(かんろばい・おはりこおとせよしわらしゅんじゅう)
(うえざまり)
[市井]
★★★★
♪苦界・吉原を舞台にした、宇江佐さんお得意の人情時代小説。
ヒロインのおとせが岡っ引きの女房ということで、捕物小説を思い浮かべたが、吉原の人と出来事、四季を描いた人情物語だった。とはいえ、随所に岡っ引きの女房らしい、詮索好き、好奇心、お節介が顔を出し、語り部としては恰好の存在である。
桜の季節から始まり、雪の季節で終わる。その間に、夜桜見物、お年玉代わりの甘露梅仕込み、八朔の白無垢衣裳、八月十五夜の月見と九月十三日の後見の月見、蜜柑投げ、くくり猿のまじない、仮宅など、吉原の四季の風物を巧みに物語に取り入れている。幼なじみながら、互いに想い合っている海老屋の花魁喜蝶と妓夫の筆吉の、許されない二人の恋の行方と、相談相手で、何かと頼りになる、引手茶屋の主・凧助とおとせの関係があわせて描かれていき、最後まで目が離せないところ。
物語●前年の春に、岡っ引きの夫に先立たれた三十六歳のおとせは、吉原・江戸町二丁目の遊女屋「海老屋」にお針として住みこんでいる。おとせには鶴助という二十歳になる息子と十八歳の娘・お勝がいる。おとせは二年前にお勝を嫁に出していて、鶴助と当分二人暮らしを続けるつもりだったが、呉服屋に奉公して手代になったばかりの鶴助は所帯を持ちたいと切り出した。同じ店の女中と相惚れで、腹に子ができているという。嫁を迎えるにも裏店のひと間暮らし。新婚夫婦とおとせが枕を並べて眠るというわけにもいかず、吉原の海老屋にお針子として住み込んで働く仕事を引き受けた。
素人の女が足を踏み入れるような場所ではない吉原に、図らずも暮らすことになった町家の後家・おとせ。その目を通して、遊女たちの恋と矜持と悲哀、そして自身に芽生える新たな思いを、情感豊かに描く、連作形式の市井小説。
目次■仲ノ町・夜桜/甘露梅/夏しぐれ/後の月/くくり猿/仮宅・雪景色/解説 末國善己