大奥延命院醜聞 美僧の寺


大奥延命院醜聞 美僧の寺
大奥延命院醜聞 美僧の寺
(おおおくえんめいいんしゅうぶん びそうのてら)
植松三十里
(うえまつみどり)
[武家]
★★★★☆

集英社文庫書き下ろし作品。
大奥と将軍の信仰の篤い寺院が関わる、幕府を揺るがす大スキャンダル、延命院事件を描いた武家小説。

「梅村、そなたに御仏間方頭を命じる。明日から務めよ」
 梅村は一瞬、いみがわからなかった。

(『大奥延命院醜聞 美僧の寺』P.10より)


主人公の梅村は、家斉の側室(御中臈)から右筆に役目が替わったばかり。(御中臈の定員は八人で、新しい女中に手がついた時に、その女中を御中臈に据えるために、年嵩の者から別の役に替えていたそうだ)。

 自分には大奥一といわれた美貌と、優れた知性がある。こんな自分に似た男児が、元気に生まれれば、次期将軍は疑いない。
 それも家康や家光に並び称されるような、優れた将軍になるに違いない。
 なのに、その機会が阻まれている。自分に与えられた役目は、新しい命を育むことではなく、ただただ死者の弔いなのだ。

(『大奥延命院醜聞 美僧の寺』P.49より)


御仏間方は、先祖の霊を祭る役目なだけに、当然、閨の御用がなくなる。家斉の寵愛を失った心の隙に、お役目で通うのが、美男の僧ぞろいの寺、延命院…。

そして、もう一人、事件に関わる重要人物として、寺社奉行脇坂淡路守安董が登場する

 脇坂は、また、お椰に酒を飲ませてから聞いた。
「そなた、探りに行ってみぬか」
「延命院に?」
「そうだ。坊主どもの女犯の裏付けが取れたら、寺社奉行として踏み込む。実態が明らかにできれば、上さまの過ぎたるご寄進も、お諌めできる。勘定奉行も大喜びだ」
「でも上さまの、ご不興を買いませぬか」
「いや、もしも何か暴くことができれば、ご不興を買うどころか、それがしは出世できるであろう」

(『大奥延命院醜聞 美僧の寺』P.60より)


脇坂家の先祖、脇坂安治は、賤ヶ岳七本槍の一人ながら、秀吉の死後、徳川家康に味方した。関ヶ原の合戦では西軍に属しながらも、開戦後すぐに東軍方につくことを明らかにし、結果として東軍を勝利に導いた。

関ヶ原以前から徳川方だっために、本来なら譜代大名のはずが、いったん西軍に属したことから、外様扱いとなってしまう。以来、譜代への復帰は、脇坂家の悲願となった。

そして、脇坂の密偵として、延命院に潜入するのが、家斉から脇坂に下げ渡された元大奥女中のお椰。梅村に対してライバル意識をもつ。

さまざまな人間の思惑が絡み合い、物語は展開していく。植松さんの時代小説の魅力は、史実をうまく取り入れながら、事件の当事者たちの心理をきっちりと描くとともに、時代背景を丁寧に解説していること。おかげで、家斉時代の大奥のメカニズムがよくわかった。

延命院事件といえば、松本清張さんの『かげろう絵図』に描かれている。読み比べてみるのもいいかもしれない。

主な登場人物
梅村:大奥右筆頭
おころ:梅村の部屋方女中
徳川家斉:十一代将軍
寔子:薩摩藩から嫁いできた正室
大崎:老女
お浪:御仏間方の女中
お加禰:御仏間方の女中
脇坂淡路守安董:播磨国竜野領主で寺社奉行
松平周防守康定:石見国浜田領主で寺社奉行
お登勢の方:家斉の側室
お椰:脇坂の側室
遠藤啓次郎:お椰の弟で、伊賀同心
日潤上人:延命院の住職
日道:延命院の副住職
永福:延命院の僧
高円:延命院の僧

物語●
11代将軍家斉の側室で大奥右筆頭の梅村は、家斉に呼ばれて突然御仏間方頭を拝命する。大奥一の美貌と聡明さがありながら、将軍の子を生む望みは24歳にして叶わぬ夢になってしまう。

大奥には壮麗な仏間がある。天井まで届く巨大な仏壇が並び、その中には歴代将軍や、その御台所、幼くして亡くなった若君や姫君たちの位牌が納められている。

御仏間方とは、そんな仏壇の管理や、将軍家の仏事を取り仕切る役目。だが死者を弔う仕事であり、高齢の女中が務めるものであった。前任者が亡くなったうえに、家斉の子供たちが幼くして亡くなることが多く、その供養が煩雑になっていた事情があった。

梅村は、初めて担当するの二代将軍秀忠の命日の法要を何ひとつ滞りなく取り仕切り、家斉に認められた。立派に役目を果たしながらも、家斉の前に出るたびに未練が沸いた。

家斉の命で、日暮里の延命院に疱瘡除けの祈願に行くことになった。家斉が深く帰依する延命院は、若くて美男の僧ぞろいの寺院としても知られていた…。

目次■第一章 紅梅の打掛/第二章 お下げ渡し/第三章 日暮らしの里/第四章 秘めたる沙汰/第五章 数珠からむ指先/第六章 美僧たちの邪心/第七章 香たなびく/第八章 さぐりへ/第九章 大捕り物/第十章 意趣返し/解説 石野伸子

イラストレーション:宮川雄一
カバーデザイン:木村典子(Balcony)
解説:石野伸子
時代:享和三年正月半ば
場所:大奥、御座の間、御仏間、汐留・脇坂家上屋敷、日暮里延命院、北伊賀町、御浜御殿、神田和泉町、不忍池の茶屋、板橋の近く、寛永寺、白木屋、増上寺、ほか
(集英社・集英社文庫・571円・2012/06/30第1刷・271 P)
入手日:2012/12/25
読破日:2013/02/19

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