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幽恋舟

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幽恋舟
幽恋舟
(ゆうれんぶね)
諸田玲子
(もろたれいこ)
[サスペンス]
★★★★☆☆

題材を変えながら、次々書かれる作品がいずれも面白くハズレがない、諸田さんの最新文庫。主人公は、中川舟番所の御番衆を務める旗本ということで、興味をもった。というのも、この夏、江東区にある、中川船番所資料館を訪れたばかりであるからだ。

冒頭で不可思議な事件を描写し、読者をサスペンスに満ちた諸田ワールドへ引きずり込む。主人公・杉崎兵五郎の三十年来の親友に、町奉行所の定廻り同心・大島哲之進(おおしまひろのしん)が登場し、重要な役回りを演じる。『誰そ彼れ心中』を読んだ人には、リンクしているがわかりにやりとする。もちろん、前作を読まなくても単独の作品として完成されているので大丈夫。

兵五郎が強く心惹かれる、平田舟の娘・たけ。先が見えたような人生に朽ちかけた男と、狂気の血筋におびえる若い女の恋を描いた、新感覚のサスペンス時代小説。黒船来航直前、武家の意識も変わりつつある時代を背景に描かれた美しい物語である。しかも飯田藩堀家をめぐるミステリアスな事件も盛り込まれていて興趣のつきない傑作で、ますます諸田ファンになった。

物語●禄高千七百石の寄合旗本杉崎兵五郎は、中川舟番所に勤務している。房総へ往来する船舶を監視する役目だが、太平の世が続き、舟改めの手間は省かれ退屈極まりない任務になっていた。四十七歳になる兵五郎は、無類の海好き、船好きでかつては希望をもって職務に取り組んでいたが、最近は勤務中に居眠りをすることが多くなった。妻には七年前に先立たれ、二人の娘を嫁に出しは十九になる嫡男の舳之助と、家臣らと暮らしていた。その兵五郎は、ある日の早暁、航行の解禁時間の明六ツまではまだ間がある時刻に、血の気の失せた横顔が息を呑むほど美しい若い娘と侍女を乗せた古ぼけた平田舟が、忽然と幽霊舟のように現れ、中川から曲りこみ小名木川を西に向かって漕ぎ進んでくるのを見た。物の怪か――。待ったをかけ、素性を問いたださねばと思ったものの、膝頭がふるえ、声が出ない。もたもたしているうちに、舟は遠ざかっていった…

目次■なし

カバー装画:ゴトウヒロシ
解説:安部龍太郎
時代:嘉永五年(1852)八月
場所:中川舟番所、竹蔵、八丁堀、一石橋、山王社、石町新道、道三橋、百本杭、芝新堀端、一の橋、十番、出雲町、向島、向井将監屋敷、麹町、亀有ほか
(新潮文庫・590円・04/10/01第1刷・407P)
購入日:04/10/05
読破日:04/10/15

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