わかれ ―半兵衛と秀吉


わかれ ―半兵衛と秀吉
(わかれ・はんべえとひでよし)
谷口純
(たにぐちじゅん)
[戦国]
★★★★

鹿嶋市在住の新人女性作家の谷口さんから献本をしていただいた。著者は、ロンドンに留学し、演劇の勉強をし、戯曲を数作書いた後、翻訳業に転身。本書収録の「きずな―信長と秀吉―」(短篇)は、全国公募の同人雑誌「コスモス文学」の新人賞受賞作。「わかれ―半兵衛と秀吉―」(中篇)は、「きずな」の続編にあたる。

実は、最近ずっと、「秀吉嫌い」に悩まされていた。どうも晩年の暗い影、醜い姿を見すぎたせいかもしれない。秀吉ほど、権力を握る前と握った後で、激変した人物も珍しい。太陽の子らしい前半生の出世譚は多くの人に勇気と希望を与えてくれる。逆に、天下人となってからのリーダーとしてのビジョンと責任感の欠如、晩年に見せる幼児性、暗愚さなど、読んでいて胸を痛めてしまう。そんなわけで秀吉が嫌いだった。今回縁があって久々に秀吉を主人公とした作品を読んだ。

この作品は、天正五年から六年にかけての秀吉を描いている。順風満帆な上り調子の秀吉ばかりでなく、出る杭は打たれるが如く、同僚の嫉妬や意地悪に悩み苦しむ人間・秀吉が描かれている。その異才を認める信長の視線の温かさや、部下を信じ己の命さえも賭ける秀吉の矜持など、読むものを感動させ爽快感を与えてくれる。

信長と秀吉、半兵衛と秀吉、二組の主従関係を通して、新しい秀吉像を見せてくれる。作者からのメールによると、次作は「散りゆく桔梗 -光秀と秀吉-」(長編)を予定しているということ。どんな風に、秀吉と光秀の関係が描かれるのか興味津々である。

「わかれ」を読んでいたときに、ちょうどひどい風邪で、咳が断続的に出る状態で、竹中半兵衛のような感じだった。咳のし過ぎで、横隔膜が痛くなり苦しかったが、その分、感情移入もよくでき、「秀吉嫌い」も少し和らいだ。

物語●「きずな」北陸戦線の総大将・柴田勝家の援軍として派遣された羽柴秀吉は、軍議で衝突した末に、領地長浜に帰ってしまった…。「わかれ」竹中半兵衛は自分の理想像を秀吉のなかにみていた。自分の静に対して、秀吉の明るく健康的な動にあこがれていた。めまぐるしく変化する秀吉の豊かな表情を見るのが楽しかった。半兵衛は秀吉を操りたいというひそかな思いに胸を熱くした。そのころ、秀吉は窮地に立たされていた。一度は織田方に帰服した三木城の別所長治が叛意を示して毛利方についてしまったのである…。

目次■きずな―信長と秀吉―|わかれ―半兵衛と秀吉―(軍師ふたり/君臣の情/波乱/松寿丸/葛藤/山里/再会/わかれ)

Jacket Design:LittleFoot
時代:「きずな」天正五年。「わかれ」天正五年。
場所:「きずな」手取川、長浜、安土城。「わかれ」高倉山、安土城、書写山、長浜、平井山ほか。
(東洋出版・1,400円・00/02/15第1刷・244P)
入手日:00/04/12
読破日:00/04/16

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