あるじは家康


あるじは家康
あるじは家康
(あるじはいえやす)
岩井三四二
(いわいみよじ)
[戦国]
★★★★☆

『あるじは信長』『あるじは秀吉』に続く、「あるじは○○」シリーズの第三弾。これで戦国の三英傑がそろったわけである。このシリーズの魅力は、それぞれの人生での重大場面を、家臣たちのエピソードや主君とのやり取りを通じて活写していく視点の面白さである。

連作形式で、有名無名な家臣たちが登場し、それぞれの目線で主君像を映し出すことで、主君の性格の多面性を重層的に描き出すことに成功している。短編はもちろん、長編でも一視点からの人物描写で、ステレオタイプになりがちなところを救っている。

少し遅い夏休み、9月初旬に、岡崎の町を訪れた。
岡崎城を訪れて天守閣に登ったり、同じ岡崎公園内にある三河武士のやかた家康館の展示を見たりしてきた。家康館では、家康の生い立ちから人質時代、松平と譜代家臣の形成、家康の三河平定など、家康のことが理解できる展示が興味深かった。

また、直径7メートルの可動式ジオラマの中、ユニークな武将のフィギュアが登場する、「決戦!関ヶ原」のシミュレーションが印象に残った。そのせいか、甲冑試着の体験までしてしまった。(汗)

●三河武士のやかた家康館
http://okazakipark.com/museum/iyeyasu/ka100.htm

さて、肝心の物語は、鷹狩りが大好きな竹千代(幼少時の家康)に振り回される若き日の石川数正を描いた「粗忽者」、武田からの寝返り者ゆえ危険な最前線の城を任されてしまう奥平貞昌が登場する「裏切者」。家康が許してくれずイギリスに帰りたくても帰れない三浦按針が主人公の「異国者」や、三河一向一揆で家康と敵対するもどっちつかずの蜂屋半之丞が登場する「勇者」。蜂屋半之丞については、それまで知らなかったのだが、十六将の家臣の一人である、蜂屋貞次のことだった。

そのほかにも、政商茶屋四郎次郎や家康の分家・十八松平家の一つ深溝の松平家忠、重臣ながら失脚した大久保忠隣などが登場する。

主君たる家康像の一端が見えてくるシーンを紹介したい。

「よいよい。加増はそなたの力、そなたの苦労よ。当然のことじゃ」
 家康はうなずきながら微笑みかけた。手間をかけているようだが、家来の心を収攬するのは、大名の一番肝心の仕事である。

(『あるじは家康』「裏切り」P.98より)


 自分は日本に縛りつけられている。死ぬまで日本を出ることはないだろう。
 そんな自分にくらべて、目の前のすわるこの男は世界を自由に動き回っている。
 もうすぐ七十歳になろうという自分が見たことがなく、今後も決して見られない光景を、この男はいくつも見てきたのだろうし、これからもまた未知の世界に挑み、いまだに人が見ていない光景をも見るだろう。そう思うと、自分に残された歳月の少なさが、ひどく痛切な感じとなって迫ってくる。
 この男を手放したくないと思う気持ちの中には、そうした未練ともいうべき思いが含まれているようだ。

(『あるじは家康』「異国者」P.245より)


主な登場人物
「粗忽者」
竹千代:13歳。三河の盟主松平家の嫡男で、後の徳川家康
石川与七郎数正:22歳。松平譜代衆の子弟
阿部善九郎:14歳。松平譜代衆の子弟
野々山藤兵衛:数正の同輩
酒井雅楽助:松平屋敷を宰領する家臣
天野又五郎:竹千代の世話役
鳥居彦右衛門元忠:16歳。松平譜代衆の子弟
今川義元:駿府の太守
孕石主水:今川家の重臣
雪斎和尚:臨済寺の住持で、今川義元の相談役・軍師
北条助五郎:10歳。北条氏から今川氏へ出された人質
等膳和尚:増善寺の住持

「勇者」
徳川家康:岡崎城の城主
石川数正:家康の家臣
蜂屋半之丞:二十五歳。家康の馬廻りで、一向一揆方の武功者
水野藤十郎:家康の家臣
松平金助:家康の家臣
大久保常源:半之丞の岳父で、大久保党の総領
吉田左衛門:家康の家臣
大久保治右衛門忠佐:家康の家臣
新八郎忠勝:家康の家臣
石川源左衛門:半之丞の同志
本多甚七郎:半之丞の同志

「裏切者」
奥平九八郎貞昌:長篠城主
山崎信宗:奥平家の家老
大岡弥四郎:家康の家臣で、三河奥郡の蔵入地の代官
近藤:家康の家臣
本多平八郎:家康の重臣
酒井忠次:家康の家臣
次左衛門:奥平一族の者
鳥居強右衛門:奥平家の家臣
織田信長

「有徳者」
茶屋四郎次郎:京の呉服商で、徳川家出入りの戦争商人
伊助:茶屋家の奉公人
本多平八郎:家康の重臣
長谷川竹:信長の近習
石川数正:家康の家老
酒井忠次:家康の家老
津田主水:木津川の北東に所領を持つ
山口甚助:宇治田原の領主
多羅尾光俊:信楽の領主
服部半蔵:家康の家臣

「親族者」
松平又八家忠:三河国深溝の領主
松平備後守:三河国竹谷の領主
鵜殿六郎:三河国上ノ郷の領主
宗元:茶の宗匠
お猿:七歳になる、家忠の長男
里村紹巴:連歌師

「異国者」
ウィリアム・アダムス:イングランド出身の船乗り
ピーター・ヤンスゾーン:リーフデ号の船大工
向井将監:家康の御船手奉行
弥右衛門:船大工の元締め
クァッケルナック:リーフデ号の生き残りで船長
サンフォールト:リーフデ号の航海士
ジョン・セーリス:英国の東インド会社の司令官

「忠義者」
大久保治部少輔忠隣:徳川秀忠の付家老
道白:佐和山の清涼寺の住職
荒谷清十郎:大久保忠職の家臣
吉岡与四郎:井伊家の馬廻り
村越甚太夫:土井大炊守の使番
おあん:井伊家家臣の娘で、忠隣の身の回りの世話をする

物語●「粗忽者」今川義元の元で人質として養われている、三河の領主の子・竹千代(後の徳川家康)は、十三歳ながら大の鷹狩り好き。学問をサボって鷹狩りに興ずる竹千代に、家臣の石川数正は手を焼く…。

「勇者」岡崎城の家康は、領内の一向一揆に手を焼いていた。家臣団が二つに大きく分かれ、一向一揆軍に加わった。武功者として知られる馬廻りの蜂屋半之丞も、一向一揆方加わった一人…。

「裏切者」長篠城主奥平九八郎貞昌は、武田方から寝返り、徳川方についた。そして、武田と境界を接する最前線の城を守る貞昌は、武田の大軍に囲まれてしまう…。

「有徳者」信長が本能寺で明智光秀に攻め滅ぼされたことを一足早く知った京の商人・茶屋四郎次郎は、上方見物に来ていた家康一行に、事件を知らせ、伊賀越えによる帰国をすすめる…。

「親族者」三河国深溝の領主松平家忠は、松平家の庶家一族で、十八松平といわれる分家の一つ。本家を継いだ家康は、松平から徳川へ姓を変えて分家とは一線を画し、さらに勢力を広げて三河だけなく、遠江と駿河、さらに甲斐と信濃の大部分を領する大大名にまで成長していた。家忠をはじめ、分家の面々は本家が大きくなろうとたいして所領が増えたわけではなく、父祖以来の領地にそのまま住んでいた。そんな中、太閤の小田原城進軍にともない、家忠も駿河へのぼることに…。

「異国者」英国人ウィリアム・アダムスは三浦按針の名で、家康の旗本となり、相模国三浦郡逸見に二百五十石を与えられていた。しかし、帰国ののぞみを捨てたわけではなく、機会を見つけては家康に帰国を願い出ていた…。

「忠義者」井伊家の領地の近江・佐和山に隠棲している大久保忠隣のもとに、再出仕を促す使者が訪れた…。

目次■粗忽者(そこつもの)|勇者(けなげもの)|裏切者(うらぎりもの)|有徳者(うとくもの)|親族者(うからもの)|異国者(いこくもの)|忠義者(ちゅうぎもの)

装画:井筒啓之
装丁:大塚充朗
時代:「粗忽者」天文二十三年(竹千代13歳)、「勇者」永禄六年(一向一揆の頃)、「裏切者」元亀四年が二年前、「有徳者」天正十年、「親族者」家康が太閤秀吉より茶釜を贈られ、茶の湯をたしなむようにすすめられた頃。「異国者」三年前が関ヶ原合戦。「忠義者」本多正純が失脚した年
場所:駿府の少将之宮町、臨済寺、今宿、増善寺、岡崎城、六名、上和田、針崎、小豆坂、長篠城、浜松城、稲葉山、下京の百足屋町、枚方、柘植郷、白子、深溝、小田原城、江戸、伏見、江戸城西の丸、伊東、佐和山、ほか
(PHP研究所・1600円・2012/08/09第1刷・285P)
入手日:2012/07/25
読破日:2012/08/28

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