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夜鳴き蝉 剣客太平記

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夜鳴き蝉 剣客太平記夜鳴き蝉 剣客太平記
(よなきぜみ けんかくたいへいき)
岡本さとる
(おかもとさとる)
[剣豪]
★★★★☆

若き直心影流道場主の峡竜蔵(はざまりゅうぞう)が活躍する痛快剣豪小説『剣客太平記』シリーズの第2弾。

第二話のタイトルに付けられた、「ぼうふり」は、“棒振虫”つまり蚊の幼虫のこと。庄太夫の子供のころのあだ名が付けられている。また、第三話の「まげかけ」とは、女髷の髻(もとどり)に装飾用にかけ結ぶ布きれのこと。シュシュのようなものか。

もう一つの人気シリーズの『取次屋栄三』でも「こうくり」という登場人物の子供のときの思い出をもとにした、話が描かれている。

岡本さんの時代小説が読んでいて、ほっこりとした温かい気持ちにさせられるのは、こうした子供のときの思い出を大切にした話を時折交えているからかもしれない。

弱きを助け、強きを挫くが、ヒーローの基本だが、子供のころ、苛めた記憶を大人になって清算しようというヒーローはそういるもんじゃない。悪いことを悪いという、少し前の人なら当たり前のことが、失われているように思われる現在だからこそ、『剣客太平記』の世界が懐かしく、大切なものに思えるのかも。

こんな愛すべき主人公竜蔵だからこそ、彼を取り巻く人物との交流が楽しく、読み味のよい物語になっている。

「先生は、立派な剣客にお成りになる身。いちいちわたしなんぞのために……」
「いや、この先、門弟が三千人を数えようとも、おれは庄さんのことを苛めるような奴がいれば、そいつを許さねえ。そのかわり庄さん、おれに、この若造の峡竜蔵に知恵を貸しておくれな。どうせこの先、いつも一緒にいるんだ。持ちつ持たれついこうじゃないか」
(『夜鳴き蝉』「第二話 ぼうふり」P.141より)

主な登場人物
峡竜蔵:三田二丁目の直心影流剣術道場主
峡虎蔵:竜蔵の父
志津:竜蔵の母
中原大樹:国学者で、竜蔵の祖父
お才:竜蔵の幼なじみで、常磐津の師匠
お園:お才の母
竹中庄太夫:浪人で、竜蔵の一番弟子
神森新吾:貧乏御家人の息子で、竜蔵の弟子
清兵衛:芝神明の見世物小屋“濱清”の主
安:“濱清”の若い衆
沢村直人:竜蔵と同門の朋輩
綾:兄弟子森原太兵衛の娘
加治木軍兵衛:出羽の小大名・舟形家剣術指南役
お葉:高輪の茶屋「まつや」の女将
真砂屋由五郎:庄太夫の幼なじみのがき大将、口入屋
おまつ:竜蔵の幼なじみ
九兵衛:おまつの伯父で、上野山下でそば屋を営む
嘉兵衛:神田相生町“嘉兵衛店”の大家
春吉:“嘉兵衛店”に住む錺職人
助七:竜蔵の幼なじみで、大工
梅次:竜蔵の幼なじみで、左官
吉次:廻り髪結い
宅間大炊介:千五百石の旗本
海老原林右衛門:宅間家の用人
夏目仙四郎:宅間家の奥用人
三郎兵衛:下谷上野町一丁目の筆墨硯問屋“河田屋”の主人
お文;“河田屋”の娘で、お才の幼なじみ
佐原信濃守康秀:大目付
眞壁清十郎:佐原家の側用人

物語●「第一話 夜鳴き蝉」暑くどこかで蝉が鳴いている夜、峡竜蔵は、三人組の武士と一人の浪人の刀による争闘の場に遭遇する。仲裁に入ったものの、浪人の剣技は竜蔵を凌駕するものだった…。

「第二話 ぼうふり」竜蔵の一番弟子の庄太夫は、高輪の茶屋で、子供のころにいつも苛められていた、がき大将の由五郎と再会した…。

「第三話 赤いまげかけ」出稽古の帰りに竜蔵は、“赤いまげかけ”の七つか八つぐらいの女の子を見かける。それ以来、竜蔵の様子がおかしくなった。常磐津の師匠お才、峡道場の門人の庄太夫と新吾は、竜蔵を案じて集った…。

「第四話 宿下がり」お才の幼なじみのお文が、奥奉公先の旗本・宅間大炊介の屋敷の庭で首を吊って死んだという。その死に不審を抱いたお才は、竜蔵と真相を探ることに…。

目次■第一話 夜鳴き蝉|第二話 ぼうふり|第三話 赤いまげかけ|第四話 宿下がり

装画:浅野隆広
装幀:五十嵐徹(芦澤泰偉事務所)
時代:寛政十一年(1799)夏
場所:新堀川沿い、三田二丁目、赤坂清水谷、原宿村、目黒廣尾原三本桜、芝神明参道、芝横新町、泉岳寺門前、三田同朋町、牛町、芝田町二丁目、神田相生町、上野山下、根岸、湯島天神の戸隠社、橋場鏡ヶ池、ほか
(角川春樹事務所・ハルキ時代小説文庫・600円・2011/11/18第1刷・289P)
入手日:2011/11/18
読破日:2012/01/30

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