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江戸切絵図貼交屏風

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江戸切絵図貼交屏風
江戸切絵図貼交屏風
(えどきりえずはりまぜびょうぶ)
辻邦生
[捕物]
★★★★☆☆

「ページを吹きぬける 粋でいなせな江戸の風。―「江戸時代が面白いフェア」 最近、文藝春秋さんは時代小説のセールスに力を入れているようだ。腰巻き(帯)のキャッチに惹かれて思わず手にとってしまった。単純だからな。

辻邦生さんというと、純文学っぽいイメージがあって近寄りがたかったのだが、この作品は肩の力が抜けていて辻さん自体が楽しんで書かれている印象を受けた。端正な文体で、叙情的な風景描写が主人公の貞芳の絵の雰囲気とマッチしていた。

連作形式で、毎回貞芳の絵の造主(モデル)になる美女たちにかかわる事件を捕物帳風に綴っている。小笠原京さんの「旗本絵師シリーズ」と似た設定になっている。

事件の背景には、幕藩体制の矛盾により財政で苦しむ諸藩(最後の章の忍藩以外は架空の藩が登場)とその犠牲となる武家の家族が描かれていて、それと対照するように美への追求に賭ける絵師の姿が合わせて描かれている。

ナポレオン時代の鳥居耀蔵のような人物を描いているらしい、辻さんの「フーシェ革命暦」が読んでみたくなった。

最近、江戸切絵図に興味を持ちはじめたせいか、本書の的確なロケーションの描写が嬉しい。各章の扉に付いている幹さんのミニミニマップがまた味わいがある。

物語●歌川貞芳は、旗本の嫡男に生まれたが、家督を弟に譲り、家を出て山王下に画室を構えて、花鳥画、風景画を得意とする絵師として活躍していた。武家育ちのせいか、美人画がうまく描けずに才能の限界のようなものを感じ始めていた…。
秋のある日、門付けの虚無僧が貞芳の画室の前で倒れそのまま亡くなった。虚無僧には、美しい娘が付き添っていた。父娘は敵持ちであった…。

目次■その一 山王花下美人図/その二 美南見高楼図前後/その三 湯島妻恋坂心中異聞/その四 無量寺門前双蝶図縁起/その五 根津権現弦月図由来/その六 向島百花譜転生縁起/その七 墨堤幻花夫婦屏風/その八 神仙三圍初午扇/その九 武州浮城美人図下絵/藍いろに暮れてゆく江戸に―「あとがき」にかえて

装幀:中島かほる
カバー絵:(株)人文社蔵版
江戸切絵図より
表紙絵:大名千代紙「柑子文韋」
菊寿堂いせ辰
各章扉絵:幹英生
時代:「武州浮城美人図下絵」のみ文政六(1823)年で、ほかの章は蔦屋重三郎が活躍することから考えて享和から文化にかけてか。
印象的な場所:山王下、御殿山、湯島妻恋坂、向島
(文藝春秋・1553円・92/7/30第1刷、96/7/15第5刷・355P)
購入日:97/7/13
読破日:97/8/6

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