妻恋日記 取次屋栄三


妻恋日記 〔取次屋栄三〕 (祥伝社文庫)
妻恋日記 取次屋栄三
(つまこいにっき とりつぎやえいざぶろう5)
岡本さとる
(おかもとさとる)
[痛快]
★★★★

武家と町人との間の揉め事を解決することを生業にする、取次屋秋月栄三郎の活躍を描く、人情味豊かな痛快時代小説シリーズの第六弾。

「頼み甲斐のある弟子を持って、真に幸せじゃ」
「いえ、剣を疎かにしてやくざな暮らしを送る不肖の弟子と恥じておりまする」
「何の、剣一筋に生きて来たこの身が、人生の終わりにさしかかって、何やら生きることに潤いを覚えるようになった。おぬしのお蔭じゃ」

(『取次屋栄三 妻恋日記』「第三話 父帰る」P.226より)


第三話の「父帰る」で、栄三郎は気楽流の剣の師匠岸裏伝兵衛から、旅先で出会った名人気質の鋳物師伊兵衛が家に戻れるように橋渡しをするように頼まれる。そのときの伝兵衛と栄三郎の会話のシーン。

このシリーズの美点は、現代では希薄になりつつある、人の情をさまざまな形で描いている点である。今回もいろいろなストーリー展開で、人情を描いていて、いずれも読み味がよい。人情を示すと言っても、単に人に対して、ベタベタ甘くしたり、親切にすればいいわけではないので、実はその加減やタイミングが難しい。

本編の栄三郎は、実に見事に人情味を発揮し、周りの人間をその世界にうまく巻き込む。たとえば、第一話の「奴凧」では、栄三郎は、周囲が持て余すような生意気盛りの若者・貴三郎に、貧しくもけなげに暮らす人足一家の生活ぶりを見せ、人足の生活を体験することで、世間の仕組みを教え、人情を教え、大人への成長を促している。

主な登場人物
秋月栄三郎:京橋水谷町にある“手習い道場”の師匠
松田新兵衛:栄三郎の剣友で、気楽流の達人
岸裏伝兵衛:気楽流の剣の師匠
雨森又平:元軽業芸人で、栄三郎の一番弟子
田辺屋宗右衛門:大店の呉服商で、手習い道場の地主
お咲:宗右衛門の娘で、栄三郎の剣術道場の弟子
お染:居酒屋“そめじ”の女将
こんにゃく三兄弟:霊岸寺のこんにゃく島でよたっていた、勘太、乙次、千三の三人組
留吉:大工で栄三郎の弟子
安五郎:留吉の兄貴分の大工、栄三郎の弟子
駒吉:又平の昔なじみで、屋根葺き
前原弥十郎:南町奉行所同心
河内山宗春:御数奇屋坊主
永井勘解由:三千石の旗本
松乃:勘解由の奥方
雪:勘解由の娘
房之助:永井家の養嗣子
萩江:房之助の実姉
深尾又五郎:永井家の用人
おかる:永井家の女中
お豊:永井家の女中
椎名貴三郎:松乃の甥
竹山国蔵:馬庭念流の遣い手
お文:川普請の人足小屋を兼ねる掘建て小屋に住む娘。十五、六歳
和太郎:お文の弟で、七つ。凧上げが楽しみ
お時:お文と和太郎の母で、人足として働く
六造:人足
権兵衛:口入屋の主
熊吉と吉松:口入屋の若い衆
広西丹左衛門:普請下奉行
都筑助左衛門:元南町奉行所定町廻り方同心
都筑慶二郎:助左衛門の息子で同心
鈴:助左衛門の亡くなった妻
鉄五郎:煙管師
前田直太郎:鈴に昔、求愛した男
河波小五郎:深川清住町の剣術道場の隠居
直助:駒込の一膳飯屋“鈴乃屋”の主
小一郎:直助の息子
梓屋甚七:博奕打ちの鬼火の五郎蔵の右腕で、楊弓場の主
仙蔵:築地南小田原町の鋳物師
お七:仙蔵の妹
伊兵衛:仙蔵とお七の父で、名人と謳われた鋳物師
益右衛門:古道具屋“中黒屋”の主
友蔵:聖天町の質屋“丸友”の主
次兵衛:田辺屋大番頭
松太郎:宗右衛門の子で、田辺屋の総領息子
清吉:田辺屋の手代
おはな:栄三郎の手習い子
おゆう:おはなの母親で、田辺屋に住み込みで働く
万蔵:田辺屋の中番頭

物語●
「奴凧」三千石の旗本永井勘解由の奥方松乃の甥・椎名貴三郎は、生意気を絵に描いたような、粗暴な振る舞いが目立つ若者。空から落ちてきた奴凧に額に傷をつけられ、奴凧の主を怒っていた。ところが、その凧には“にんそくごやのみなをおたすけください”と、子どもの手による文字が書かれていた…。

「妻恋日記」都筑助左衛門は、去年、長年務めた南町奉行所での廻り方同心の御役を息子の慶二郎に譲り、今では隠居暮らし。亡くなった妻・鈴が生前書き遺した日記を読み、そこには衝撃的なことが認められていた。鈴は助左衛門と夫婦になる前に、直太郎という男に求愛されていた…。

「父帰る」鋳物師の仙蔵は、縁談の決まった妹のお七と二人暮らし。二人の父・伊兵衛は、女房のお仲と二人の子を置いたまま旅に出て、そのまま帰ってこなかった。伊兵衛が家を出て五年目にお仲は風邪をこじらせて亡くなっていた。十五年ぶりに、伊兵衛が兄妹の前に姿を見せるが、父親嫌いの兄仙蔵は、親父は十五年前に死んでいると追い返す…。

「年の瀬」田辺屋から仕事をもらっているこんにゃく三兄弟は、海賊橋の袂の草むらで、紫色の袱紗包みに入った百両の金子を見つける。三人は喜び勇んで百両を天から授かり物と頂くことにした。一方、堅物を絵に描いたような田辺屋の番頭次兵衛が、夜な夜な佃辺りで大尽遊びをしている噂話をお染は栄三郎に伝えた…。

目次■第一話 奴凧|第二話 妻恋日記|第三話 父帰る|第四話 年の瀬

カバーイラスト:蓬田やすひろ
カバーデザイン:長谷川正治
時代:明示されていないが、前作が文化三年(1806)梅雨時から始まっているので、同年の秋か
場所:本所石原町、京橋水谷町、諏訪町、京橋鈴木町、八丁堀、京橋東詰、湊稲荷社、日本橋本銀町、出世稲荷脇、駒込吉祥寺、築地南小田原町、住吉町、馬喰町、練塀小路、日本橋呉服町、海賊橋、深川佃、ほか
(祥伝社・祥伝社文庫・619円・2012/06/20第1刷・301P)
入手日:2012/07/30
読破日:2012/08/10

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