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2000年10月・神無月の巻
闇の狩人 上・下 by 池波正太郎 |
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番町牢屋敷 (ばんちょうろうやしき)
南原幹雄
カバー装画:柳澤達朗 |
♪番町皿屋敷にひっかけたタイトルだろうか。南町奉行根岸肥前守正虎が主人公の異色捕物帳。 根岸肥前守と聞くと、『はやぶさ新八御用帳』(平岩弓枝著)や『霊験お初捕物控』(宮部みゆき著)に登場するお奉行で、『耳嚢』の鎮衛を思い出すが、本編の主人公は正虎となっている。描かれている時代は、根岸肥前守鎮衛が活躍していた頃と一致する。前の南町奉行の根岸肥前守正虎が、職制の壁などから町奉行の権限の及ばない犯罪を取り締まるために組織した、根岸組(同心鹿間梅次郎、桜木俊八、与力松原庵之助ら)が活躍する痛快捕物帳。 架空の警察組織が活躍するパターンは、同じ作者の中町奉行ものを思い出させる。 物語●「番町牢屋敷」南町奉行根岸肥前守正虎は、物産問屋を抜け荷の疑いで引ったてるが、社寺と雄藩が絡んみ放免することになる…。「根岸牢」尾張藩御用達の材木問屋の主人と手代が何者かに惨殺された…。「六月の、赤い月」出合い茶屋に近い不忍池のほとりで、二太刀で斬られている美人の死体が見つかった…。「美女の寺」芝神明宮や天徳寺に一人で参拝した若い娘が消息不明になる事件が続いて起こった…。「春嵐駆ける」本所・深川で大きな火事があり、被害が甚大な中で…。「女人蔵」非番の南町同心・鹿間梅次郎と桜木俊八は、北町奉行所の前で、行方不明の許婚の探索を訴えている若い男とであった…。「賄賂千両」雄藩の留守居役の寄合に呼ばれた二人の芸者が帰り道で何者かに拉致される事件が起こった…。「掏摸の銀蔵」居酒屋を営むおせんの前に、昔の男・銀蔵が四年ぶりに姿を現した…。「札差大島屋」居酒屋千屋に十六、七の武家娘がやってきた。八丁堀の旦那に何か相談したいことがあるらしい…。 目次■番町牢屋敷|根岸牢|六月の、赤い月|美女の寺|春嵐駆ける|女人蔵|賄賂千両|掏摸の銀蔵|札差大島屋|解説 磯貝勝太郎 ここから始まる本のリンク▼ 『はやぶさ新八御用帳』(平岩弓枝著・講談社文庫)、『震える岩 霊験お初捕物控』(宮部みゆき著・講談社文庫) |
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片桐且元 (かたぎりかつもと)
鈴木輝一郎
装画:浅賀行雄 |
♪御贔屓の鈴木さんの最新作。浅賀さんのアクの強い表紙画がまず目に飛び込んできた。大坂の陣で、キャスティングボードを握る人物の一人、片桐且元を題材に選んだのは鋭い。「賤ヶ岳七本槍」といわれながら、武功面よりも豊臣秀頼の守役のため、行政官的なイメージが強い。そのあげくの大坂冬の陣直前の裏切り(?)。でも、何もなければ、激動の時代は生き残れないはず。うーん、気になる。鈴木さんの作品を読むと、「なるほど、そうだったのか」と思わせられることが多い。今回も、大坂の陣に際しての行動で、疑問と謎のあった、大坂惣奉行・片桐且元について、ぼんやりしていたその人間像がくっきりと浮かび上がってきた。 この片桐且元に絡むのが、隠密・飛騨神岡五郎太。組織に属さない、若き天才はぐれ忍者である。立場や地位を超えた、この二人の掛合いが楽しい。また、古きよきいくさ人というべき、且元を通して見た、大坂城に住まう人々や家康方の人物像が興味深い。 『国書偽造』を読んで以来、感じていることだが、鈴木さんの描くところの、論争による対決シーンは緊迫感があって、見所のひとつだ。 「国家安康・君臣豊楽」で、史上有名な方広寺鐘銘事件にスポットを当てているところも注目。 物語●慶長十九年八月朔日、京方広寺の門前は、竣工を迎え、落慶法要を控えて、殷賑をきわめていた。大坂惣奉行片桐東市正且元の隠密、飛騨神岡五郎太は、『忍び狩り』の命を受けていた。方広寺落慶にともなう雑踏のなかから忍びを探し出して始末することだった。鴨川手前の女郎屋の前で、五郎太は背中に殺気を感じて、忍びたちに襲われた。それは、方広寺の工事を邪魔する徳川方の間者か、はたまた…。 目次■壱 方広寺/弐 駿府/参 君臣豊楽 ここから始まる本のリンク▼『太閤の城』(安部龍太郎著・PHP文庫) |
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おんな舟 十時半睡事件帖 (おんなぶね・とときはんすいじけんちょう)
白石一郎
カバー装画:西のぼる |
♪久々の「十時半睡」シリーズ第6弾。タイミングが悪くて、単行本時には、未読なので、文庫化はうれしい。福岡藩の江戸藩邸で新たに採用した十人目付の制度が軌道に乗り、江戸総目付を勤める十時半睡(とときはんすい)は、赤坂溜池近くにある福岡藩の中屋敷の藩邸暮らしに見切りをつけて、深川の小名木川近くの海辺大工町の新屋敷へ引っ越す。前作以上に、江戸(とくに本所深川)の風景が作品に取り込まれて、興趣を誘う。また、新キャラクターとして、深川黒江町で料理屋牡丹を営む・お波が加わり、彩りを添える。 作品の舞台である深川を探索してみたくなった。主人公の半睡も海に近い深川に住むことによって、故郷の福岡を思い出し、リフレッシュしたように思われ、以前ほど老いが目立たなくなった。半睡さんには、もうしばらく江戸にいてもらいたいものだ。 物語●「空っ風」半睡は、空っ風の吹く中で、部下で深川材木町の町宿に住む、二宮三太夫らと深川に火事見物に出かけた…。「御船騒動」福岡藩の御用船が遠州灘で他船と衝突事故を起こした…。「小名木川」福岡藩の勤番侍が、非番のときに釣りを通して裕福な隠居と知り合った…。「おんな舟」深川に移り住んだ半睡は、足となる舟ができるまで藩邸へ行かぬと言って周囲を困らせた…。「駈落ち者」半睡の舟に、捨て子があった…。「おんな宿」半睡の屋敷の住み込み女中のお仙が怪我をし、臨時の女中がやってきた…。「叩きのめせ」退屈をもてあましていた半睡に、三太夫は、海釣りを勧めた…。 目次■空っ風|御船騒動|小名木川|おんな舟|駈落ち者|おんな宿|叩きのめせ|解説 ここから始まる本のリンク▼『江戸の海』(白石一郎著・新潮文庫) |
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花あざ伝奇 (はなあざでんき)
安西篤子
カバー切絵:藤城清治 |
♪安西さんというと、戦国時代の女性を描いた作品のイメージが強い。しかし、直木賞受賞作も含めた、この作品集は中国小説ばかりである。 藤水名子さん、井上祐美子さん、狩野あざみさん、森福都さん…、中国時代小説を書かれる若手の女性作家が多い。というかその活躍ぶりは中国時代小説を引っ張っているといっても過言ではない。どうしてだろうか?男性中心社会で、女性(ヒロイン)の活躍の場が限定された、日本の時代小説の世界よりも、中国時代小説の世界の方が自由度が高いからだろうか? あとがきによると、安西さんは、昭和十年代に、七歳〜十四歳まで、中国各地で過したという。そのため、中国を故郷同然に思い、望郷の念から中国に関する小説や歴史物語をむさぼり読み、中国時代小説の筆を執ったそうだ。すなわち、中国小説がルーツというわけである。しかもデビュー作の「張少子(チャンシャオツ)の話」で第52回直木賞を受賞する。解説には、その際のエピソードについて、清原さんが触れられていて興味深い。 中国時代小説を守備範囲外であるが、殷の滅亡を題材にした「妲己伝」、秦の始皇帝の後見役・呂不韋を描く「仲父よ蜀におれ」、唐の後期の政変を扱った「甘露の変」がとくに面白かった。宮城谷昌光さんの『奇貨居くべし』が読みたくなった。 物語●「花あざ伝奇」江南王のむすめ婉は、うまれつきからだに痣があった。その婉が十八歳になったとき、五十歳近くで辺境にある北寧王から婚姻の申込みがあった…。「妲己伝」殷の王、受に献じられたたき、妲己は十七歳で国元に言い交わした男があった…。「仲父よ蜀におれ」呂不韋は、朱太后の寝所で数刻を過し、いとまごいをしようとした…。「烏孫公主」謀反人の娘・細君は、漢の武帝の命で、烏孫の老王の昆莫に嫁がされることになった…。「朝焼け」曹操は、甥の曹安民に城内の妓女を呼びにやらせた…。「甘露の変」陳慶は、友人の崔勝が勤めを辞め、自宮したという報を聞いた…。「張少子の話」先帝の子で謀反の罪で追われた張少子は、張ニと旅回りのインチキ奇術で生計を立てていた…。 目次■花あざ伝奇|妲己伝|仲父よ蜀におれ|烏孫公主|朝焼け|甘露の変|張少子の話|解説 清原康正 ここから始まる本のリンク▼ 『玉人』(宮城谷昌光著・新潮文庫) |
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明治犯科帳 激情と暗黒の事件簿 (めいじはんかちょう・げきじょうとあんこくのじけんぼ)
中嶋繁雄
装幀:菊地信義 |
♪相馬騒動や大久保利通暗殺事件、星亨刺殺事件など、興味深い明治の事件をわかりやすく解説した、犯罪実録。山田風太郎さんの明治小説全集が読みたくなった。江戸時代の犯罪に比べて、どの犯罪者の心理も、うまれたばかりの明治という時代の空気に感染したかのように、前向きで熱情的である。著者の中嶋さんは、福井新聞記者、『歴史読本』編集長をへて、歴史ノンフィクション作家となった人。そのキャリアからか、面白くてわかりやすい読み物になっている。 読みどころ●幕末の動乱をへて、日本が近代国家へと変貌していく明治時代。封建の遺風と文明開化が渾然とした不思議な時代だった。相馬騒動、大久保利通暗殺事件、怪盗電小僧(いなずまこぞう)、遊廓主人による六人斬り、加波山事件、ロシア皇太子襲撃事件など、社会を震撼させた数々の事件。当時の世相を映す事件を通して、明治という時代を浮き彫りにする。 目次■六万石の伏魔殿――相馬騒動/サムライの殺人/偽学生/脱獄の二人/牢剣客の刃/遊廓の主人/怪盗電小僧/紀尾井町に死す/京都斬奸事件/反政府メロディーの仲間/不平士族参上/革命くずれ/誰が殺したのか/滋賀県巡査走る/終わりに/主要参考文献/本書関係年譜 ここから始まる本のリンク▼『警視庁草紙』(山田風太郎著・ちくま文庫)、『明治九年の謀略』(舞岡淳著・カッパノベルス) |
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奥義・殺人剣 (おうぎ・さつじんけん)
えとう乱星
カバーデザイン:辰巳四郎 |
♪ご贔屓にしているえとうさんの最新文庫、カバーデザインが辰巳四郎さんというのも嬉しい。赤穂浪士討ち入り後の時代が舞台の連作時代小説。前の話の登場人物が次の話で中心人物になり、話を引き継ぐ連作形式の円環小説。さまざまな殺人剣の遣い手たちが勝ち抜き方式で対決し、男女や親子、兄弟、師弟などの人間関係を絡ませながら、その奥義を明らかにしていく構成になっている。しかも赤穂浪士の討ち入りも背景に絡んでいて興趣がつきない。物語の中心になる秘剣、とくに地虫の邪剣ぶりが面白い。 物語●槍奉行配下の槍方与力の工藤左内と上条一郎太は、下城の帰りに、上野不忍池近くの火除け地で、一人の侍を五人の侍たちが取り囲んでいるところに出くわした。囲まれている侍は、左内と剣の道場で同門だった松橋源太夫だった。松橋は、旧赤穂藩士で、蛇の道という秘剣で、五人の侍たちから金を巻き上げた後、左内と一郎太と茶屋に入り、酒を酌み交わした…。 目次■蛇の道対波頭斬り|波頭斬り対地虫|地虫対落葉剣対無拍子|無拍子対無拍子|無拍子対据え物斬り|据え物斬り対胡蝶|胡蝶対合掌打ち|合掌打ち対移し絵|解説 宗肖之介 ここから始まる本のリンク▼『江戸は廻灯籠』(佐江衆一著・講談社文庫)、『嗤う伊右衛門』(京極夏彦著・中央公論新社) |
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小春日の雪女 旗本絵師描留め帳 (こはるびのゆきおんな・はたもとえしかきとめちょう)
小笠原京
カバー:蓬田やすひろ |
♪旗本の息子で浮世絵師の藤村新三郎が活躍する捕物シリーズ。『瑠璃菊の女』、『寒桜の恋』、『蛍火の怪』に続くシリーズ第4弾で文庫書下ろしの今回は、河童、座敷童子、雪女と、日本古来の妖怪を題材にしているところが興味深い。著者は、武蔵大学教授で、小笠原恭子の著者名で、『かぶきの誕生』(明治書院)、『出雲のおくに』(中公新書)、『都市と劇場』(平凡社選書)などがある。東京・本郷生まれで、少女時代は『銭形平次』に憧れていたという。 元禄期を舞台にした、この作品を読むと、当時の旗本が置かれている社会的な地位、心構えがよくわかる。最初は主人公の人遣いの荒さ(自分ではあまり動かず、周囲の人間をこき使う。使う側も当然のように使われる)=殿様ぶりに違和感を覚えたが、当時の身分制を考えれば、こっちの方が自然なことであるのに気付いた。 以前に、主人公の藤村新三郎は、時代小説界を代表する、着道楽、おしゃれヒーローと書いたことがあるが、今回もその伊達男振りは健在。彼の衣装の美しさを文字面だけでは想像できないので、ビジュアル化されると、楽しいのだが…。 TV化を考えているという、坂東八十助さん(作者自身もモデルの一人に想定して描いたそうだ)の解説が、作品に惚れこんでいるだけあって、見事なのにビックリした。 物語●「膳を貸す河童」新三郎は柳原土手で、若衆顔の美しい女とすれ違った。その頃、矢のお蔵の堀に河童が出て、通りかかりの臆病者の尻小玉を抜くという噂が職人の間で広がっていた…。「十万石の座敷童子」新三郎は、父で御使番を勤める藤村新左衛門に呼ばれて、四谷の屋敷に参上し、奥州二本松・丹羽家の江戸屋敷に現れた、座敷童子の怪の話を聞き、その解決を委ねられた…。「小春日の雪女」長谷川町の新三郎の借家へ、今戸から百姓の老婆がやってきた。吉原で亡くなった娘の敵を討ってほしいという。大川では、雪女に執り殺された土左衛門があがった…。 目次■膳を貸す河童|十万石の座敷童子|小春日の雪女|あとがき/解説 坂東八十助 ここから始まる本のリンク▼『江戸切絵図貼交屏風』(辻邦生著・文春文庫) |
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まんがら茂平次 (まんがらもへいじ)
北原亞以子
カバー装画:蓬田やすひろ |
♪ひさびさに幕末の快男児?「まんがら茂平次」に会いたくて、入手する。ふと、映画『幕末太陽伝』の居残り左平次を思い出した。「武道通信かわら版」に“時代小説のヒーロー列伝”を掲載させていただいている。その候補として、この作品の主人公、まんがら茂平次はどうだろうかと思った。素町人だから、剣術も腕っ節も強くない。その風貌は、小柄で、色白で、少々太りぎみ、さがった眉と二重瞼の目に愛嬌がある若者で、いい加減古くなった川越唐桟の着物姿といったと ころで、お世辞にヒーローの柄ではない。「せんみつ」(千に三つは本当のことをいう)の上をゆく「まんがら」の渾名を持つこの主人公に、何とも言えない愛着と爽快感を持ってしまう。 何故だろうか――「彼の言うことはみんな嘘だと思えば安心してつきあえる」と登場人物の一人は言う。嘘か真かわからない世の中でこれほど、気をつかわなくていいものはないのかもしれない。「自身は、ここで嘘をつこう、ここを嘘でごまかそうなどと思ったことはない。喋っているうちに、それが嘘ではなく、事実であるように思えてくる」というぐらい、その「まんがら」ぶりは至芸に近い。ほれぼれするぐらいだ。しかも、その矛先は義侠のために向けられる。 この小説は、連作形式で、市井ものでありながら、青春群像を描いたところもあり、その点からも好感を受けやすいのかもしれない。三田の薩摩藩邸を逃げ出してきた武州・蓮沼の農家の三男坊・謙助とその恋人・おいね、同郷の土方歳三のつてで新選組に入隊しながら、脱走した森末金吾、清元の師匠おゆう、武芸はまるっきりダメながら彰義隊に入隊する旗本の四男坊・黛宗之助、柳橋芸者小ぎん、五千石の大身旗本の愛妾を伯母にもつ娘・お鈴。いずれも個性的な面々で、まんがらワールドを彩っている。
物語●四つのときに、流行り病で両親を相次いでなくし、以来十七年間、茂平次は江戸で生きてきた。七つの時に、はじめて嘘をついてから、さんざん人を騙してきた。万のことを言ってもほんとうのことはからっぽという意味で、まんがらと渾名で呼ばれていた…。 目次■まんがら茂平次/朝焼けの海/嘘八百/花は桜木/去年の夢/御仏のお墨附/別れ/わが山河/女の戦争/正直茂平次/そこそこの妻/東西東西/解説 井家上隆幸 ここから始まる本のリンク▼『大砲松』(東郷隆著・講談社文庫) |
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江戸のお白州 (えどのおしらす)
山本博文
装幀:坂田政則
本文カット:百鬼丸 |
♪時代小説を読むときに役立ちそうな江戸犯罪裁判事情本。著者があとがきに書いているように、江戸時代の人々の考え方や実際の行動、支配的な観念などを知ろうとする時、よい素材となるのが裁判の判例集(『御仕置裁許帳』、『犯科帳』など)。犯罪を犯す人間は、必ずしも特殊な人々でないが、それに対する判決は、当時の支配者層の考え方や、一般の人たちの受け止め方が如実に表れていて興味深い。この本では、江戸のお白州を、ガイド付きで傍聴できる。史料の原文での引用を最小限に抑え、しかも現代文で書き下しているので、当時の雰囲気をうまく伝えてくれる。また、本文カットを百鬼丸さんが担当されていて、犯罪者をイメージ化しやすかった。 第1話では、森鴎外の小説「最後の一句」の描き方について論評を加えている。辻番で売春があった話や、旗本松平外記の刃傷事件、日向飫肥藩の人買いの話など興味深い事件を扱っている。また、綱吉の生類憐れみの令について触れている章もある。
読みどころ●江戸時代も現代も人間が人間であることに変わりはない。仕出かす愚行も不倫、下半身接待強要、夫殺し、いじめ等々と昔も今も変らない。しかし、それが発覚したあとの刑罰には天と地ほどの差があった。 目次■第1話 お上の慈悲 鴎外はなぜ結末を作り変えたか/第2話 捕物帳の真実 犯人を捕縛出来るのは同心だけ/第3話 吉原の無法な客たち/第4話 息子の密通と母親 人より罪を憎んだ家老たち/第5話 哀しい御徒 庶民同然だった下級武士/第6話 不倫の結末 妻を殺そうとしても放免/第7話 遊女あがりの女房 幸せになったものも多かったが/第8話 売られた妻 「売買価格」はたった十五両/第9話 町人恋愛事情 命がけだった奉公人同士の恋/第10話 女三人連れて出奔 貧乏旗本が雇った若党の素顔/第11話 江戸には来たものの 身元不詳者には厳しかった都会/第12話 主従の恋 待っているのは極刑/第13話 司法の原則/第14話 辻番の掟 売春さえあった「江戸の交番」/第15話 稀代の悪法の真実 「生類憐れみの令」はなんのため/第16話 悲惨な自業自得 実の娘の命を奪われるはめに/第17話 下半身接待 「吉原へ連れていけ」と同心たち/第18話 怖い母娘 「白子屋お熊」は悪女だったのか/第19話 将軍の裁判見学 お褒めにあずかった「遠山の金さん」/第20話 奉公人の倫理 忠義は武士の専売特許ではなかった/第21話 夫殺し 婚礼の翌々日に殺害された夫/第22話 いじめの果て 愚かな旗本たちの退屈しのぎが/第23話 武士の身分は重い ささいなことでも見逃されない/第24話 唐人がらみ 長崎ならではの罪と罰/第25話 人買船 藩士もぐるになった少年誘拐/あとがき/江戸時代元号・西暦対照表(将軍一覧) ここから始まる本のリンク▼『黄門さまと犬公方』(山室恭子著・文春新書) |
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闇の狩人 上・下 (やみのかりゅうど)
池波正太郎
カバー:蓬田やすひろ |
♪新潮文庫より1980年に刊行されたタイトルを、「歴史・時代小説フェア」の一冊として角川文庫で新たに刊行。これを機会に再読しようと思って手に取った。時代小説が好きになり始めたばかりの頃、池波さんの作品をいろいろ読んでいたので、何となくこの物語も読んだ気になっていた。もちろん、読み始めてすぐに初読で有ることに気付いた。「いつものことで、結末がどうなるか、作者にもわからないが…」と、執筆に先駆けて作者が語っているように、読んでいる途中で、展開が読めずに、ワクワクしながら読んだ。 舞台となる時代は明記されていないが、大盗・蓑火の喜之助や羽沢の嘉兵衛の名や、料理屋の元長などが登場することから、鬼平や梅安が活躍した時代と重なるように思われる。 物語自体も、盗賊の世界と、仕掛人の世界が交差したり平行したりして展開する。しかも主人公の一人、記憶喪失の男・谷川弥太郎をめぐる謎が話をさらに複雑にしてゆく。 もう一人の主人公である、雲津の弥平次の言動を見ていると、作者の分身のように思えてならない。周囲の人への気配りや立ち振る舞い、達観した人生観など、ダンディズムという言葉を思い出させる。谷川弥太郎を人格をもった一人の大人の男に導いたように、読者を大人の世界(人間として義務や責任を負う社会)へ誘う本でもある。 「人の一生なんてものを食べて寝て、たまに女を抱いて……煎じつめれば、それだけのことさ。」(下巻p.87)と、達観できるようになるのはいつの日だろうか。 物語●上州と越後の国境に近い温泉、〔坊主の湯〕で療養中の盗賊・雲津の弥平次は、切り立った崖の下で、倒れている若い侍を見つけた。宿に連れかえって若い侍は蘇生したが、頭の打ち所が悪かったらしく記憶を亡くしていた。弥平次は、男に谷川弥太郎の名前を与え、衰弱した体が回復するまで面倒をみた後、金を与えて別れた。それから2年後、弥平次は、属していた盗賊団の権力抗争に巻き込まれていた…。 目次■上下巻とも、目次なし ここから始まる本のリンク▼『仕掛人・藤枝梅安』(池波正太郎著・講談社文庫) |