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菜の花の沖 新装版(一)~(六)

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菜の花の沖 新装版(一)~(六)菜の花の沖 新装版(一)~(六)
(なのはなのおき)
司馬遼太郎
(しばりょうたろう)
[経済]
★★★★☆

2000年12月からのNHKドラマ放送が決まった司馬さんの名作。大きな活字の新装版で新登場。6巻まであって先延ばしにしていたが、小野利明さんの力強い画に勢いを得てGet!
全6巻という長篇ということもあり、巻数ごとに、テーマが違っており、いろいろな色をもつ小説になっている。1巻目では、嘉兵衛の青春と人間形成の過程を瑞々しく描いている。

若衆宿という、独身の若者が、大人社会に出て行くための準備の訓練をする組織が、物語の中で重要な役割(嘉兵衛という人間形成)を果たす形で描かれていて興味深い。
2巻目と3巻目では、冒険商人として、また船乗りとして、飛躍する嘉兵衛がロマンあふれる筆致で描かれている。

四巻目では、蝦夷地に本拠を移し、公人(幕府の立場)としての意識が芽生え、蝦夷人へ接し始めた嘉兵衛が登場する。

4巻目の半ば頃から、作者の歴史雑感が随所に見られるようになり、5巻目ではほとんどの箇所が、歴史的事象の記述と著者の歴史論について触れたものとなっていて、歴史小説としては、異例の形式をとるようになる。

高田屋嘉兵衛がロシア船に拿捕され、カムチャッカへ抑留され、日本に戻って来るまでが描かれている。作者の歴史雑感部分は、第5巻目に比べ減っているが、この巻を読むと、1~5巻目までのテーマや描写の必然性がよく理解できる。

長く続きすぎた平和の中で、官僚化し、卑小になっていた幕臣たち比して、嘉兵衛の傑出した国際感覚と、出処進退の見事さが対照的で、ヒーロー性を高め、物語の面白さを増している。嘉兵衛の特異な性格を、大好きな浄瑠璃語りに由来するものと看破した作者の視点が面白い。幕臣が泰平の世の中で失った武士の心を、庶民が浄瑠璃で描かれる物語の中の武士の像を大切にして、頭に刻み込んできたというところに、歴史の皮肉さを感じる

物語●(一)江戸後期、貧家に生まれた嘉兵衛は、十一歳のとき、遠縁で漁師相手の商売をしている和田屋喜十郎という都志浦の新在家で、賃金なしの住み込み奉公をすることになった…。(ニ)淡路島を出た嘉兵衛は、兵庫の廻船問屋堺屋喜兵衛のもとで船乗りとして、実績を積んでゆく。兵庫を代表する廻船問屋北風壮右衛門貞幹や、帆布などの発明で知られる廻船問屋工楽松右衛門とも知り合うことになる…。(三)秋田・土崎で日本一の大船・辰悦丸を建造した、嘉兵衛は、高田屋を名乗り、蝦夷の海をめざすことになる…。(四)幕府は北辺の警備の強化のために、東蝦夷地(箱館から知床半島)を松前藩より借り上げた。高田屋嘉兵衛は、幕臣の三橋藤右衛門と高橋三平と協力して、場所制の悪弊を廃し、漁場の公儀による直捌き(直営)を進めた…。(五)嘉兵衛は、蝦夷地御用掛首座の松平信濃守忠明の巡察航海の船頭を務めた。属僚をひきつれ、東蝦夷地をまわってエトロフ島までゆき、さらに足をのばしてウルップ島に上陸し、ロシアの南下事情を現地で確かめたいという。その座乗船・柔遠丸には、間宮林蔵も乗っていた…。(六)ロシア海軍のリコルド少佐は、前艦長ゴローニン少佐以下、日本に捕らえられた乗組員たちの救出を目指して、軍艦ディアナ号で、クナシリ島の近くまでやってきた…。

目次■都志の浦/潮騒/瓦船/網屋のおふさ/妻問い/村抜け/兵庫/海へ/樽廻船/春の海/出船/潮路/あとがき(以上第1巻)|北風の湯/松右衛門/オランダ船/熊野鰹/北風荘右衛門/大灘/薬師丸/松前の夢/北前/和田岬/あとがき(以上第2巻)|嘉兵衛の海/春疾風/辰悦丸/松前/箱館/野菊の浜/寛政十年/蝦夷地の月/春信/あとがき(以上第3巻)|波涛/重蔵/三筋の潮/火山島/択捉島雑記/帰帆/東の大灘/転変/択捉十五万石/あとがき(以上第4巻)|林蔵/高田屋雑記/ロシア事情/続・ロシア事情/レザノフ記/カラフト記/暴走記/ゴローニン/嘉兵衛船/あとがき(以上第5巻)|遭遇/北へ/カムチャツカ/冬営/無明/流氷の海へ/泊村の海/日本陣屋/展開/箱館好日/晩霞/あとがき/解説 谷沢永一(以上第6巻)

イラスト:小野利明
デザイン:大久保明子
解説:谷沢永一
時代:(一)十一歳のとき(1790年ごろ)。(ニ)、(三)寛政四年。(四)寛政十一年。(五)享和元年(1801)。(六)文化九年(1812)。
場所:(一)淡路島・都志の浦、大坂・安治川、兵庫の西出町、長門国角島、伯耆国八橋、江戸品川ほか。(ニ)長崎、熊野、那珂湊、宇竜、酒田、秋田ほか。(三)秋田・土崎、箱館、松前、アッケシほか。(四)ネモロ、クナシリ島、フルカマップ、エトロフ、ナイホ、野辺地ほか。(五)兵庫、箱館、イルクーツク、ペテルブルク、長崎、カムチャッカほか。(六)クナシリ、ペトロパヴロフスクほか。
(文春文庫・各552円・00/09/01第1刷・(一)403P、(ニ)430P、(三)426P、(四)400P、(五)421P、(六)421P)
購入日:00/09/02
読破日:01/09/10

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