おねだり女房 影十手活殺帖


おねだり女房 影十手活殺帖 (講談社文庫)
おねだり女房 影十手活殺帖
(おねだりにょうぼう かげじってかつさつちょう)
宮本昌孝
(みやもとまさたか)
[痛快]
★★★★☆

『尼首二十万石』、『影十手活殺帖』から続く「影十手活殺帖」シリーズの3作目。表題作のほか、江戸紫の鉢巻と白塗りと隈取りの化粧顔で武家屋敷を侵す盗人助六小僧の正体を追う「助六小僧」、醜女で大年増の料理茶屋の下女がが年下の役者のような優男の板前と恋の行方を描く「長命水と桜餅」、幕府御目付長田三右衛門の妻の悲劇から、御庭番の娘・紀乃のかどわかし事件に発展する「雨の離れ山」の四話を収録。

本書の魅力は、鋭い洞察力を持ちながら、「げにおもしろきは女子、げに愛しきも女子…」と女性への深い愛情のために、寺役人の本分から逸脱してしまう市助の人間臭さ。そんな市助を敬愛し、東慶寺を秘かに護る甲賀忍びの末裔である和三郎のかっこよさ。ある事件を通して知り合った和三郎を慕う御庭番の娘で、凛とした美しさをもつ紀乃。三者三様の活躍ぶりが楽しい。

東慶寺と聞くと、寺内に駈け込めば女の離縁を容易に認めてくれると思っていたが、本書を読むと、駈込女の状況や事情をよくよく吟味して、良人側によほど目に余る悪行でも判明しない限り、できるだけ元の鞘に収まるよう女を説諭することを第一としていたようだ。まあ、そのために御用宿があるのだろう。

本書では享保十二年ごろを舞台にしていて、当時の事件が巧みに物語の中に取り込まれている。「おねだり女房」では、遠江掛川藩三万五千石井伊直朝の減封、越後与板藩二万石への国替で、人生が変わった男が登場したり、「長命水と桜餅」では当時世間を騒がせた白子屋のお熊事件が出てくる。また、「雨の離れ山」では、松本藩水野忠恒の江戸城松の廊下での刃傷事件のことに触れられていて興味深い。

主な登場人物◆
和三郎:東慶寺御用宿をつとめる餅菓子屋平左衛門のせがれ
野村市助:東慶寺の寺役人
平左衛門:和三郎の父
文吉:東慶寺飛脚
村垣吉平:公儀御庭番
紀乃:吉平の娘
植村平七:紀乃の供侍
助六小僧:武家屋敷を専門に狙う盗賊
長吉:浅草田原町二丁目の小間物商恵比須屋の主
さと:長吉の女房
田所重左衛門:松本の剣術道場主
佐知:重左衛門の娘
直助:重左衛門の下僕
田所伊十郎:重左衛門の弟
弥惣次:浅草並木町の銘酒屋播磨屋の主
長太郎:播磨屋の跡取り息子
しま:長太郎の女房
きん:しまの姑
藤:播磨屋の通いの奉公人
卯平:藤の父で、棒手振りの鋳掛屋
とよ:浅草駒形町の料理茶屋「富川」の下女
浅吉:堺町の料理茶屋「才牛」の板前
長田三右衛門:幕府御目付
幸江:三右衛門の妻
よね:下総結城の農夫の女房
酒井頼母:元小十人組・四百五十石
龍四郎:「本亀の龍」と呼ばれる牢人で無住心剣流の遣い手
菅井六兵衛:元松本藩の冷飯食いで牢人
江木万之助:元松本藩の冷飯食いで牢人
桶川郡蔵:松本藩小普請組
阿む:桶川家の下女
五左衛門:信濃筑摩郡大池村の豪農
孫一:五左衛門のせがれ

物語●浅草並木町の銘酒屋播磨屋の跡取り息子の女房しまは、二十歳を超えた人妻なのに、派手な振袖姿で、鉄漿つけもしていない、真っ白な歯をしている。江戸屈指の材木商のお嬢様育ちで、嫁ぎ先の姑きんに厳しくしつけられると、離縁したいと東慶寺に駈け込む。良人の長太郎と義父の弥惣次が迎えにきて、おねだりを条件に帰っていく。その後も都合七回、東慶寺に駈け込む。七度目の駈け込みから半月あまり、しまが何者かにかどわかされる事件が起こる…。

目次■助六小僧|おねだり女房|長命水と桜餅|雨の離れ山|解説 細谷正充

カバー装画・デザイン:南伸坊
解説:細谷正充
時代:享保十二年(1727)
場所:戸塚宿・吉田橋、鎌倉松ヶ岡東慶寺門前、浅草田原町二丁目、駒形堂、堺町、松島町、松本・女鳥羽川沿い、浅草並木町、日本橋照降町、下谷稲荷、田端村東覚寺、浅草諏訪町、長命寺、水戸徳川家蔵屋敷、浅草寺、深川法恩寺裏、戸田川、程ヶ谷、離れ山、信濃筑摩郡大池村、多摩乞田、ほか
(講談社・講談社文庫・552円・2010/03/12第1刷・295P)
購入日:2011/07/15
読破日:2011/11/27

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