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蓬莱橋にて (祥伝社文庫)

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蓬莱橋にて (祥伝社文庫)蓬莱橋にて
(ほうらいばしにて)
諸田玲子
(もろたれいこ)
[短編]
★★★★

義父の生家が静岡県島田市にあり、昨夏、大井川にかかる蓬莱橋を渡る機会があった。世界一の木造歩道橋ということで、怖がりな私にはスリルが十分だった。その蓬莱橋をタイトルに入れた作品集ということで、諸田さんのこの短篇集は文庫化の折にはぜひ読みたいと思っていた。

時代小説のアンソロジーに収録された2篇「雲助の恋」は『浮き世草紙 女流時代小説傑作選』(ハルキ文庫)で、「瞽女の顔」は『捨て子稲荷』(祥伝社文庫)で読んでいたが、こうして諸田さんの短篇集の中で通して読むと、いろいろと発見がある。

それぞれの短篇が東海道の静岡県内の宿場を舞台にしている。それは、作者の生まれが静岡で、清水の次郎長の家系というだけではなく、東海道五十三次を辿って行くと静岡県の宿場が最も多いということからにもよるのだろう。

「反逆児」は由比宿が生んだトリックスター由比正雪をめぐる話。「深情け」は同じく東海道を我が物顔でのし歩いたお七里(親藩がお抱えの飛脚者)出身の浜島庄兵衛こと、日本左衛門がらみの話。「旅役者」と「瞽女の顔」の2篇は旅が日常になっている者たちの話。旅が当たり前といえば、渡世人にも共通しているかもしれない。「はぐれ者指南」と「白粉彫り」は、そうした渡世人が出てくる。裏街道のイメージがある上州や甲州ほどではないが、東海道も清水の次郎長をはじめ、渡世人が闊歩した道である。

東海道の難関の一つといえば、越すに越されぬと言われた大井川だが、「白粉彫り」「雲助の恋」「蓬莱橋にて」の3篇は、大井川を挟む島田宿と金谷宿が舞台になっている。昨夏に、島田市の郷土博物館で、川越(かわごし)に関する展示を見たことを思い出した。

いずれも趣きがある作品ばかりだが、とくに「蓬莱橋にて」と「瞽女の顔」が読み味がよかった。

物語●「反逆児」東海道由比宿の本陣前の紺屋に、虚無僧姿の男がやってきた。紺屋の女房・おゆきは、総髪で虚無僧姿の男が昔馴染みで、三十年近く前に出ていった男・弥兵衛であることに気付いた…。「深情け」遠州豊田郡向笠村の豪農の娘・おそよは、豊田郡大池村の豪農の息子 甚七との婚礼の夜、尾張十右衛門こと、浜島庄兵衞率いる盗賊団に押し込みに入られて、体も心を奪われた…。「雲助の恋」菊川から小夜の中山にかけて稼ぎ場とする、雲助・常吉は、金谷宿の招女(おじゃれ)のお栄を一度も買ったことがなかったが、心を惹かれていた…。「旅役者」三島宿の世古本陣の杢兵衛は、紀州家の行列を迎えて喧騒の中、旅役者がタダ飯を食っているのを見つけたが…。「瞽女の顔」瞽女のお菊は、茶屋でいかにも人がよさそうで身なりもこざっぱりした商家の若旦那風の男・吉兵衛と出会った…。「はぐれ者指南」国領屋亀吉を名乗る大親分の仕切る賭場で、兇状持ちの旅をして、国領屋一家に草鞋を脱いだ峯六こと、女のお峯は、寺銭を盗もうとした大男と浪人ものを助けた…。「白粉彫り」かつて博徒の大親分として藤枝を縄張りにして、長楽寺の清兵衛という呼び名で知られた清兵衛が、廓の女郎小町を相手に、背中の白粉彫りについて話をはじめた…。「蓬莱橋にて」今井いわは、夫の信郎と二人、牧之原台地にある初倉村に入植していた。ある日、家の周りに不審な女の姿を見かけた…。

目次■反逆児|深情け|雲助の恋|旅役者|瞽女の顔|はぐれ者指南|白粉彫り|蓬莱橋にて|解説・結城信孝

カバー画:北斎「諸職絵本新鄙形」より
カバーデザイン:芹澤泰偉
解説:結城信孝
時代:「反逆児」慶安四年。「深情け」延享二年。「旅役者」天保十五年。「白粉彫り」弘化四年、明治二十四年。「蓬莱橋にて」明治十一年。
場所:「反逆児」由比宿。「深情け」見附宿。「雲助の恋」金谷宿。「旅役者」三島宿。「瞽女の顔」原宿、沼津宿。「はぐれ者指南」浜松宿。「白粉彫り」駿河国府中、藤枝宿。「蓬莱橋にて」初倉村、蓬莱橋。
(祥伝社文庫・552円・04/04/20第1刷・278P)
購入日:04/04/18
読破日:04/04/24

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