった。 『「御宿かわせみ」読本』(文藝春秋)も出ていて、共同のキャンペーンをやっているので、ファンは要チェック。 物語●「江戸の植木市」東吾はお吉と千春を連れて、薬研堀の植木市に出かけて、水仙の鉢を買う病身の商家の男を見かけた…。「梅屋の兄弟」るいの父の墓参りに出かけた東吾とるいは、墓地で喧嘩する二人の男を見かけた…。「佐助の牡丹」深川富岡八幡宮で、牡丹の品評会があり、一位に選ばれた鉢に疑惑が生じた…。「江戸の蚊帳売り」永代橋で東吾とお吉は、声の悪い蚊帳売りとすれ違った…。「三日月紋の印籠」かわせみに畝源三郎の妻・お千絵の紹介で、母子が泊まった…。「水売り文三」東吾は、御開帳で賑わう回向院門前で、若い水売りが物乞いの老女に水を飲ませているところを見かけた…。「あちゃという娘」兄・通之進の代わりに、法要に出席した東吾は、麻生宗太郎が診ているうつ病の隠居を見かける…。「冬の桜」宗太郎の弟・宗三郎が、他出先で病人に遭い、助けを求めてきて、東吾と宗太郎は四谷に出かけた…。 目次■江戸の植木市|梅屋の兄弟|佐助の牡丹|江戸の蚊帳売り|三日月紋の印籠|水売り文三|あちゃという娘|冬の桜 ここから始まる本のリンク▼『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著・講談社文庫)、『江戸よ語れ』(海野弘著・河出書房新社) |