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虚空伝説 餓鬼草子の章 (こくうでんせつ・がきぞうしのしょう)
高橋直樹
表紙カバー:正子公也 |
♪ 『虚空伝説』(1998年12月、講談社刊)を大幅に加筆したもの。祥伝社で新たに、NON時代伝奇ロマンと銘打ったシリーズを始めた。不思議と、伝奇ものには新書サイズがよく似合う。高橋直樹さんというと、『日輪を狙う者』、『天魔信長』、『大友二階崩れ』など、新感覚の戦国歴史小説の書き手というイメージを持っていただけに、本作品で新しい面を見た気がする。物語は、『木枯し紋次郎』を彷彿させるような荒廃した上州の風景から始まる。主人公の矢月繋(やづきつなぐ)が、何ともクールでインパクトが強いキャラクターだ。もともとバイオレンスものは苦手な方だが、この作品は構成がうまく、ディテールの描写も木目細かくて、一気に読めた。 本多正信の後裔で、幕府非公認隠密団「陽炎(かげろう)」を率いる大目付・松平弾正少弼正房や、岡っ引・岡安、博徒の情婦・おきゃんなど個性的な脇役も魅力的だ。
物語●編笠を目深にかぶり、定寸の両刀を腰に帯びた、三十前後の細身の男・矢月繋(やづきつなぐ)。関八州では、「餓鬼草子」という通り名で知られ、三百両の報酬でいかなる殺しも請け負う殺し屋だった。繋は、御日記帳改兼帯の大目付で五千石の旗本・矢月備前守の嫡男だった。その父は、繋が幼いときに将軍家の秘事に関わり、何者かに家族、郎党もろとも殺された。繋は、父の死の謎を解き、敵を討つために動き始めた…。 目次■第一話 餓鬼草子誕生・禍福の陽炎/第二話 苦力の士・踏みにじられた果実/第三話 小伝馬牢・御臨終地獄 ここから始まる本のリンク▼『木枯し紋次郎』(笹沢左保著・光文社文庫) |
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土龍 (もぐら)
出久根達郎
装幀:南伸坊 |
♪南さんの装幀が粋。品川のお台場普請を舞台にした、時代サスペンス。お台場というと、今ではすっかりアミューズメントスポットとなっているが、ほんの150年前は江戸の防衛のための砲台設置場所だったのだ。なんか信じられないなあ。出久根さんらしい、軽妙な語り口ながら、秘密や謎がいっぱいの時代サスペンスになっている。とくに国太郎とその仲間たちの言動が楽しい。大の男達が下帯一つになって目隠しをされて、手をつないで一列になって歩くシーンなど、情けなさと可笑しさがないまぜになっていい味を出している。 物語●国太郎は、口入れ屋で、川越生まれの百姓の百蔵と知り合い、ともに「御台場御用」の力仕事につくことになった。仕事を決めた二人が蕎麦屋で食事をしていると、悪相の岡っ引・喜六が間に入ってきた。国太郎は、常州・潮来の旅籠の三男坊で、八丁堀同心の家に養子に入ったが、不向きということで離縁になったということだった。ともかく、国太郎と百蔵は一之手(もっとも品川寄り)御台場の普請場で井戸掘りの仕事を手伝うことになった…。 目次■第一部 蛙(人宿/温泉/お守り/地形/竹筒/蜂使い/喧嘩/惣八/頃痢)|第二部 土龍(目薬/穴蔵/切株/米俵/もぬけ/赤虫/船小屋/地震/顔見世/抜け穴/水脈/婚礼) ここから始まる本のリンク▼『御書物同心日記』(出久根達郎著・講談社)、『亜智一郎の恐慌』(泡坂妻夫著・双葉文庫) |
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朱の丸御用船 (しゅのまるごようせん)
吉村昭
カバー:竹元良太 |
♪悲劇的な歴史小説ということで、今まで敬遠していたが、そろそろ吉村作品に触れてみたくなり、文庫化を機会に読むことに。吉村さんの歴史小説は、史実に忠実で、綿密な史料の渉猟に定評がある。本作品も、歴史書にほとんど記述されることがない、地方の事件「波切騒動」をドキュメントタッチで描いていて興味深かった。登場する人物名はすべて史料に記された実名だが、主人公の弥吉は作者の創作した人物で、彼を通して波切村をはじめとしたその地方の風俗、地勢、気象を書きたかったため、とあとがきで記している。とくに彼を通して、結婚、出産の風習が事細かに描かれていて、物語に奥行きを与えているように思われる。 物語●志摩国波切村の漁師・弥吉は、秋刀魚漁を終えて浜に戻る途中、流れ仏を発見した。漁師にとって、流れ仏は豊漁を約束する吉兆だった。二日前に、村の前面に広がる大王崎の岩礁で廻船が座礁しているのが発見され、村では荷を素早く陸揚げ(瀬取り)して、役所に通報せずに隠匿していた…。 目次■朱の丸御用船/あとがき/解説 勝又浩 ここから始まる本のリンク▼『神無き月の十番目の夜』(飯嶋和一著・河出文庫)、『深重の海』(津本陽著・新潮文庫) |
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雨に紛う (あめにまごう)
真野ひろみ
装幀:蓬田やすひろ |
♪蓬田さんの装画に、期待の大きさが見られる、女流作家のデビュー作。作者の真野ひろみさんは、第10回時代小説大賞で最終候補となり、残念ながら大賞(『十手人』押川國秋)は逃している。幕末維新を舞台に「隻腕の美剣士」伊庭八郎秀穎(いばはちろうひでさと)とその義妹・礼子の愛と戦いの日々を描く、凛々しくもせつない物語。読んでいて目頭が熱くなったシーンがあった。若い女流作家らしい視点に好感がもてる。伊庭八郎ファンがまた増えるのではないだろうか。 タイトルにもあり、八郎の歌として引用される「あめの日は、いとヾこひしく思ひけり、我がよき友は、いづこなるらめ」でも歌われているように、作中では雨がとても印象的に描かれている。 物語●明治三十四年六月、東京四谷にある伊庭家の客間で、礼子と想太郎は、箱館戦争で死んだ、長兄の八郎の思い出にひたっていた。明治維新から三十余年が経過し、当時のことを偲ぶ会合があちこちで開かれていた。そんな中で、旧幕軍の勇士伊庭八郎のことを話してほしいと、義妹である礼子に声がかかった。会に出席することは承知したものの、人前で話したことなどない礼子は、義兄の想太郎相手に史談会の練習をしていたのであった…。 目次■序章 史談会前日/第一章 ひそか雨/第二章 吾妻錦絵/第三章 雨夜の月/第四章 猛る気の/終章 史談会当日 ここから始まる本のリンク▼『幕末あどれさん』(松井今朝子著・PHP研究所)、『幕末遊撃隊』(池波正太郎著・集英社文庫) |
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奇妙な刺客 祇園社 神灯事件簿 (きみょうなしかく・ぎおんしゃ・しんとうじけんぼ)
澤田ふじ子
装画:蓬田やすひろ |
♪澤田さんの新シリーズは、馬庭念流の達人で祇園社の神灯目付役・植松頼助(うえまつよりすけ)が主人公の連作捕物。神灯目付役とは、祇園社の境内各社の灯籠などに点された火の管理と、社の警護役がその職務で、神さまのお使いと見なされていて、京の人たちからは敬せられていた。その服装は、ねずみ色の筒袖に伊賀袴、腰に大小を帯び、足許は草鞋ばきで、黒い塗り笠に面垂れのいでたちだった。塗り笠には、「祇園社神灯目付役」の文字が、赤漆でくっきりと書かれていた。植松頼助は、公家の庶子として生まれながら、訳あって今は、祇園社山門の東側に構えられる寄人長屋に盲目の浪人・村国惣十郎と暮らしていた。物語には、祇園社南楼門の茶屋・中村屋(楼)の娘・うず女(め)が彩りを添える。 澤田作品らしく、京の風物や当時の文化的な背景がきっちりと説明されていて、いろいろと勉強になることが多い。「おけらの火」ではおけら詣り、「奇妙な刺客」では祇園祭りの、当時の様子を詳細に描写して興味深かった。また、「花籠の絵」では、円山応挙が登場してびっくり。 物語●「八坂の狐」頼助は、見回り中に薬師堂の前で、一匹の白狐を見かけた。つかまえてみると、狐のお面をつけた十歳ぐらいの子どもで、母親に言われて賽銭泥棒に来ていたのだった…。「おけらの火」頼助は、本殿で参拝を済ませた二人の人物にあった。一人は、中村屋重郎兵衛で、もうひとりは中村屋に出入りの炭屋の手代だった。手代は、律儀そうな男で来年早々には暖簾分けしてもらうのだという…。「花籠の絵」頼助は、同役の孫市のなじみの料理茶屋で、襖絵を描いていた円山応挙と知り合った…。「奇妙な刺客」祇園祭り(宵山は別名〈屏風まつり〉とも呼ばれていた)が近づくなか、市中では、屏風に描かれた絵が奇妙に消えていくという噂が広がっていた…。 目次■八坂の狐|おけらの火|花籠の絵|奇妙な刺客|あとがき ここから始まる本のリンク▼『闇の掟 公事宿事件書留帳』(澤田ふじ子著・廣済堂文庫) |
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海の夜明け 【日本海軍前史】 (うみのよあき・にほんかいぐんぜんし)
白石一郎
装画:三井永一 |
♪以前から、「海の日」に合わせて読もうと思っていた作品。海洋小説といえば、やはり何といっても白石一郎作品だ。長崎の海軍伝習所の様子が克明に描かれていて、サブタイトルにあるように「日本海軍前史」として興味深く読めた。外圧に対する幕閣たち=日本の政治家たちの混乱ぶりと国際感覚の欠如、対応のまずさ。それと対比してのオランダ人教官たちの西洋文明を伝えようとする親切心と献身的な教育ぶりが印象に残った。「歴史の相殺作用」ということを、ときどき感じることがある。たとえば、関ヶ原の戦いで貧乏くじを引いた島津と毛利が、維新では勝者になることもその一つ。鎖国化の独占的な交易で、莫大な利を得たオランダが、幕末において幕府の海軍創設に力を貸したこともそんな「相殺作用」ではないだろうか。 塩飽諸島出身の船乗りが活躍する海洋小説としては、二宮隆雄さんの『海援隊列風録』(角川書店)が思い出される。残念というか、当然というか、主人公は異なるが、勝麟太郎など、共通する登場人物もいた。 物語●安政二年夏、塩飽本島の人名年寄(にんみょうどしより。島の自治の代表者)四人が、大坂町奉行から呼び出された。用向きは、公儀が日本海軍を創設し、その乗組員として三十人の若者を差し出せということだった。庄屋の道楽息子・原田仙三郎、その下男同然の鶴松、廻船問屋の息子で千石船の表仕(おもてし。舵取り兼航海士)・丸屋辰之助らは、大坂町奉行所差し回しの酒樽廻船で、海軍伝習所が創設される長崎の地に向かった…。 目次■塩飽諸島/海軍伝習/猛練習/航海伝習/咸臨丸/さらば長崎 ここから始まる本のリンク▼『海援隊列風録』(二宮隆雄著・角川書店) |
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花櫓 (はなやぐら)
皆川博子
カバーデザイン:宇野亞喜良 |
♪江戸の芝居町を舞台に、中村座の娘たち(お菊とお珊)の恋と青春を描く、ちょっとせつない物語。後に、中村座の控櫓(本櫓が経済的に破綻して興行できないときに、5年間限定で代わりに興行を行う座元のこと。森田座→河原崎座、市村座→桐座と、それぞれ決まっていた)都座の座元になる源次、中村座を支えることになる、伝九郎と七三郎の5人を中心に物語は展開する。青春小説ととらえることもできそう。市川団十郎、松本幸四郎、尾上菊五郎らきら星の如く名優たちが登場し、江戸歌舞伎の世界が堪能できる贅沢でちょっとためになる傑作。また、源次が馬場の芝居で、鳥山石燕の『画図百鬼夜行(えずひゃっきやぎょう)』に題材をとった、エグい見世物をやるという話が、京極堂ファンには興味深かった。 皆川さんらしい、華麗で、ちょっと狂気がかっていて、残酷でロマンチックな作品に仕上がっている。 物語●中村座の座元八代目中村勘三郎の娘・お菊は、正月の雑踏の中で見知らぬ若い男から声をかけられた。痩せた野良犬のようなその男源次は、〈馬場の芝居〉と呼ばれる見世物小屋の興行を仕切る親方の孫であった。妾の子であるお菊には、正妻の子である異母妹・お珊(さん)がいた。異母姉妹といっても、2カ月しか違わなかった。その頃、中村座は先代の勘三郎が亡くなり、その弟でお菊たちの父親が八代目を襲名して、2年がたったところ。勘三郎は、人気役者市川八百蔵の倅・伝九郎を養子にして、若太夫に据えていた。また、勘三郎の妹・お蘭の子で、お菊たちの従弟にあたる、美貌の役者・七三郎も跡継ぎ候補だった…。 目次■一 初春芝居町/二 泥まみれ/三 雛の約束/四 五月闇/五 連理引/六 昏い潮/七 百鬼の原/八 夏小袖/九 夢の火/十 裏切り/十一 蔵の中/十二 炎魔/十三 鳳凰の翼/十四 花櫓|解説 宇江佐真理 ここから始まる本のリンク▼『仲蔵狂乱』(松井今朝子著・講談社) |
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京伝怪異帖 (きょうでんかいいちょう)
高橋克彦
装幀・挿画:宇野亞喜良 |
♪天狗、生霊、神隠し…、若き戯作者山東京伝と異能の風来人平賀源内が活躍する連作形式のホラー時代小説。高橋さんは『写楽殺人事件』などの浮世絵師殺人事件三部作以来、絵師や戯作者を扱わせたら、やはりうまい。今回も若い頃の山東京伝(伝蔵)が実に活き活きと描かれている。腕力はからっきしのイメージの伝蔵が銅製の糸印を武器に使うという設定も新鮮。牢死したはずの平賀源内を伝蔵の師匠役に配したのも見事。高橋さんはいろいろな作品で怪異現象(ホラー)を扱ってきたが、時代小説の中でそれらを描くと、いよいよ作品の中にしっくり溶けこむように思えた。とくに「生霊変化」の話から最後までが面白い。高橋作品でおなじみの題材もいろいろ散りばめられていて、最初から最後まで眼が離せず、ファンにはたまらないところ。 物語●「天狗髑髏」若き日の山東京伝(伝蔵)は、絵師・北尾政演(まさのぶ)として知られていた。吉原遊びで退屈していたときに、風来山人こと、平賀源内が牢死したことを知り、友人で戯作者から絵師に転じた窪俊満(窪田安兵衛)とその死骸を見に行くことにした…。「地獄宿」伝蔵は、源内、陰間の蘭陽と一緒に、松平定信の領地・白河近辺で噂になっている地獄宿の秘密を探りにでかけることになった…。「生霊変化」伝蔵は、妹のよねの病状を気にかけてふさいでいた。よねは、吉原にいるはずの伝蔵が枕元に立ったという夢、幻を見たという…。「悪魂」伝蔵の女房となった、お菊が奇病に罹った…。「神隠し」寛政三年、『仕懸文庫』を含む三冊の洒落本を蔦屋から出した伝蔵は、風俗を乱しているという疑いをかけられた…。 目次■天狗髑髏|地獄宿|生霊変化|悪魂|神隠し ここから始まる本のリンク▼『だましゑ歌麿』(高橋克彦著・文藝春秋)、『戯作者銘々伝』(井上ひさし著・ちくま文庫) |
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銭五の海 上・下 (ぜにごのうみ・じょうげ)
南原幹雄
カバー装画:西のぼる |
♪海の日が近づいてきたので、2年以上前に、文庫化されたときに購入したまま、ツン読だった作品を取り出して読んでみた。主人公の銭屋五兵衛は、江戸後期を代表する豪商で、最盛期にはその出身地をもじって“海の百万石”とも呼ばれていた。その豪気な成り上がりぶりと、悲劇的な晩年(実はそのために今まで読むのをためらっていたところもある)のために、小説の題材になることも多い。江戸時代というと、士農工商というぐらいで、武士が主人公となることが多く、その侍としての生き方が共感を呼ぶことが多い。しかし、細かく見ていくと、ある場所やある時期においては、武士よりも誇り高く潔い生き方をした町人たちが見られることがある。たとえば、加賀国は、百万石の石高をもち、多くの武士を抱え、武士の地位がとりわけ高い土地柄である。また、江戸開府以来将軍家と婚姻を通じて、密な関係を築き、幕府を支える雄藩のひとつとなっている。そうした背景から、きわめて保守的な風土であった。こうしたところから、突然変異のように現れた銭屋五兵衛の存在は、何から何まで対照的で際立って見える。 幕藩体制が経済的に破綻し、もともとは、戦のための軍事力であった武士が、長く続く平和な時代の中で官僚化したり、パラサイト化したりしてしまった江戸後期。サムライ・スピリッツを喪ってしまった武士よりも経済力で社会を牛耳った商人たちの方が人間的な魅力を感じてしまうのも当然のところかもしれない。読書中、海の百万石の爽快さに比べ、陸の百万石の因循姑息さに、何度ため息がでたことか。『鴻池一族の野望』『疾風来り去る』など、商人が魅力的に描かれ、商と士の対立をドラマチックに扱うのは、南原さんの作品の特徴のひとつでもある。 薩摩藩の家老・調所笑左衛門や加賀藩の黒羽織党が登場するのも興味深い。 物語●加賀・宮腰で小さな質屋と両替商を営む銭屋五兵衛は、質流れの百二十石の小さな中古船を手に入れた。三十代の後半で、中肉中背のがっしりした体格をした五兵衛は、海への憧れ、千里の波涛をわたる海運業への夢が立ち切れず、ボロ船で3人の乗組員とともに、大坂へと向かった…。 目次■初航海/蝦夷へ/横恋慕/鵝眼銭印/刺客/船底の中/謎の船/教諭局/兼六園/宝林丸/復活/母と娘/逃亡者/錦江湾/黒羽織党/オロシア船/乳房(以上上巻)|サハリン/大飢饉/ウルルン島/天保の改革/暗殺者/黄金の輝き/墓参/銭屋王国/常豊丸/河北潟/賄賂千両/難破/波除開/秋時雨/死魚/疾風怒涛/解説 菊池仁(以上下巻) ここから始まる本のリンク▼『抜け荷百万石』(南原幹雄著・新潮文庫)、『海の街道』上・下(童門冬二著・学陽書房人物文庫) |
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病みたる秘剣 風車の浜吉・捕物綴 (やみたるひけん・かざぐるまのはまきち・とりものつづり)
伊藤桂一
カバー:佐多芳郎 |
♪久々に「風車の浜吉」が読みたくなった。根津の親分・浜吉は、ふとした出来心で、追い詰めた強盗から金を受け取り、目こぼしをしてしまい、そのために御用聞をお役御免となり、百叩きの刑にあって、五年の所払いで江戸を追われた。年季があけて江戸に戻った浜吉は、放浪時に覚えた風車作りで生計を立てていた。人生の酸いも甘いも噛み分けた風車の浜吉がいい。また、彼を支える幼なじみの小日向の喜助親分と、その子分の留造の絡みが微笑ましい。昔、フジテレビ系のドラマで、仲代達矢さんが風車の浜吉親分を演じていたのを思い出した。『半七捕物帳』を彷彿させるベーシックな捕物帳で、浜吉の推理の冴えがみどころのひとつ。 第七話の「七福神参上」で、「室町ごろに、七福神盗賊というのが流行ったそうだ」という記述があり、澤田ふじ子さんの『七福盗奇伝』を思い出した。 物語●「風車は廻る」元御用聞の浜吉は、猩猩の銀という闘鶏師と対決することになった…。「絵師の死ぬとき」玉村朱蝶という売れっ子の浮世絵師が船の上で殺された…。「人魚の言葉」深川沖で、うすもの一枚の美女が釣り上げられた…。「旅姿の心中者」小田原の旅先で、浜吉は旅姿の心中者の死体を見つけた…。「病みたる秘剣」金貸しで地廻りの親分が、子分二人と腕の立つ用心棒と一緒にいるところで、心臓を刺されて殺された…。「ハゼ釣りのころ」留造の知り合いの弓の先生が、ハゼ釣りに出ていた武家を殺した下手人として捕まえられた…。「七福神参上」浜吉の風車を買いにきた貧しい身なりの女の子が、手に一分金を握り締めていた…。「花かんざしの女」遊び人や吉原の遊女屋の番頭など四人の男が何者かに殺された。死体の手には安物の花かんざしを握っていた…。「狐に似た男」喜助の湯治先の修善寺で、江戸の呉服屋の番頭が、のんびりと釣りをしていた。番頭は近所でも評判のいい働き者だったのだが…。「もぐら組異聞」浜吉は、七年ぶりに怪盗団もぐら組の男を見かけた…。「枯葉の散るとき」茶問屋の主人が、庭に面した居間で、うしろから心の臓をしっかりと一突きされて死んでいるのが発見された…。「鯉抱き人夫」護持院ヶ原の方角に向けて、遊び人らしい一団が、ひとりの男を取り囲んで、歩いていった…。 目次■第一話 風車は廻る/第二話 絵師の死ぬとき/第三話 人魚の言葉/第四話 旅姿の心中者/第五話 病みたる秘剣/第六話 ハゼ釣りのころ/第七話 七福神参上/第八話 花かんざしの女/第九話 狐に似た男/第十話 もぐら組異聞/第十一話 枯葉の散るとき/第十二話 鯉抱き人夫/解説 武蔵野次郎 ここから始まる本のリンク▼『半七捕物帳』(岡本綺堂著・光文社文庫)、『七福盗奇伝』(澤田ふじ子著・廣済堂文庫) |
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戦国自衛隊 (せんごくじえいたい)
半村良
装画:西口司郎 |
♪架空戦記ものは守備範囲ではなかったが、昔の角川映画が懐かしくて、装いも新たに刊行されたので、つい読み進めてしまう。それにしても、原作ってこんなに薄かったんだ。やっぱりアイデアが卓抜。現実には武器に囲まれながらも、専守防衛ということで何もできずに、演習と災害救助ぐらいしか出番がない自衛隊が、戦いこそすべての戦国時代にタイムスリップしてしまうわけだから、面白くならないはずがない。映画では戦闘シーンのダイナミズムに視点が置かれたようだが、原作は主人公の伊庭三尉はじめ、人間としての自衛隊員が描かれている。また、物語の中で繰り広げられる架空の歴史と現実の歴史のズレが面白い。 物語●境川は、新潟県と富山県の県境で、かつては越後と越中の国境だった。その地に、大規模な演習のために、第十二師団、第一師団、海上自衛隊が集結したが、そのうちの三十名余りが、トラックや装甲車、哨戒艇、物資、弾薬、食糧とともに、戦国時代にタイムスリップしてしまった…。 目次■第一章/第二章/第三章/第四章/第五章/第六章/むすび/解説 笹川吉晴 ここから始まる本のリンク▼『講談 碑夜十郎』(半村良著・講談社文庫) |
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壬生義士伝 上・下 (みぶぎしでん・じょうげ)
浅田次郎
題字:榊莫山 |
♪構想二十年、著者初の時代小説は「新選組」もの。新選組の吉村貫一郎の生涯を描く感動巨編。やはり泣いてしまった。浅田さんのストーリーテラーぶりと、構成の巧みさに感嘆した。ずるいぐらいにうまい。まず、主人公に吉村貫一郎(実在の人)を据えたことで成功の半分ぐらいを手に入れた感じだ。さらに、主人公のモノローグと、関係者への聞き書きを交互に交える凝った文体で、奥行きを加え、緊張感を高めていっている。新選組の生存者たちを取材して書いたという子母澤寛さんの新選組三部作が読みたくなった。 人としての出処進退や家族愛、生き方を考えさせられる作品。迷ったときや悩んだときに読むといい本かもしれない。 物語●慶応四年一月七日の夜更け、大坂の盛岡南部藩蔵屋敷に、満身創痍の侍がただ一人たどり着いた。三日の夕刻に戦端を開いた鳥羽伏見の戦いで敗れ傷ついた新選組隊士・吉村貫一郎である。吉村は、かつて南部藩の大野次郎右衛門の組付足軽だったが、脱藩し、新選組に加わっていた。情勢が明らかになるまで、不関与の立場をとっていた南部藩の大坂蔵屋敷差配役は、皮肉なことに大野次郎右衛門だった。大野は、吉村の帰参を聞くと、「何を今さら、壬生浪めが」と吐き棄てるように言い、切腹を命じるのであった…。 目次■なし ここから始まる本のリンク▼『燃えよ剣』(司馬遼太郎著・新潮文庫) |
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草笛の剣 上・下 (くさぶえのけん・じょうげ)
津本陽
装画:安里英晴 |
♪津本さんの得意の紀州もの。『新陰流 小笠原長治』を思わせるボーダレスな剣豪ロマン小説。四部構成で、第一部は孫二郎の雑賀での幼年時代を描く。秀吉に対する雑賀衆の抵抗ぶりがみもの。戦国歴史小説。第二部は、孫二郎の青春と秋山権兵衛ら無頼仲間との友情を描く。盗賊の深沢甚内らが絡み伝奇小説の要素が強い。第三部は、孫二郎が江戸で孤高の剣客・佐野綱正に新陰流の極意に触れる。剣術の修行ぶりや剣法論議など剣豪小説の趣きがある。第四部は、孫二郎と無頼仲間たちが、南の海を目指す海洋小説といったところか。出雲のお国、南蛮貿易商りゅうせい、明の総哨官・陳碩猷など興味深い登場人物が物語に色彩を加えている。さまざまな味が楽しめるお得な時代小説である。第三部で描かれる、慶長期の江戸の街が粗野で田舎染みていて危険でエネルギッシュで、何とも新鮮。ドキドキしてしまった。 物語●彦作(後の孫二郎)は、紀伊雑賀衆の年寄衆のひとりで海上交易にも力を入れていた岡崎孫二郎大夫吉次の次男として、紀伊国雑賀荘で生まれる。幼き日に、羽柴秀吉の雑賀・根来征伐で、父や兄など家族を失い、根来の鉄砲隊長で近隣に知られた武芸の達人「小みっちゃ」に育てられることになる…。 目次■雑賀荘/走り者(以上上巻)|江戸/南蛮(以上下巻) ここから始まる本のリンク▼『戦国海商伝』(陳舜臣著・講談社文庫) |