遊び奉行


遊び奉行
遊び奉行
(あそびぶぎょう)
野口卓
(のぐちたく)
[武家]
★★★★☆☆

軍鶏の美しさに魅せられ、軍鶏の飼育を道楽にし、その闘う姿から秘剣を編み出した、剣客の岩倉源太夫が活躍する『軍鶏侍』。それと同じ、南国・園瀬を舞台にした武家小説。

 初代藩主至隆の造営になる馬蹄形の大堤防が、花房川を山際に押しやり、その内懐に肥沃で広大な水田地帯を抱きかかえていた。はるか北西には城山があり、天守閣が聳え、ゆるやかな扇状の斜面に城下町が展開している。
 イロハ峠から、そして移動しながらでは、常にその一部しか見えなかったが、堤防からは園瀬の里の全貌が見渡せた。
 盆地は麦秋を迎え、揺れ動く穂並みがまるで大海の波のようであった。風に吹かれ、茎や葉の濃い色と、明るい穂の色が交互に現れながら、盆地を移動してゆくように見える。
 すでに刈り取られた麦畑もあり、随所に散見できる緑あざやかな苗代が、田植えが近いことを示していた。
 
(『遊び奉行』P.19より)


主人公の永之進が、初めて園瀬入りをするシーンで、園瀬の里の美しさが描写されている。『軍鶏侍』シリーズを読んでいると、架空のはずの園瀬藩の風景が目の前に広がってくる。かつて作家の井上ひさしさんが、藤沢周平さんの時代小説を読んでいるうちに、海坂藩の地図を描いてしまった話を何かで読んだことがある。この作品も、紙と鉛筆があったら、園瀬の簡単な地図を書いてみたくなる衝動に駆られる。

 家老職が健康に恵まれ仕事に支障がない場合、裁許奉行の本来の職務は月に一度、町奉行や郡代奉行の手に負えない、庶民あるいは士卒と陪臣の訴訟を裁決し、またねがいに対して許可を与えるということで、役名もそこから採られていた。
 禄が高いにもかかわらず月に一日の勤めでよいため、遊び奉行と羨ましがられ、めったに公務の席に出ないことから蔭奉行とも呼ばれるが、仕事である以上楽はできない。

(『遊び奉行』P.149より)


「遊び奉行」という職務の設定も絶妙だが、若き主人公が、処罰を受けるまでのくだりの描写も、スリリングで面白い。

途中まで読んでいくと、この物語が『軍鶏侍』の冒頭につながる話であることに気がつき、共通の登場人物もいて、いっそう興趣が湧いてくる。プレ「軍鶏侍」といった趣きがあり、ファンにはうれしいところだ。

主な登場人物
亀松:園瀬藩主斉雅の長子で、妾腹の子。元服して永之進、後に一亀を名乗る
千代松:亀松の子で、正室の子
九頭目斉雅:園瀬藩十二代藩主
稲川八郎兵衛:園瀬藩筆頭家老
安藤備後:園瀬藩次席家老
広田学:園瀬藩江戸家老
九頭目伊豆:園瀬藩家老
美砂:伊豆の娘
九頭目甲斐:園瀬藩家老
飯森庄之助:亀松の学友
桔梗:料理屋「花かげ」の手伝いの女
幸六:羽織師
相田順一郎:同心
芦原弥一郎:目付
日向主水:日向道場道場主
的場彦之丞:御側用人
松本作蔵:裕福な百姓で俳諧の宗匠
清蔵:加賀田屋の大番頭
岩倉源太夫:日向道場の弟子

物語●
側室の子ながら、利発でおだやかな性格、文武にも優れる、十六歳の亀松は、父で園瀬藩主の九頭目斉雅から江戸藩邸上屋敷に呼び出された。父から、藩政を牛耳る筆頭家老稲川八郎兵衛を抑えるために、弟の千代松を次期藩主に就かせて油断させ、家老の家に養子入りして、千代松と力を合わせて政を正してほしいと願われた……。

家老に就くべくお国入りした直後、藩一番の暴れ馬を手なずけたことから、藩政に不満を抱く若侍たちの期待を集める永之進。ところが、武家には御法度で見ることさえも禁じられている盆踊りに、頬かむりをして踊っていたことが露見し、裁許奉行に落とされてしまう……。

目次■なし

装画:北村さゆり
装幀:芦澤泰偉
時代:明記されず
場所:江戸、園瀬(架空)、ほか
(祥伝社・1700円・2012/12/10第1刷・361P)
入手日:2013/10/25
読破日:2013/11/06

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