叛旗は胸にありて


The chest is in the standard of revolt is (Mass Market Paperback) (2011) ISBN: 4101365814 [Japanese Import]
叛旗は胸にありて
(はんきはむねにありて)
犬飼六岐
(いぬかいろっき)
[武家]
★★★★☆☆ [再読]

物語は、幕末に、但馬国(兵庫県北部)の湯村の湯治宿の若者が、正福寺に客人を迎えに行き、そこで住職から慶安の頃の昔話を聞く形で展開する。尊攘か佐幕かで、騒然として時代を背景にしている。犬飼さんらしい「クセ者」ぶりを発揮した構成になっている。

舞台となる但馬湯村の正福寺は実在の古刹である。湯村温泉はNHKテレビドラマ「夢千代日記」の舞台で山陰の名湯で、趣きがあり行ってみたい。
http://www.yumura.gr.jp/modules/yumuraspot/index.php?tid=11

実はこの作品は、単行本刊行時の2009年6月26日に読了していて、ブログ「ほぼ日刊時代小説」に「浪人たちのクーデター「慶安の変」を描く新視点時代小説」のタイトルで感想をアップしている。

派遣切りや雇い止めなど、非正規雇用者に対する雇用不安が広がり、問題化していた当時の社会情勢とオーバーラップする作品としてとらえていた。(あれから2年以上が経過したが、状況は改善していない。むしろ大震災の影響もあり、深刻化しているように思われる)

今回、主人公の熊谷三郎兵衛の心境に、より共感をもって読むことができた。

…武士として相応の家を持ち、勤めを持つ者にたいする引け目だけではない。それぞれの身丈なりに地に足をつけて暮らす長屋の隣人たちを見ても、わが身が半人前に思えるのだ。
(『叛旗は胸にありて』P.70より)


 その暮らしも苦しいことに変わりはあるまい、と三郎兵衛はため息をついた。自分が浪人であるかぎり、いまの世の中に安住できる場所はない。身分の枠組みを云々するまでもなく、牢籠して十余年、そのことは骨身にしみている。
 こちらが浪人でなくなるか、それとも世の中が変わるか。いま逃げ出せば、変わった世の中でもまた半端者になるかもしれない。
(『叛旗は胸にありて』P.219より)


 豊かな者、強い者の所持する力が、あたかも当然のように、あるいは必然のように、貧しい者、弱い者の生活を捩じ曲げていく。それがひとの世の常軌であるはずはない。ひろげていえば、天草島原の一揆やかぶき者の横行もおなじ不幸のあらわれかもしれない。
 齟齬があるなら、もとよりあらためるべきだ、と三郎兵衛は思う。気づいた者から堤防に手を添えて、濁流の氾濫をくいとめるのだ。
(『叛旗は胸にありて』P.278より)


慶安の変はクーデター未遂の形で終わったが、幕府は事件を教訓に、末期養子を容認するなり、大名の改易を減らす方向に政策を転換していることはもっと評価すべきことと思う。

主な登場人物◆
熊谷三郎兵衛:内神田雉子町の長屋に暮らす浪人、越後村上堀家の元藩士
金井半兵衛:三郎兵衛と同じ長屋に住む浪人
由井正雪:軍学所張孔堂の師範
吉田初右衛門:張孔堂の師範代
廓念:張孔堂の高弟で僧侶
丸橋忠也:張孔堂の高弟で槍術指南
早苗:忠也の妻
松千代:忠也の長男
竹次郎:忠也の次男
岡村久之助:張孔堂の高弟で駿河の郷士出身。饅頭屋で働く
加藤市郎右衛門:張孔堂の高弟で忠也の義兄で、幕府御徒士
渥美次郎左衛門:張孔堂の高弟
鵜野九郎右衛門:張孔堂の高弟。播州姫路松平家の浪人
林理左衛門:張孔堂の高弟で、旗本大沢尚親の家士
坪内左司馬:張孔堂の高弟
安見善兵衛:張孔堂の高弟
有竹作右衛門:張孔堂の高弟
寺島孫九郎:張孔堂の高弟
上野丹兵衛:鼠顔をした、新参の門弟
音川幽玄斎:道場破り
おもよ:浅草聖天町の菓子屋鶴屋の一人娘
徳川頼宣:紀州徳川家藩主。「南海の龍」と呼ばれる
牧野兵庫頭長虎:禄高六千石で家老格の待遇を受ける頼宣の側用人
松平能登守定政:久松松平家の流れを汲む名門譜代刈谷二万石の藩主
おちか:三郎兵衛と同じ長屋の住人
おたき:三郎兵衛と同じ長屋に住む老婆
辰蔵:三郎兵衛と同じ長屋に住む雪駄直し
義栄和尚:正福寺住職
作之助:湯治宿「山なや」の次男
卯右衛門:「山なや」のの客人

物語●熊谷三郎兵衛は、傘張りで生計を立ててる独り身の冴えない浪人。同じ長屋に住む金井半兵衛に誘われて、連雀町の軍学指南所張孔堂に連れて行かれる。
張孔堂では、師範代の吉田初右衛門や高弟の丸橋忠弥や廓然、岡村久之助らと引き合わされるが、そこでは浪人救済のための政道改革が話し合われていた。俊足のほかには取柄もなく、傘張りで一生を終えるつもりだった三郎兵衛は、あれよあれよという間に、幕府転覆のクーデターに巻き込まれていく…。

目次■元治元年十月 但馬湯村/慶安三年五月 江戸内神田/六月 同所界隈/七月 江戸赤坂/同月 江戸御茶ノ水/元治元年十月 但馬湯村/慶安三年十月 江戸内神田/十一月 紀伊和歌山/同月 伊勢神宮/十二月 駿河府中/同月 江戸内神田/元治元年十月 但馬湯村/慶安四年五月 江戸外神田他/同月 江戸御茶ノ水/六月 江戸内神田/同月 江戸小石川他/七月 江戸内神田/同月 京出町柳他/同月 大坂天王寺他/同月 駿河府中/八月 江戸西久保他/元治元年十月 但馬湯村/解説 末國善己

カバー装画:中川学
デザイン:新潮社装幀室
解説:末國善己
時代:元治元年十月、慶安三年五月
場所:但馬湯村、江戸内神田雉子町、神田連雀町、紀州藩中屋敷、御茶ノ水(幕府御中間頭大岡源右衛門組屋敷)、草津、紀伊・岩出御殿、伊勢神宮、駿府梅屋町、外神田相生町、小石川、白山権現、出町柳、天王寺、西久保、ほか
(新潮社・新潮文庫・552円・2011/10/01第1刷・391P)
入手日:2011/12/18
読破日:2011/12/30

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