時代小説によく出る用語集

【差配人】
さはいにん


宮部さんの『ぼんくら』(講談社)は、鉄瓶長屋で起こった一連の奇妙な事件を描いた時代ミステリーである。物語の冒頭で、差配人が失踪し、代わりに若い差配人佐吉がやってきたところ、事件はいっそう混沌としてゆく。

江戸の庶民たちのほとんどが、貸家や長屋に暮らす、地借り・店借(たなが)り・間借りの人々である。地主や家持ちの人々に代わって、店賃や地代を取り立て店子(たなこ)を監督する役割を担うのが、差配人である。家主・大家・家守などという呼び方をする場合もある。

差配人自身は家持ちでも地主でもなく、彼らに雇われて働く存在である。地主や家持ちが制度でないのと同様に、彼らも制度で決められた身分ではないから世襲制もない。

差配人の仕事は、ただ店子の世話を焼くだけではなく、自治制度の五人組を地主たちに代わってつくり、名主を補佐して市政を運営する「町役人(ちょうやくにん)」の一翼を担うことである。差配人たちは、月番を決めて自身番に詰め、その町で起こる様々な出来事に相談し合って対処してゆく立場にある。連帯責任制もあり、けっして気楽な稼業ではない。

その反面、住まいは地主たちから無料で提供され、決められた額を町費から報酬として受け取るほか、近在の農村に自分の差配する地所や長屋の下肥(しもごえ)を売る権利もあり、なかなかおいしい立場でもあった。それゆえ、差配人の地位を金で売り買いすることは厳しく禁止されていた。(00/06/04)


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