日暮し同心始末帖 逃れ道


日暮し同心始末帖 逃れ道
日暮し同心始末帖 逃れ道
(ひぐらしどうしんしまつちょう のがれみち)
辻堂魁
(つじどうかい)
[捕物]
★★★★

北町奉行所の平同心・日暮龍平が活躍する捕物時代小説シリーズ「日暮し同心始末帖」の第5作目。

このシリーズの魅力は、事件の意外な展開とそれを丹念に追う龍平らの探索ぶり、そしてそこで出会う強敵とのチャンバラシーン、そして、江戸の町や風物がしっかりと描かれていること。切絵図を片手に主人公の移動した後をたどることができる。

 言上帳は廻り方には殊にかかわりが深く、盗難、変死、殺し、喧嘩、強請恐喝、掏摸など、一日に起こった諸々の刑事に関する一件を記載した帳面で、奉行は言上帳の報告によって、江戸市中の治安状況を把握するのである。

(『逃れ道』 P.68より)


主人公の龍平は、旗本の次男坊ながら、周囲の反対を押し切って、町方同心の家に婿養子に入った。そのため、周囲から妬みもあって、雑用仕事ばかりを押し付けられて《その日暮らしの龍平》と侮られる。

「はあ。日暮さんこそ、雑用仕事はもうおすみですか」
 鈴本が、《その日暮らしの龍平》が、という嘲笑まじりのにやけ顔を向けた。

(『逃れ道』 P.93より)


そんな同僚にも侮られる龍平だが、捜査は緻密であり、犯人を追い詰めるところは圧巻だ。作者は、統計学のゲーム理論の「囚人のジレンマ」を頭において描いているのだろうか。

「おまえがあいつらの仲間なら何も言うな。盗まれた根付を売りにいったのはあいつらだから、あいつらのひとりひとりにこれから問い質し、事情を全部白状させる。一日、二日、三日四日五日、あるいは十日、何日かかっても必ず吐かせる。今はまだ、根付は拾った、追剥は知らない、と口裏を合わせるつもりだろうが、どこまで耐えられるかな」
 蔵六が怯えた目を見開いた。
 明らかに、白状するしかないか、迷っているのがわかった。
「三人が同じように耐えれば切り抜けられるかもしぬが、三人のうちのひとりでも耐え切れず白状すれば、こちらはそれで十分なのだ。あとは牢屋敷へ収監され、詮議所のお裁きを受けるだけだ。お白洲の場で、どこまで拾った、知らない、言い逃れられるか」

(『逃れ道』 P.142より)


辻堂さんの作品では、過去のある男女を中心に据えて、その過去に由来する事件の謎を解くというパターンがある。今回のヒロイン・お篠は、錦絵のモデルになるほどの美人ながら、夫にも話せない過去を持っていた。

主な登場人物
日暮龍平:北町奉行所平同心
麻奈:龍平の妻
俊太郎:龍平の息子、六歳
菜実:龍平の娘
日暮達広:麻奈の父で、龍平の舅
鈴与:龍平の姑
松助:日暮家の下男
宮三:口入れ稼業《梅宮》の主人
寛一:宮三の息子
甲太:宮三の手下
吉弥:京風小料理屋《桔梗》の主人
お諏訪:吉弥の娘
永田備前守:北町奉行
福澤兼弘:北町奉行所年番方筆頭与力
柚木常朝:北町奉行所詮議方筆頭与力
南村種義:北町奉行所定町廻り方同心
石塚与志郎:北町奉行所定町廻り方同心
春原繁太:北町奉行所同心
鈴本左右助:北町奉行所非常警戒掛同心
蔵六:南村の手先
要助:奉行所の中間
左江之介:俊太郎の遊び仲間、九歳
淳二郎:俊太郎の遊び仲間、八歳
伊右衛門:俊太郎の遊び仲間、七歳
知恵蔵:俊太郎の遊び仲間、六歳
健五:地廻り
雁之助:菱垣廻船問屋利倉屋の平番頭
利倉屋の主人
涌井意春(斉年):錦絵の町絵師
お篠:意春の女房
意春の母
美弥:意春の姉
お里季:相模国当麻村出身の百姓の娘
黒江左京:厚木出張陣屋元締
五郎治郎:当麻村の貸元
庸行:五郎治郎の用心棒で唐手の遣い手
治田:五郎治郎の手下
軍次:五郎治郎の手下
覚左衛門:鼈甲笄簪細工所・井本屋の主人
地本問屋・仙鶴堂の主人
益岡季丈:九鬼家の江戸藩医で漢方医
八弥:やくざ者
常高:両国米沢町の蘭医

物語●北町奉行所平同心・日暮龍平の六歳になる息子・俊太郎は遊び仲間たち4人と、小さな冒険気分で不忍池の弁財天の茶店を訪れた。そこで、店を我が物顔にする健五ら地廻りに絡まれて暴力を振るわれた。その危難を町絵師の若女房のお篠に助けられた。

一方、龍平は、脚気のために療養で、勤めができなくなった南村種義の代わりに、定町廻りをすることになった。南村が抱えていた未解決の、利倉屋の平番頭雁之助殺害事件も扱うことになった…。

目次■序 あぶり団子/第一話 八丁堤/第二話 美人画/第三話 嵐/結 馬入川

カバーイラスト:皆川幸輝
カバーデザイン:妹尾浩也
時代:文政元年(1818年)(およそ五年前の文化十年)
場所:不忍池弁才天、八丁堤、橘町、日本橋本町二丁目、大伝馬町、吉川町、神田竪大工町、品川裏河岸、新石町、南茅場町、北島町、馬喰町、新大坂町、馬入川、ほか
(学研パブリッシング・学研M文庫・2012/06/26第1刷・318P)
入手日:2012/09/21
読破日:2012/10/16

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