満開の桜の木の下で、不可解な死を遂げた母の記憶に囚われ続ける男・半次。美形で色っぽく、それでいて憂いの影をもつ絵馬描きの彼を、女たちは、怨みと未練と愛情を込めて、逃げ水半次と呼んだ。月光の下で、臨月近い身の後家が首を吊って死んだ。その足元には嗤い続ける幼子が…。三歳の頃の恐ろしい記憶を呼び起こすような難事件が、孤児になった半次と兄妹のように育てられた、岡っ引きの娘・お小夜のもとに持ち込まれた。ともに事件を解決することで、半次はトラウマから立ち直れるのか? 江戸の町の光と影、四季の彩りの美しさが映像イメージとして広がる、久世光彦の新感覚捕物帖。次回作とともにドラマ化が待たれる作品。キャストを考えながら読むのも一興。
1998.12.22
♪久世さんというと、ドラマの演出家として、とくに向田邦子作品で知られていた。最近では、耽美的な小説の書き手としても活躍されている。こういう方が時代小説にチャレンジされるのは、何ともうれしい。この月は、コラムニストの上前淳一郎さんも古荘多聞名義で、初めて書かれた時代小説を発表されたいた。 (小林理流)