鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行 一


鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行 一
鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行 一
(きだまりのやみ すろうにんはんしろうひゃっきやこう1)
芝村凉也
(しばむらりょうや)
[ホラー]
★★★★☆☆

著者の芝村凉也(「凉」の偏は「にすい」)さんは、『春嵐立つ 返り忠兵衛江戸見聞』で双葉文庫からデビュー。「返り忠兵衛」シリーズは、魅力的な主人公、端正な文章で綴られる本格武家時代小説として、好評を博して、2014年1月時点で12巻まで進んでいる。

本書は作者の第2シリーズの第1作めとなる。本格派の武家小説の書き手と目された作者が今回選んだ題材は、意外なことに江戸の怪異を扱ったホラー時代小説。どんなストーリー展開になるのか、興味津々のうちに読み進める。

「鬼溜まりにございますれば」
「きだまり……」
 老人は、樹の幹を眺め上げるように見やった。
 
(『鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行 一』P.32より)


物語の冒頭で、主人公の半四郎は、自暴自棄になり辻斬りまで考えたが、思い直して腹を切ろうとする。その場所は、鬼溜まりで、鬼火すら捕まってしまうという。そしてそこで、怪異を祓う、謎の老人聊異斎と連れの子供捨吉に出会う。

 咄嗟の行為であったが、他にやりようがあったかと言えば、ないであろう。あのように変じた者を、この世に連れ帰ることもできぬ。全てを元に戻せるわけではない――それは、聊異斎が言った通りだ。が、あの者は、あのような世界に独り取り残され、守るべき者も失って、これよりどうするのであろうか。

(『鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行 一』P.122より)


初めて鬼を斬った後、半四郎は、強い自省の念に駆られる。能天気に人を斬りまくるスーパーヒーローよりも、血の通った主人公のほうに共感が持てる。

第二話の「表裏の家」は、物語が独創的で、かつ怪異性も有し、かつ上質のミステリーに仕上がっていて秀逸。


 散々思い迷った末に旧藩の上屋敷へ己から押しかけて行ったのも、仇と狙われてはいないと知らされたものの先行きが全く見えずに憔悴していたのも、大元を突き詰めればこれからの活計の目途が全く立たぬことに起因していた。下世話な言い方をすれば、身を立てる術を知らぬ浪人者が、明日米櫃の底が見えることを懼れていたのである。
 
(『鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行 一』P.144より)


主人公のこんなところにも、共感してしまう。

「なに、先頃刀の研ぎを頼んで回ってる怪しい素浪人がいるって小耳に挟んでな。その上、ちょっと探ってみりゃあ、そこの寺の境内で、毎日おっかねえ顔して真剣振り回しながら、独り稽古してる野郎だっていうじゃねえか。そりゃお前、面ぁ拝みに来て当然だろうよ」

(『鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行 一』P.172より)


半四郎は、北町同心の愛崎に辻斬りの聞き込みをされるが、すぐに疑いは解かれて、一緒に犯人捜しを始めることになる。

この辻斬り犯人とのチャンバラによる対決が圧巻。

――生きていてもよいのか。この江戸で。

(『鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行 一』P.303より)


第五話では、半四郎は、長屋で知り合った母娘に肩入れし、女たちを次々に毒牙にかける悪用人の醍醐秋成を斬る決意をする。半四郎には、かつて許嫁同然に思っていた志津に対して、何もしてやれなかった自分の不甲斐なさに引きずっていた。

文庫書き下ろしスタイルでデビューした新進作家にとって、最も難しいのは第2シリーズかもしれない。読者や出版社から、自身に対する評価や印象が決められてしまう。

芝村さんは、江戸怪奇譚というスタイルをとりながらも、「返り忠兵衛」シリーズ同様に、読み味の良さを生かし、見事に第2シリーズ「素浪人半四郎百鬼夜行」を開幕させることに成功した。次回作が待ち遠しい。

芝村作品をもう少し読みたくなったところに、折よく本書に双葉文庫と講談社文庫のコラボのしおりが入っていて、「返り忠兵衛」シリーズのリストが付いていたので、4巻目『風花躍る』と5巻目『雄風翻く』を注文した。

主な登場人物
榊半四郎:奥州の小藩の下級藩士だったが、今は浪人の身。元の名は神之木二郎左
際野聊異斎(みぎわのりょういさい):謎の老人
捨吉:聊異斎の連れている子供
喜勢屋佐久右衛門:呉服屋の主人
お清:喜勢屋の子守
浦山高則:藩の重臣の長男
叶屋徳右衛門:刀剣商の主
愛崎哲之進:北町奉行所臨時廻り同心
丹兵衛:大家
道明:慈眼寺の住職
お千:半四郎と同じ長屋に住む後家
お行:お千の娘で、淡雪という名の女郎
醍醐秋成:渡り用人

物語●
「鬼火」 重臣の長男を打ち倒した末に藩を追放された榊半四郎は、先が見えないことへの怖れと不安、絶望の末に江戸の町をさまよう。青梅街道沿いの雑木林で腹を切ろうと決意した瞬間、視線の先で火の玉が揺らめくのを見る。
その場に現れた謎の老人・際野聊異斎にあなた様には怪異を祓う力があるといわれ、退治を請われる……。

「表裏の家」 喜勢屋の生まれたばかりの子・太一が子守のお清と一緒に、家の中で家人が見ている前で姿を消えてしまい、家中、くまなく捜してもどこからも見つからなかった。主人の佐久右衛門は、聊異斎に消えた息子を探すように依頼した……。

「刀商叶屋」 半四郎は、研ぎに出す刀の代わりを探しに、神田の刀剣商叶屋を訪れる。二束三文の数打ち(量産品)の前で、気になる一振りに目が止まった。一両二分の代金を払って求めようとすると、店の奥から番頭が出てきて、その刀は売れぬという……。

「剣鬼」 半四郎の長屋に、北町奉行所の同心・愛崎哲之進がやってきて、差料を見せてほしいという。二日前に、ある剣術道場の道場主が辻斬りに遭って屍骸で見つかったという。しかも、道場主の刀にも血脂が残り、屍骸とは別のところに血溜まりもあったという……。

「初雪女郎」 半四郎と同じ長屋に住む後家のお千は売春の噂があるうえに、娘のお行を牛込赤城下の女郎屋に身売りをさせていた……。

目次■第一話 鬼火/第二話 表裏の家/第三話 刀商叶屋/第四話 剣鬼/第五話 初雪女郎/解説 縄田一男

カバー装画:あべちほ
カバーデザイン:内山尚孝(next door design)
解説:縄田一男
時代:田沼意次の時代
場所:青梅街道関村、内藤新宿、四谷御門外、芝の田町、神田佐柄木町、等覚寺門前、ほか
(講談社・講談社文庫・640円+税・2014/01/15第1刷・309P)
入手日:2014/01/14
読破日:2014/01/15

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