|
江戸の見世物 (えどのみせもの)
川添裕
時代:文政三年(1820)、春から夏 |
♪江戸を代表する娯楽、見世物の世界を多数の図版で紹介し、興味深い一冊。著者は見世物文化研究所代表。学生の頃、「親の因果が子に報い〜」とだみ声で蛇娘の口上を語ることを特技にしていた、先輩がいた。なんでも、なぎら健壱さんのものまねらしい。いままで、「見世物」と聞くと、実際に見たことがなかったので、その記憶と暗く猥雑な負のイメージしかなかった。本書を読んで、そいうった先入観が一掃された。 多数の図版(ほとんどが当時の錦絵)を紹介しながら、わかりやすい筆致で、江戸時代の見世物について紹介してゆく。籠細工などの細工物、珍奇な舶来動物、軽業、生人形という、当時を代表する見世物のジャンル別に、そのなりたちや当時の人々の受け止め方、経済効果などを見せてくれる。見世物が歌舞伎をもしのぐ、当時を代表するエンターテインメントであったことがよくわかった。 学究畑というよりは、編集者経験があり、見世物に関係する人たちの近くにいる人ならではの、楽しめる研究書である。 読みどころ●江戸時代後期の見世物の姿を、多数の文献(一次資料)や、錦絵などの図版を交えて、わかりやすく紹介する。当時の人たちが何を喜んで歓喜の声をあげ、見世物小屋につめかけたか、それが時代や社会とどんな関係をもっていたかが浮き彫りになる。「見世物は都市庶民の最大の娯楽であり、流行しだすと、江戸っ子の三分の一から半分近くがどっと押し寄せる現象が何度も起こっている」(p218)ぐらいの、社会への大きな影響力をもっていたという、その世界をちょっとのぞいてみよう…。 目次■いざ、江戸の見世物遊歴へ――まえがきに代えて(遊歴の隠居/見世物三昧の一日/ご開帳と細工見世物/見世物好きの棟梁)|第一章 浅草奥山の籠細工(巨大な小屋の、巨大な関羽/見物の声の動揺/口上話芸/見世物をめぐる金銭/ニ、三人にひとりが見物/見世物の経済効果/金主による奉納/見世物の娯楽イメージ/歌舞伎での当て込み/浮世絵と噺本/伊勢へ)|第二章 奇妙な細工の楽しみ(歴史にのこる大ブーム/細工の実験場/職人の王国/大坂下り/浪花の一田庄七郎/釈迦涅槃像/古今未曾有の大当たり/仏教の見世物化/とんだ霊宝/見立絵本の系譜/つくりもの文化)|第三章 珍しい動物(名号牛の眼福/見世物になった舶来動物/ご利益のパターン/ラクダがやってきた/さまざまな情報と風聞/盛りだくさんのご利益/お札としての見世物絵/おしどり夫婦/『和合駱駝之世界』/和合ラクダ神の画幅/ラクダ七福神/その後の動物見世物)|第四章 軽業のよろこび(安政の世へ/早竹虎吉/江戸初お目見得/高小屋のあやうき芸/早竹源氏の旗指物/伝統演目の見世物化/アクロバットと物語の重奏/衣装と道具のスペクタクル/騒々しいほどのお囃子/「早」の字のひとびと/軽業師の海外渡航/アメリカの早竹虎吉)|第五章 生人形の想像力(幕末の新機軸/肥後熊本、松本喜三郎/鎮西八郎島廻り/当初のためらい/浅草初興行をとりまく状況/安政三年の爆発的流行/豪華なバラエティ/遊女の肌/生人形の人肌路線/黛人形の「当代性」/災厄が襲う/小糸・佐七の顔/見世物小屋の土地感覚/浅茅ヶ原一ツ家/想像力の渦巻)|お名残口上――むすびに代えて(川をさかのぼる旅/江戸の見世物と、現代の「見世物」/新種の見世物/押しとどめようがないもの/何の活性化か)|主要参考資料 |
|
平安妖異伝 (へいあんよういでん)
平岩弓枝
装画・挿画:折井宏光 |
♪若き日の藤原道長と、超能力者の少年楽師が、物の怪が引き起こす事件を解決する連作小説。描かれている時代やスタイルは違うが、同じ作者の『五人女捕物くらべ』(講談社文庫)を彷彿させる、肩の力の抜け具合、遊び心が楽しい。タイトルには、妖異とついているが、ファンタジーに近い味わいがある。藤原道長というと、「この世をば…」と絶頂期に歌った平安時代を通じて最高の権力者のイメージが強いが、この作品で若い頃(中納言時代)ということもあり、そんな傲慢さなど微塵もなく、知的で爽やかな若者として描かれている。彼とパートナーを組んで、物の怪に立ち向かうのが、天才少年楽師・秦真比呂(はたのまひろ)だ。 連作形式の各話のタイトルにも楽器や曲を連想させるものが多いが、各話の中にも必ず、楽器が登場し、それが物の怪と関係することになり、物語は展開する。 登場する楽器は、以下の通り。「花と楽人」篳篥(亀滋)、龍笛。「源頼光の姫」琵琶(阮咸、曙光)。、「樹下美人」笛(大水龍、小水龍)。「孔雀に乗った女」五絃の琵琶。「狛笛を吹く女」狛笛、笙(丹頂)。「催馬楽を歌う男」笏拍子、龍笛。「狛麿の鼓」鞨鼓(狛麿)。「蛙人」笙、篳篥。「象太鼓」大太鼓。「春の館」紅梅の筝。 BGMに雅楽のCDをかけたい気分だ。 物語●「花と楽人」摂政・藤原兼家の邸宅で、樹齢五百年を越え、五百桜(いおざくら)と呼ばれる桜の銘木を主役に、観桜の宴が開かれた…、「源頼光の姫」道長は、中宮・定子に使える女房に、琵琶の名手を探していた…。「樹下美人」道長のもとへ使いに来た源俊賢(としかた)の家人が帰路で、骸骨になって発見された…、「孔雀に乗った女」道長の義父・源雅信が大内裏で怪異を感じた…。「狛笛を吹く女」内裏で舞楽の催しがあり、道長の甥・藤原伊周(これちか)が舞人の一人を務めた。そこで、珍しい高麗楽を舞ったが…。「催馬楽を歌う男」公卿達の間で、地方の流行り歌である催馬楽(さいばら)がもてはやされ、あちこちで催馬楽の催が行われた。大いに盛りあがった頃合になると、姿を見せずに何者かが見事な声量で催馬楽を歌い出すということが続いた…。「狛麿の鼓」帝が体調を崩し、ひきこもっているので、中宮は、大層な法力の持ち主と噂される大木成の法師を内裏に招こうかと迷っていた…。「蛙人」四天王寺に安南王の密命を受けて日本にやってきた楽人が滞在していた…、「象太鼓」新年の祝賀の宴席で、大酔いした藤原道隆は、見たことのない大きな獣の皮で作った太鼓はないかと、大声でわめいたところ、…。「春の館」道長は義兄の源俊賢よりある相談を持ちかけられた…。 目次■花と楽人|源頼光の姫|樹下美人|孔雀に乗った女|狛笛を吹く女|催馬楽を歌う男|狛麿の鼓|蛙人|象太鼓|春の館 ここから始まる本のリンク▼ 『陰陽師』(夢枕獏著・文春文庫)、『平安京の検屍官』(川田弥一郎著・祥伝社) |
|
陣借り平助 (じんがりへいすけ)
宮本昌孝
カバーCG:川口吾妻 |
♪連作形式で、稀代のいくさ人・“陣借り平助”こと、魔羅賀平助の活躍を描く爽快なヒーロー小説。主人公は、どこか異邦の血を思わせる風貌をもち、合戦では、フリーランスの傭兵として、寡兵の側、弱者の方に味方し、陣を借りるというポリシーのもと行動し、快男児ぶりを発揮する。厳島合戦で名を挙げ、将軍義輝にはそのいくさぶりを、「百万石に値する」と激賞され、刃渡り四尺の「志津三郎」を与えれるなど、戦場では伝説の人と化している。単に武力に優れているばかりでなく、知力もあり、女性や子ども、老人、動物に無類のやさしさを示すのが何とも魅力的。とくにアラブ種の血をひく緋色毛の牝馬・丹楓(たんぷう)との、きめこまかな交流が楽しい。 風魔小太郎や山本勘介、松永弾正など、宮本作品でおなじみのキャラが登場するのもファンにはうれしいところ。 物語●「陣借り平助」川で水遊びをしていた平助は、四人の浮牢人に襲われかけた土豪の娘・八重を助けた…。「隠居の虎」平助は、竹生島で六角氏の姦計にはまった浅井久政を救った…。「勝鬨姫の鎗」箱根路で、平助は、断崖絶壁の岩角にしがみついている男の子を見かけ、助けようとした…。「落日の軍師」温泉で湯浴みをしていた平助は、武田の軍師山本勘介と知り合いになった…。「恐妻の人」一面の銀世界の中で、平助は何者かの銃弾を受けた…。「モニカの恋」平助と愛馬丹楓は、八年ぶり故郷の堺に帰ってきた…。「西南の首飾り」平助は、幼なじみの豪商・日比屋了荷に船旅を誘われ、九州へ向かった…。 目次■陣借り平助|隠居の虎|勝鬨姫の鎗|落日の軍師|恐妻の人|モニカの恋|西南の首飾り(ロザリオ) ここから始まる本のリンク▼ 『義輝異聞 将軍の星』(宮本昌孝著・徳間書店)、『一夢庵風流記』(隆慶一郎著・新潮文庫) |
|
柳橋物語・むかしも今も (やなぎばしものがたり・むかしもいまも)
山本周五郎
カバー:岡田嘉夫 |
♪NHKテレビ「時代劇ロマン」シリーズ第2弾として、『柳橋慕情』放送にともない、原作を入手し、読み始める。なお、ドラマの方は、これ以外にも「人情裏長屋」「ちゃん」などを原作として使っている。これで7作目だが、初めて「周五郎ワールド」に触れた気がする。今まで読んだ作品もほとんど、水準以上、いや感動したものもあったが、今回ほど心の襞に触れたような、鳥肌が立つような感じは初めてである。下町もの、長屋ものにこそ、山本周五郎という作家の特質がいちばん現れるような感じがする。ようやく周五郎作品を読む下地(年齢的にも、精神的にも)ができたのも一因かもしれないが…。 「柳橋物語」と「むかしも今も」という、コインの裏表のような対照的な2つの中篇を収めている。「柳橋物語」は、TVドラマも始まり、注目されている。第1回目の放送を見たが、いかにもNHKらしく端正に作られていて好感が持てた。読みながら、若村麻由美さんの姿が何度も目に浮かんできた。とても難しい役どころなので、彼女の演技にしばらく注目したい。この作品の背景で、赤穂浪士の吉良邸討ち入りに触れられているが、物語のイメージとかけ離れていて、意外な感じがした。 実はあまり期待してなかっただけに逆に、「むかしも今も」の見事さに舌を巻いてしまった。この本の読み終えた後の快さが山本さんの作品を読む醍醐味なのだろう。ささくれ立った心が癒される。『さぶ』のさぶを彷彿させる、直吉の一途さ、貧しい中で支え合うやさしさと人情…。現代の日本人が喪失した美質がそこにある。今、ファンタジーを描こうと思ったら、その場所を時代小説に求めなくてはならないのだろうか。 物語●「柳橋物語」研ぎ師源六の孫娘・おせんは、上方へ行くという幼なじみの大工の庄吉から愛を打ち明けられた。おせんは、帰って来るまでお嫁にゆかないで待っていてくれるかという庄吉の言葉に、“待っているわ”と自分ではなにを云うのかわからずに答えていた…。「むかしも今も」直吉は、幼いころ両親に死なれ、九つまで叔父に育てられたが、叔母からのそのそしているといって折檻された。指物師紀六に奉公したが、一生懸命に働いてもそこでも兄弟子たちから、化物面だ、愚図だと、ひどい言葉をかけられた。こういう状態の彼を救ってくれたのが、おかみさんのお幸だった…。 目次■柳橋物語|むかしも今も|解説 奥野健男 ここから始まる本のリンク▼『さぶ』(山本周五郎著・新潮文庫) |
|
陰陽師 鳳凰ノ巻 (おんびょうじ・ほうおうのまき)
夢枕獏
装画・装幀:村上豊 |
♪順番からいうと先に刊行された、長編の『陰陽師 生成り姫』(朝日新聞社刊)を先にしなきゃいけないところだが…。やっぱり、連作形式のこっちの方が読みやすそうというわけで…。若き陰陽師・安倍晴明と朋友の源博雅が活躍するシリーズ第4弾。強力コンビに、新キャラの蘆屋道満をライバルとして配したところが、今巻の見どころ。そのほかでは「月見草」の話が印象に残った。 本に挟まれていた、PRペーパー『仰天・夢枕獏』によると、夢枕さんは今年12冊の本を出すそうだ。凄いパワーだ。また、夢枕さんの公式ホームページ「蓬莱宮」をオープン。http://www.digiadv.co.jp/baku/ 作者の日記や、村上豊さんとのコラボレーションによる、『絵物語 陰陽師』や、掲示板などのページがあり、『陰陽師』の映画化の話などもあるそうで、目が離せない。 物語●「泰山府君祭」晴明は帝の勅で、昏睡状態の三井寺の智興内供を救うために、泰山府君の祭をすることになった…。「青鬼の背に乗りたる男の譚」一条大路の桟敷屋で、橘基好は、嵐の晩に女との逢瀬の最中に妖物を見たという…。「月見草」八月十五夜に、文章好みの輩が何人か集まって、亡き文章博士の大江朝綱の屋敷で酒を酌み交わしながら詩句を詠じていると、朝綱縁の女が現れた…。「漢神道士」参議の藤原為輔の枕元に、毎夜、白い水干のようなものを着た老人が立つという…。「手をひく人」鵜匠の賀茂忠輔が晴明のところに、鮎を届けにやってきて、ついでに、知り合いの、竹取りの猿重の妖異な話をした…。「髑髏譚」晴明と博雅は、『法華経』の霊験あらたかな話をしていた…。「晴明、道満と覆物の中身を占うこと」村上天皇の命で、晴明は蘆屋道満と、方術比べをすることになった…。 目次■泰山府君祭|青鬼の背に乗りたる男の譚|月見草|漢神道士|手をひく人|髑髏譚|晴明、道満と覆物の中身を占うこと|あとがき ここから始まる本のリンク▼ 『白妖鬼』(高橋克彦著・講談社文庫)、『夢魔の森』(小沢章友著・集英社文庫) |
|
粧刀 (チャンドウ)
杉洋子
カバーデザイン:永原康史 |
♪九州、朝鮮半島など東シナ海と海を舞台にした時代小説を描く作者の第一作品。『異人館』の解説も書かれていたので、気になっていた。最近、朝鮮半島と日本の歴史的な関係を描いた作品に興味をもつようになった。そんな中で目にとまったのが、杉さんの作品だ。杉さんは、京都・伏見生まれだが、現在、九州に居を移しているという、最近も、『海峡の蛍火』(集英社)を刊行している。 タイトルの粧刀(チャンドウ)とは、両班(ヤンパン。文武の特権的な身分を保つ上級官僚層)の女が用いる護身用の短刀。懐剣のようなもの。 両班の娘で、前途有望な文官候補生の宗元の美貌の妻・風蓮と、彼女に仕える「伽や(人偏に耶)」。秀吉の朝鮮出兵で、歴史の渦に巻き込まれ、苛酷な運命に翻弄される、対照的な二人の女を描く意欲作。 物語●若き文官候補生・梁宗元(ヤンチョンウォン)の家に、幼なじみの武官・李自溶(イチャヨウ)がやって来た。釜山浦(プサンポ)の巡察から帰って来た自溶は、倭が攻めてくることを告げた末に、宗元と喧嘩別れをした。宗元には、その年待望の男児をもうけた妻・風蓮(プヨン)がいた。小作人の娘で、七歳のときから三つ上の風蓮に仕えていた「伽や」は、倭の来寇に先行きの不安を感じた…。 目次■第一章 侵略/第二章 異郷/第三章 逃亡/第四章 屋代島/第五章 祖国の船/解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『朝鮮出兵異聞 李舜臣将軍を暗殺せよ 高麗秘帖』(荒山徹著・祥伝社) |
|
開陽丸、北へ 徳川海軍の興亡 (かいようまる、きたへ・とくがわかいぐんのこうぼう)
安部龍太郎
装画:西のぼる |
♪安部さんは、ご贔屓の作家の一人ですが、最近、積ん読状態の本が溜まってどうしようかと思っていました。そんな中で、歴史学者の山室恭子さんから、近々、安部さんと対談する機会がもてそうだというような話を伺いました。お二人の対談を読むことができれば、興味の尽きないところ。で、積ん読の山から、この本を見つけて読み始めることに…。この作品の主人公は、開陽丸艦長の沢太郎左右衛門。そしてその許婚・南雲富子や盟友・榎本武揚らの幕末・維新を描く。開陽丸は、全長72.8メートル、排水トン数2590トン、補助エンジンに400馬力の蒸気機関を搭載し、最大速力12ノット、片側に13門ずつの大砲を装備した3本増すとのスクリュー式蒸気帆船で、徳川艦隊旗艦。オランダのドルトレヒトで建造されたこの最新鋭艦は、同時期にオランダ留学していた、沢と榎本にとっては、青春の思い出が詰まった船でもあった。作中で効果的に挿入される、開陽丸進水歌を聞くと、この作品の本当の主人公は、この開陽丸のように思われる。 作者は、あとがきで、「これまで明治維新は肯定的に評価されることが多かった。(中略)だが、こうした迷妄は、そろそろ醒まされるべきではないのか? 維新の長所と短所を正しく見極める目を持たなければ、我々が現在直面している問題の解決もおぼつかないのではないか」と、執筆動機を語っている。こうした作者の史観が随所に見られた。昔の教育を受けられた方々にはショックなのではないだろうか。 物語●昭和五十年六月、北海道・江差で、明治元年の箱館戦争の頃に沈んだ開陽丸の引上げ作業が行われた。港のまわりには多くの見物が集まり、その中には八十歳近い老婆・南雲さわの小柄な姿もあった。さわは、子どもの頃、祖母の富子から聞いた話が今でも耳に残っていた。 「江差の沖には、開陽丸という大っきい船が沈んでおってな。それはそれは立派な軍艦だったんだよ」…。 目次■序章 三十ポンドカノン砲/第一章 将軍逃亡/第二章 上野戦争/第三章 艦隊遭難/第四章 さらば開陽/終章 よみがえる伝説/あとがき ここから始まる本のリンク▼『雨に紛う』(真野ひろみ著・講談社) |
|
笑い姫 (わらいひめ)
皆川博子
装画:岡田嘉夫 |
♪あの本庄茂平次が出てくると聞いて、ワクワクして読んだ。松本清張さんの『天保図録』(朝日文庫)で、鳥居耀蔵の配下として、悪の限りを尽くし、凄玉のヒールを演じた、本庄茂平次である。話は、水野忠邦の天保の改革時代。改革の執行人、鳥居の眼が向けられるのは、蘭学、戯作、見世物…。新奇なるもの、珍奇なるなるもの、好奇なるもの。主人公の新進戯作者・蘭之助や軽業師小ぎん一座も当然、事件の渦中に巻き込まれることになる。 作者の皆川さんは、天保時代の大活劇を描くばかりでなく、蘭之助の戯作として『狂月亭綺譚笑姫』(狂月亭は蘭之助のペンネーム)の話を劇中劇の形で見せてくれる。室町幕府の管領・細川政元が敵役のこの話が妖しくて、伝奇めいて超面白い。こちらを主とした話も読んでみたい。 もちろん、本編も間宮林蔵や江川太郎左衛門、シーボルト事件に連座した、天文方高橋景保の遺児なども絡んでもつれにもつれていき最後まで目が離せない。
物語●阿蘭陀通詞であった父譲りの語学の才がありながら、戯作者を志す蘭之助。彼の居候先に、「ハリトォ ハリトォ」と、奇妙な二人連れ(浪花奇鈴丸とすっぺら坊)がやって来た。二人は、東両国の玉本小ぎん一座の軽業師で、おひねりを包んだ反故紙に書かれた蘭之助の戯作に、小ぎん太夫が興味を持ち、話の続きを知りたがっているという。 目次■I ハリトォハリトォ―赦免船/II ヒュール―洋砲点火/III マルス―遠島部屋/IV ボニンアイランド―無人島/V コルベット―汽帆船/解説・岩井志麻子 ここから始まる本のリンク▼ 『天保図録』(松本清張著・朝日文庫)、『江戸鬼灯』(高橋義夫著・廣済堂文庫) |
|
あやし 〜怪〜 (あやし)
宮部みゆき
装画:方緒良 |
♪うーん、また売れそうな本だな。ハードカバーにしては、手頃な価格で、しかも流行りの奇談もの。この作品をきっかけに時代小説のファンが増えればいいな。奇談小説ながら、いかにも宮部さんらしいちょっとほのぼのして余韻の残る、読み味がいい作品ぞろい。とくに「布団部屋」と「安達家の鬼」、「女の首」の話がいい。 「時雨鬼」と「灰神楽」に、本所元町の岡っ引・政五郎親分が出てくるが、『ぼんくら』に出ていた回向院の茂七親分の後継者である政五郎と同一人物だろうか? ちょっと気になるところだ。 江戸切絵図で、「灰神楽」の舞台になっている、桐生町五丁目が見つけられなかった。相生町はあるのだが…。 物語●「居眠り心中」享和年間に、日本橋通油町のとある木綿染手拭問屋が作り売り出した、“物語模様”の手拭いが流行し、その手拭いを使って心中する事件が四件続いたという…。「影牢」蝋問屋で、都合七人もの死人が出るという忌まわしい事件が起きた。与力が生き残った店の老番頭を訪ねてきた…。「布団部屋」酒屋の兼子屋は、代々の主人が短命であることで知られていた。そんな兼子屋で、若い女中が一人、突然、おびただしい鼻血を出して頓死るという事件が起こった…。「梅の雨降る」担ぎの油売りの父の商いの手伝いができるようになった箕吉は、一つ上の姉を憎くて憎くてしょうがなかった。そんなある日、…。「安達家の鬼」筆と墨を商う小さな店・笹屋の嫁は、嫁入り前には、笹屋と商いで付き合いの深い紙問屋の女中だった。このおかしな縁談には訳があった…。「女の首」母親を亡くした太郎は、妙に手先が器用だったが、物心ついてから口がきけなかった。そんな太郎が、袋物屋に奉公にあがることになった…。「時雨鬼」お信は、奉公先に内緒で、桂庵にやってきた。桂庵には五年前に女中奉公を世話してくれた主人の代わりに、顔立ちの美しい大年増のおかみさんがいた…。「灰神楽」本所元町の政五郎親分のもとに、下駄屋から奉公人が店のなかで刃傷沙汰を起こしたのですぐ来てもらえないかという遣いがあった…。「蜆怐v桂庵を営む米介は、亡き父の友人の見舞いに、御蔵蜆を馴染みの魚屋から買った…。 目次■居眠り心中|影牢|布団部屋|梅の雨降る|安達家の鬼|女の首|時雨鬼|灰神楽|蜆 ここから始まる本のリンク▼ 『幻色江戸ごよみ』、『本所深川ふしぎ草紙』(いずれも、宮部みゆき著・新潮文庫) |
|
若獅子家康 (わかじしいえやす)
高橋直樹
カバーデザイン:多田和博 |
♪『最後の総領・松平次郎三郎』(1995年2月、講談社刊)を改題。最近、気になる気鋭の時代小説家が若き日の家康を描くことに惹かれる。家康の伊賀越えを描いた『日輪を狙う者』(中公文庫)などで、今、注目される時代小説家・高橋直樹さんの長篇デビュー作。 家康以前の松平家の当主(七代清康、八代広忠)たちの非業の死を描くことで、権力抗争の熾烈さ、総領のもつ意味を明らかにし、その後の家康像の人間形成をシンボライズした作品。高橋さんらしいドロドロさ、荒ぶり、新しさを感じさせる。化ける前の家康の描かれ方が新鮮。 ふと、徳川三代目に、嫡孫・家光を推した家康と、器量から鑑みて次男忠長を推そうとした三男秀忠の違いを思い出した。 物語●今川義元の後見のもとに、元服をした松平次郎三郎元信(のちの徳川家康)は、八年ぶりに故郷、岡崎へ戻ることになった。次郎三郎にとって、岡崎は住み慣れた駿府に比べて、貧しく田舎じみて感じられたが、岡崎衆は成長した次郎三郎を迎えて興奮していた。そこで、次郎三郎は、松平家の総領に課せられた運命と役割を教えられた…。 目次■第一部 二の丸入城/第二部 総領の首/第三部 萌芽/解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼ 『日輪を狙う者』(高橋直樹著・中公文庫) |
|
新選組始末記 (しんせんぐみしまつき)
子母澤寛
カバー画:蓬田やすひろ |
♪『壬生義士伝』の影響で、新選組研究のバイブルともいうべき、不朽の実録が読みたくなった。『新選組異聞』、『新選組物語』(いずれも中公文庫)と、新選組三部作と呼ばれるようになる、最初の著作。 関係者への聞き取りや巷説の現地踏査など、新聞記者らしい行動力で、まとめた新選組実録。修辞や脚色がないだけに、事実の持つ凄味がダイレクトに伝わってくる。なるほど、新選組研究のバイブルと言われることはある。(確か池波正太郎さんもエッセイの中でこの本を勧めておられた) いろいろな新選組を描いた作品の中で、断片的に知らされてきたことが多いが、改めて通して読んでみると、流れがよくわかっていい。 天然理心流の目録や、慶応三年十一月以来、江戸へ引き揚げて甲州へ出発する三月までの金銭出入帳まで記されていて興味深かった。 「新選組の『選』の字が、選を用うべきか、撰を用うべきかについて、私はどちらでもいいと解釈した。肝心の近藤さえが、時に選を用い、時に撰を用いている。組の総代として公式に会津侯へ差出した書面には撰の字を用いてあるのが多いが、その会津侯が組へ賜る諸書状は、大てい選の字が使ってある。この時代のこうした生活の人達はただ音便に当嵌めて、自分の書きやすい便利な字を書いたようなところがある」(p.12)という箇所を読んで、「新選組」と「新撰組」の二つの表記が出回っている理由が氷解した。
物語●「歴史を書くつもりなどはない。ただ新選組に就いての巷説漫談或は史実を、極くこだわらない気持で纏めたに過ぎない」(p.11) 目次■一 近藤勇の道場/ニ 勇の家、歳三の家/三 清河八郎策動す/四 八郎の腹の中/五 老中板倉周防守/六 木曾路を行く浪士隊/七 祐天仙之助/八 水府脱藩芹沢鴨/九 壬生の屯営/一〇 憤然袂をわかった勇の一味/一一 茜の陣羽織/一二 押借り/一三 風邪加減の八郎/一四 赤羽橋の暗殺/一五 石坂周造/一六 首をかくす山岡鉄舟/一七 組屋敷を包囲/一八 新徴組/一九 祐天敵を討たる/二〇 敵討異説/二一 関東の無骨十三名/二二 新選組第一次編成/二三 だんだら染の制服羽織/二四 侠士ぞくぞく集まる/二五 島原の角屋/二六 角力を斬る/二七 町方与力内山彦次郎/二八 内山暗殺一件/二九 天忠組/三〇 大和屋焼討/三一 禁門の大政変/三ニ 赤地に「誠」の隊旗/三三 堂々芹沢の態度/三四 土方記念の鉢金/三五 長州の間者/三六 芹沢暗殺さる/三七 池田屋事変/三八 軍中法度書/三九 六角獄の悲劇/四〇 柴司の切腹/四一 勇江戸入/四ニ 伊東甲子太郎/四三 武道師範方/四四 山南敬助の最後/四五 新本営/四六 勇の風采/四七 隊士ぞくぞく斃る/四八 谷万太郎の斬込/四九 四条橋畔/五〇 長州下り/五一 制札事件/五ニ 御陵衛士/五三 佐野の憤死/五四 油小路の屍/五五 龍馬暗殺/五六 天満屋騒動/五七 京を去る/五八 墨染の難/五九 伏見鳥羽/六〇 江戸へ帰る/六一 甲陽鎮撫隊/六二 金銭出納帳/六三 下総流山/六四 最後の日/六五 宮古湾/六六 勇の墓/解説 尾崎秀樹 ここから始まる本のリンク▼『燃えよ剣』(司馬遼太郎著・新潮文庫)、『新選組』(黒鉄ヒロシ画・PHP文庫) |
|
さらば深川 髪結い伊三次捕物余話 (さらばふかがわ・かみゆいいさじとりものよわ)
宇江佐真理
挿画:東啓三郎 |
♪「髪結い伊三次」シリーズ第3弾。このシリーズの魅力は捕物小説としての謎解きにとどまらず、主人公の伊三次とお文の愛や、伊三次と北町同心・不破友之進の心の交流など、人間模様を描いていることにあると思う。今回も伊三次とお文を中心に、いろいろなことが起こってゆく。 そんな中で、「護持院ヶ原」の話は、異彩を放つものになっている。初出の浪人・秋津源之丞というものの眼を通して物語は語られていく。しかも、幻術使いの岸和田鏡泉も登場する。この話だけ発表誌が『別冊文藝春秋』(他の話は『オール讀物』で、「竹とんぼ、ひらりと飛べ」は書き下ろし)ということも関係しているかも。次はこのタッチで、長篇が読みたい。 物語●「因果堀」お文が女巾着切りに、紙入れを掏られた。伊三次は、事件を追う門前仲町の親分・増蔵の様子が少しおかしいのに気付いた…。「ただ遠い空」京橋の湯屋・松の湯の養子で下っ引きの弥八と、お文の女中の祝言が近づいた。おみつの代わりの女中として、芸者の喜久壽が、お文の所におこなという娘を紹介した…。「竹とんぼ、ひらりと飛べ」同心の不破は、神田須田町の呉服屋から、20年以上前に分かれた娘の行方を探すように頼まれた。日本橋では、呉服屋が火事に遭い、店蔵の反物が火事を予想していたかのようにあらかたなくなっていたという事件が起こった…。「護持院ヶ原」浪人秋津源之丞は、一膳めし屋でしたたかに酔って、めし屋の亭主の背中を袈裟懸けに斬ってしまった…。「さらば深川」お文は、材木の仲買人で長年贔屓にしてもらっていた伊勢屋忠兵衛に酒席で恥をかかせてしまった…。 目次■因果堀|ただ遠い空|竹とんぼ、ひらりと飛べ|護持院ヶ原|さらば深川 ここから始まる本のリンク▼『傷 慶次郎縁側日記』(北原亞以子著・新潮社) |
|
歴史小説の懐 (れきししょうせつのふところ)
山室恭子
挿画:森英二郎 |
♪著者の山室さんからゲストブックに書き込みをいただき、早速、行き付けの本屋さんに走った。
…このたび、歴史・時代小説にかかわる拙著をまとめましたので、ぜひ御覧いただきたく、ご案内させていただきます。実は、俎上にあがった時代小説は名作中の名作ばかりなのだが、未読のもの(23篇中10篇)が多く、ちゃんと楽しめるかどうか不安だった。また、最近、積ん読状態の本が多くなっている状態で、2,500円の出費は慎重にならざるをえないところだった。 読み始めてみると、そんな杞憂は吹き飛んでしまった。未読の本に関する評論も大いに楽しめた。評論と書いたが、難解な用語を駆使した小難しいものでも、思い入れたっぷりの共感しにくいものでもなく、作者特有の軽快な文体で、ニヤリとしたり、ウンウンとうなずいたりできるとっつきやすい時代小説(作者は歴史小説ということばを使っているが)作品論だ。 「深く書評の世界にのめりこんでしまった私であるが、それでもやはり本業の性が尾を引いてか、まず何を措いても、作品世界の年表づくりをしてしまう」(p.12)という、山室さんの視点は、まず、暦に向く。七十年に及ぶ歳月をカバーした『富士に立つ影』、時の凝縮が奔放な『柳生武芸帳』、全二十巻中の五巻目以降、慶応三年で物語の時間が止まってしまった『大菩薩峠』、暦をもとに、それぞれの作品の懐(=核心)をさぐり、われわれの前に明らかにしてくれる。『御宿かわせみ』では、雑誌連載に合わせて季節を経過して行くのに、いつまでも若々しいおるいさんの秘密に迫っている。しかも、かわせみの客室の謎を、その秘密を解く鍵にしているのは、見事。「御宿かわせみの建築学」の章を読んで、巻が進み、季節が巡るごとに単純に年を加えて、時代小説年表を作ってきたので、ドキっとして、冷や汗がでてきた。 「おや。いつもの癖で、“暦”をつくっていて、ちょっとおもしろいことに気がついた」(p.222) 山室さんの眼は、作品の描かれている季節にも向いている。百三十話中六十一話が春の話という、『眠狂四郎』シリーズ。シリーズが進むごとに、冬の話から夏の話の割合が多くなり、温暖化してゆく『用心棒日月抄』シリーズ。単に作品の暦や季節の傾向や特徴を挙げるだけでなく、そこから投影される主人公の心情、作者の執筆の秘密、効果などを、新鮮に解き明かしてもいる。 なるほど、こういう読み方もあるのか。うーん、いままで作品の上っ面しか読んで来なかった身としては、眼からウロコが落ちるような評論である。今まで、敬遠していた名作も、この本をきっかけに読んでみたくなった。読了後、またこの評論を読むことで楽しめて、2度おいしいっていうところか。 読みどころ●なぜ、『大菩薩峠』は未完に終ったのか? 鞍馬天狗の正体は? 『御宿かわせみ』の客室の謎とは? 暦、季節、天候、顔――歴史学者ならではの、緻密な作品読解と、そこから導き出される大胆な仮説で、時代小説の名作23篇の〈懐(ふところ)〉を探り、読み解く一編。颯爽と登場しながら、後半になると、登場回数が減り、影が薄くなった『剣客商売』における三冬の謎なども気になるところ。 目次■大菩薩峠の七不思議(其ノ壱 永遠の秋/其ノ弐 面の無い男/其ノ参 漂う臀部/其ノ四 混淆文体/其ノ五 変身小坊主/其ノ六 白い名前/其ノ七 宿命の未完)|時代小説二十一面相(半七捕物帳/富士に立つ影/鞍馬天狗/宮本武蔵/顎十郎捕物帳/戦艦大和ノ最期/新・平家物語/平将門/樅の木は残った/眠狂四郎無頼控/柳生武芸帳/甲賀忍法帖/竜馬がゆく/国盗り物語/用心棒日月抄/鬼平犯科帳/剣客商売/真田太平記/幻燈辻馬車/日出処の天子/影武者徳川家康)|御宿かわせみの建築学|作品一覧/あとがき ここから始まる本のリンク▼23篇の時代小説、『黄門さまと犬公方』(山室恭子著・文春新書) |
|
双蛇の剣 介錯人・野晒唐十郎 (そうじゃのけん・かいしゃくにん・のざらしとうじゅうろう)
鳥羽亮
カバーデザイン:中原達治 |
♪小宮山流居合の達人・狩谷唐十郎が活躍する、「介錯人・野晒唐十郎」シリーズの第4弾。チャンバラシーンが圧巻のこのシリーズ、毎回、作者が工夫を凝らした敵役が登場する。今回は、若衆姿の陰間・爛桜(らんおう)で、その秘剣は、朝鮮人・宗元飛から学んだ、双蛇の剣。剣豪小説から伝奇小説に傾斜した作品ともいえる。また、前作に引き続いて、肥前松江田藩のお家騒動が背景に描かれている。 解説の菊池さんが、本シリーズに登場する敵役とその必殺技を表にまとめているのは、ファンにはうれしいところ。 物語●鬼火党と称する夜盗の集団が、浅草、本所、深川などの荷役問屋(諸国から来航する船の荷揚げを請負い、荷を点検してそれぞれの宛て先へ配る仕事をする)に押し入り、店の者を皆殺しにするという事件が頻発していた。その集団の中に、痩身で、襟元や額が女のように白い、若衆髷の男がいた。その男・爛桜は、「四尺はあろうかと思われる長剣と二尺余の剣を両手に持ち、天空を突くように構えていた。いや、刀ではない。刀身が細すぎるし反りがまったくない。しかも切っ先のある先端の部分が太くなっていて、蛇(くちなわ)の頭のように見え」 という、双蛇の剣の遣い手だった。そのころ、小宮山流居合の達人・狩谷唐十郎は、旗本青戸新十郎の用人町田孫兵衛に、若党の切腹の介錯を依頼された…。 目次■第一章 鬼火党/第二章 魔性の剣/第三章 逆風/第四章 裏切り/第五章 勾引/第六章 琴江/第七章 双頭の蛇/第八章 死化粧/解説 菊池仁(きくちめぐみ) ここから始まる本のリンク▼『密命 見参! 寒月霞斬り』(佐伯泰英著・祥伝社文庫) |
|
光秀の十二日 (みつひでのじゅうににち)
羽山信樹
カバー装画:智内兄助 |
♪表紙に書かれた「信長シリーズ4」という文字が気になったが、『是非に及ばず』『滅びの将』『夢狂いに候』の信長三部作に続くという意味らしい。小学館文庫でこの「信長シリーズ」の刊行を続けてくれるのだとしたら、非常に喜ばしい。できれば、ぜひ『流され者』も出してほしい。戦国時代小説といっても、そこは羽山さんらしく、ひねりを利かせ、伝奇小説仕立てになっている。表題にある通り、本能寺の変からの十二日間が時系列に描かれていて、凝縮された時間の中での、戦国の武将たちの言動に緊張感にみなぎっていて、羽山さん流解釈による、本能寺の変とその後日談が楽しめる。光秀の配下として、架空の能役者・元阿弥一座(裏結崎)を加えたことにより、物語にダイナミズムと広がり、面白さを倍化させた気がする。各章のタイトルには、能の曲名を配し、その内容を象徴している。 物語●天正十年六月二日、光秀は、腹心斎藤利三と共に坂本城に戻りついた。光秀は、本丸御殿大広間に、嫡男・十五郎光慶をはじめ、留守居の主だった者を集めて、信長・信忠弑逆の事実をはじめ、その日の本能寺の一件について話し、天下を取ったことを告げた。そして今後の指示を伝えるとともに、明智家お抱えの能役者・元阿弥を呼んだ。元阿弥には、ある秘命を託していた…。 目次■第一章 朝長――天正十年六月二日〜六月四日/第二章 邯鄲――天正十年六月五日〜六月七日/第三章 頼政――天正十年六月八日〜六月十日/第四章 清経――天正十年六月十一日〜六月十三日/終章 卒都婆小町/あとがき/解説 梓澤要 ここから始まる本のリンク▼『鬼と人と』(堺屋太一著・PHP文庫)、『日輪を狙う者』(高橋直樹著・中公文庫) |
|
毒の鎖 非道人別帳[ニ] (どくのくさり・ひどうにんべつちょう2)
森村誠一
イラスト:鴇田幹 |
♪“悪の狩人”と異名をもつ、同心・祖式弦一郎が、抜群の嗅覚で江戸の極悪犯罪に闘いを挑む、シリーズ第2弾。前作で、弦一郎を苦しめた、謎の辻斬りがまた登場するのも見所。物語●「鉋肉」長屋の孝行娘が、凶事が起きないとされた庚申の夜に、木場の石置き場で、首を絞められ、尻の肉をざっくりと抉り取られて殺された…。「双子石」弦一郎は行きつけの銭湯の朝湯で、いっしょになる芸者あけまきから、瑪瑙の双子石と呼ばれる石をもらった。その頃、江戸では美女の見立番付の横綱候補の美女たちが通り魔に遭う事件が続発していた…。「虫の歯ぎしり」公儀御用達茶問屋に、1年間の乳乳母奉公にでていた女が、年期明けの帰路、追剥に襲われて命と金を奪われた…。「愛の串」鎌倉河岸ですれ違いかけた三人の浪人と三人の町人が喧嘩をした。浪人に全身膾のように斬り裂かれた町人の一人の大工は、“風呂に入っちゃならねえ”の言葉を残して事切れた…。「毒の鎖」裕福な商家から持参金目当てに養子をとった、極めつけのごろんぼ御家人の家で、その養子が二人続けて死んだという、変な噂が流れていた。そして、その家には三人目の養子が入ったという…。 目次■鉋肉|双子石|虫の歯ぎしり|愛の串|毒の鎖 ここから始まる本のリンク▼『投げ節お小夜捕物控 意休ごろし』(高橋義夫著・中公文庫) |
|
東亰異聞 (とうけいいぶん)
小野不由美
カバー装画:藤田新策 |
♪『魔性の子』や「十二国記」シリーズ、ベストセラー『屍鬼』で知られる、小野さんの作品。第5回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作にもなっている。ジャンル外かなと思いつつも、「東京」を「とうけい」と読ませること(明治の初めの頃は、そのように呼ばれていたそうだ)に興味を覚えてGetするが、しばらく読み進めるまで、「とうけい」の「京」の字が横棒の一本多い「亰」になっていることに気付かなかった。相変わらず迂闊だな。なぜなら、このタイトルに作者の込めた思いは大きい。 明治二九年と思って飛びこんだわれわれ読者は、いつのまにかパラレルに展開する別世界に迷い込み、そこで起こる怪事件に遭遇することになるからだ。 内容的には関係ないが、京極夏彦さんの作品(京極堂シリーズ)や宮部みゆきさんの『蒲生邸事件』に通じるものがある。 物語●銀町の父親に弁当を届けにきた子供が人魂売りに遭遇した。蕎麦の屋台を引く男が淡路坂で、髪を振り乱した生首が四つ、音もなく宙を飛んでいるのを見た後、居合抜き芸の男に斬り殺された。日本橋吉川町の四階建ての建物の物見台に火炎魔人が現れた。猿屋橋では湯屋帰りの男が闇御前に襲われる。帝都には闇に巣食う怪しげな物売りや人殺しが跋扈する。この事件に挑むのは、浅草界隈でよろず雑事揉め事の仲裁を引き受ける便利屋・万造と帝都日報の記者・平河新太郎…。 目次■序幕 ちかごろ、帝都に跋扈する者ども/第一幕 さて、闇の華とは/第二幕 一方、夜の華とは/第三幕 夜の底、魚の回遊/第四幕 夜の者、満願成就の場/大詰 時代転変/解説 野崎六助 ここから始まる本のリンク▼『帝都物語』(荒俣宏著・角川文庫) |