天地に愧じず 御算用日記


天地に愧じず (光文社文庫)
天地に愧じず 御算用日記
(てんちにはじず ごさんようにっき)
六道慧
(りくどうけい)
[痛快]
★★★☆☆☆

文庫書き下ろし。幕府御算用者・生田数之進が他藩に潜入して活躍する痛快時代小説シリーズ第二弾。

幕府御算用者で他藩に潜入する隠密任務とはいえ、幕府が目論む大名家を改易や減封のためではなく、諸藩を潰さないようにいろいろ画策していた。これは、大名と旗本の両方を自由に取り締まれるという役目、両目付の鳥海左門の考えによる。問題を抱える藩に対して、潰さないために裏で画策する隠密ということで、その活躍ぶりが痛快である。

今回数之進が潜入する、播磨国高野藩朋坂家は架空の藩だが、同じ播磨国にあった龍野藩脇坂家をモデルにしている。名前が似通っていること、五万三千石の譜代大名で、寛文十二年に初代藩主が入封したことなどから明らか。八代安董は長年寺社奉行を務めたことで知られ、「五万石でも脇坂様は花のお江戸で知恵頭」と謳われる。藩校「敬楽館」を開いたのも彼である。

また、今回、数之進の三番目の姉・三紗が活躍する。大食らいで、実家の厄介者だった三紗が、江戸の蕎麦屋で食べ比べをするシーンが圧巻。その姿を見て、弟子入りを願う女の子も登場する。

「無茶をなさらずとも、姉様の勝利は決まったようなものでございます。あとはゆっくりとお食べになられた方がよいのでは……」
「わかりませぬか、数之進。これは単なる食べ比べではありません。わたくしとこのお方の『心くらべ』なのです。口出し無用、石町の鐘が七つを知らせるまで、戦いは続くのです」
 三紗の言葉を聞き、止まっていた男の箸がふたたび動き始めた。女子に『心くらべ』と言われては引きさがれまい。まんまと策に乗せて、三紗はほくそえみながら、四十六杯目を食べ終えた。

(『天地に愧じず』P.38より)


 これでやっと解放される。一角は木刀を地面に置き、立ちあがって、また頭をさげた。くるりと向けたその背に、利光が言葉を投げる。
「一角。『俯仰天地に愧じず』、われらの心には一点の曇りもない」
 はっと胸を衝かれた。抜け荷のことを指しているのは言うまでもない。

(『天地に愧じず』P.292より)


タイトルの「(俯仰)天地に愧じず」は、仰いで天に愧じず、俯して地に愧じずのこと。つまり、天の神に対しても、地の神に対しても、何ら恥ずべきところがないことの意味。「孟子」の言葉。

高野藩に潜入して、藩をあげて抜け荷に関わっているのではないかという疑念をもった、公儀隠密の早乙女一角に対して、家老の嫡男で側小姓頭の新藤利光が言った言葉がこれ

主な登場人物
生田数之進:幕府御算用者
冨美:数之進の二番目の姉、着道楽
三紗:数之進の三番目の姉、食道楽
早乙女一角:武芸十八般で、幕府御算用者の用心棒
彦右衛門:絵双紙屋『にしき屋』の主で、大屋
鳥海左門:『夜鴉左門』と呼ばれる、両目付
村上杢兵衛:徒目付組頭
朋坂淡路守安政:播磨国高野藩五万三千石の藩主
三好道与:高野藩勘定頭
三好市郎太:道与の嫡男
新藤利貞:高野藩江戸家老
新藤利光:利貞の嫡男で、側小姓頭
お由宇:利貞の娘で、利光の妹
由利:お由宇の母
中井邦行:高野藩勘定方の藩士
沢田::高野藩勘定方の藩士
塚田惣治:隻眼の蛇の異名を持つ、備中川上郡の銅山師
渡邊英之:三紗に『心くらべ』の勝負を挑む尾州牢人
多恵:三紗に弟子入り希望の11歳の娘
伝次郎:柳原河岸の古道具屋の主
北川:蚊帳と畳表を手広く日本橋の大店で江州商人
伊兵衛:一角の兄で、北川の嫡男
松平信明:『寛政の遺老』と呼ばれる老中

物語●幕府御算用者の生田数之進は、姉が作った借金を返済するために、両目付鳥海左門の命を受けて、播磨国高野藩朋坂家に勘定方として潜入する。
数之進が潜入した江戸上屋敷は、家老派と勘定頭の三好派に分かれて藩士も二分されていて、一触即発の険悪な雰囲気が漂っていた。家老派は現藩主を推し、三好派は弟君を推している。
数之進の親友の早乙女一角も、殿様付きの側小姓として同じく上屋敷に潜入していた。しかし、奉公して十日あまりが立つが、未だに藩主の朋坂淡路守安政に会っていないという……。
藩を二分する対立、人前に姿を見せぬ藩主、そして、藩邸に出入りする隻眼の大男、謎は深まるばかり。

目次■序章/第一章 心くらべ/第二章 弟子志願/第三章 暖簾師/第四章 隻眼の蛇/第五章 ままこだて/第六章 焼接屋/第七章 見切り千両

カバー:村上豊
時代:文化七年(1810)三月
場所:本材木町、芝口一丁目の高野藩藩邸、柳原河岸、深川蛤町、室町二丁目、本所相生町、江戸浦、麻布村近く、ほか
(光文社・光文社文庫・629円・2005/09/20第1刷・368P)
入手日:2012/06/09
読破日:2012/07/04

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