おまえさん 上・下


おまえさん 上
おまえさん 上・下
(おまえさん)
宮部みゆき
(みやべみゆき)
[捕物]
★★★★☆☆

同じタイトル・同じ物語で、単行本と文庫本が同時に発売されるという前代未聞の試みがこの作品でなされた。雑誌連載終了後から単行本化まで待たせたから、文庫本で出したいとのこと。それなら、文庫本だけでもいいと思いがちのところだが、『ぼんくら』『日暮らし』と単行本のほうで揃えているファンもいるから、単行本も刊行したというのが出版社の言い分。なるほど。文庫で巻末に解説が入らないのはそのせいか。ともかく宮部さんだから可能な快挙だね。

さて、文庫版で上下巻合わせて1200ページを超える長編を読み終えて、最初に思ったことは、「宮部さんはやっぱり心憎い」というもの。読み手のツボを的確に押してくるから、面白くてヒーヒー言いながら読みしまう。

今回は、“彼に近づく者の人生を変えてしまうほど”罪作りな美形の弓之助に加えて、同じくイケメン家系の兄淳三郎が登場して、物語に颯爽とした風を入れている。途中で登場する医師の助手松川哲秋もイケメンだ。一方、何者かに殺害された新兵衛の家族・関係者は、史乃、佐多枝、おとしはタイプの違う美女たち。そんな人たちに絡むのが新顔の間島信之輔。剣と十手術の遣い手であり、出来物で誠実、凛とした将来性豊かな若者でありながら、大きな弱点があった。この爽快な俊英が残念ながら陽の下に珍しいほどの醜男だった。

この作品ほど、残酷なまでに美醜の対比がされた作品は珍しい。それは恋の儚さ、残酷さにつながっていて、興趣を盛り上げ、大きな効果になっている。

メインストーリーのほかに、弓之助の相棒のおでここと、三太郎の生い立ちの秘密を描いた話や、前作『日暮らし』の後日談、富突きに翻弄される人たちを描いた話などを織り交ぜながら、物語は進む。重層に広がっていった話が終盤収束されていくときの気持ちよさは読書好きにはたまらないところ。

主な登場人物◆
井筒平四郎:本所深川臨時廻り同心
細君:平四郎の妻
小平次:井筒家の中間
間島信之輔:本所深川方廻り同心
伊勢:信之助の母
本宮源右衛門:信之輔の大伯父
弓之助:佐賀町の藍玉問屋河合屋の五男。平四郎の甥
淳三郎:河合屋の三男
お徳:柳原町三丁目南辻橋たもとのお菜屋「おとく屋」のおかみ
おさん:「おとく屋」の女中
おもん:「おとく屋」の女中
政五郎:本所の岡っ引き。「回向院の茂七」の地場を引き継ぐ
お紺:政五郎の女房
三太郎:政五郎の手下。通称「おでこ」
猪次:政五郎の手下で、お紺の蕎麦屋の手伝い
連太郎:政五郎の手下で、鏡研ぎ職人
浅次郎:八丁堀出入りの髪結い
千蔵:花川戸町の空樽問屋玉井屋の主人
おきえ:千蔵の女房
善吉:玉井屋の番頭
六郎:千蔵の又従弟
おひで:菊川町の八百屋八百源の嫁
源八:八百源の隠居
仙太郎:猿江町伍本松そばの十徳長屋の住人
丸助:野菜の棒手振りで、十徳長屋の住人
おてい:入谷の八右衛門長屋に住む
新兵衛:生薬屋瓶屋の主人
史乃:新兵衛の娘
佐多枝:新兵衛の女房
おとし:南本所元町の町役人
村田玄徳:高砂町の町医者
上谷登:玄徳の医療所の代脈
おしん:玄徳の医療所の女中
お駒:玄徳の医療所の女中
栗橋文蔵:南本所元町に住んでいた酒好きの医師
松川哲秋:栗橋医師の助手
幸庵:高橋の医師
藤右衛門:本町三丁目の生薬問屋大黒屋の主人
久助:元調剤人の男
お継:夜鷹
お仲:お継の商売仲間
彦一:料理屋石和屋の筆頭料理人
お六:寡婦

物語●痒み止めの新薬「王疹膏」を売り出していた南本所元町の生薬屋瓶屋の主人が斬り殺された。本所深川同心の井筒平四郎は、将来を嘱望される同心の間島信之輔と調べに乗り出す。検分にやってきた信之輔の大伯父で、八丁堀の変わり者“ご隠居”の本宮源右衛門は、その斬り口が少し前に南辻橋で見つかった身元不明の亡骸と同じだと断言する。両者に通じる因縁とは…。(以上上巻)
父親が殺され、瓶屋を仕切ることになった一人娘の史乃。気丈に振舞う彼女を信之輔は気にかけていた。一方、新兵衛のかつての奉公先の生薬問屋大黒屋の当主藤右衛門から明かされた二十年前の因縁と隠された秘密。平四郎の甥・弓之助は複雑に絡まった事件の真相を解くことができるのか…。(以上下巻)

目次■上巻:おまえさん(一~十八)|下巻:おまえさん(十九~二十一)/残り柿/転び神/磯の鮑/犬おどし

カバー装画:村上豊
装丁:カバーデザイン:岡孝治
時代:明記されず
場所:南辻橋、本所元町、菊川町、浅草今戸町、花川戸町、八丁堀、猿江町、南本所元町、川口町、駒留橋下、本町三丁目、渋江村ほか
(講談社・講談社文庫・各838円・各2011/09/22・上610P、下609P)
購入日:2011/09/25
読破日:2011/11/08

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