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投げ節お小夜捕物控 意休ごろし (なげぶしおさよとりものひかえ・いきゅうごろし)
高橋義夫
カバー画:西のぼる |
♪鬼平こと長谷川平蔵急死後の江戸市井の事件を、若い与力を中心に新しい5人のチームが活躍する捕物帳。鬼平こと長谷川平蔵が急死した後、火付盗賊改の長官に任ぜられたのが森山源五郎。源五郎は、かねてから平蔵の派手な捕物を「目立ちたがりの品のない行為だと嫌って」いた。源五郎の考え方は、まず法律がすべてであって犯人逮捕より法律遵守を第一とし、法律で禁じられている付人(密偵)を使うことも許可しない、冤罪の被害者をつくるよりは犯人を逮捕できない方がいいといって、「マゴコロの勧め」を主張する。そのため、「氷川大明神」と町方役人から揶揄されていた。しかも、前任の平蔵に仕えていた与力・同心はことごとく御役御免にして、新たに与力十人、同心四十名を集めた。先手組から新たに廻されてきた若き与力・妹川数馬(せがわかずま)は、さまざまな困難に遭いながらも一人前の役人に成長してゆく…。 タイトルにある「投げ節」とは、芸者のお小夜が得意とする、江戸初期の流行歌。三四・四三・三四・五の詞形の三味線音楽で遊里で流行した。最初、お小夜の必殺技かと思っていた。 物語●「腐れ縁」麻布古川町でボヤ騒ぎがあった夜、近所の小料理屋で主人夫婦が殺された…。「意休ごろし」『助六所縁江戸桜』の登場人物によく似ているということで髯の意久と仇名される女衒が、紅いしごきで縊り殺された…。「どでごんす」南本所から深川にかけた界隈で、夜鷹ばかり立て続けに三人、辻斬りにあった…。「謎坊主」森田座の『五大力恋緘』を上演中に乞食になった役者が妙な所作をした…。「初穂勧進」初午の日、紙屋の九年前に死んだはずの一人息子が店に戻ってきた…。「三筋の鳴子」お小夜に人殺しの嫌疑がかけられた…。 目次■腐れ縁|意休ごろし|どでごんす|謎坊主|初穂勧進|三筋の鳴子|解説 渡辺保 ここから始まる本のリンク▼『鬼平犯科帳』(池波正太郎著・文春文庫)、『だましゑ歌麿』(高橋克彦著・文藝春秋) |
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「時代」を旅する (「じだい」をたびする)
杉本苑子×永井路子
カバー:株式会社クレオ刊「日本の文様 伝統の色と型」より |
♪何となく、杉本さんの方が年上なのかと思っていたら、同年生まれで学年で永井さんが1級上とか。戦時中に学生生活を迎えられたというお二人だが、1級違いでかなり違った経験をされたようだ。対談の言葉の端々から、二作家の歴史小説を書き始められた原点を知ることができる。女性の立場から歴史を見ると、さらに時代小説が楽しめることがわかった。 この本、実は「紫式部は何を食べていたか」の章の時代ごとの食べ物の絵が気に入ってGet!した。意外と奈良時代や平安時代のほうが、鎌倉や戦国時代よりもいいものを食べていたんだなあ。 ともかく、そろそろ、お二人の作品をじっくり読んでいきたいと思う。 内容●戦国時代の政略結婚を女性の立場からみると、人質ではなく、セックスを伴った女性外交官として、実家を代表して他国に赴任する、というおもむきがある。(永井談)/それにおもしろいのは、結局、徳川が天下を取ったというけれど、女の胎内を通して織田も浅井も取ってるのよ。(杉本談) 目次■T 戦国時代の女たち/徳川の女たち/戦国武将の女たち――白石一郎/織田信長の虚像と実像――長部日出雄|U 紫式部は何を食べていたか――永山久夫/王朝のおきさき物語|V 敗戦とそれぞれの青春――津村節子 |
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闇の旋風 問題小説傑作選5 捕物帖篇 (やみのかぜ・もんだいしょうせつけっさくせん5・とりものちょうへん)
徳間文庫編集部編
カバーイラスト:中環 |
♪アンソロジーは苦手だったが、本書のセレクションが気に入っていたので読み始めた。質の高い作品が並んでいて楽しく読めた。「南蛮うどん」は、「夢裡庵先生捕物帳」の第一集『びいどろの筆』(徳間文庫)収録。「望郷三番叟」は、『新門辰五郎事件帖』(徳間文庫)収録。「降って来た赤ン坊」は、「疫病神捕物帳」の第二集『降って来た赤ン坊』(徳間文庫)収録。「女狐の罠」は、「足引き寺閻魔帳」の第二集『女狐の罠』(徳間書店)に収録。「妖しい月」は、「十時半睡事件帖」の第三集『刀』(講談社文庫)。「餌差しの辰」は、『江戸妖花帖』(徳間文庫)収録。「一番は諫鼓鶏」は、「なめくじ長屋捕物さわぎ」第六集の『かげろう砂絵』(光文社文庫)に収録。「三度殺された女」は、『江戸御用帳―岡っ引源蔵捕物譚』(双葉文庫)に収録。「八丁堀の狐」は単行本未収録の作品。「初不動地獄の証文」は、『始末屋卯三郎暗闇草紙』(徳間文庫)収録。収録されている本が読みたくなった。 物語●「南蛮うどん」家を出た海苔問屋の若旦那は火を食べる芸を見せた後に体の具合がおかしくなった…。「望郷三番叟」慶喜に付き従って静岡までやってきた新門辰五郎は、静岡で芝居興行を行ったが…。「降って来た赤ン坊」疫病神と異名で呼ばれる妻恋坂の呑太は、岡っ引で江戸いちばんの嫌われ者だった…。「女狐の罠」西町奉行所同心の蓮根左仲は盗賊の処刑に立合わされた…。「妖しい月」大西平三郎は、婚礼の夜、丸い月に誘われるように失踪した…。「餌差しの辰」留吉は三味線堀で、餌差しの辰と出会った…。「一番は諫鼓鶏」神田明神の大祭の宵宮、祭ゆかたに豆絞りの手ぬぐいで頬被りし、ひょっとこの面を被った恰好で、男が死んでいた…。「三度殺された女」神田明神の宵宮、紙問屋の後家が殺された。頭を割られて、首を絞められ、胸を刺されていた…。「八丁堀の狐」加田三七は米屋の奉公人が神隠しにあった話を聞いた…。「初不動地獄の証文」初不動の縁日で賑わう薬研堀の植木市で、札差の番頭が五十両を掏られた…。 目次■南蛮うどん――泡坂妻夫|望郷三番叟――海渡英祐|降って来た赤ン坊――笹沢左保|女狐の罠――澤田ふじ子|妖しい月――白石一郎|餌差しの辰――多岐川恭|一番は諫鼓鶏――都筑道夫|三度殺された女――南條範夫|八丁堀の狐――村上元三|初不動地獄の証文――結城昌治|解説 縄田一男 ここから始まる本のリンク▼『捕物小説名作選』(池波正太郎選・集英社文庫)、『半七捕物帳』(岡本綺堂著・光文社文庫/春陽文庫) |
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昨日の恋 爽太捕物帖 (きのうのこい・そうたとりものちょう)
北原亞以子
カバー:蓬田やすひろ |
♪久しぶりに、「爽太捕物帖」シリーズの最新刊『消えた人達』が刊行されたのを機に、3年半ぶりに読み直した。はじめて読んだときは★★★☆だったが、今回は★★★★。おすすめ度の表示がいい加減といえばそれまでだが…。初めて読んだときは本格捕物帳を期待したせいか、謎解きの部分がほとんどなくて拍子抜けだったが、今回は良質の市井物として堪能できた。捕物小説の醍醐味というのは、謎解きばかりでなく、江戸の風物や季節感、人情などの描写も欠かせないということに、遅れ馳せながら気づいた次第だ。主人公の爽太は、芝露月町にある鰻屋「十三川(とみかわ)」の入り婿。文化三年の大火事で孤児となり、「十三川」の主人・十兵衛に引き取られ、いっしょに育った彼の娘・おふくと結婚し、今は二人の娘の父。同心の朝田主馬に十手を預けられる。鰻屋の若旦那になるわけだが、鰻が苦手で素手で掴めず、家業で手伝えることは皿洗いに出前、娘の子守りというのが何ともいい設定だ。 そんな爽太に持ちこまれるのが、心に傷を負った男や女が引き起こす事件だった…。 物語●「おろくの恋」芝露月町の質店の女主人おろくが鍵のかかった蔵の中で殺されていた…。「雲間の出来事」妓夫太郎の徳松は、満月の柳原土手で匕首を握りしめ、返り血を浴びながら逃げていく男を見た…。「残り火」醜い容貌ながら金に目のくらんだ男たちを手玉にとるおしかと、結婚詐欺を繰り返す男が出会った…。「終りのない階段」おつやは着物を買いに行く友だちのおあきに付き合って、古着屋へ行った…。「頬の傷」志津と喧嘩して又七は出ていったが、後に残された志津は頬から血を流していた…。「昨日の恋」佐平次は、十五年前に大喧嘩して別れた女房にこれから会おうと江戸に戻ってきた…。「師走の風」日比谷稲荷で子守りをしていた爽太は、見ず知らずの女から赤ん坊を預かったが…。 目次■おろくの恋|雲間の出来事|残り火|終りのない階段|頬の傷|昨日の恋|師走の風|解説 細谷正充 ここから始まる本のリンク▼『御宿かわせみ』(平岩弓枝著・文春文庫)、『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著・講談社文庫) |
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江戸よ語れ (えどよかたれ)
海野弘
装画:鈴木春信「お仙の茶屋」 |
♪『江戸ふしぎ草子』『江戸星月夜』に続く、江戸ファンタジーシリーズ、第3弾。江戸の町を舞台に、当時の有名人から市井の無名人までを主人公にした、ショートショート。人情噺、怪異譚23話。それぞれに2編のコラムがついて、江戸通になれる1冊。「茶道指南」に登場する川上不白、「石臼の目切」と「乞食仙人」に登場する柳沢淇園(きえん)、「馬鹿囃子」に出てくる松江藩主松平出羽守斉貴、「手車売」の祐天仙之助、「女文士」の只野真葛ら、有名人のエピソードが紹介され、その人物たちをもっと深く知りたくなった。 「菊作り」、「放し鳩」、「茶師」、「傘売り」の話がとくに心惹かれる。 物語●「菊作り」江戸時代に菊作りが流行した。渋谷金王八幡宮に菊作りの名人がいた。一人の男が訪ねてきて、名人の隠された素性をあばこうとする…。「雑俳師」元禄の頃、雑俳と呼ばれる俳諧が大流行した。俳諧で金儲けを企む者もあらわれた…。「触れ人」仕事をなくした学者が、子供のときに知っていた触れ人の生き方を思い出した…。「偽金づくり」強欲で非人情な大家が、新しく越してきた店子が偽金を造っていることを探り出すが…。「茶道指南」江戸川で若い男女の心中事件があった。この事件を調べていた与力は茶道界の内幕をのぞくことになる…。「放し鳩」鬼子母神の境内で鳩を売る老人がいた…。「狐の嫁入り」古道具屋に嫁入りした女が、実は狐であるという噂が流れた…。「植木屋」夫を亡くし、子どもと暮らす女の家に強盗が入った…。「女医師」町医者のもとに、どうしても医師になりたいという女が弟子入りを望んだ…。「石臼の目切」文人画家は、不行跡のために処分を受け謹慎の日々を過していた…。「縁切榎」板橋宿のはずれに縁切榎があった…。「茶師」江戸っ子にうまい茶を飲ませたい、と思った男がいた…。「乞食仙人」画家の若い弟子が暇ごいを願った。国に帰って百姓になるという…。「書・射名人」弓術の名人でもあった書家がいた…。「茶碗屋敷由来」神田橋御門外に細川家の茶碗屋敷があった。その名の謂れは…。「馬鹿囃子」馬鹿囃子に夢中になって、大名の座を棒に振った道楽殿様がいた…。「傘売り」雨が降り出すと、いつも傘三本を持って売っている男がいた…。「下駄屋」天保の改革で、牢に入れられた下駄屋がいた…。「手車売」幕末、京都警備のために新徴組を募集し、甲州の博徒・祐天仙之助も参加した…。「狸の卜者」銀座に、狸好きの占い師がいた…。「蚊帳売」もめごとのために上方にいられなくなった芸人は、江戸に流れついて蚊帳売になった…。「女文士」滝沢馬琴の名を慕って、奥州から弟子入りを求めた一人の女がいた…。「樽屋と九人の女」江戸町年寄樽屋与左衛門は、ひそかな悩みがあった…。 目次■菊作り|雑俳師|触れ人|偽金づくり|茶道指南|放し鳩|狐の嫁入り|植木屋|女医師|石臼の目切|縁切榎|茶師|乞食仙人|書・射名人|茶碗屋敷由来|馬鹿囃子|傘売り|下駄屋|手車売|狸の卜者|蚊帳売|女文士|樽屋と九人の女 ここから始まる本のリンク▼『江戸職人綺譚』(佐江衆一著・新潮文庫)、『将軍と木乃伊 江戸国学者・山崎美成』(永井義男著・祥伝社) |
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風よ雲よ 上・下 (かぜよくもよ・じょうげ)
陳舜臣
カバーデザイン:多田和博 |
♪陳さんの海洋時代小説というと、『戦国海商伝』(講談社文庫)を思い出す。あちらは、毛利家ゆかりのものが主人公だったが、こっちは、大坂夏の陣の長宗我部軍の落武者が主人公。明の衰退、清の勃興、南海の狂乱…、激動の中国を舞台に、豊臣家の遺児と財宝をめぐる謎も絡み、物語は波瀾万丈に展開していく。明の崇禎帝、呉三桂将軍、反乱軍の李自成、海賊鄭芝竜、傾国の美人・陳円円ら当時の著名人も登場する壮大な歴史ロマンだ。中国史のお勉強的でなく、ちょっと、伝奇めいているのもとっつきやすくていい。 物語●明末の天啓三年、ポルトガル商館や倉庫が立ち並ぶマカオ。大坂夏の陣の落武者・安福虎(あんふっこ)こと、安福虎之助は、のちの南海の大立者・鄭芝竜(ていしりゅう、鄭成功の父)と出会った。そのとき、虎之助は、十歳ばかりの利口そうな少年と、四十がらみの僧侶と一緒だった…。 目次■マカオ南湾/落武者/のりまえ/日本みやげ/二人一官/闇の武士/傾斜/美少女/秘策無尽/清流濁流/波浪と黄塵/採蓮の人/金陵の春(以上上巻)|覇者の庭/安平城小景/夢の華/鳴動/東南に流る/南北の道/万里の愁/江湖流落/春夢/黄の旋風/英雄多情/劫火/風雲の外(以上下巻) ここから始まる本のリンク▼『戦国海商伝』(陳舜臣著・講談社文庫)、『怒涛のごとく 上・下』(白石一郎著・毎日新聞社) |
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雲さわぐ 天草の代官 鈴木重成 (くもさわぐ・あまくさのだいかん・すずきしげなり)
藤井素介
装画・題字:李庚 |
♪『海鳴りやまず―八丈流人群像―』(講談社文庫)で、第4回時代小説大賞を受賞した、藤井さんの第2弾。あとがきに書かれていた、本書の執筆の動機がふるっている。著者の若い頃の演劇の師で俳優の内田朝雄さんが、悪役の代名詞である代官とその兄である偉い坊さんの話を教えたという。ちなみに内田さんは、悪役俳優として知られている。この本、実は1年半ぐらい前に入手し、積ん読のまま、また1年後に同じ本を買ってしまい、あげくに1冊を海狼亭写楽斉さんに譲ってしまった。島原・天草の乱というのが、何やら悲惨そうで、後回しにしていたのだ。しかし、その海狼亭さんから、面白かったという感想をいただき、慌てて新年早々に読み始めた次第。 読み始めると、懸念は払拭され、物語に引き込まれ、天草代官・鈴木重成に共感し、やがて、目頭に熱いものが込み上げてきた。政治家ではなく、地方行政者が全面的に描かれる作品というのは珍しい。 主人公・鈴木重成は、三河足助(あすけ)鈴木氏の末裔と記されている。重成の兄・鈴木正三(しょうさん)は、旗本として家康・秀忠に仕えながら、42歳にして突如出家し、禅宗の坊さんになり、弟と協力して、信仰の面から天草復興に大きな貢献をした人。『江戸打入り』(半村良著・集英社文庫)の主人公・鈴木金七郎とは関係があるのだろうか? 物語●島原・天草の乱後3年。2万1千人の住民のうち1万4千人が乱で死んだといわれる天草は、深刻な人手不足で、田畑は荒れ放題、漁船は朽ち果て、島のすべてがまるで津波にでも襲われたように衰微していた。初代の天草代官として、着任した鈴木重成は、隠れ吉利支丹狩りを行った。そんな中で一人の男と出会った…。 目次■第一章 寛永十八年(1641) 草の根分けても/ツチトリモチ/トラツグミ/人形/ハナガカシ|第二章 寛永十九年(1642) サイカチの実/果し眼念仏/一仏二十五菩薩/キランソウ/ヤマモモ|第三章 正保元年(1644) 人身御供|第四章 承応二年(1653年) 蜘蛛/狂瀾既倒|あとがき/天草関係地図 ここから始まる本のリンク▼『神無き月の十番目の夜』(飯嶋和一著・河出文庫)、『小説上杉鷹山』(童門冬二著・学陽文庫ほか) |
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深川恋物語 (ふかがわこいものがたり)
宇江佐真理
装画:安里英晴 |
♪この人と宮部みゆきさんの作品を読むと、本当にうまいなあといつも思ってしまう。宇江佐さんは、今まで捕物小説ばかりだったが、この作品のような市井物もいい味がだせる。藤沢周平さんの小説を読んだ後のような心地よさがある。とくに「下駄屋おけい」に見られる江戸娘の心ばえ、「がたくり橋は渡らない」の季節感と人情の機微、「さびしい水音」の恐さなど、強く印象に残る話ばかりだ。 物語●「下駄屋おけい」太物屋の長女おけいは、下駄清の彦七の作った下駄が気に入っていた…。「がたくり橋は渡らない」花火職人の信次は、恋人のおてるに裏切られ、匕首を懐に、おてるの住まいに向かった…。「凧、凧、揚がれ」凧師の末松は無類の子ども好きで、近所の子どもたちに凧作りを教えていた…。「さびしい水音」大工の佐吉が塒に戻ると、女房のお新はさっきまで文机で絵を描いていたらしい…。「仙台堀」乾物問屋の手代久助は、引っ込み思案の性格のために、気難しい主人のいる料理屋紀の川の御用達にされていた…。「狐拳」元深川芸者で、今は材木問屋の内儀のおりんは、血のつながらない跡取息子の吉原通いに悩まされていた…。 目次■下駄屋おけい|がたくり橋は渡らない|凧、凧、揚がれ|さびしい水音|仙台堀|狐拳 ここから始まる本のリンク▼『橋ものがたり』(藤沢周平著・新潮文庫)、『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子著・講談社文庫) |
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遁げろ家康 上・下 (にげろいえやす・じょうげ)
池宮彰一郎
装画:徳川家康三方ヶ原戦役画像(徳川美術館所蔵) |
♪『島津奔る』(新潮社)で新しい家康像を創出した池宮さん。今回は家康に焦点を当てる。今まで家康ときくと、道徳的で偉人臭さが鼻について苦手だった(隆慶一郎さんの家康は別として)が、池宮さんの家康には、親近感が持てて感情移入ができる。徳川家臣たちの三河人気質と、家康の人質根性の対比が面白い。とくに、謀臣本多正信に比べて、今まで描かれることが少なかった石川数正、酒井忠次、大久保忠世、榊原康政、本多平八郎忠勝らにもスポットが当たっているのがいい。 物語●永禄三年、織田信長が田楽狭間で、上洛を目指した今川義元の本隊に襲いかかっていたとき、松平元康(後の徳川家康)は、義元の命により、手勢を率いて、織田方の丸根砦を攻略し、前線の大高城で織田方の逆襲に備えていた…。東海の雄・今川義元が降って湧いたような突然の大災厄に見舞われたことで、元康の運命は大きな転換期を迎えることになった…。 目次■天機転回/跼天蹐地/国歩艱難/意、自ら通ぜず/甲州崩潰/轍鮒の急(以上上巻)|空国の躄音/鶏口牛後/爾為爾我為我/天造草昧/幕天席地/孔丘盗跖倶塵埃(以上下巻) ここから始まる本のリンク▼『江戸打入り』(半村良著・集英社文庫)、『影武者徳川家康』(隆慶一郎著・新潮文庫) |