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2000年12月・師走の巻
仮面疾風 by 大久保智弘 |
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代書屋五郎太参る 春風ぞ吹く (だいしょやごろうたまいる・はるかぜぞふく)
宇江佐真理
装画:村上豊 |
♪西両国広小路の文茶屋で代筆のアルバイトするかたわら、御番入りを狙う若者が活躍する連作短篇集。お正月楽しめそうな本。とおもっていたら、待ちきれずに年末に読んでしまった。江戸の町を舞台にした、青春小説らしく、読後に爽快感が残る一冊。主人公の村椿五郎太(むらつばきごろうた)は、目玉が大きいのが特徴的で、学問吟味で優秀な成績を上げて、御番入りを目指す若者。江戸っ子らしいそのキャラクターも新鮮なら、周囲の人たちも魅力的に描かれている。幼なじみの紀乃とその父・平太夫。平太夫と犬猿の仲の、五郎太の母・里江、五郎太の乳兄弟で、水茶屋の主・伝助、五郎太の三人の師・橘和多利、大沢紫舟、二階堂秀遠。 昌平坂学問所と学問吟味の様子が細かく描かれていて興味深い。 物語●村椿五郎太は、幕府の小普請組で、御番入り(役職に就くこと)を目指す、二十五歳の若者。家禄のみでは生活が苦しいために、西両国広小路の水茶屋「ほおずき」で、手紙の代筆の内職をしていた。ある日、年増のご新造から武家言葉の短い意味深な手紙を依頼された…。 目次■月に祈りを|赤い簪、捨てかねて|魚族の夜空|千もの言葉より|春風ぞ吹く ここから始まる本のリンク▼『春秋の檻 獄医立花登手控え1』(藤沢周平著・講談社文庫) |
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乱世が好き 上・下 (らんせがすき)
岳宏一郎
装幀:蓬田やすひろ |
♪この本はバーゲン本コーナーで手に入れたのだが、作者に何だか申し訳なくも思われる。黒田官兵衛を描く戦国時代小説。黒田官兵衛と聞くと、司馬遼太郎さんの『播磨灘物語』(未読だが、昔、ラジオドラマで何度か聞いたことがある)を思い出す。『群雲、関ヶ原へ』の岳さんが描くところの歴史長篇は、官兵衛と荒木村重との奇妙な友情を軸に、秀吉、信長、光秀、柴田勝家、竹中半兵衛、別所長治、中川瀬兵衛、高山右近ら戦国武将たちの群像に俯瞰的にスポットを当てている。 とくに、荒木村重と秀吉、信長の人間像を丹念に描くことにより、逆に官兵衛の生き様が浮きあがってきたように思われる。 物語●播州御着(ばんしゅうごちゃく)の中堅大名・小寺政職(まさもと)の重臣・小寺(黒田)官兵衛が、美濃岐阜に入ったのは、天正3年のことだった。京より東へ初めて脚を伸ばした官兵衛は、畿内の大勢を制し、天下一統を目前に控えた織田信長に謁見した。その際に、信長から佩刀を受け取り、「本願寺を片付けたら、播州へ羽柴藤吉郎を遣わす」「功を樹てたら、ひとかどの大名に取り立ててやる。はげめ」と声をかけられた…。 目次■密使/二年待て/約束/中国入り/風の中/明るい場所へ/迷走する季節/闇の底/希望/冬の花(以上上巻)|天正十年初春/積乱雲/不慮の死/飛翔/虎奔る/助走/賤ヶ岳/栄光のために/流星のごとく/関ヶ原(以上下巻) ここから始まる本のリンク▼『風の如く 水の如く』(安部龍太郎著・集英社文庫) |
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日暮れ竹河岸 (ひぐれたけがし)
藤沢周平
カバー:蓬田やすひろ |
♪藤沢さんが亡くなったことを認めたくなくて、今まで敬遠していた最晩年の名作。文庫化を期についに入手。蓬田さんの装画が胸に迫る。江戸の十二ヵ月の中で、女を主人公に鮮やかに一枚の絵のように切りとって描いた十二の掌編「江戸おんな絵姿十二景」と、広重の「名所江戸百景」を舞台にした七つの短篇。 それぞれの話が、極限までに無駄なものを削ぎ落としてあり、藤沢時代小説の至芸を感じる。読む方も心して読むべき作品。(実はちょっと歯が立たず、人間的な熟成を待って、リベンジしたい一冊)
物語●おしづは、政右衛門が持ってきた縁談を、他人事のように聞いていた。子どもが二人もいる男やもめが、自分を嫁に欲しがっているという話だった。母と相談して、いずれ返事すると言って、政右衛門を外に送り出したとき、外は雪で真っ白になっていた…。(「夜の雪」) 目次■江戸おんな絵姿十二景(夜の雪/うぐいす/おぼろ月/つばめ/梅雨の傘/朝顔/晩夏の光/十三夜/明烏/枯野/年の市/三日の暮色)|広重「名所江戸百景」(日暮れ竹河岸/飛鳥山/雪の比丘尼橋/大はし夕立ち少女/猿若町月あかり/桐畑に雨のふる日/品川洲崎の男)|あとがき/解説・杉本章子 ここから始まる本のリンク▼『本所しぐれ町物語』(藤沢周平著・新潮文庫) |
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骨喰み 天保剣鬼伝 (ほねばみ・てんぽうけんきでん)
鳥羽亮
カバーイラスト:西口司郎 |
♪真抜流の遣い手で、大道芸で糊口をしのぐ、島田宗五郎が活躍するシリーズ第2弾。骨喰みの剣を操る強敵が登場。シリーズものの第2作目というのは、本当に難しいと思う。すでに、始末人・蓮見宗二郎や直心影流の毬谷直二郎、小宮山流居合の達人・野晒唐十郎などのヒーローたちを生み出した、鳥羽さんは、いとも簡単にその壁をクリアーしている。今シリーズの島田宗五郎は、その人物造形が際立って見事である。そのポイントは、(1)訳あって脱藩し、浪人になっている。(2)剣技が際立っている。(3)独特の価値観をもっている。(3)子連れ(娘・小雪)を抱えていることでいつもリスクを負っている。(4)ユニークな仕事で生計を立てている。といったところか。 こうした強力なヒーロー像に加えて、緊張感ある時代設定(天保時代=鳥居耀蔵の存在)、強力な敵役、個性的な脇役陣など、仕込みも十分。肝心の物語も、もちろん面白い。 物語●西両国広小路で、娘の小雪と“首屋”(獄門台の晒首を真似て、見物人に腕試し・気晴らしに突くなり叩くなりをさせるというもの)という大道芸で糊口をしのぐ、真抜流の達人・島田宗五郎の前に、十六、七歳の武家娘美里が現れ、腕試しをした。美里は、宗五郎が七年前まで属していた、陸奥の彦江藩の大目付高山清兵衛の娘で、清兵衛は斬殺され無念の最期をとげていた。美里は、宗五郎に助力を依頼するが…。 目次■第一章 白鷺/第二章 無念流隠剣/第三章 大道芸人/第四章 益田屋藤四郎/第五章 蓮照院/第六章 誅殺/第七章 敵討ち/解説 菊池仁 ここから始まる本のリンク▼『天保剣鬼伝 首売り』(鳥羽亮著・幻冬舎文庫) |
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女陰陽師 (おんなおんみょうじ)
加野厚志
カバー画:クリムト「接吻」(PPS通信社) |
♪辰巳典子さんから「主人公が魅力的な少女で陰陽師の弟子。「キャリー」のように怖いけど清冽な魅力がある。それだけでもワクワクするのに、皇女和宮の話とからまして意外な展開に発展。久々に本格的幻想冒険小説。」というメールをいただき、早速入手した本。山田風太郎さんを彷彿させる、オモシロ伝奇時代小説。井伊直弼の謀臣・長野主膳を陰陽師に設定したところが絶妙。今、注目の陰陽師を激動の幕末に引っ張り出してきたのだから面白くないわけがないか。 和宮降嫁がテーマで、長野主膳の弟子で、美少女・八瀬が主人公。岩倉具視が重要な役回りを演じるのもポイント。 物語●京・二条宮家を足場に、大老・井伊直弼のために諜報活動を続ける、陰陽師・長野主膳のもとに、九条関白家の島田左近がやってきた。大老暗殺の檄文を入手したとのこと。主膳は、三日後、水戸と薩摩の浪士に、井伊直弼が襲われることを察知し、愛弟子で女陰陽師・八瀬を江戸へ伝令として走らせることにした…。 目次■序章 清冽なる女陰陽師/第一章 赴くは暗き死地/第二章 気高き皇女和宮/第三章 死符うごめく天満宮/第四章 岩倉具視の陰謀/第五章 中山道、死路への出立/第六章 守山・湯殿の悪霊/第七章 島津の怨念・関ヶ原/第八章 木曾路心中行/第九章 悪夢の師弟対決/終章 板橋宿・伽羅の香り/あとがき ここから始まる本のリンク▼『沖田総司・暗殺剣』(加野厚志著・廣済堂文庫) |
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斬に処す――甲州遊侠伝 (ざんにしょす・こうしゅうゆうきょうでん)
結城昌治
カバー装画:柄澤齊 |
♪結城昌治さんの時代小説が文庫で蘇り、読む機会を得たことが何よりもうれしい。しかも取り上げているのが、清水の次郎長の好敵手・黒駒の勝蔵というのもいい。典型的な博徒としての黒駒の勝蔵と、「やくざとしては桁違いに処世感覚がすぐれた」清水の次郎長の対比が面白い。次第に、アンチ次郎長にさせてしまう作者の手腕は見事。あとがきによると、推理小説の書き手である作者が、黒駒の勝蔵に興味を持ち始めたきっかけは、講談や浪曲の清水の次郎長伝中の「石松殺し」に疑問を抱くようになったことからという。時代小説第一作は、『森の石松が殺された夜』である。 やくざの波瀾万丈の半生を描くばかりでなく、幕末から維新にかけての政治状況や、社会の抱える様々な問題を浮き彫りにしていく。 ようやく、股旅もの魅力が少しわかりかけた感じ。 物語●吃安こと竹居の安五郎の賭場で夜っぴて博打をしていた、上黒駒村若宮の名主小池吉右衛門の次男・勝蔵は、戸倉の旦那(堀内嘉平次)に呼び出された。ぐれてしまった勝蔵のせいで、名主のところへ嫁ぐ話が決まっていた姉・きんの縁談が破れたことを聞かされ、この際、援助をするから、人別帳から外れて、一家を構えないかと打診された…。 目次■斬に処す|附「甲州黒駒余聞」|解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『からくり乱れ蝶』(諸田玲子著・徳間書店) |
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ひとでなし 公事宿事件書留帳 (ひとでなし・くじやどじけんかきとめちょう)
澤田ふじ子
装幀・装画:蓬田やすひろ |
♪江戸時代の弁護士事務所である公事宿の居候・田村菊太郎が活躍するシリーズ第六作。今回、版元が幻冬舎(今までは廣済堂出版)に移ったのが気になる。シリーズの巻数が進んできたこともあり、主人公を引き立てるレギュラー登場人物たちの個性がだいぶはっきりと現れるようになったと思う。田村菊太郎が居候する公事宿「鯉屋」の丁稚の鶴太や手代の喜六、下代(番頭)の吉左衛門などの活躍にもスポットを当てている。 澤田さんの作品を読むと、人間として何が本当に大切かを思い起こさせてくれる。いじめや冤罪、親と子、主と奉公人の関係など、いろいろ考えさせられる。とくにニュースで殺伐な事件を眼にした後などは、癒されげんきづけられる気がする。 物語●「濡れ足袋の女」風邪をこじらせて寝付き、店を休んでいた、鯉屋の下代・吉左衛門は、長屋の板屋根の下で、四十歳近くの女が雨宿りしているのを見かけた…。「吉凶の蕎麦」菊太郎は六角通りの北側で小ぶりの新しい家普請現場で、夜泣きそば屋の七兵衛と出会った…。「ひとでなし」二条城のお堀に若い女性が身投げして死んでいるのを小者番士が見つけた…。「四年目の客」鯉屋の主・源十郎と丁稚の鶴太は、一膳飯屋で酒と食べ物で温まっていた。そこで、旅装束の中年男が誤って銚子を割ってしまい、店の小僧からすぐさま代金を請求される場面に出くわした…。「廓の仏」北野遊廓随一の遊女屋で、風呂焚きを兼ね雑用を果たしている市蔵は、七、八人の子どもたちが一人の子をいじめているのを注意した…。「悪い錆」お信の長屋の人たちが、物乞いのような薄汚れた十徳姿の老人を拾ってきた…。「右の腕」夜の捕物で、東町奉行所の同心組頭・田村銕蔵(菊太郎の異腹弟)は、押込み強盗を捕り逃してしまった…。 目次■濡れ足袋の女|吉凶の蕎麦|ひとでなし|四年目の客|廓の仏|悪い錆|右の腕|あとがき ここから始まる本のリンク▼『御宿かわせみ』(平岩弓枝著・文春文庫) |
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横浜異人街事件帖 (よこはまいじんがいじけんちょう)
白石一郎
装画:安里英晴 |
♪海洋時代小説でおなじみの白石一郎さんの、新シリーズ。海洋小説ではないが、開港直後の横浜(つまり幕末・維新前夜ってこと)が舞台ということで、港や船が随所に出てきて楽しい。捕物小説ながら、幕末の横浜の姿や事件が活写されていて興趣がつきない。主人公は元・江戸南町奉行所同心で、今は横浜で回漕店の差配として、沖仲士たちを指図している、衣笠卯之助(きぬがさうのすけ)。渋川流柔術と直心影流剣術の達人で、義侠心に富んだ魅力的な男。かつての同僚で、今は神奈川奉行所の与力・塩田正五郎と、小鳥屋の女主人・おゆみがレギュラーで登場する。シリーズの今後が期待できる。 物語●横浜日本人街の中央にある本町の大通りを、漆黒のアラビア馬が疾駆している。その馬の蹄にかけられそうになった娘を救い、馬を暴走させた異人から、賠償金を請求した男がいた。奉行所同心を御役御免になり、横浜の港で働いていた、衣笠卯之助である。この場面を目撃した、神奈川奉行所の与力・塩田正五郎は、かつての同僚に再会し、神奈川奉行所のお役目を助けることを依頼するが…。 目次■岡っ引|ハンカラさん|わるい名前|南京さん|とんでもヤンキー|阿片窟|エゲレスお丹|初出一覧 ここから始まる本のリンク▼『八丁堀同心 加田三七』(村上元三著・徳間文庫) |
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仮面疾風 (かめんしっぷう)
大久保智弘
装幀:芹澤泰偉 |
♪読もう読もうと思っていてなかなか読めない作家がいる。『水の砦』で時代小説大賞を取った大久保さんもその一人だ。この作品は、太閤秀吉治世下を舞台に、名工・龍右衛門の遺した「天下の三面」と呼ばれる幻の能面をめぐる伝奇小説。その能面の行方を追う、主人公は、若き能楽者・浩次郎。“砕動風(さいどうふう)”と呼ばれる秘伝の足捌きを遣い、能面の真贋を見極める眼を持っていた。“砕動風”は、確か、『水の砦』でも出てきた体術のように記憶する。 太閤秀吉、石川五右衛門、柳生宗厳・宗矩の父子、金春太夫安照らが登場し、スケール感を出している。 物語●浩次郎は、聚楽第での演能で、師の金春太夫安照(こんぱるだゆうあんしょう)の後見を務めた。演能の後、安照より、名工龍右衛門(たつえもん)の作といわれる「天下の三面」と呼ばれる幻の女面を探し求めるように、命を受けた。龍右衛門の「三面」には天下を鎮める力があり、その「三面」を天下人の関白秀吉の手に渡さなければならないという…。 目次■序章/聚楽第/天下の三面/ややこ踊り/砕動風/真贋の極め/蘭奢待/隠し砦/伊賀の乱/柳生の剣/秘曲/陰鬼/式部塚/由来記/襲撃/関ヶ原/一乗谷/炎の舞台/小田原の陣/太閤能/闇の呼ぶ声/終章 ここから始まる本のリンク▼『はぐれ五右衛門』(鈴木輝一郎著・双葉文庫) |