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ぼんくら
宮部みゆき
装画・題字:村上豊 |
♪怠け者の本所深川方の同心・井筒平四郎とその甥で超美形少年の弓之助が、長屋で連続する事件の謎に挑む長篇時代ミステリー。事件が起こるたびに長屋の住人が減っていくという趣向がアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を彷彿させて面白かった。随所に宮部さんらしいところが見られてファンにはたまらない一冊。まわりにあるものを何でも鯨尺で測ってしまう弓之助、近眼の美少女みすず、言われたことを何でもそのままの形で記憶してしまう人間コンピュータの少年おでこなどなど、登場人物も魅力的。時代設定は明記されていないが、『初ものがたり』に登場する、回向院の茂七親分が米寿を迎えると書かれていた。また、若い牢屋医師の名前が、「登」というのには、作者の遊び(『赤ひげ診療譚』や『獄医立花登手控えシリーズ』など、時代小説の若い医師の名前に「登」が多い)を感じてニヤっとした。 物語●鉄瓶(てつびん)長屋で八百屋を営む富平の長男が、土間で殺されていた。現場で、血がついた浴衣を着た妹のお露は、「殺し屋が来て、兄さんを殺してしまった」と言った。その後すぐ、お露への疑惑を晴らす証言をした鉄瓶長屋の差配人の久兵衛が失踪してしまった。代わりにやってきた新しい差配人は、何と二十七歳の若者佐吉だった…。 目次■殺し屋/博打うち/通い番頭/ひさぐ女/拝む男/長い影/幽霊 ここから始まる本のリンク▼『本所しぐれ町物語』(藤沢周平著・新潮文庫)、『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著・講談社文庫) |
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水の城 いまだ落城せず (みずのしろ・いまだらくじょうせず)
風野真知雄
カバーイラスト:毛利彰 |
♪秀吉が天下統一を駆けた北条氏との合戦で、百を超す支城のうち唯一落城しなかった武蔵・忍城の攻防戦を描く。その忍城は、蓮の沼に浮かんだように見えて、水の城と呼ばれていた。忍城を舞台にした作品では、宮本昌孝さんの『青嵐の馬』に収録された中篇「紅蓮の狼」が思い出される。籠城ものというと、羽山信樹さんの『滅びの将 信長に敗れた男たち』に代表されるように、非情さや凄絶さをともない、暗いトーンになりがちである。ところが、風野さんの作品では、成田長親という、茫洋としながらもとらえどころがなく、温かさをもった主人公を据えることにより、明朗さと爽快感を与えている。自ら田舎者と認める長親が、秀吉の懐刀でシャープな都会人・石田三成と対決するさまが面白い。また、長親をサポートする周囲の人物も魅力的だ。
物語●「秀吉軍が攻めてくるらしい……」という報せが武州忍城にもたらされたのは、天正十七年の暮れのことだった。関八州を支配してきた北条氏の小田原城を攻めると同時に、百以上あるその支城を落城させ、揺さぶりをかけようとする狙いがあった…。 目次■序章 つわものども/第一章 じゃじゃ馬/第二章 それぞれの真意/第三章 俊英/第四章 籠城/第五章 城代の一日/第六章 奇計/第七章 笑い武者/第八章 奔流/第九章 甲斐姫出撃/第十章 六連銭/第十一章 搦手/第十二章 水の城/第十三章 いまだ落城せず/終章 蓮の花/解説 菊池仁 ここから始まる本のリンク▼『青嵐の馬』(宮本昌孝著・文藝春秋) |
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蛮骨の剣 (ばんこつのけん)
鳥羽亮
カバーイラスト:村上豊 |
♪『鱗光の剣 深川群狼伝』に続く、始末人・蓮見宗二郎が活躍するシリーズ第2弾。始末人といっても、池波正太郎さんの『仕掛人・藤枝梅安』のような殺し屋とは言い切れない。むしろ、専守防衛の用心棒に近い存在だ。そのため、作品全体に非合法なことを遂行する際の暗さや後ろめたさが見られない。このシリーズの魅力は、剣と剣の立合いがある。主人公の蓮見宗二郎は、北本所番場町で渋沢念流の剣術道場を開いている蓮見剛右衛門の次男で、始末人の仕事のほかに、道場に時折通って門弟に稽古をつけていたりしている。普段の生活はぐうたらだが、刀を取れば、秘剣を繰り出し、颯爽と相手を斬り伏せる。今回は、一撃必殺の実貫流の老剣客・小野惣右衛門が登場する。この剣客がなかなか魅力的で、彼の娘の秋乃の可憐さとあいまって、読後に心地よい余韻を残す。 物語●「亡者甦り、門戸を叩く。是、大凶変の前兆なり」。謎の張り紙を残し、残忍な手口で火付け、押し込み、辻斬りを繰り返す“閻魔党”の出現に、深川の町は震撼させられる。深川で、同業者との揉め事の始末や用心棒、喧嘩の仲裁、火付けや押し込みから店を守ることまで引き受けていた、始末屋・鳴海屋文蔵のもとに、始末の依頼が続々と舞い込んだ。鳴海屋の始末人・蓮見宗二郎、鵺野ノ銀次、菅笠の甚平、臼井勘平らが、“閻魔党”立ち向かうことになった…。 目次■第一章 亡霊/第二章 秋乃/第三章 鬼骨/第四章 勾引/第五章 騒擾/第六章 老将/解説 小梛治宣 ここから始まる本のリンク▼『鱗光の剣 深川群狼伝』(鳥羽亮著・講談社文庫) |
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大剣豪 (だいけんごう)
清水義範
カバー装画:浅賀行雄 |
♪時代劇のヒーローをパロディーにした「ザ・チャンバラ」をはじめとした、パスティーシュを得意とする作者の初の時代小説ばかりの短篇集。通勤読書にぴったり。収録作品は、3つのタイプに分けられる、「大剣豪」「笠地蔵峠」「大江戸花見侍」「ザ・チャンバラ」の4作品は時代劇や時代小説のパロディ(パスティーシュ)。原典がおなじみのものの本歌取りなので、多いに楽しめる。「山から都へ来た将軍」「三劫無勝負」「天正鉄仮面」の3作は歴史もの、といっても作者ならではのユーモアというか軽快さがある。「どえりゃあ婿さ」「山内一豊の隣人」「尾張はつもの」は、作者の裏技・名古屋弁もの。「尾張はつもの」は、後に『尾張春風伝』という長篇のベースになっている。 ちなみに、「三劫(さんこう)」とは、一局の碁で劫(囲碁で1目を双方で交互に取り返せる形ができたとき、取られたあと、すぐ取り返してはならないルール)が3ヵ所できることで、極めてまれなために不吉とされる。「尾張はつもの」は「終り初物(時期の末になって成熟し、初物と同様に珍重される野菜や果物)」と「尾張で初めてのもの」を掛けている。 この作品集のような、ニヤリとできる、ユーモアがある時代小説は貴重なので、作者にはもっともっとがんばって書いてほしい。 物語●次々に剣の達人が現れて繰り広げる秘剣の数々、最後に残るのは? 「大剣豪」座火車(すわりひぐるま)、殺傷陣(さっしょうじん)など秘剣が飛び交う…。「笠地蔵峠」笠地蔵峠で年寄りが侍に斬られた…。「大江戸花見侍」希代の悪党・優曇華残雪が公儀を相手に企む謀略とは…。「山から都へ来た将軍」木曾冠者と呼ばれる怪力無双の好男児・木曾義仲のもとに、叔父の源行家がやってきて平家討伐を促した…。「三劫無勝負」本因坊家第一世算砂は、亡き信長公の碁について回想した…。「天正鉄仮面」盗賊の親玉・石川五右衛門は手下から奇妙な話を聞いた。丹後国主の細川幽斎の屋敷でのことだという…・。「どえりゃあ婿さ」織田家足軽組頭・浅野範右衛門(長勝)は友人の名和助左衛門と、範右衛門の婿について噂話をしていた…。「山内一豊の隣人」織田家家臣で木下藤吉郎の寄騎の船戸吉右衛門持義は、隣に住む同僚でライバルの山内猪右衛門一豊のことについて家臣と噂話をしていた…。「尾張はつもの」“とんだ権十(ごんじゅう)よ”というのが、尾張徳川家七代藩主・徳川宗春の口癖であった。尾張の言葉で、“田舎者”の意味であり、その言葉は保守的な藩の重役や、将軍吉宗に向けられていた…。「ザ・チャンバラ」藩の城代家老による大悪事に立ち向かう若い藩士たち、そしてそれを助ける時代劇のヒーローたち…。 目次■大剣豪|笠地蔵峠|大江戸花見侍|山から都へ来た将軍|三劫無勝負|天正鉄仮面|どえりゃあ婿さ|山内一豊の隣人|尾張はつもの|ザ・チャンバラ|あとがき|解説 香山ニ三男 ここから始まる本のリンク▼『尾張春風伝』上・下(清水義範著・幻冬舎)、『殿さまの日』(星新一著・新潮文庫) |
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大盗賊・日本左衛門 上・下 (だいとうぞく・にほんざえもん・じょうげ)
志津三郎
カバーイラスト:蓬田やすひろ |
♪日本左衛門というと、河竹黙阿弥作の『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』で知られる大盗賊。鈴木輝一郎さんの『白浪五人男』(双葉社)でもおなじみ。志津さんの作品では、残念ながら五人男のほかのメンバーはそのままの形では出てこない。その代わり、柳生流の達人・高田賛四郎(尾張柳生家の師範代で、犬山城主成瀬隼人正の兵法指南・高田三之丞の末孫)や駿府奉行所の夜回り同心赤松総兵衛の息子・総一郎、徳山五兵衛と配下の火盗改方が、登場し、日本左衛門の後を追う。 京の町を3丁(3キロメートル)という長距離にわたって移動しながらの、賛四郎と日本左衛門の剣による対決がみどころ。 表紙カバーの著者写真からは考えられないほど、饒舌な語り口で、物語は進む。随所に、作者のバブル経済への批判など、現在の政治・経済状況や日本人の言動に対する厳しい言葉が散りばめられている。執筆の強い動機になっているのだろうか。 物語●肌を黒色で塗りこめ、面頬(黒い鉄仮面)をつけ、鉢型の兜頭巾を被り、金筋入りの黒羅紗の半纏、黒縮緬の小袖と黒ずくめで、腰に白銀造りの太刀を佩き、白木造りの六尺余りの金剛杖を手にした、六尺近い均整のとれた長身の偉丈夫。これが、東海道筋を荒し廻る日本左衛門の押込みの扮装。ある日、駿府の町外れにある相州屋伝兵衛の屋敷に押し込んだ。その一部始終を見ていた、駿府奉行所の夜回り同心、赤松総兵衛は、一人で日本左衛門に立ち向かったが…。 目次■大序|第一部 東海道人別帖の巻(隠密行/継承者/御七里/自負と見栄/御土居下御側組)|第二部 群盗往来の巻(姫街道/前途多難)|第三部 悪逆無道の巻(地獄耳/絆の糸)|第四部 地獄曼陀羅の巻(潜入図/虚々実々/潜伏/惜別賦/薩た峠/破軍星/落花狼藉)|第五部 断腸花の巻(茨の道)(以上上巻)|第六部 海道双六の巻(往きて帰らず/裏技/剣戟/辻講釈/順逆/攻略/御下知)|第七部 流星光底の巻(火盗改/高熱/幕間/密偵)|第八部 出役攻防の巻(虎穴/忠度利平/道程/庚申勝負/東奔西走/隠密行)|第九部 京の夢大坂の夢の巻(七里結界/鬼哭/懸想人/三十石夜船/奴の小万/夢幻位/網の目/死闘/後始末)|あとがき ここから始まる本のリンク▼『白浪五人男』(鈴木輝一郎著・双葉社) |
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木戸のむこうに (きどのむこうに)
澤田ふじ子
カバー装画:蓬田やすひろ |
♪『竹のしずく』(PHP研究所)を改題し、「木戸のむこうに」と「戦国地蔵」を加えたもの。今思い出すと、澤田ふじ子さんの作品を集中して読むようになったのは、『竹のしずく』を読んでからであった。澤田さんの作品を読むたびに、京のこと、作品に描かれている時代のことをいろいろ教えてもらった。「木戸のむこうに」では、有名な京料理“蕪蒸し”の誕生秘話が楽しめる。「病葉の笛」や「竹のしずく」では、御蔵米公家(貧乏公家)の実態を知ることができ、「雁の絵」では古筆見や経師など古美術の世界をうかがうことができる。もちろん、作者の博覧強記ぶりを楽しむのが主眼ではなく、そこに描かれている人間の運命の数奇さや魂の交流の美しさ、人の欲望の醜さなどが味わえる珠玉の短編集である。 物語●「木戸のむこうに」料理茶屋の女主お高は、町風呂で泣いている若い娘と知り合った…。「雁の絵」経師屋の職人栄次郎は、十五年奉公をし、一人前になっていた…。「二人雛」御所人形職人・吉五郎は、近江大掾の受領名を持つ有職御人形司から仕事の手間賃をもらっていた…。「憲法の火」年老いた母を抱え、黒染め職人の弥之助は、二年のお礼奉公をすませ、方広寺脇に小さいな黒染屋を営む算段をつけていた…。「病葉の笛」お登世の父親弥助は、小さな竹籠屋をいとなんでいたが、お登世自身は横笛作りを得意にしていた…。「竹のしずく」豆腐屋の主吉右衛門は、甥で売り子の太市を叱りつけていた。隣でおかき屋を営む佐助は、薄い切り餅を焼きながら、吉右衛門の叱り声に眉をひそめていた…。「戦国地蔵」町絵師の弥右衛門は、吹雪の日の寒い中で町廻りをする筆結いの中蔵を呼び止めて、仕事を依頼した…。 目次■木戸のむこうに|雁の絵|二人雛|憲法の火|病葉の笛|竹のしずく|戦国地蔵|解説・大野由美子 ここから始まる本のリンク▼『これからの松』(澤田ふじ子著・朝日新聞社) |
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鬼骨の人 (きこつのひと)
津本陽
カバー:村上豊 |
♪『武道通信』のおかげで、最近、津本作品に再注目するようになった。竹中半兵衛を描く表題作ほか8編を収録。津本さんらしい、英雄、武将、剣客など主人公たちの生きざまと死に様を描いた男臭い作品集。歴史上の著名人よりも、その間に埋もれてしまった人物たちに興味を惹かれる。とくに魅力的なのが、“五寸釘寅吉”の異名を持つ、明治のばくち打ちである。長篇で読んでみたいものだ。 物語●「鬼骨の人」主君斎藤龍興の近習たちに屈辱を受けた竹中半兵衛は、日ごろ学んでいる兵法を生かし、殿様の反省をうながし、世間に自分の名前をひろめるために、稲葉山城を乗っ取ることにした…。「老の坂を越えて」光秀が本能寺の信長を襲うために、丹波亀山城の広場に物頭を集めたのは、六月一日暮れ六つだった…。「百舌と雀鷹」京都で名をあげた塚原新右衛門(卜伝)は、十年間を京都で過ごし、畿内の兵法者と試合を重ね、不敗の記録を続けて帰郷し、鹿島神宮で千日参籠を行なった…。「影像なし」家光の命で、柳生兵助(連也)は、将軍家指南役の宗冬と試合をすることになった…。「雨の晴れ間」初代紀州藩主徳川頼宣は、大身の家臣草薙加兵衛の嫡男・伝三郎の伊達者ぶりを酷評したことから事件が…。「刃傷」徳川頼宣の鹿狩りに、御先手物頭・山中作右衛門友俊は、家来十数人とともに加わった。作右衛門は五十三歳で、近頃は体力が衰えているが、戦国の世に合戦の経験を重ねた、武芸名誉の士として家中に聞こえていた…。「春の稲妻」紀州藩主権中納言吉宗は、耳無し長兵衛と名付けられた大猪を狩りにでかけた…・。「饅頭屋長次郎の切腹」薩藩汽船胡蝶丸が大坂安治川沖を出帆し、鹿児島に向かった。胡蝶丸には西郷吉之助、小松帯刀ら薩藩幹部とともに、坂本龍馬、新宮馬之助、高松太郎ら、神戸海軍操練所での勝安房門下生たちも同行していた…。「五寸釘寅吉」西川寅吉は、五寸釘寅吉と異名のついた脱獄犯で、丁半博打のいかさま師として全国の賭場を荒らしまわった…。 目次■鬼骨の人|老の坂を越えて|百舌と雀鷹(えつさい)|影像なし|雨の晴れ間|刃傷|春の稲妻|饅頭屋長次郎の切腹|五寸釘寅吉|解説 磯貝勝太郎 ここから始まる本のリンク▼『わかれ―半兵衛と秀吉―』(谷口純著・東洋出版) |
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退屈姫君伝 (たいくつひめぎみでん)
米村圭伍
装画・扉絵:柴田ゆう |
♪プロフィールによると、作者の下の名前は、佳作入選五回をもじり、佳作の「佳」から人偏を「五」に移してペンネームにしている。現代の戯作者ばりの軽快な語り口が楽しい『風流冷飯伝』の第二弾。今回はアンミツ姫(「ローマの休日」のオードリーのようにキュートだ)ばりの新キャラクター・めだか姫が登場。五十万石の大藩から小藩へ移ってきた、めだか姫が感じるギャップが面白い。とくに小藩ゆえに一つ足りない六不思議の謎をめだか姫が退屈しのぎに解くところが見どころ。 めだか姫のほかにも、笠森稲荷の水茶屋の娘・お仙(幇間一八の妹)、お庭番・倉地政之助、将棋の師匠・天童小文五、老女諏訪などユニークな面々が登場する。 物語●陸奥磐内藩五十万石西条綱道の末娘・めだか姫は、好奇心いっぱいのおてんばな姫君。父の命令で、四国讃岐の風見藩二万五千石の藩主・時羽直重のもとに嫁いだ。それから3ヵ月余り、夫の直重が国許に戻ることになり、めだか姫は留守の江戸邸を守ることになった…。 目次■そもそものはじまり/第一回 あくびとは眠くなくても出るものね/第二回 水茶屋の天女に惚れるお庭番/第三回 小藩はひとつ足りない六不思議/第四回 怪人の頬が震える歩三兵/第五回 鵺が鳴き人魂は舞い賽子は鳴る/第六回 波銭の名月冴える盆の庭/第七回 切餅をほどけば娘あとずさり/第八回 どの門に回れど同じ赤い痣/第九回 古井戸や簪飛び込む水の音/第十回 意次の子はにぎにぎをよく覚え/第十一回 油照り暑さをしのぐ心太/第十二回 化かされて破邪の剣は空を切り/第十三回 市松の生首が浮く蚊帳の外/第十四回 猫ならばネの字の獲物いけどりに/第十五回 白玉の涼爽やかに大団円/これでおしまい ここから始まる本のリンク▼『風流冷飯伝』(米村圭伍著・新潮社) |
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さぶ
山本周五郎
カバー:辰巳四郎 |
♪『どら平太』映画化記念で、新潮文庫で「映画と山本周五郎フェア」を実施していた。本作品は、野村孝監督、小林旭主演で映画化されている。この映画は観たことがないのでチャンスがあれば、観たいなあ。帰省先で読んだこともあり、小さい頃、家がビンボーだったときが懐かしく思い出された。十七歳の少年たちの凶悪犯罪が新聞やテレビを騒がせている昨今、この本で久々に純粋で古き善き若者たちに出会った。家族や友人たちとの心の距離がどんどん離れていく現代社会、豊かになり、便利になり、個が尊重されていく過程でとても貴重なものを喪ってしまったような気がする。 名作と聞いていたが、確かにジーンとさせられ、柄にもないことをいろいろ考えさせられた。やっぱり、山本周五郎作品はいいなあ。 物語●小雨が靄のようにけぶる夕方、両国橋を西から東へ、さぶが泣きながら渡っていた。その後を追い、いたわり慰める栄二。二人は、江戸・小舟町の表具・経師の「芳古堂」に住みこみで働く同い年の職人だった。男前で器用な栄二と愚鈍だが誠実なさぶ、ともに不幸な境遇に育ち、辛さを噛みしめ、心を分かち合って生きる純粋な男たち。やがて、無実の罪という試練が二人の身にふりかかる…。 目次■なし ここから始まる本のリンク▼『幾世の橋』(澤田ふじ子著・新潮文庫)、『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著・新潮文庫) |
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秘剣埋火 (うつみび)
戸部新十郎
装画:西のぼる |
♪無外流(開祖は辻月丹、『剣客商売』ですっかり有名になった)の術者でもある、戸部さんの大好評の「秘剣」シリーズ。剣の秘技と剣客にともなうエピソードを綴りながら、剣の神髄を明らかにしていくスタイルが何とも面白い。今回は、作者の出身地である、加賀で隆盛した中条流がらみの話が3篇、『吉原御免状』(隆慶一郎著・新潮文庫)でおなじみの庄司甚右衛門が登場する(甲州の盗賊・鳶沢甚内こと、高坂甚内も登場)話が2篇収めてあるのが特徴。名は潜、字は子竜。兵原と号し、その居住するところを“平原草蘆”と名付け、近藤重蔵、間宮林蔵に合わせて“蝦夷三蔵”とも呼ばれた奇傑、平山行蔵が登場する「餓鷹」と、名もない(架空の)呂九平の遣う剣の妙技が面白い「松葉」も印象深い話だ。 物語●「吹毛」御子神典膳は、又助を連れて江戸にやってきた。そこで、仕官の話で小幡勘兵衛の屋敷を訪ねた…。「必勝」必勝は新陰流“九箇(くか)ノ太刀”の第一にあげられている。柳生石舟斎の四男・五郎右衛門はこの“必勝”を得意としていた…。「微塵」黒田長政にとって、信太角左衛門はたいそう印象の薄い家来だった。角左衛門は笛の名手でもあった…。「埋火」越前六十八万石・松平秀康の“御弓ノ者”に阿波賀小四郎という者がいた。中条流の遣い手でもあった…。「南蛮」加賀金沢城下の南蛮寺にいる、前田家の客臣・高山南坊(みなみのぼう)のもとに、中条流で“名人越後”と呼ばれていた富田(とだ)越後守重政が訪ねてきた…。「雙六」中条流に雙六(すごろく)という秘術があった。越前の太守・松平忠直の側小姓にあがった山崎弥五郎は、この太刀を心得ていた…。「柳雪」霞ヶ関の柳生屋敷へ日本橋の吉原廓の宰領人、庄司甚右衛門がやってきた。甚右衛門は、かつて風魔小太郎を頭領とする相州乱破の一味であった…。「参差」葭原のおやじ、庄司甚右衛門は、最近、若衆髷の匂うような美しい少年・藤若を連れ歩いていた…。「餓鷹」四谷伊賀町に、文武ニ道に卓越した老伊賀組同心が住み、毎朝決まって四つ(午前四時)から、武芸の稽古を始めていた。この老同心、名前を“平山行蔵”といった…。「松葉」金沢藩士・堀万之助の従者・呂九平は、主人を襲おうとした蓑を着けた浪人者を、得意の“松葉”で退けた…。 目次■吹毛|必勝|微塵|埋火|南蛮|雙六|柳雪|参差|餓鷹|松葉|解説 前島不二雄 ここから始まる本のリンク▼『隠し剣孤影抄』(藤沢周平著・文春文庫)、『月下の剣法者』(伊藤桂一著・新潮文庫) |
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眩惑 (げんわく)
諸田玲子
カバー写真:千葉市美術館 |
♪時代小説で「サスペンス」というジャンル分けもないものだと、われながら呆れてしまうが、この作品集は「女と男のラブ&サスペンス」という陳腐なフレーズでしか括れないような特質をもっている。作品の印象としては、皆川博子さんを彷彿させる。期待の新進作家・諸田さんの最初の文庫化作品。1996年に刊行されたデビュー作品集『眩惑』(ラインブックス刊)に、短篇を1篇加えたもの。初刊本と文庫本では、複雑なタイトルの変更がなされている。初刊本では、タイトルは『眩惑』だが、中篇の「面目なき仕儀なれど」と短篇「運の尽き」の2篇を収録。物語の内容を象徴するものとしてタイトルが使われていた。これに対して文庫本では、「面目なき仕儀なれど」を「竹薮をぬけて」、「運の尽き」を「花火」とそれぞれ改題し、新たに表題作となる短篇「眩惑」を収録している。改題して作品のイメージが変ってしまい、違和感を感じるケースもあるが、今回は大正解だった気がする。 装幀は、文庫本では珍しい祖父江さんが担当。歌麿の画のデザイン処理が何とも大胆。 物語●「花火」江尻宿に現れた、神田の安二郎は、お上に追われる身。二十代後半でで、役者にしたいような色男だった。花火に誘われて足を止めた縁日の夜、商家の後妻・お佐和と出会った…。「竹薮をぬけて」高隹(たかとり)新吾は、旅の途上で非業の死を遂げた甥の遺骨を引き取り、その死の謎を明らかにしようと、小田原から保土ヶ谷宿の近くの辻村にやってきた。甥が宿泊していた秋山屋の後家・おさえと出会った…。「眩惑」伍助は七十年近く生きてきて、主でかつて戦国の覇者として目覚しい武功を立てた工藤泰兼と、泰兼が愛した小夜の方の土塚を守っていた…。 目次■花火(縁日/翌日/翌々日)|竹薮をぬけて(一日目/二日目/三日目/四日目/五日目/六日目/七日目/八日目/十一日目/一月後)|眩惑(某日/三十年前)|解説 細谷正充 ここから始まる本のリンク▼『朱紋様』(皆川博子著・朝日新聞社) |
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蔓の端々 (つるのはしばし)
乙川優三郎
カバー画:川島睦郎「椿」 |
♪山本周五郎さんと藤沢周平さんの美点を譲り受けたような、作風が好ましい、乙川さんの最新長編。長編になったことにより、定評のある端正な筆致、きめこまかな心情描写に、剣戟シーンのダイナミズムと物語性が加わり、大いに楽しめた。友情と恋心、剣術と藩の権力抗争など、武家ものとしての必要事項が巧みに盛り込まれている。
主人公の瓜生禎蔵(うりゅうていぞう)と黒崎礼助が遣う、十方流(じっぽうりゅう)の剣というのが、無骨ながら趣きがあってよかった。 舞台はとくに明記されず架空の藩のようである、藩主は郷田日向守直忠。 物語●武具方・瓜生禎蔵の友人で藩の剣術指南を務める黒崎礼助が、家老の谷口を暗殺して出奔した。しかも、禎蔵の幼馴染でほのかな恋心を持っていた隣家の娘・八重を連れ去っていった。しかも、この事件がもとで、禎蔵の組頭と八重の父で同じ組子の朝比奈小右衛門が大目付配下に捕縛された…。 目次■花陰/小谷流川/小波/杉と桐/忘れ霜/朝曇り/炎暑/火鶏/雪の夜/春ふたたび/こう陽/秋の扇/濡れ縁 ここから始まる本のリンク▼『風の果て』(藤沢周平著・文春文庫)、『峠越え』(羽太雄平著・角川書店) |
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八州狩り 夏目影二郎赦免旅 (はっしゅうがり・なつめえいじろうしゃめんたび)
佐伯泰英
jacket photograph:ORION PRESS |
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『密命』シリーズ(祥伝社文庫)で、切れ味のいいエンターテインメント時代小説を書いている、佐伯さんの最新文庫。日本文芸社の日文文庫という、時代小説では馴染みの薄いところから出している。主人公の夏目影二郎は、国定忠治と結託し、何かを起こそうとしている八州廻りを探り出し、処置することを父の勘定奉行豊後守秀信から命じられる。影二郎は、鏡新明智流の桃井春蔵道場で師範代を務める剣の達人ながら、継母に嫌われ、無頼の仲間に入る。そこで、吉原の遊女・萌と愛し合うことになる。 面白い小説に欠かせない、ヒロインとして、みよ、しず女、萌の妹・若菜が登場する。 物語●愛する遊女の仇として悪徳岡っ引・聖天の仏七を刺殺し、遠島の刑が決まった江戸無宿人・影二郎。その処分を控え、囚獄・石出帯刀に呼び出された影二郎は、そこで実父の常磐豊後守秀信と会った。秀信は、新任の勘定奉行で、関八州取締出役を取りまとめる地位にあった。…。 目次■第一話 炎上赤城砦|第二話 日光社参|第三話 血風黒塚宿|第四話 八州殺し|第五話 水府潜入|第六話 決闘戸田峠 ここから始まる本のリンク▼『武蔵野水滸伝』(山田風太郎著・小学館文庫)、『八州廻り桑山十兵衛』(佐藤雅美著・文春文庫) |
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横浜幻燈館 俥屋おりん事件帳 (よこはまげんとうかん・くるまやおりんじけんちょう)
山崎洋子
装画:渡邉良重 |
♪明治の横浜を舞台にした捕物帳。主人公は美人女学生(フェリス英和女学校)で、放課後は俥屋のおりん(田宮りん)。設定を見ていて、大和和紀さんのコミック『ハイカラさんが通る』を思い浮かべてうれしくなって読み始めた。ヒロインのおりんが、颯爽としながらも可憐さがあっていい感じだ。しかもフェリスと俥屋のミスマッチがおもしろい。少女マンガ風の王子様役として、ハーフの北岡留伊(るい)が登場するのもお約束か。 作品に描かれている時代は、明治三十二年〜三年。外国人居留地の治外法権が撤廃された直後である。居留地警察は、山手警察と名称も改まり、自治権は日本の手に戻っている。このことにより、事件の解決がすっきりといくようになった。また、当時、横浜にいた著名人も作品に登場し、興趣を添える。 物語●「らしゃめん」俥屋のおりんは、伊勢佐木町の芝居小屋近くで、明かに“らしゃめん”(西洋人相手に、身を売る女)に見える若い女を乗せた…。「薔薇の悲鳴」ゲーテー座の『ロメオとジュリエット』の上演中に、ジュリエット役で、フェリス英和女学校の音楽教師・ミス・リードが拳銃で撃たれた…。「狂女」俥屋『宮源』の車夫頭の善吉が、電気鉄道を推進する市会議員宅を爆破し、一家を殺害した犯人として逮捕された…。「神の邪心」オリエンタルホテルでチーフコックを務める北岡留伊の店が、放火による火事で焼けたという…。 目次■らしゃめん|薔薇の悲鳴|狂女|神の邪心|解説 平岡正明 ここから始まる本のリンク▼『間諜』(杉本章子著・中公文庫) |