起返の記 宝永富士山大噴火


起返の記 宝永富士山大噴火
起返の記 宝永富士山大噴火
(おきかえりのき ほうえいふじさんだいふんか)
嶋津義忠
(しまづよしただ)
[人間ドラマ]
★★★★☆☆

およそ300年前に起こった富士山大噴火と、火山灰の災害を受けながらも復興に向けて立ち上がった人々を描く、感動の長編時代小説。

宝永四年十一月、突如富士山が大噴火をする。関東郡代の手代市谷爽九郎は、須走村の御師の宿坊で出立の準備をしていた。友人の十三郎は恋人の小枝と、冨士浅間神社に参拝に出かけたまま戻ってこない……。

その時、富士より東に五里ほど離れた御厨大御神村の長太は畠にいた。石と砂が雨か霰のように降って来て全身を打つ。
その夜、足柄上郡班目村の農民多吉は、外の様子を見るために家を出る。降砂は昼よりも勢いを増し、屋根の上に分厚く残る。

突如起こったこの災害により、貧しくも平和な生活は一変する。降砂が襲い掛かって村を埋没させてしまった。積砂の深さは3メートルに達し、冨士浅間神社の石の鳥居の笠木が辛うじて顔を出すほど。大御神村では積砂の深さは1.8メートル、相模の班目村でも75センチ積もったという。

灰に埋まった先祖代々の田畠、生活に困り逃散する人々、さらに積砂により幾度も氾濫する酒匂川……。亡所の危機に瀕した故郷を守るために立ち上がった農民たちに対して、小田原藩と幕府の対策はあまりに場当たり的なものだった……。

物語は、富士山大噴火のシーンから始まり、復興までの長く険しい道のりを、長太と多吉の二人の農民を通して、丹念に描いていきます。幕府側にありながら、農民たちを支えるために奮闘する、爽九郎の姿にも心を打たれます。

富士山の周りだけでなく、江戸でも数センチ降砂があったというほどの大噴火。パワーシャベルのような重機のない時代、人力だけで積砂を取り除くことは気が遠くなるような大事業だったと思います。なお、この噴火により、宝永山という新しい山が富士山の脇にできたことはよく知られています。

冒頭の富士山噴火では、火山弾が容赦なく人々に降り掛かり、地面が降砂に埋まっていく様がリアルに描かれています。2014年の御岳山噴火を想起し、鳥肌が立ちました。

自然の災害の前に、人は無力かもしれません。しかし、人は生きていれば、災害で受けた傷から立ち直る力を持っています。復興を進めるには、被災者自身の強い意志と、他者の善意の支援、そして政治による大きな支援体制が必要ということを、この作品は改めて気づかせてくれました。

タイトルの「起返(おきかえり)」とは、荒廃した土地の植生が甦ることの意味。

目次■序 富士、噴火す/一章 闘いの始まり/二章 砂と水/三章 救済、遠く/四章 新しい道/五章 村々の軋み/六章 一歩また一歩/七章 木立起返

装丁図版:表1:「富士山宝永噴火之絵」(滝口文夫氏所蔵)、表4:「富士山宝永噴火絵図 夜乃景気」(個人所蔵)<静岡県立中央図書館歴史文化情報センター資料提供>
装丁:芦澤泰偉+五十嵐徹
時代:宝永四年(1707)11月23日
場所:駿河国御厨須走村、駿河国御厨大御神村、相模国足柄上郡班目村、江戸雉子橋、相模国東海道酒匂宿、江戸馬喰町、相模国足柄上郡怒田丘陵、江戸虎ノ門、江戸城表御殿、ほか
(PHP研究所・1900円+税・2015/01/27第1刷・413P)
入手日:2015/01/15
読破日:2015/02/24
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