新・極楽の読書録
2000年2月・如月の巻

邪しき者 上・中・下 by 羽山信樹
闇の後醍醐銭 by 久住純
鬼平犯科帳 1 by 池波正太郎
始祖鳥記 by 飯嶋和一
群雲、関ヶ原へ 上・下 by 岳宏一郎



おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

群雲、関ヶ原へ  上・下
(むらくも、せきがはらへ・じょうげ)

岳宏一郎
(たけこういちろう)
[戦国]
★★★★☆☆

カバー装画:中川惠司
解説:縄田一男
時代:慶長三年(1598年)
場所:伏見、大坂、佐和山、博多、大垣、関ヶ原ほか
(新潮文庫・各743円・98/01/01第1刷・上674P、下666P)
購入日:97/12/27
読破日:00/02/28

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群雲、関ヶ原へ へそ曲がりなので、NHK大河ドラマには迎合しないという、スタンスでいたが、「葵 徳川三代」の初回の放送を見て、どうしてもこの本が読みたくなった。刊行当時から評判の高かった作品で、ずっと読む機会をうかがっていた一冊。
読み始めてすぐに惹き込まれた。関ヶ原の決戦の場に赴く武将たち(=群雲)の人物描写、行動描写が見事で、「さもありなん」と思わせる筆力はさすが。タイトルが付けられたそれぞれの章が連作ものの短編のような面白さがあり、時折ニヤリとさせるユーモアが散りばめられていてほっとする。家康や三成、景勝などの特定の側や人物だけに肩入れしていないために、読み味がいい。

物語●十六歳になったばかりの蒲生秀行が大領・会津を召し上げられ、下野・宇都宮へ移封を申し渡されたところから物語は始まる。太閤・秀吉の鉄槌により、92万石から18万石という厳しい削封が下された。会津は、奥・羽二州を抑える枢要の地であると大義名分ばかりでなく、一朝有事の際、関東の徳川家康を背後から刺し貫くという使命が与えられていた。
そして、新たに秀吉から、会津の地を与えられたのは、上杉景勝であった。家康にとって、景勝は重大な脅威であり、永遠の不可解であり、小さな魅惑であり、そういうもろもろの総和であった…。

目次■足音/悪縁/佐竹冠者/かぶき者/春雁/饗宴/邂逅/秀吉と家康/落陽/政局動く/夢のあと/倭人伝のくに/鬼上官/冬の伏見/客/ふたたび、客/綱をひく/遷都/黒髪/賭け/白いカラス/結婚/轍鮒の急/信長の恋/奔流/幸福な死/逃げる/飛翔/乗っ取る/帰国/陥穽/太陽/辣腕/蹉跌/財吏の嘆き/風雲/嗅覚/脱走/雲のように/人間模様/仮面/北へ/運の矢/安国寺/幸せな一日/毛利来たる/前夜祭(以上上巻)|不貞/悪戯/夢を食う/嘘/心変わり/旅人たち/帰郷/人なき森の如く/福島太夫殿御事/真田/運/反転/夏の湖/彦兵衛の城/嫡孫/九鬼/花/伊勢/美濃の二人/劫/竹ヶ鼻/焦燥/東部戦線/西へ/斑猫/南船北馬/秘密/誤算/二つの流れ/曲がり角/おごそかな誓い/決断/関ヶ原/緒戦/博物誌/恩寵/足を舐める/待ち合わせ/背中/転落/明暗/ふたたび、足音/参考文献一覧/解説 縄田一男(以上下巻)

ここから始まる本のリンク▼『関ヶ原連判状』(安部龍太郎著・新潮文庫)、『影武者徳川家康』(隆慶一郎著・新潮文庫)

始祖鳥記
(しそちょうき)

飯嶋和一
(いいじまかずいち)
[人物]
★★★★☆☆

装丁:ミルキィ・イソベ
時代:宝暦十一年(1761年)
場所:備前岡山、備前児島、下総行徳、大坂安治川河口、遠州灘、浦賀、駿河府中ほか
(小学館・1,700円・00/02/20第1刷・397P)
購入日:00/02/03
読破日:00/02/25

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始祖鳥記 寡作ながら、良質を作品を送り出している飯嶋さんの新作。おなじみのミルキィ・イソベさんのファンタスティックなカバーは、まるでレオナルド・ダ・ヴィンチといったところか。お話も江戸時代の“鳥になろうとした”畸人・備前屋幸吉の物語である。
幸吉のほかにも、今までの作品の主人公と相通じる、既成の権威に屈しない気骨のある人物たちが登場する。一人は、下総・行徳の地回り塩問屋巴屋伊兵衛であり、もう一人は幸吉の幼馴染でもある船主船頭の福部屋源太郎だ。この二人を中心に、もう一つの戦いも感動的だ。
京極夏彦さんの百鬼夜行の画でおなじみの鳥山石燕が、チョイ役で出てくるのも興味深かった。

物語●天明五年(1785)六月、備前岡山で、総勢60名にも及ぶ捕り方による、大捕り物があった。その頃、諸国の大飢饉や度重なる天変地異に、民の不安や不満として、失政が続く藩をあざ笑うかのように、「イツマデ、イツマデ」と鳴く鵺騒ぎが起こっていた。本当に羽を着け、空を飛ぶことを考えていた城下屈指の表具師・幸吉は、その鵺騒ぎの張本人と目され、役人に捕らえられ牢に入れられることになった…。

目次■なし

ここから始まる本のリンク▼『千石船風涛録』(二宮隆雄著・実業之日本社)、『深川恋物語』(宇江佐真理著・集英社)

鬼平犯科帳 1
(おにへいはんかちょう1)

池波正太郎
(いけなみしょうたろう)
[捕物]
★★★★☆☆☆ [再読]

カバー:玉井ヒロテル
解説:植草甚一
時代:「唖の十蔵」天明七年春、「本所・桜屋敷」天明八年一月、「浅草・御厩河岸」寛政元年、「老盗の夢」寛政二年、「座頭と猿」寛政三年、「むかしの女」寛政三年
場所:「唖の十蔵」新鳥越町、亀戸。「本所・桜屋敷」南割下水、出村町。「血頭の丹兵衛」清水門外、東海道・島田宿。「浅草・御厩河岸」三好町、下目黒村。「老盗の夢」京・五条橋東詰、四谷伝馬町一丁目。「暗剣白梅香」汐留橋、深川石島町。「座頭と猿」四谷麹屋横丁、麻布飯倉三丁目。「むかしの女」船松町、本所四ツ目ほか
(文春文庫・457円・74/12/25第1刷、99/11/25第55刷・301P)
購入日:00/02/06
読破日:00/02/12

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鬼平犯科帳1 「ミレニアム時代小説100」用に再読しようとGet! 10年ぶりぐらいで読み直した。初読のときには気づかなかったいろいろな発見があって、満喫し、またはまりそうになった。盗賊紳士録や、鬼平食べ物マップ、鬼平江戸切絵図など、いろいろ遊べそうだ。
それぞれの話が巧みに連携しあって、リング状態(もしくは京極もの的)で、本当にすごい。後期のチームワークの妙とは別の味が楽しめた。「ミレニアム時代小説100」の項でも取り上げているので、そちらもご覧ください。

物語●「唖の十蔵」火付盗賊改方の同心・小野十蔵は、市中探索中に小間物屋の女房おふじと出会った…。「本所・桜屋敷」密偵岩五郎は、野槌の弥平一味の〔小川や梅吉〕を本所で見かけたという…。「血頭の丹兵衛」血頭の丹兵衛を名乗る凶悪な盗賊が江戸を荒らしまわったが、密偵粂八は不審に思った…。「浅草・御厩河岸」密偵岩五郎が営む居酒屋に乞食坊主がよろめくようにやってきて水を求めた…。「老盗の夢」老盗・簑火の喜之助は、亡くなった情婦の墓参りでその女と出会った…。「暗剣白梅香」長谷川平蔵は、夜道で着流しに黒覆面で妖しい芳香を漂わせた男に斬りかかられた…。「座頭と猿」座頭彦の市は、妾の間男に嫉妬していた…。「むかしの女」長谷川平蔵は、昔世話になった女・おろくに二十余年ぶりに出会った…。

目次■唖の十蔵|本所・桜屋敷|血頭の丹兵衛|浅草・御厩河岸|老盗の夢|暗剣白梅香|座頭と猿|むかしの女|解説 植草甚一

ここから始まる本のリンク▼『雲霧仁左衛門』(池波正太郎著・新潮文庫)

闇の後醍醐銭
(やみのごだいごせん)

久住純
(ひさずみじゅん)
[南北朝]
★★★☆☆

装幀:森本貴美子
時代:元弘元年(1331)
場所:比叡山、紀伊中坂、吉野、金剛山、京・東市の司、明日香村ほか
(叢文社・1,800円・98/03/30第1刷・337P)
購入日:99/05/22
読破日:00/02/11

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闇の後醍醐銭 奇しくも『邪しき者』と併行して読んでいたのがこの作品。南北朝をテーマにした物語は、あまりないだけに、どうしても惹かれてしまう。この本は、後醍醐銭という聞きなれない言葉と、叢文社というあまり大きくないながらも、ときどき、「おっ」というような作品を刊行するので注目していた出版社から出されているということで、Get!してみた。
建武の親政当時の乾坤通宝という鋳銭づくりと普及のことが詳細に描かれていて興味深い。銭(経済的な側面)から、南北朝の動乱を見るという視点も面白かった。

物語●吉野衆の頭領の遺児・桂丸は、比叡山で八瀬童子たちと一緒に育てられたが、六波羅軍に追われて放浪の旅に出た。そして、吉野に辿りつき、そこで山の民・岩屋衆や鋳物師の集落・金屋衆と行動をともにすることになった…。

目次■山門の夕焼け/包囲された叡山/都落ち/郷民たちの一揆/山中の漂泊/吉野の山の民/神より賜りし枝/金屋の衆/神技の金細工/山間の行軍/熊野衆徒の蜂起/峡谷の屍/山里の夏/初冬の動乱/河内の悪党/吉野城の攻防/千早城の合戦/後醍醐帝還幸/鋳銭司/銭造り評定/元の国の紙幣/無謀な鋳銭計画/危険な護良親王/桂丸の暇乞い/帝の陰謀/銭の戦/ふたたびの動乱/落魄の冬/明日香の杜の殺戮/建武の落日/吉野の都/銭の徴発隊/名も知れず/帝の京都包囲作戦/後醍醐帝の遺言/黄金の銭造り/銭と鞭/海原に消えた乾坤通宝

ここから始まる本のリンク▼『武王の門』(北方謙三著・新潮文庫)、『太平記』(吉川英治著・講談社文庫)

邪しき者  上 柳生秘剣・中 血涙剣・下 生々流転剣
(あしきもの・じょう・やぎゅうひけん、ちゅう・けつるいけん、げ・せいせいるてんけん)

羽山信樹
(はやまのぶき)
[剣豪]
★★★★☆☆

カバー装画:智内兄助
カバーデザイン:内田博
解説:縄田一男
時代:寛永十年(1633年)
場所:江戸城、尾張大国霊神社ほか
(小学館文庫・上638、中600、下600円・99/08/01第1刷・上347P、中289P、下302P)
購入日:99/07/10
読破日:00/02/10

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邪しき者 1997年に52歳の若さで肝臓ガンのために、亡くなった羽山信樹さんの代表作の一つを読んだ。羽山さんというと、昔、角川書店の「小説王」という文庫サイズの月刊誌に連載していた『流され者』(実は当時は、時代小説に全然関心がなかったせいで、この雑誌に創刊以来掲載されていたこの作品をちゃんと読んでいないのだ)の作者という印象が強い。縄田一男さんの解説によると、『邪しき者』は、「〜者」四部作の第2弾(もっともあとの2つは未完)とのこと。
読み始めてすぐにうならされた。柳生一族や宮本武蔵が登場し、剣豪小説かと思っていたら、隆慶一郎さんの『花と火の帝』や五味康祐さんの『柳生武芸帳』に匹敵する伝奇小説でもあった。そのスケールの大きさや、主人公のかっこよさ、敵役の凄み、剣戟シーンの迫力、どれをとっても一級のもので賞賛に値する作品。

物語●名古屋城三之丸にある、尾張家兵法指南役・柳生兵庫助の屋敷に、一人の美男の浪人が現れた。後醍醐天皇の血をひく南朝の皇胤・新珠尊之助である。その当時、尾張藩は家康の第九子・義直が治めていたが、時の将軍家光は、この実力者の叔父に不満を抱いていた…。

目次■序 陰と影/第一章 但馬守/第二章 春の嵐/第三章 義直/第四章 紅葉/第五章 皇胤/第六章 虎穴(以上上巻)|第一章 日本甲螺|第二章 鬼揃|第三章 紅葉狩|第四章 家光上洛|第五章 紅蓮|第六章 志世道にあり(以上中巻)|第一章 再会|第二章 秩父報国|第三章 土蜘蛛|第四章 北闕の天|第五章 訣別|解説 縄田一男(以上下巻)

ここから始まる本のリンク▼『花と火の帝』(隆慶一郎著・講談社文庫)、『柳生武芸帳』(五味康祐著・新潮文庫)