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冬の蝉

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冬の蝉冬の蝉

(ふゆのせみ)

杉本苑子

(すぎもとそのこ)
[短編]
★★★★☆

本書は昭和六十三年に刊行された文庫の新装版。時代小説ファンを掲げているが、本格的に読み始める前に活躍されていた大御所の作品までカバーしきれていないのが実情。杉本さんもこれから楽しみに読んでいきたい作家の一人だ。

「墓石を打つ女」旗本内藤家とお匙医の棚橋のエスカレートしていく対立ぶりが面白い作品でもある。内藤新宿宿が享保三年(1718)から明和九年(1772)まで廃止されていた理由がわかる短篇。
「菜摘ます児」万葉集の菜摘み乙女の歌に題材をとった、ファンタジックでちょっと切ない話。
「礼に来た幽霊」出産と脅迫という二つの事件が平行して描かれて緊迫感ある展開。そして意外な形で脅迫事件は解決をみせるが……。
「冬の蝉」貧しい上に小心者で自己保身に汲々としている十太夫の家に、蝉の抜けがらがもたらしたおめでたい話とは……。心温まる佳編。
「ゆずり葉の井戸」良水をめぐる物語を展開の早いサスペンスタッチで描いた短篇。
「嫦娥」嫦娥とは、月に住むという伝説の仙女のこと。中国の宇宙計画には「嫦娥計画」というものがあるそうだ。
「仇討ち心中」小牡丹の愛憎に揺れ動く女心と、武家社会の無情さを描いた作品。
「仲蔵とその母」歌舞伎界の名優・中村仲蔵の半生を、その養母との関係から描いた物語。松井今朝子さんの時代小説大賞受賞作『仲蔵狂乱』を思い出した。

ブログ◆
2006-03-11 杉本苑子さんと江戸の水
2006-03-10 江戸四宿の一つ、内藤新宿
2006-03-09 杉本苑子さんの時代小説

物語●「墓石を打つ女」知行四百石の旗本内藤新五左衛門は、隣に移ってきたばかりの医師棚橋佑庵の妻・百瀬に突然、水が薬の調合に適しているから井戸を譲ってくれと申し入れられる。身勝手な申し分に腹を立てて断るが、棚橋はお匙医(江戸城に詰める歴々の治療に当たる公儀のお雇い医師)だった……。
「菜摘ます児」葛西の場所外れにある、お花の茶屋に、突然、鷹狩りの帰途の将軍家治がやってきた。白湯の礼に小判三枚と、奉書にしたためた「お花茶屋」の四文字を下された……。
「礼に来た幽霊」芝神明前の地本問屋泉屋市兵衛は、妻・お徳の出産に立ち会っていた。難産で取り込んでいる泉屋に、二両の無心をする二通の脅迫状が届いた……。
「冬の蝉」小姓組山田十太夫の娘佐喜は、蝉の抜けがらを見つけに行った赤城明神の裏の森で野良犬に襲われたところを、通りがかりの侍に助けられる……。
「ゆずり葉の井戸」上野広小路の菓子司・金沢丹後では、小豆の精製のために上質な水が必要なことから、斜め向かいの研ぎ師・本阿弥家の井戸から水を得ていた。正月のある日、金沢丹後の女主人お志摩の妹お美濃が本阿弥家の一人息子達哉に手ごめにされかけるという事件が起こった……。
「嫦娥」旗本で三絃の名手の原武太夫は、仲秋の名月の夜に、嫦娥のような絶世の美女と出会う……。この女性の意外な正体とは? 
「仇討ち心中」吉原の遊女・小牡丹は、娼楼の二階から路上にたたずむ仇でかつての許婚の谷村慎吾を見かける……。
「仲蔵とその母」長唄うたいの中山小十郎の妻・お俊は、平井村の渡し守から小さな男の子を引き取った……。

目次■墓石を打つ女|菜摘ます児|礼に来た幽霊|冬の蝉|ゆずり葉の井戸|嫦娥|仇討ち心中|仲蔵とその母|解説 山村正夫

装画:宇野信哉
デザイン:上楽藍
解説:山村正夫

時代:「墓石を打つ女」享保三年。「礼に来た幽霊」式亭三馬の活躍していたころ。「ゆずり葉の井戸」老中堀田相模守のころ、寛永寺仁王門建立時というから、享保五年ごろか。「嫦娥」九代将軍家重のころ。「仲蔵とその母」元文五年ごろ
場所:「墓石を打つ女」大番町、内藤新宿、四谷御門前。「菜摘ます児」葛西。「礼に来た幽霊」芝神明前。「冬の蝉」赤城明神。「ゆずり葉の井戸」上野広小路。「嫦娥」品川、市ヶ谷大隅町、目黒。「仇討ち心中」吉原、高田城下。「仲蔵とその母」中村座、人形町、ほか

(文春文庫・571円・06/01/10第1刷・295P)
購入日:06/01/19
読破日:06/03/11

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