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そろばん武士道 (そろばんぶしどう)
大島昌宏
カバー装画:蓬田やすひろ |
♪「天保リストラ物語」という帯のフレーズと、蓬田さんの装画に惹かれてGet! 作者の大島さんは1999年12月に逝去。福井県出身で生前は横須賀在住だった。時代小説は、『罪なくして斬らる・小栗上野介』、『海の隼―参謀・三浦按針』などの住み慣れた「横須賀もの」と、『九頭竜川』、『結城秀康』などの「越前もの」に大別できる。本書は、軽そうなタイトルだが、中身は幕末の越前大野藩を背景に、藩財政を立て直した藩士・内山七郎右衛門良休を主人公とした、本格的な歴史小説だ。歳入の八十年分の負債を抱えた藩を立て直すという、ともすれば地味になりそうな話が、激動する世相とあいまってダイナミックに展開され、爽快感をもって読むことができた。また、七郎右衛門の敵役も登場して、小説としての面白さも備えている。
物語●「この度の改革、成否を握るのはそろばんにありと考えまする」 目次■第一章 更始の令/第二章 銀主たち/第三章 浪花の七兵衛/第四章 藩校・明倫館/第五章 中村重助の死/第六章 商機きたる/第七章 大野屋開店/第八章 蝦夷地探検/第九章 大野丸進水/第十章 負債消ゆ/第十一章 危機続く/第十二章 ご一新/終章 大一揆/あとがき/参考資料/解説 高橋千劔破 ここから始まる本のリンク▼『小説上杉鷹山』(童門冬二著・学陽書房人物文庫)、『海の街道』(童門冬二著・学陽書房人物文庫) |
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義輝異聞 将軍の星 (よしてるいぶん・しょうぐんのほし)
宮本昌孝
装画:『調馬図屏風』(醍醐寺所蔵) |
♪歴史ロマン傑作『剣豪将軍義輝』の番外編4篇に加えて、室町から戦国時代を舞台にした短篇3篇を収録した短篇集。「紅楓子の恋」は、アンソロジー集『捨て子稲荷』(祥伝社文庫)にも収められている。『剣豪将軍義輝』のファンへの贈り物のような作品で、義輝とそのファミリーの活躍がまた楽しめるのが何ともいい。こういうのが楽しめるのも、名作ならではの余禄か。「義輝異聞 丹波の黒豆」では、新キャラクターも登場する。 物語●「前髪公方」堀越公方・足利政知の長子・茶々丸は、元服に順当な十五歳に達していたが、家督相続のトラブルから前髪下ろすことが許されなかった…。「妄執の人」足利義視の嫡男・義材(よしき)は、美濃守護代斎藤妙椿(みょうちん)について初陣を果たしたが…。「紅楓子の恋」駿河国富士郡山本村で、色黒で左眼が潰れ、手指が極端に短く、頭ばかり大きく、からだは骨ばって小さく、背中にこぶを背負い、あばたがひどい、醜い男の子が生まれた…。「義輝異聞 丹波の黒豆」十八歳の将軍・義藤(義輝)は、戦に敗れ、丹波方面へ落ち、禁裏御料所の小野山荘の荘官の館に落ち着いた。その夜、伽の女がやってきた…。「義輝異聞 将軍の星」武芸修行中の霞新十郎ら一行は、何者かに拉致されそうになった古河公方の梅千代丸とその母・芳春院を助けた…。「義輝異聞 遺恩」将軍足利義輝が松永弾正と三好三人衆に弑逆されてより、2ヵ月余り、有明の月に照らされ、山路を急ぐ落ち武者のような一団があった…。「義輝異聞 三好検校」松永弾正の家臣・池田小三郎は、炎の荒れ狂う屋敷内で虎視眈々とチャンスをうかがっていた…。 目次■前髪公方|妄執の人|紅楓子の恋|義輝異聞 丹波の黒豆|義輝異聞 将軍の星|義輝異聞 遺恩|義輝異聞 三好検校 ここから始まる本のリンク▼『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝著・徳間文庫) |
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双眼 (そうがん)
多田容子
装幀:芦澤泰偉 |
♪最近、女性作家の活躍ぶりに瞠目している。その中で、とくに気になっているのが諸田玲子さんと多田容子さんである。なかなかきっかけが掴めずにお二人の著作を読む機会を逸してきたからだ。この作品は、作者名とタイトルのせいかなかなか時代小説・歴史小説コーナーにちゃんと置かれていることが少ない。実は半年あまりも探してやっと見つけたのである。剣豪小説のメインストリームである、柳生十兵衛にチャレンジした心意気に拍手したい。しかも、十兵衛のトレードマークともいうべき、隻眼に着目し、その謎を解き明かしてくれたのはうれしい。 プロフィール(カバーの見返しの写真は凛としていてかっこいい)によると、多田さんは、京都大学経済学部在学中に時代小説大賞に応募し、結構いい線まで行っていたらしい。本作がデビュー作だが、柳生新陰流初伝、居合道三段で、手裏剣も打つという。戸部新十郎さんや津本陽さん、鳥羽亮さん、佐江衆一さんなど、実際に武芸の嗜みのある方の、チャンバラシーンは魅力的なので、多田さんの今後の作品も期待したい。
物語●柳生十兵衛三厳(みつよし)は、浪人永守大膳の名で東海道を上っていた。薩摩藩主島津家久は、十兵衛に城下を探られることを恐れて、示現流の開祖・東郷藤兵衛重位(しげたか)門下の百人組と呼ばれる刺客を放った。しかし、そのうちの三十九人がことごとく十兵衛に倒された…。十兵衛に下された将軍家の内意は、「極西の国へ赴きて、公儀を欺き貿易の利をむさぼる曲者を見極むるべし―」 目次■序之段/第一章 兵法者/第二章 二つ目遣い/第三章 夜襲/第四章 鬼捕り/第五章 敵/第六章 密命/第七章 父子/第八章 柳生谷 ここから始まる本のリンク▼『柳生武芸帳』(五味康祐著・新潮文庫)、『邪しき者』(羽山信樹著・小学館文庫) |
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悪の狩人 非道人別帳 [一] (あくのかりゅうど・ひどうにんべつちょう1)
森村誠一
装幀:鴇田幹 |
♪江戸市中で起こった凶悪犯罪に、南町奉行所のはみ出し者・臨時廻り同心祖式弦一郎が挑むシリーズ。町奉行所に保管されている非道人別帳(奉行所が取り扱った江戸の犯罪の中でとくに凶悪であり、その所業人道を踏み外す不届き至極な者どもの犯罪事実を記録した帳簿)に基づいて書かれている。南町奉行所の臨時廻り同心・祖式弦一郎は、事件のないときは、いま起き出してきたばかりのような冴えない顔色をしていたが、江戸の闇の底に潜む悪に向ける嗅覚は抜群。一件落着した事件を独特の嗅覚で掘り下げて、意外な真相を引っ張り出したり、組織のラインから外れたところで、勝手な動きをして大悪をひっ捕まえてくるところから、上役や同役から煙たがられた。悪は彼にとって好きな獲物であった。 タイトルからして、ピカレスクな捕物帳をイメージしたが、意外にバイオレンス度は低く読みやすい。弦一郎も好感が持てるキャラクターになっている。扱っている事件は、林美一さんの「岡っ引権九郎一家のながい一日」にヒントを得た、「女神の焚殺」を除いて、オリジナリティーのあるものばかりで面白い。 物語●「悪の狩人」上様の一声で、鋸挽きの刑が復活した。最初の適用者は、養父殺しの見目美しい娘であった…。「供養千両」江戸の街にかどわかしが流行った。そんな中で、公儀御用の諸国茶問屋の店子の下駄の歯入れ屋の子供がかどわかされ、家主の茶問屋の主人宛に身代金の要求があった…。「猫のご落胤」江戸に一匹しかいない南蛮猫の面倒をみていた商家の隠居のところへ、どこからか三毛猫がすり寄ってきた…。「怨み茸」江戸に辻斬りが流行った。その悉くが一刀のもとに斬り捨てられていた。鮮やかな斬り口であり、死体は悉く耳を削ぎ取られていた…。「女神の焚殺」全江戸のアイドルとなった、三十六軒茶屋の看板娘が、水死体で見つかった…。「誘死香」若い娘がかどわかされて玩ばされた後に、金をつけて送り返されるという事件が多発していた…。 目次■悪の狩人|供養千両|猫のご落胤|怨み茸|女神の焚殺|誘死香 ここから始まる本のリンク▼『十手人』(押川國秋著・講談社)、『銀の雨 堪忍旦那 為後勘八郎』(宇江佐真理著・幻冬舎) |
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鬼の冠 (おにのかんむり)
津本陽
カバー:伊藤方也 |
♪歴史小説や剣豪小説のイメージが強いせいか、津本陽さんの代表作と呼ばれているような作品をほとんど読んでいない。どうしても他の読み味のソフトなものに目が行ってしまう。ところが、『武道通信』十ノ巻に掲載された前田日明さんと津本さんの対談を読んだら、津本さんの本が無性に読みたくなった。武術の修業中の若い頃の武田惣角の話が、前田さんの自伝の武者修業時代のエピソードとオーバーラップして面白かった。理論的に分析できる、剣術や柔術に比べて、惣角の合気柔術は神秘的であり、有機的である分だけ、凄味を感じる。その測り知れなさが、逆に「音無しの構え」の高柳又四郎などの剣術の天才の技を理解する助けになるような気もする。 武田惣角を描いた作品としては、今野敏さんの『惣角流浪』(集英社)があるようなので、読んでみたい。 物語●明治から昭和初期にかけて活躍した大東流合気柔術宗家・武田惣角(たけだそうかく)の生涯を活写した史伝。惣角は武芸全般の達人で、小野派一刀流、直心影流の剣術、槍術、相撲などを稽古し、旧会津藩家老西郷頼母(さいごうたのも)改め保科近悳(ほしなちかのり)を宗家とする、大東流の合気柔術の印可を相伝する。その生涯の大半を国内各地を放浪し、武術の修業と合気柔術の巡教に務め、70、80歳を過ぎても技法の威力は衰えず、140cm、50kg足らずの小男ながら、若年血気あふれる猛者たちを投げ飛ばし、翻弄したという…。 目次■会津の小猿/般若の面/武者修業/小天狗、西へ/異形の男/神との出逢い/大難/神性/練胆の行/惣角、北へ/神技/合気の神髄/漂泊/監獄部屋/巡教の旅/孤独の星辰/解説 桶谷秀昭 |
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御宿かわせみ 横浜慕情 (おんやどかわせみ・よこはまぼじょう)
平岩弓枝
装丁:蓬田やすひろ |
♪シリーズ第24巻。タイトルを見て、いよいよ幕末も押し詰まってきた感じを受けた。今回初めて、〔かわせみ〕ファミリーは維新を無事に乗り越えられるのではないかという感触をもった。明治に舞台を移しても、作品もつ魅力や面白さは変らないような気がする。本巻の見どころは、何といっても〔かわせみ〕ファミリーの横浜行である。そういえば、もう一つの人気シリーズ「はやぶさ新八御用帳」の方も、新局面を迎えた。東海道五十三次編ということで、根岸肥前守の命を受けて新八郎が京へ上るという。 今月、時代小説の新刊の発刊が目立つ。財布へのプレッシャーが大きい。また、風邪を引いて会社を休んだこともあり、読書が進み、溜まっていた本が消化できている。風邪にも効用があるんだなあ。 物語●「三婆」深川は霊巌寺の富突講の話で賑わっていた…。「鬼ごっこ」長寿庵の長助は、二十二年ぶりに母娘の対面を控えた、知人の娘の宿をかわせみに依頼にきた…。「烏頭坂今昔」東吾が講武所から帰ってくると、〔かわせみ〕の前で羅宇屋の職人が仕事をしていた…。「浦島の妙薬」〔かわせみ〕を常宿としている浦島屋太郎兵衛という男がいた。横浜で異人相手の商売をしているらしいが、甘いものに目がないという…。「横浜慕情」横浜にでかけたかわせみファミリーは、イギリス人水兵が首くくりを試みるところに出くわす…。「鬼女の息子」〔かわせみ〕を他の旅籠と間違えて、そこに働く娘を探して、在所者の中年男が現れた…。「有松屋の娘」有松絞りの店の主人が、〔かわせみ〕に娘を行儀見習かたがた奉公させてほしいとやってきた…。「橋姫づくし」暮れから江戸で、奇妙な人さらいが流行っていた。被害に遭ったのは六十二、五十八、六十七の老婆ばかりであった…。 目次■三婆|鬼ごっこ|烏頭坂今昔|浦島の妙薬|横浜慕情|鬼女の息子|有松屋の娘|橋姫づくし ここから始まる本のリンク▼『はやぶさ新八御用帳』(平岩弓枝著・講談社文庫) |
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遊部 上・下 (あそべ・じょうげ)
梓澤要
装画:斎藤隆 |
♪大仏炎上、本能寺の変、正倉院の呪術集団との戦い…。『百枚の定家』の著者の伝奇長篇。あとがきによると、作者が十年前に編集者から聞いた京都の漆器屋さんの老店主の名字「遊部さん」の話がきっかけになったという。「うちの祖先はむかし、奈良の東大寺で正倉院の警護をつかさどる一族だった。そのかたわら諸国を遊行し、正倉院を冒すと仏罰がくだると吹聴して歩いては、民衆の心に畏怖の念を植えつけた。あいつぐ戦乱で人心が荒廃していた時代、そうやって正倉院を略奪や盗難から護った」という話だ。今まで、日本ではなぜ盗掘がそれほど頻繁になかったのか、不思議だったが、少し納得できた。
正倉院の宝物を護る、遊部一族の存在が、ユニークで圧倒的な面白さを生み出している。織田信長、堺の豪商で信長のお茶頭(さどう)・津田宗及(つだそうぎゅう)、京都所司代村井長門守貞勝、稀代の奇人・行空(元の関白九条稙通)、秀吉らが物語に絡む。 遊部のプロパガンダ活動に、出雲の阿国や、『真田太平記』でおなじみの小野のお通を思わせる女性が登場するのも面白い。伝奇小説の魅力が堪能できる作品である。
物語●永禄十年、松永弾正久秀は、南都の聖地・東大寺を挟んで三好勢と戦った。戦闘は何回か繰り返された。突如大仏殿からすさまじい火焔が噴きあがり、火炎の坩堝の中で、大仏は焼け爛れ、溶け崩れた。東大寺の宝蔵の正倉院を管理している院主の実祐(じつゆう)は暗澹と見つめた。 目次■序章 大仏炎上/第一章 蘭奢待/第二章 天王寺屋宗及/第三章 闇の狭間/第四章 恋/第五章 松籟(以上上巻)|第六章 春日野/第七章 本能寺/第八章 遊行/第九章 鎮魂/第十章 破邪王/第十一章 強奪/第十二章 北野決戦/あとがき(以上下巻) ここから始まる本のリンク▼『天正十年 夏ノ記』(岳宏一郎著・新潮文庫)、『神々に告ぐ』(安部龍太郎著・角川書店) |
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わかれ ―半兵衛と秀吉― (わかれ・はんべえとひでよし)
谷口純
Jacket Design:LittleFoot |
♪鹿嶋市在住の新人女性作家の谷口さんから献本をしていただいた。著者は、ロンドンに留学し、演劇の勉強をし、戯曲を数作書いた後、翻訳業に転身。本書収録の「きずな―信長と秀吉―」(短篇)は、全国公募の同人雑誌「コスモス文学」の新人賞受賞作。「わかれ―半兵衛と秀吉―」(中篇)は、「きずな」の続編にあたる。実は、最近ずっと、「秀吉嫌い」に悩まされていた。どうも晩年の暗い影、醜い姿を見すぎたせいかもしれない。秀吉ほど、権力を握る前と握った後で、激変した人物も珍しい。太陽の子らしい前半生の出世譚は多くの人に勇気と希望を与えてくれる。逆に、天下人となってからのリーダーとしてのビジョンと責任感の欠如、晩年に見せる幼児性、暗愚さなど、読んでいて胸を痛めてしまう。そんなわけで秀吉が嫌いだった。今回縁があって久々に秀吉を主人公とした作品を読んだ。 この作品は、天正五年から六年にかけての秀吉を描いている。順風満帆な上り調子の秀吉ばかりでなく、出る杭は打たれるが如く、同僚の嫉妬や意地悪に悩み苦しむ人間・秀吉が描かれている。その異才を認める信長の視線の温かさや、部下を信じ己の命さえも賭ける秀吉の矜持など、読むものを感動させ爽快感を与えてくれる。 信長と秀吉、半兵衛と秀吉、二組の主従関係を通して、新しい秀吉像を見せてくれる。作者からのメールによると、次作は「散りゆく桔梗 −光秀と秀吉−」(長編)を予定しているということ。どんな風に、秀吉と光秀の関係が描かれるのか興味津々である。 「わかれ」を読んでいたときに、ちょうどひどい風邪で、咳が断続的に出る状態で、竹中半兵衛のような感じだった。咳のし過ぎで、横隔膜が痛くなり苦しかったが、その分、感情移入もよくでき、「秀吉嫌い」も少し和らいだ。 物語●「きずな」北陸戦線の総大将・柴田勝家の援軍として派遣された羽柴秀吉は、軍議で衝突した末に、領地長浜に帰ってしまった…。「わかれ」竹中半兵衛は自分の理想像を秀吉のなかにみていた。自分の静に対して、秀吉の明るく健康的な動にあこがれていた。めまぐるしく変化する秀吉の豊かな表情を見るのが楽しかった。半兵衛は秀吉を操りたいというひそかな思いに胸を熱くした。そのころ、秀吉は窮地に立たされていた。一度は織田方に帰服した三木城の別所長治が叛意を示して毛利方についてしまったのである…。 目次■きずな―信長と秀吉―|わかれ―半兵衛と秀吉―(軍師ふたり/君臣の情/波乱/松寿丸/葛藤/山里/再会/わかれ) ここから始まる本のリンク▼『馳けろ雑兵』(多岐川恭著・光文社文庫) |
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とんち探偵一休さん 金閣寺に密室 (とんちたんていいっきゅうさん・きんかくじにひそかむろ)
鯨統一郎
カバー&本文イラスト:尾崎英明 |
♪「あわてない,あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ」の決まり文句が懐かしいアニメの一休さん。あの一休さんの世界が歴史ミステリとして登場。「このはしわたるべからず」や屏風の虎退治の話もでてきてニヤリとさせられる。帝位奪取を狙う義満と、後小松帝のご落胤説のある一休の対比が興味深い。時代を室町前期に借りた、本格ミステリといったところで、歴史小説としてよりは、推理小説として味わった方が楽しめる。 物語●京で名の知れた分限者(金持ち)で人買いの山椒太夫が虎に食い殺される事件が起こった。賢才の誉れ高い建仁寺の小坊主一休に、奇妙な依頼が舞いこんだ。将軍職を退いた後も権勢を誇っていた義満が、数日前に、金閣寺の最上層の究竟頂(くぎょうちょう)で、首吊りしたいで発見されたという。現場は完全な密室。しかも、義満には自殺の動機はなし。一休は世阿弥や、検使官の蜷川新右衛門(Wow!)らの協力を得て推理を開始…。 目次■なし |
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戦国城砦群 (せんごくじょうさいぐん)
井上靖
カバー:粟屋充 |
♪ゲストブックでおすすめの一冊を見つけたのでGet! 久々の井上靖作品に挑戦。以前に『真田軍記』を読んでいたが、井上靖さんと聞くと、晩年の重厚な文学者のイメージが強くてどうも構えてしまう。武田家滅亡から秀吉が天下を手にするまでの、戦国最激変時代を舞台に、五人の男女(酒部隼人、千里、大手荒之介、藤堂兵太、弥々)の恋模様を中心に物語は展開する。戦国時代に舞台を借りた、ちょっと古風な青春小説という感じで、純文学の雰囲気をもった作品でもあり、意外ととっつきやすい。 解説の福田宏年さんが、時代小説と歴史小説の違いを言及されていたのが興味深い。解説が書かれた当時(1980年ごろ)、歴史小説=純文学、時代小説=大衆文学という考え方が読書界の諒解事項になっていたそうだ。歴史小説と時代小説に関するこういう考え方は、わが国の文壇特有の考え方で、森鴎外の有名な「歴史其儘」と「歴史離れ」という対立した考え方に拠っているらしい。なるほど。 物語●武田家滅亡に際して、千里を落城する新府城から救出した酒部隼人。千里は命の恩人・隼人に心なじまぬものを感じ、逆にたまたま知り合った織田家の武士・大手荒之介に心惹かれてしまう。また、武田家滅亡とともに、盗賊同然の一団に加わる藤堂兵太は、野性的な頭領の娘・弥々に心奪われる…。 目次■落武者/広野/早春/陽と波と/甲斐信濃/雷雨/火/出陣/再会/朝焼け/敗戦/居合抜き/夏の陽/解説 福田宏年 ここから始まる本のリンク▼『馳けろ雑兵』(多岐川恭著・光文社文庫) |
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沖田総司・暗殺剣 (おきたそうし・あんさつけん)
加野厚志
カバーイラスト:毛利彰 |
♪沖田総司を主人公とした異色の新選組もの。謎の女性・烏丸龍子を登場させることにより、伝奇色の強い作品に仕上がっている。東男で子供っぽさが魅力の沖田総司が、年上の京女・龍子に翻弄される様子が面白い。東大寺・正倉院の秘香・蘭奢待(らんじゃたい)が物語の鍵を握る。ぼくは、蘭奢待と聞く(香は「嗅ぐ」ではなく「聞く」というが)だけで、コーフンしてドキドキしてしまう。 物語●幕府浪士隊として入京した沖田総司は、三条大橋で長身の巫女・烏丸龍子と出会った。龍子は、「沖田はん、えろう待たせて堪忍どっせ」と声をかけ、沖田とここで出会うことは前世からの決まりごとといった。そして、その場で清河八郎の暗殺を予言した…。 目次■序章 池田屋の決闘/魔都に棲む鬼/血飛沫は洛北にふる/五条坂隠亡の群れ/高瀬舟濁流に消ゆ/花の浪華百人斬り/蘭奢待は末期の香り/あとがき ここから始まる本のリンク▼『燃えよ剣』(司馬遼太郎著・新潮文庫) |
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いのちの螢 高瀬川女船歌 (いのちのほたる・たかせがわおんなふなうた)
澤田ふじ子
装画:蓬田やすひろ |
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「高瀬川女船歌」シリーズ第2弾。第1集の舞台が旅籠であったのに対して、今回は、前回の脇役だった奈倉宗因の構える居酒屋が舞台。宗因の料理の腕が冴えていて、彼のつくる酒の肴がどれもおいしそうだ。シリーズの新しい魅力になっている。もちろん、浮世のもめごとも見事にさばいている。連作形式で、物語は進むが、余韻を残した結末がいい。新キャラクターのお蕗は、今後も活躍させてほしい。 物語●濡れ衣の汚名をそそぎ、晴れて父親として娘と再会した奈倉宗十郎(宗因)。宗因は、木屋町筋から先斗町通りにぬける小路の角に、「尾張屋」という居酒屋を開いた…。「夜の黒髪」尾張屋に、桃割れの髪をふり乱した若い女が、その髪の端を口に銜えてにやっと笑い、いきなり入ってきた…。「短夜の蓮」お時が世話役として乗った蓮見船の客の禁裏の女官たちが、高瀬川を泳ぐ青大将を見て騒ぎ出した…。「秋陰の客」尾張屋の近くの路地に、草鞋をはいた旅姿の若い武士が倒れていた…。「背中の影」宗因の知り合いの長屋の空き室に怪しい男が入りこんで大騒ぎになった…。「討たれの桜」錦小路で宗因は、やつれの目立つ知り合いの土佐藩士の妻女をみかけた…。「いのちの螢」宗因は、飲んだくれで怠け者の義理の父親をもった、少年・芳松のことが気になっていた…。「流れの蕪村」宗因は、高瀬川を流れてくる与謝蕪村の俳句が書かれた紙切れの謎を調べることになる…。「夜寒の船」角倉会所の女船頭お時が、何者かに後をつけまわされた…。 目次■夜の黒髪|短夜の蓮|秋陰の客|背中の影|討たれの桜|いのちの螢|流れの蕪村|夜寒の船|あとがき ここから始まる本のリンク▼『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著・講談社文庫) |
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おごそかな渇き (おごそかなかわき)
山本周五郎
写真提供:アスミック・エース エンタテインメント |
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黒澤明監督の遺作シナリオを映画化した『雨あがる』が公開される。それにともなって、文庫本のカバーが変った。表紙のどこにも収録作品集のタイトルである『おごそかな渇き』が書かれていないのが大胆。戦時中に書かれた「蕭々十三年」から、絶筆となった「おごそかな渇き」まで、短編(「おごそかな渇き」は未完のためにちょっと長めの短編ぐらいのボリューム)10作品を収録。執筆年代にバラツキがあり、作者の考えの変化が汲み取れる。 話としては、「あだこ」と「かあちゃん」が山本さんらしさが感じられて好きだ。黒澤さんは、小編である「雨あがる」の映画化を思いつかれたものだ。「おごそかな渇き」は現代物。宗教や人生などがテーマのやや哲学的な物語で、未完のために、話の落ちつき先がわからず残念。 物語●「蕭々十三年」火事の迫った江戸城へ駆けつける岡崎城主、水野監物忠善の馬の口取りをめぐって二人の藩士が争った…。「紅梅月毛」慶長十年、本多忠勝の家中で馬術が堪能といわれる者ばかり十六人が城へ呼ばれた…。「野分」又三郎は、屋敷に帰って寝所に入ってから、米沢町の料理屋の仲居・お紋のことを思いだしくすくす笑い出した…。「雨あがる」三沢伊兵衛は、妻のおたよと街道筋の安宿に泊まっていた。外はもう十五日も雨が降り続いていて、上がるけしきがなかった…。「かあちゃん」飯屋で客たちが、お勝親子の銭勘定の話をしていた…。「将監さまの細みち」おひろは病気の夫を抱え、岡場所へ通いで勤めていた…。「鶴は帰りぬ」旅籠の相田屋に定連の飛脚の実(じつ)がやってきた…。「あだこ」曾我十兵衛は、恋人を失ってから自暴自棄になり、無気力な生活をしている親友・小林半三郎に腹をたて殴った…。「もののけ」因幡ノくに法美ノ郡の郡司・粟田ノ安形のもとに、つかみ峠のもののけを退治するために京から検非違使の一団がやってきた…。「おごそかな渇き」岐阜県との県境に近い福井の山奥の村の村長の屋敷で男子出生の祝宴が催されていた…。 目次■蕭々十三年|紅梅月毛|野分|雨あがる|かあちゃん|将監さまの細みち|鶴は帰りぬ|あだこ|もののけ|おごそかな渇き|解説 木村久邇典 ここから始まる本のリンク▼『霧の橋』(乙川優三郎著・講談社文庫) |
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十手人 (じつてにん)
押川國秋
装画:小村雪岱(邦枝完二『おせん』新小説刊より) |
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最後の時代小説大賞(第10回)受賞作品。プロフィールによると、作者は昭和10年生まれのフリーのシナリオライターで、「遠山の金さん」「半七捕物帳」「人形佐七捕物帳」「必殺シリーズ」など、数多くの脚本を執筆したそうだ。随所に新人らしからぬ技を見せてくれる。
物語●「流刑の女」堀川から上げられたずぶ濡れの女が手足を縛られたままで発見された。小間物問屋に奉公していた娘・菊が、五両を盗んだ疑いをかけられ、思い余って高橋から身を投げたのだ…。「無情の名残」一糸まとわぬ若い女の死骸が、川から引き上げられた。磔刑のように手足が五寸釘で分厚い戸板に打ち付けられていた…。「獄門台の子わかれ」源七は、大家の藤兵衛が右袖に血を付けているのを見咎めた。わりない仲の女が妾宅で殺されているのを見たという…。「一網打尽」佐渡送り(佐渡の鉱山の水替え人足の制)の二人の無宿人が中山道深谷宿で目籠ごと奪われたという…。「涅槃の雨」大捕物によって、佐々木弦一郎や源七らの株が大いにあがったが、年増の女が若い侍を殺すという事件が起こった…。 目次■第一章 流刑の女/第二章 無情の名残/第三章 獄門台の子わかれ/第四章 一網打尽/第五章 涅槃の雨 ここから始まる本のリンク▼『幻の声 髪結い伊三次捕物余話』(宇江佐真理著・文春文庫) |