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蓮如 夏の嵐 上・下

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蓮如 夏の嵐 上・下蓮如 夏の嵐 上・下
(れんにょ・なつのあらし)
岳宏一郎
(たけこういちろう)
[戦国]
★★★★☆☆

戦国時代を代表する宗教家蓮如を正面から取り上げた歴史小説。一向一揆と本願寺を読み解く上で、必読の書かもしれない。 最近でこそ、神社仏閣を訪れることも増えたが、もともと宗教には疎く、どちらかといえば敬遠することが多かった。この作品は、傑作『群雲、関ヶ原へ』(新潮文庫)など、戦国時代を題材にした時代小説で活躍されている岳さんが、不世出の宗教家蓮如を描くということで興味津々で読み始めた。

蓮如と個性的でやり手の弟子・下間安芸蓮崇(阿毛心源)の出会いから始まるが、蓮如が衰退していた本願寺を一代にして日本最大の宗派へ押し上げて行ったかを歴史小説の手法で描いている。まさに宗教界における国盗り物語となっていて面白く読めた。

主人公はもちろん蓮如だが、脇役も下間安芸蓮崇(阿毛心源)、古参番頭の下間玄英、蓮如の叔父の如乗を、敵役には高田専修寺の真慧を配し、チョイ役で伊勢新九郎(のちの北条早雲)が登場する。それぞれが個性的にキャラクター設定されていて面白い。

偉大な宗教家とはいえ、非常に人間臭く描かれているのも、魅力となっている。八十五歳まで生き、生涯に五人の妻を迎え、十三男十四女を持ち、八十歳を超えてなお、子どもを作るという、蓮如の計り知れないバイタリティには何よりも驚いた。凄すぎる。恐妻家や律儀さと横着さを兼ね備えたところなど、徳川家康のイメージに似ている印象を持った。

物語●(上巻)琵琶湖名産の鮒鮨を売る若い販婦の貯めていた銭を奪って逃げた小心の偸盗・阿毛心源(あけしんげん)は、野洲川の河原で、真宗の中年僧と出会った。心源は、若い販婦との出会いと、それにつづく一連のできごとをありのまま物語り、これまで幾度も物盗りを重ねたこと、人を斬ったことも隠さなかった。見ず知らずの男に、積年の悪事を打ち明けるなど、全く正気の沙汰ではなかったが、中年僧には警戒心を忘れさせる、一種不思議な包容力があった。心源の告白にたいして、中年僧は「銭を盗んだのも、人を傷つけたのも、生きんがために、やむを得ずやったことのようだ。罪には違いないが、さして深く咎めらるべきものではないとわたしは思う」と、悪業が往生の妨げにならないという思いもかけない返答だった。南無阿弥陀仏と称えるだけでことで救われると言われ、悪人ほど、弥陀の救済の対象となる説かれて、心源は生まれてはじめて宗教的陶酔を味わった。中年僧に名前を尋ねると、「本願寺の蓮如です」と答えられた…。

(下巻)文明三年(1471)七月、越前に吉崎御坊が完成し、蓮如は元偸盗の下間蓮崇(阿毛心源)を奏者番に抜擢した。蓮崇は、世知にたけており、有能で、本願寺の発展に大きく寄与した。蓮如は、ひそかに蓮崇に二女の見玉を結婚させることを考えていたが…。
蓮崇が有能であるがゆえに、酷使されている間に、見玉は病でなくなってしまった。その吉崎御坊に、一人の佳人がやってきた。蓮如の四男の蓮誓に背負われて暮夜ひそかに御坊に辿りついたこの妙齢の女性は、朝倉氏との合戦に破れた越前守護代甲斐八郎常張治の忘れ形見だった…。

目次■悪人正機/地平線/折れた翼/雷鳴/旅人たち/奔流(以上上巻)|客/結婚/亀裂/一向一揆/帰郷/伝説/解説 金龍静(以上下巻)

カバーデザイン:安彦勝博
解説:金龍静
時代:康正三年(1457)六月。
場所:大津、野洲川ほとり、京都大谷、堅田、高田専修寺、興福寺、定法寺、一身田無量寿寺、本福寺、三井寺、河内、奈良、細呂宜郷吉崎、三河岡崎上宮寺ほか
(講談社文庫・上619円・04/04/15第1刷・320P、下619円・04/04/15第1刷・333P)
購入日:04/05/12
読破日:04/06/03

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