新・極楽の読書録
2001年3月・弥生の巻

雪 古九谷 by 高田宏
有明の月 豊臣秀次の生涯 by 澤田ふじ子
ペルシャの幻術師 by 司馬遼太郎
「半七捕物帳」江戸めぐり―半七は実在した by 今井金吾
橘花の仇 鎌倉河岸捕物控 by 佐伯泰英
札差平十郎 by 南原幹雄



札差平十郎
(ふださしへいじゅうろう)

南原幹雄
(なんばらみきお)
[経済]
★★★☆☆

カバーイラスト:蓬田やすひろ
解説:菊池仁
時代:享保二十年
場所:蔵前通り、片町、天王町、森田町、京橋、日本橋石町、佐賀町、万年橋、天王橋、両国橋、本所回向院ほか
(角川文庫・619円・01/03/25第1刷・301P)
購入日:01/03/20
読破日:01/03/28

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札差平十郎 札差というと、豪奢の限りを尽くしたり、貧乏旗本・御家人をいじめる、悪者のイメージが強いが、珍しくその札差をヒーローにした痛快系の時代小説。それまで札差と聞くと、豪商のイメージがあったが、この作品を読んで、初期の頃は、旗本や御家人の使いっぱしりのような存在で、日々の生計にも困った貧しい時代があったことを知り、新鮮な思いにとらわれた。
主人公の札差平十郎が担保を確認したり、身元調査をあまりせずに、安易にお金を用立てるのがちょっと不思議だったが、その分、事件が起こって楽しめたとも言える。しかもお金の力ばかりでなくて剣の力で解決するところが新味。
江戸の経済のシステムが垣間見れて興味深い時代小説である。

物語●平十郎は、札差の仕事を嫌い、家を飛び出して剣術道場に住みこみ、師範代になっていたが、父が病気で倒れて隠居したために、家に戻り札差辰巳屋をついだ。その辰巳屋に蔵宿師・妙見の政次郎がやってきた。辰巳屋の有数の札旦那で剣術の達人として名高い旗本・二宮陣之助のために、三百両の借用を求めてきたのだった…。

目次■蔵宿師/蔵前千両箱/屑米千石/あばれ札差/蔵前太鼓/本所回向院裏/命十両/蔵前閻魔堂/決闘小栗坂/解説 菊池仁

ここから始まる本のリンク▼『損料屋喜八郎始末控え』(山本一力著・文藝春秋)

橘花の仇 鎌倉河岸捕物控
(きっかのあだ・かまくらがしとりものひかえ)

佐伯泰英
(さえきやすひで)
[捕物]
★★★★☆

装画:浅野隆広
装幀:芦澤泰偉
解説:磯貝勝太郎
時代:寛政九年春先
場所:川越、本両替町、鎌倉河岸、小石川広小路、越中橋、上野池之端、京橋、深川北松代町、蝋燭町、深川六間堀ほか
(ハルキ文庫・840円・01/03/18第1刷・371P)
購入日:01/03/14
読破日:01/03/20

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橘花の仇 鎌倉河岸捕物控 江戸に跋扈する悪に立ち向かう若者たちの群像。それを助ける周りの人たちとの人情味溢れる交流。爽やかな青春捕物小説の登場である。
単調やマンネリ、類型化になりがちな捕物に、ヒロインの出生の秘密を織り込ませて、奥行きをつけている。
なお、作品の舞台となる、鎌倉河岸の酒問屋豊島屋は、現在も豊島屋酒店として江戸の味と伝統を今に伝える老舗である。

物語●浪人の娘・志穂は、中気で倒れ、左手が不自由な父に変わり、暮らしを安定させるため、名前をひらがなのしほに変えて、長屋で育った町娘として鎌倉河岸の酒問屋豊島屋に勤めはじめた。こまねずみのように一生懸命働く十六歳のしほは、看板娘として客から愛され、鎌倉河岸裏のむじな長屋で育った幼なじみで十九になったばかりの、船頭の彦四郎、岡っ引金座裏の宗五郎親分の手先の亮吉、呉服屋に勤める手代の政次の三人とは仲良しだった。しほの父・文之進が、湯屋の二階で御家人と橘の鉢をめぐって口論の末、斬り殺された…。

目次■序章/第一話 仇討ち/第二話 逢引き/第三話 神隠し/第四話 板の間荒らし/第五話 密会船強盗/第六話 火付泥棒

ここから始まる本のリンク▼『震える岩 霊験お初捕物控』(宮部みゆき著・講談社文庫)

「半七捕物帳」江戸めぐり―半七は実在した
(はんしちとりものちょう・えどめぐり)

今井金吾
(いまいきんご)
[江戸学]

カバー地図:「永代御江戸地図」(弘化二年刊 著者蔵)
カバーデザイン:間村俊一
(ちくま文庫・720円・99/03/24第1刷・296P)
購入日:01/02/04
読破日:01/03/19

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「半七捕物帳」江戸めぐり―半七は実在した 同じ著者の『「半七捕物帳」大江戸歳事記』が江戸入門書として面白くて役にたったので、第1弾が欲しくなった。
切絵図を片手に、「半七捕物帳」を楽しむ傍らに、物知りの古老(ガイド)がいるといった、贅沢な江戸学入門書。こうして解き明かされると、江戸・東京の町はすっかり変わっているのに、作品自体が古びていないのは、驚嘆に値する。同時にまた、捕物小説としての質の高さもまざまざと見せつけられた感じがした。
いよいよ『半七捕物帳』を全編読んでみたくなった。

読みどころ●「半七捕物帳」を通じて当時の江戸、あるいは明治の東京の姿を再現する画期的な書。この捕物帳の主人公半七親分の一生を、綺堂青年との関わり合いのうちに眺める。日本橋、神田、浅草、向島、深川、赤坂、大久保などの数地域に分け、各地域の半七老人との関わり合いを説明し、各地域の特色や名所についても簡単に解説。

目次■はじめに―半七は実在した―|第一章 江戸と町奉行(1 江戸の範囲/2 下町とは?/3 都庁に当たる町奉行所/4 寺社など他支配との関連/5 岡っ引とその収入/6 捕物帳について)|第二章 半七の生家―日本橋界隈(1 父は木綿店の通い番頭(大伝馬町付近)/2 生家は白木の横町裏(日本橋一丁目付近)/3 半七の生年月日は?)|第三章 半七親分の住居―神田界隈(1 吉五郎の子分時代/2 神田三河町の住居/3 住居の造りは?/4 明神下に住む母と妹)|第四章 綺堂青年の住居―麹町界隈(1 番町に住んでいたおじさん/2 おじさんと半七とのつながり(若い頃の半七の容貌))|第五章 半七と綺堂の出会い―浅草界隈(1 綺堂を半七に引合わせた浅草(半七老人の容貌)/2 半七行きつけの食い物屋/3 半七の親しんだ浅草)|第六章 健脚家だった半七老人―向島界隈|第七章 晩年の半七―赤坂周辺(1 息子の仕送りで楽隠居/2 隠居所は赤坂新町/3 隠居所の造り)|第八章 半七の友人たち―大久保周辺(1 半七に紹介された三浦老人/2 初対面は明治二十七年/3 大久保百人町の老人の住居/4 その他の友人)|第九章 半七の人物像―深川近辺(1 半七の性格/2 半七の嗜好/3 趣味のいろいろ)|第十章 半七の旅(1 行楽もかねた信仰/2 “江戸っ子”半七の旅)|第十一章 半七老人の終焉|あとがき/資料一 「半七捕物帳」の思い出 岡本綺堂/資料ニ 半七紹介状 岡本綺堂/文庫版あとがき

ここから始まる本のリンク▼『「半七捕物帳」大江戸歳事記』(今井金吾著・ちくま文庫)

ペルシャの幻術師
(ぺるしゃのげんじゅつし)

司馬遼太郎
(しばりょうたろう)
[伝奇]
★★★★☆

カバー:壁画衆人奏楽図(東京国立博物館)
カバーデザイン:斎藤深雪
解説:磯貝勝太郎
時代:「ペルシャの幻術師」1253。「戈壁の匈奴」1920、1227。「兜率天の巡礼」昭和22年。「下請忍者」永禄四年。「外法仏」天安二年。「牛黄加持」保延三年。「飛び加藤」永禄三年。「果心居士の幻術」天正五年。
場所:「ペルシャの幻術師」メナム。「戈壁の匈奴」西夏。「兜率天の巡礼」洛西・嵯峨野。「下請忍者」伊賀喰代。「外法仏」坂本。「牛黄加持」高倉二条。「飛び加藤」二条柳馬場。「果心居士の幻術」当麻村。
(文春文庫・514円・01/02/10第1刷・368P)
購入日:01/02/18
読破日:01/03/14

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ペルシャの幻術師 隆慶一郎さんの本や海音寺潮五郎さんの本の解説で、司馬さんの「ペルシャの幻術師」の話が登場し、以前から気になっていた作品。「ペルシャの幻術師」は、司馬さんの幻のデビュー作で、昭和31年、第8回講談倶楽部賞受賞作。「戈壁の匈奴」と並んで、日本人が登場しない、海外を舞台にした歴史ロマン小説。その視野の広さ、スケールの大きさに驚く。
「兜率天の巡礼」は、伝奇小説ばかりを集めた、この短篇集の中でもいちばん好きな作品。何とも不思議でちょっとせつない歴史ファンタジー。
「下請忍者」は、下忍という存在にスポットを当てた『梟の城』に通じる忍者小説。
「外法仏」と「牛黄加持」は、密教僧の加持祈祷を扱った短篇。展開の妙。
「飛び加藤」と「果心居士の幻術」は、戦国時代に活躍した不思議な忍びの話。
国民作家として、また歴史小説の大家として近寄り難い印象を与えていた司馬さんの別の面を見れる素敵な作品集だとおもう。

物語●「ペルシャの幻術師」ペルシャ高原の町メナムは、大鷹汗ボルトルに率いられた蒙古軍の支配を受けた。メナムの美姫・ナンはポルトルの求愛を受けていたが…。「戈壁の匈奴」1920年、英国の考古学者で退役軍人が戈壁(ゴビ)の南で、一個の玻璃の壷を見つけた…。「兜率天の巡礼」ポツダム政令により京都の大学を追放された法学博士閼伽道竜(あかどうりゅう)は、洛西の嵯峨野にある上品蓮台院という不断念仏宗の末寺を訪れた…。「下請忍者」伊賀の郷士百地小左衛門配下の下忍猪ノ与次郎は、敵情視察を終え、伊賀喰代に帰ってきた…。「外法仏」僧都恵亮(そうずえりょう)は、中御門大路で市井の巫女・青女(あおめ)と出会った…。「牛黄加持」醍醐理性院の賢覚僧都について真言秘密の法義を学ぶ義朗(ぎろう)は、ある夜、右大臣藤原長実の姫・得子の夢を見た…。「飛び加藤」上杉家の家臣永江四郎左衛門は、京の辻で五尺に満たない小男が牛を呑みこむところを見た…。「果心居士の幻術」果心居士が最初に群集の中に姿をあらわしたのは、天正五年七月、大和葛城山のふもと当麻村の、田の中であった…。

目次■ペルシャの幻術師|戈壁の匈奴|兜率天の巡礼|下請忍者|外法仏|牛黄加持|飛び加藤|果心居士の幻術|解説 磯貝勝太郎

ここから始まる本のリンク▼『蒙古来たる』上・下(海音寺潮五郎著・文春文庫)

有明の月 豊臣秀次の生涯
(ありあけのつき・とよとみひでつぐ)

澤田ふじ子
(さわだふじこ)
[戦国]
★★★☆☆

カバーイラスト:百鬼丸
カバーデザイン:桜井勝志
解説:大野由美子
時代:天正三年
場所:伊吹山、長浜城、安土城、三木城、近江国八幡山城、高松城、根来、聚楽第ほか
(廣済堂文庫・552円・01/02/01第1刷・320P)
購入日:01/01/20
読破日:01/03/08

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有明の月 豊臣秀次の生涯 秀次というと、「殺生関白」と呼ばれ、あまり評判がよくないが、晩年の秀吉を見ていると、必ずしもそうではなかったのではないかという気になってくる。
本書と大野さんの解説によると、秀次が残虐で常軌を逸した「殺生関白」と見なされるようになったのは、小瀬甫庵(おぜほあん)の『太閤記』以降であり、甫庵太閤記に意図的な歪曲があるのではないかという指摘である。甫庵が秀次と同時代人であり、秀吉の権勢下に生きたことと、中国のように正史の伝統を持たないことから考えると、納得できる仮説である。
おのれの才覚で立身出世を遂げ、頂点の極みへ上りつめた「庶民のヒーロー」としての秀吉像の原点もまた、この甫庵太閤記にあるように思える。秀次を再評価することは、かなり勇気が必要なことに思えるが、そのタブーに挑戦した澤田作品は評価したい。
情報操作による誤解といえば、貧農の出身というイメージが強い秀吉が、実はわりあいに裕福な中農の出であることもあげられる。
歴史にもしはないが、秀次が後継者を全うしていたら、関ヶ原の合戦は起こらず、徳川幕府は成立せず、伊達や上杉あたりが次期権力者になっていたのかなあ、と変な想像膨らませてしまう。

物語●母親ともに手をひかれた小吉と、父の弥助といっしょに、羽柴秀吉の招きに応じて、信吉(のぶよし)が尾張国大鷹村をたち、近江長浜へやってきたのは、天正三年冬枯れの頃であった。八歳のときであった。秀吉の姉夫婦である弥助一家は、大鷹村で百姓をやっていたが、出世した秀吉が身内を周りに置きたいという思いから呼びだれたのであった。長浜城に着いた信吉(後の豊臣秀次)の波乱の人生はこうして始まった…。

目次■湖国雁行/秀勝夭逝/安土御構屋敷/宿世邂逅/戦戦眺望/孫七郎初陣/秀吉出世/茶々哄笑/近江八幡山城/邯鄲の枕/京畿凶報/秀次悲運/解説 大野由美子

ここから始まる本のリンク▼『秘剣花車』(戸部新十郎著・新潮文庫)

雪 古九谷
(ゆき・こくたに)

高田宏
(たかだひろし)
[芸道]
★★★★☆

カバー装画・装丁:西のぼる
解説:新井満
時代:寛文二年(1662)早春
場所:大聖寺、九谷村、山中村
(学陽書房人物文庫・700円・01/02/20第1刷・253P)
購入日:01/02/18
読破日:01/03/03

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雪 古九谷 作者は、九谷焼のふるさと、石川県大聖寺(だいしょうじ)出身。九谷焼の制作秘話に迫る異色の時代小説。
ぜんぜん焼きもののことはわからないのだが、面白く読めた。読後には、金沢の県立美術館へ「古九谷(こくたに)」を見に行きたくなったほどである。
「古九谷」は、江戸初期の短期間、加賀国大聖寺藩で制作され、突然消えてしまった、幻の彩色磁器である。あとがきによると、金沢の石川県立美術館で、古九谷の名作数点を見たときに作者は、大きな衝撃を受けたと述べている。その後、有田をはじめ各地の窯や窯跡を見てまわり、自分で土をこねてみたり、あちこちの美術館が所蔵する古九谷を見に出かけたり、加賀藩や大聖寺藩の史料を読み、美術史勉強し、旧九谷村周辺を歩き回った末に、生まれた快作である。
古九谷の絵付師像と、その背後の大聖寺藩像など、なんとも興味深い物語となっている。
タイトルは、「雪」のあとにスペースを入れるのが正しいのだろうか? それとも空きスペースなしで、「古九谷」と続けたほうがいいのだろうか? 統一されてないので困った。

物語●寛永十六年、加賀藩三代藩主前田利常が四十七歳の若さで隠居し、長男光高に加賀藩八十万石を継がせ、次男利次に富山藩十万石、三男利治に大聖寺藩七万石を興させた。こうして生まれた前田家の支藩・大聖寺藩は、加賀の南はずれ、江沼郡一円を領し、大聖寺(現在の加賀市)に藩邸を定めた。藩主・利治公の命で山中の村・九谷に窯場が造られ、後藤才次郎を窯場奉行に、天下一の焼きものづくりが始まる…。地元の若者で才次郎に目をかけられる太吉、その恋人おりん、おばば、焼きもの場の細工頭、田村権左右衛門、窯場の男・鉄蔵など、九谷の磁器作りに情熱を傾けた人たちの物語。

目次■第一章 雪の夜の九谷村/第二章 加賀三代藩主前田利常/第三章 九谷窯場奉行後藤才次郎/第四章 花ふぶきの九谷村/第五章 金掘り切支丹磔刑/第六章 大聖寺藩七万石城下/第七章 山桜散華図大平鉢/第八章 蝉しぐれの九谷村/第九章 後藤才次郎忠清帰藩/第十章 絵師久隅守景/第十一章 みぞれ降る九谷村/第十ニ章 裸女幻舞図大平鉢/第十三章 春遅い九谷村/あとがき/解説 新井満

ここから始まる本のリンク▼『螢の橋』(澤田ふじ子著・幻冬舎)