襖貼りの縊り鬼 浮世の同心 柊夢之介


襖貼りの縊り鬼 浮世の同心 柊夢之介   (ポプラ文庫)
襖貼りの縊り鬼 浮世の同心 柊夢之介
(ふすまはりのくびりおに うきよのどうしん ひいらぎゆめのすけ)
野火迅
(のびじん)
[捕物]
★★★★

文庫書き下ろし時代小説。

北町奉行所の本所深川方の定廻り同心柊夢之介が活躍する捕物小説シリーズ第一作。夢之介は、華奢な体で、当時の歌舞伎役者坂東三津五郎似の優男ながら、心極流小太刀術の名手。(心極流小太刀は、藤沢周平さんの『たそがれ清兵衛』に収録された「かが鳴き半平」の得意技でもある。)その見かけによらず、江戸言葉を駆使した伝法な口説で、粋な浮世男。

作者の野火迅さんは、『使ってみたい武士の日本語』で知られる、江戸語の専門家。というわけで、本作でも随所に江戸言葉がポンポンと飛び出してくる。

「旦那、けつの穴のせめえことを言っちゃあいけません。十六の娘っこが、目の前で父親を殺されたんだ。気持ちは乱離骨灰になっていて、賊の背格好を見分けるどころじゃあねえでしょう。そこんとこを、噛み分けなくっちゃあならねえ」

(『襖貼りの縊り鬼』P.18より)


「旦那は、とんだべらぼうを申されますべい。辻強盗となって女をブスリとやり、金を盗むのを忘れちまうような唐変木が出てくるのは、朝寝坊夢楽の噺くらいのもんですべい」
(『襖貼りの縊り鬼』P.145より)


「こっとら手元不如意で、虎屋の饅頭をごちそうするわけにはいかねえが、落雁だって捨てたもんじゃないよ。遠慮せず、食べておくれな」

(『襖貼りの縊り鬼』P.152より)


ほかにも、「小半入(こなからいり)」や「こうこう、あんまりおひゃってくれるない」(P.50)など馴染みのない表現まで、てんこ盛り。江戸好きにはたまらないところだが、時代小説に慣れていないと多少読みづらいかも。

「旦那は、慈悲がありなさる。ほんに、お役人たぁ思えねえ」
「いやなに、このおれも、いったん役目を離れれば、おまえさんと同類の浮世の住人だからな。慈悲なんてぇ大層なもんじゃなく、同類のよしみでやらせてもらったのさ」

(『襖貼りの縊り鬼』P.235より)


とはいえ、草食系の見かけとは違い、人情味厚い主人公で読み味はいい。

主な登場人物
柊夢之介:北町奉行所本所深川方の定廻り同心
柊右衛門:夢之助の父
蔵六:夢之介から手札をあずかる岡っ引き
猪助:蔵六の下っ引き
新八:紙くず屋で、蔵六の下っ引き
尾形兵庫:南町奉行所同心で、夢之介の竹馬の友
松五郎:兵庫から手札を授かっている岡っ引き
文吉:松五郎の手下
田原権左:吟味方と市中取締掛を兼務する与力
市左衛門:深川一色町の太物問屋森田屋のあるじで、脳の病に冒され、四十三歳にして寝たきりになる
お久:市左衛門の後妻
おみつ:市左衛門の娘
お熊:森田屋の女中
吉兵衛:銀座の両替商大谷屋の隠居
浜夕:吉兵衛の妾
熊吉:浜夕の兄で手間取大工
定次:摺師
おこと:深川佐賀町の船宿武蔵屋の女将
音吉:おことの長男
およね:武蔵屋の女中
伝助:およねの亭主
銀介:松井町の経師屋細木屋のあるじ
勝蔵:細木屋の見習い職人
お虎:深川仲町の岡場所蓬莱屋の遊女
質屋の主
安蔵:質屋の用心棒
甚八:渡り中間
惣兵衛:亀沢町の自身番の書役
清助:幇間
貝原源次郎:元南町奉行所同心で、今は縁日などで文字焼きを売る香具師

物語●深川一色町の太物問屋森田屋のあるじ市左衛門が細紐で縊り殺された。賊は狙いは探幽の掛け軸で、家捜しの跡はなかったことから、下手人探しを始めた北町奉行の本所深川方の定廻り同心柊夢之介は、同じ手口で押し込み強盗の仕業と踏む。
ここ数カ月の間に、細紐で縊り殺した挙句、盗みを働くという手口の殺しが二件、立て続けにに起きていたのだ。同一犯の仕業と確信した夢之介は、岡っ引きの蔵六、幼馴染の同心・尾形兵庫とともに「縊り鬼」と称される下手人探しに奔走する…。

目次■第一章 春の光/第二章 梅に鶯/第三章 仏と鬼/終章 まがきの外

カバーイラスト:瀬知エリカ
カバーデザイン:モリサキデザイン
時代:文化四年正月二十五日
場所:北森下町、深川一色町、南町奉行所、深川永堀町、深川佐賀町、尾上町、千鳥橋、本所亀沢町、北町奉行所、佐賀町下ノ橋、上野山下、上野北大門町、室町三丁目、小伝馬町牢屋敷、千住小塚原、隅田川堤、ほか
(ポプラ社・ポプラ文庫・580円・2011/02/05第1刷・249P)
入手日:2012/07/15
読破日:2012/07/16

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