醇堂影御用 逃げ出した娘


逃げ出した娘―醇堂影御用 (小学館文庫)
醇堂影御用 逃げ出した娘
(じゅんどうかげごよう にげだしたむすめ)
谺雄一郎
(こだまゆういちろう)
[伝奇]
★★★★

『裏切った女』に続く、御家人・多々羅醇堂が畏友の遠山金四郎を助けるべく活躍する「醇堂影御用」シリーズの第2弾。醇堂は裏の世界で、“霞”と呼ばれる練達の忍びで、正体を知らない口の悪い連中からは“寝惚けの醇堂”と陰口を叩かれている。忍びの技を独学で習得したというのが面白い。

今回醇堂は、向島と品川で発見された身元不明の死体の謎を追うと同時に、文政十一年に起こったシーボルトによる禁制の日本国地図の海外持ち出し事件の謎に迫っていく。

日本橋本石町の紅毛宿の主人として肥前屋が登場するが、これは長崎屋源右衛門がモデル。オランダ商館長(カピタン)が定期的に江戸へ参府する際の定宿として知られる。

また、物語では、大火の後、その被災者の困窮やそれに対する庶民の善意につけこんで、己の利のみを追求する男たちの姿も描かれている。思うように捗らない復興、被災者になかなか届きにくい支援など、3月の大震災後に起こったことと考え合わせて、すっきりしないもやもやを抱えている今、読むと、物語の主人公たちの活躍ぶりに胸がすく、爽快なものを感じる。

今という時代の中で、同時代に書かれた時代小説を読む面白さの一つはこんなところにあるのかもしれない。

主な登場人物◆
多々羅醇堂:八十俵二人扶持の御家人
奥宮九八郎:醇堂の御家人仲間
お蔦:九八郎の妻で、元深川芸者
伊三次:お蔦の兄
おきよ:奥宮家の下女
小猿の巳之助:醇堂の弟子
羽鳥平九郎:北町奉行所定町廻り同心
吉兵衛:紺屋町に住む老練な目明しで、達磨の親分と呼ばれる
金太:吉兵衛の子分
遠山金四郎景元:幕府西丸御小納戸役頭取格
遠山景晋:金四郎の父で、元勘定奉行。楽土老人
肥前屋源右衛門:日本橋本石町の紅毛人宿の主
南海屋庄左衛門:廻船問屋の主で、源右衛門の異母弟
惣八:肥前屋の番頭
桜井紋十郎:肥前屋の用心棒
お松:肥前屋の下女
鬼頭専斎:兵学者
久枝:専斎の娘
鏡啓之助:専斎の内弟子
藤倉大膳:五千石の寄合旗本
政五郎:深川の口入れ屋相州屋の当主
佐七:相州屋の代貸
佐川甚左衛門:北町奉行所与力

物語●天保五年二月に、江戸は六年ぶりの大火災に見舞われた。死者四千人と町奉行所の記録に残る甲午火事である。焼け出された被災民は窮民小屋には収まりきらず、そちこちで浮浪者さながらの暮らしを余儀なくされていた。そんな中、富商など有徳の人々がお金を出して、炊き出しや米銭を与える施設「お助け講」が市中に設けられた。

時を前後して、向島で二十五六の商家の手代ふうの男が肩先から背中をばっさり割られて殺された。その後、品川の浜に身元不明の女の死体が打ち上げられた。
身元が不明の二つの死には関係があるのか。

飛鳥山に花見に出かけた醇堂と巳之助は、音無川の橋のたもとにある「お助け講」に喜捨をするが、後で「お助け講」の言い出しっぺが、シーボルト事件に連座しながら処分を免れた疑惑の人物、肥前屋源右衛門と知り、いやな感じを覚えて、背後を探ることに…。

目次■第一章 桜吹雪/第二章 漂流死体/第三章 謎の浪人者/第四章 卯の花くだし/第五章 紅毛宿の女/第六章 急流勇退/第七章 二軒茶屋/第八章 驟雨/第九章 疾風怒濤/第十章 憤怒/第十一章 千石船/終章 炎上/解説 末國善己

カバーイラスト:西のぼる
カバーデザイン:山田満明
解説:末國善己
時代:天保五(1834)年三月半ば
場所:本所北割下水、飛鳥山、竹屋の渡し、須崎村、目黒不動、日本橋本石町、芝愛宕下、深川万年町、小梅の水戸家下屋敷、本郷、湯島天神門前、麟祥院、神田七軒町、深川永代寺裏、品川歩行新宿、ほか
(小学館・小学館文庫・590円・2011/12/11第1刷・301P)
購入日:2011/12/10
読破日:2011/12/14

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